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「キスが好き」という人は少なくないけれども、「キスが得意」という人はめったにいない。好きこそものの上手なれとは言うものの、キスばっかりたくさんできるもんじゃなし、キスは慣れるのが難しいことの一つだと思う。
だから初めてキスするとき、多少不安になってしまったとしてもしょうがない。
「こんなキスでいいの?」
彼はイヤじゃなかったかしら、と私たちはひそかに気を揉む。私の唇は、舌は、唾液は、彼に気に入ってもらえた? キスはほんの入り口なのに、ここでがっかりされてしまったら……。こういう私たちの心配を簡単に解消してくれるものは、ちょっとありそうにない。 ただ、誰でもみんな自信満々なんかじゃないってことだけは言えると思う。それがせめてものなぐさめ。
キスの前にはみんな平等で、みんな初心者。
そんなわけで私から皆さんにお教えできることはそう多くはないのだけれど(なぜって、こんな私ですら“初心者”なので)、AV女優という職業をつうじて学んだことがいくつかある。
たとえば、キスをするとき男たちは女性器を連想しているということ。唇や舌は彼らにとって“あそこ”のアナロジーなのだ。
だったら、キスには淫らに咲き匂う南国の花のような唇でのぞみたい。甘く熟れた果物のような舌で、彼の魂までもからめとりたい。 そのために、せめて唇のケアは日頃から心がけておこう。乾かないように気をつけたり、お風呂に入ったときなどに軽くマッサージしたり。舌磨きも忘れずに。そしてときには鏡で自分の口元をチェック。
エロティックで美しい唇と舌を獲得したら、お次はテクニック。まずはついばむように軽く唇と唇を触れ合わせて濡れぐあいとやわらかさを彼に確かめさせ、だんだんと強く押しつけてゆく。やがて二人の吐息と体温が溶けあってゆく。
キスが終わるまでに彼の舌にペニスを想えたなら、たぶんあなたは彼の舌をためらわずに舐めたりしゃぶったり出来たのだろう。そのとき彼とあなたの頭の中では唾液は愛液に変わり、口の粘膜は膣のそれになっていたはず。
最高にセクシーなキスとは、そういうものだ。でも、たったそれだけのことがなんて難しいんだろう!いつも何かが――彼のためらいが、あなたの恥じらいが、他人の視線が――邪魔をする。
そんなわけで、私たちは永遠に片想いしつづけることになるのかもしれない。理想の、悦楽の予感に満ち満ちたキスに。【川奈まり子】
コラムニスト。元AV熟女女優。1967年11月9日生まれ。A型。
2004年にAV界引退後、エッセイ、官能小説などの執筆で活躍中。
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