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官能小説 「クロス・ラバーズ」…spotB〜月乃編〜・シーズン2
お互いの恋愛事情
美陽の家で、二人はパジャマ姿で、最近のお互いの恋愛事情について話した。
とはいえ、仕事に邁進する二人にとっては、特に相手に報告するようなことはなかった。
表面上は、だが。
「特に何もないねー。ウチの編集部は女ばっかりだし、出会い自体がないよ。隣のアーネストの編集部とも、そんなに交流があるわけじゃないし、そもそもアッチにもそんなにイイ男はいないしね」
美陽が言うと、月乃も頷く。
「こっちも似たような感じかな。秘書課って女性が多いし、隣の法務課になると既婚者の中年ばっかりだし」
二人とも話す内容とは裏腹に、心の中にはしっかりと一人の男性の像が結ばれていた。
美陽の胸には森尾隆弘が。
月乃の胸には飯倉哲也が。
どちらも、まだ「気になる」という程度だ。だが、気になるという感情は、「好き」という感情より時に面倒くさい。どう扱っていいかわからないからだ。
ふと、月乃は思う。法務課は既婚者の中年が多い……哲弥は結婚しているのだろうか。
していないにしても、彼女はいるのだろうか。同期入社の同い年だが、していたとしてもおかしくはない年齢だ。
「まぁ、話していてもイイ男が寄ってくるわけでもないし、寝よ、寝よ」
美陽が電気を消す。
翌日、出社すると月乃はまず哲弥に昨日の礼を述べた。
「何事もなかったのならよかったです」
哲弥はいつも通りの穏やかな笑みを向けてくれた。
資料
その日、月乃は役員会議用に、これまでの出版物の売り上げや販路についてまとめた資料を営業部に取りにいった。
各媒体の人気が実際に数字として目に見えるということで、営業の資料は役員会議では大きく取り沙汰される。
フロアに入ると、ちょうど同期の女性がいたので、軽く立ち話をする。先日婚約をしたという彼女は、式をどこで挙げるか迷っているそうだ。
その話を、まるで別の世界の出来事のように月乃が聞いていると、外回りに出かけていたらしい様子の竜英が入ってきた。
月乃は先日、竜英に驚きの目を向けられたことを思い出した。あれは何を意味していたのだろう。
竜英は月乃と女性に軽く会釈をすると、自分のデスクに戻っていった。
月乃が営業部の部長から資料を受け取り、営業部のフロアを出て廊下を歩きだすと、背後からドタバタと足音が聞こえてきた。
振り返ると、竜英だった。
「あ、あの、秘書課の吉井さん……ですよね?じつはお話ししたいことがあるんです」
竜英はじっと月乃を見つめる。
あたりには誰もいない。
月乃はたじろいだ。こんなところでいったい何を?告白?……というのはありえないだろう。だって、喋ったこともなかったんだし、月乃は竜英を知っていても、竜英は月乃を知らなかったはずだ。
竜英は言った。
「いきなりで失礼なのはわかっているんですが……お願いがあるんです」
英語
次の瞬間、竜英の口から出てきた言葉は、月乃にとっては信じがたいものだった。
竜英はぺこりと頭を下げる。
「英語、教えてもらえませんか?」
「は……ぁ?」
まったく想像してもいなかった。それだけにすぐに声が出ない。
竜英は説明した。彼はイギリスのサッカー・プレミアリーグの大ファンで、現地で生で試合を見るのが夢だという。
だが竜英には、どういうわけか壊滅的なまでに語学の才能がなかった。誰に習っても、どんなことを試しても、英語を理解できるようにならない。
そんなとき、外国人のクライアントと流暢な英語で会話をしている月乃を見かけた。竜英は直感した。発音もわかりやすいし、喋る速さもちょうどいいし、この人に教えてもらえばいけるかもしれない。現に、月乃の英語はほんの少しだけだが聞き取れた。
その話を聞いて、月乃がまず思ったことはこうだった。
冗談じゃない。
