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もしもの話。
貴方が、このトシになるまで(何歳かはご想像にお任せします) 二月十四日のチョコレートのお返しを貰ったためしがなかったとして。 三月のその日、貴方は期待するだろうか?
恋人がキャンディや何かをくれることを。
これも仮の話だけれど、恋人だって、そんなに若くはない。 ちなみに貴方が贈ったのは某有名ショコラティエのトリュフだった。 恋人はそれを、プレゼントした日の夜に、ベッドの中で開封した。 箱にかかった絹のリボンをほどく彼の指先を貴方は静かに見守った。
――そう、あれから一ヵ月たっても、まだ貴方は憶えている。
彼がつまんだ艶やかな一粒のトリュフを、口を開けてねだったこと。 「俺にくれるんじゃないのか?」と笑いながら、 それを、そおっと、唇のあいだに押し入れる恋人の無骨な手指を、 チョコレートごと味わったこと。
あの晩、貴方は、はしたなかったけれど可愛らしかった。 恋人の目から見れば、たぶん、とっても。
…と、いうわけだから、あのときの返礼があっても
不思議じゃないのだ。
どちらかというと欲しいのはキャンディなどではなく、
ベッドで彼が行う何か、だったりする貴方だ。
でも、まさか、口に出しては言えやしない。
「×××して」だなんて。
そこで、貴方は×××用の化粧品を買ってみた。 初めて手に取ったそれは、見た目も感触も、なんだかジャムみたい。 以前買った薔薇ジャム、あるいは菫のジャムなどに 似ていなくもないような。 食べ物っぽいのだ。
そのため、貴方は自然に想像することになった。 それを舐めるときの恋人の舌の繊細な動きを。 濡れた感触を。その温かさを。 それから彼の欲望を。
それは巨大で、獣じみていて、時に制御不可能なのだった。 彼の恋の生贄になりたい。 強く強く欲情しながら私を食べつくしてくれたらいい。
…こんな妄想だけで、貴方は半ば満足してしまうかもしれない。 でも、本気で願えば夢はいつか叶うもの。 いつか、その瞬間は訪れるのだ。
そのときは貴方自身が甘く溶けるのだと思う。 ジャムみたいに、とろける。 だって、こんなにあの人が欲しい。 だからきっとなる。愛のジャムに、貴方も。
【川奈まり子】
コラムニスト。元AV熟女女優。1967年11月9日生まれ。A型。
2004年にAV界引退後、エッセイ、官能小説などの執筆で活躍中。
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