月乃だって暇ではないのだ。趣味のために英会話を習いたいのなら、いくらでもそういう学校があるだろう。何度試してダメだったというのは哀れな話だが、それでも足を使って自分に合ったところを探し回ればいいだろう。
月乃は断ろうとした。
が、ふと思い出した――。
営業部のホープ
竜英は営業部の期待のホープと呼ばれている。
若い頃からそんな活躍をする相手とつながっておけば、先々、副社長や自分の仕事もやりやすくなるかもしれない。
ちょうど、これまで忙殺されていた外国人クライアントとの打ち合わせも終わったところだし、多少時間に空きはある。
「まぁ……週に一度ぐらいなら……」と、月乃は答えつつ、こう加えるのも忘れなかった。
「そのかわり、あなたの営業としての手腕をいつか使わせてもらうかもしれないけれど。そのときには協力してくれる?」
竜英は月乃の意図を測りかねているようだったが、すぐに「俺にできることなら」と頷いた。
翌週の週末から、さっそくレッスンを始めた。場所は静かなカフェだ。
確かに竜英にはびっくりするぐらい語学の才能がなかった。
月乃は引き受けたことを後悔しかけた。だが、ここで竜英を手放すのは惜しい気もしたし、何よりも一生懸命勉強している竜英を見ていると、何だか情が湧いてきてしまった。
それに、面倒ではあったが、竜英と一緒にいていやな気分にはならないことも大きかった。
パワフルで人懐こい彼に、元気を分けてもらえているような気分になる。
レッスンが終わった後、竜英の行きつけだというスポーツバーに行くのも面白かった。
スポーツバー
スポーツバーは最初は無理に連れて行かれたようなもので、まったく未知の世界だった。だが、他の客と一緒に大画面でサッカーの試合を見て、一緒に一喜一憂するというのは、これまでにない経験で、不思議な興奮があった。
サッカーのルールやゲームメイクについてはわからないことのほうが多かったが、竜英が丁寧に教えてくれた。
ある日、総務部全体で飲み会が行われることになった。結婚退職者の送別会だった。
秘書課の、そこそこ仲のいい女性だったので、月乃は二次会まで参加した。
店を出ると、終電まではまだだいぶ時間があったが、もともと総務課の人々は夜遅くまで飲んで騒ぐような人種ではない。そこでお開きとなった。
「じゃあ○○線に乗る人の人はこっちに集合〜」
誰かの声に従ってそちらに向かうと、隣に哲弥が立っていた。
「飯倉さん、こっち方面だったんですね」
「えぇ。途中で乗り換えるんですが。最寄は◎◎線の××駅なんですよ」
「そうなんですか!私は△△駅です!」
二人の自宅の最寄駅は、同じ路線の五つしか離れていない駅だった。
「そうなんだ。偶然ですね」
哲弥はいつもと変わらない穏やかな笑顔でにっこり笑う。
「じゃあ、もしよろしければ乗り換え駅あたりでもう一杯どうですか。僕、今日会計係だったから、何だか飲み足りない気がして」
哲弥は何気ない様子で誘った。確かにあまり酒は飲んでいないようだったし、本当に飲み足りない気分なのだろう。
心が動いた。人付き合いは苦手だが、哲弥は珍しく気を使わないで済む相手だ。二人でゆっくり飲むのもいいかもしれない。
「おおい、飯倉」
店の入口の方から、法務課の男性が哲弥を呼んだ。
「会計、足りてないって」
「えっ、本当ですか、すいません」
哲弥は急いで戻ろうとし、「よかったら、戻ってくるまでに考えておいてください」と笑みをさらに深くした。
この間のお礼もちゃんと言いたいし、行こうかな。月乃がそう決めかけたときだ。
スマートフォンにメールの着信があった。
竜英からだった。
「これからいつものバーで面白い試合があるんです。よかったら吉井さんもどうですか?」
あらすじ
会社で倒れ、同じ会社の友人の美陽の家に泊めてもらった月乃。
ふたりはパジャマトークでお互いの恋愛事情について報告しあう。
お互いに報告するようなことは特にないのだが、二人にはそれぞれ思い当たる、気になる相手がいた…。