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くちづけのほうが先だった。
手をつなぐ機会が、なぜか無かった。
たぶん、二人とも大人になりすぎていたのだと思う。
彼が最初に触れたのは、貴方の手の甲だ。 てのひらじゃなかった。 恋人は貴方の手が好きだという。 彼が好きなマニキュアの色はピンク。
「やわらかそうな色だし、なんとなく女らしいし」
と彼は好きな理由を説明する。
彼は、やわらかそうなものを好む。
貴方の唇、頬、乳房、お尻、そして……。 貴方は恋人に愛されている。 愛されれば愛されるほど、貴方は心も身体も やわらかくなってゆくような気がする。 てのひらも、やわらかくなった。
貴方の手がかさついていたことは恋が始まってからは、たぶん一度もない。 恋人に「綺麗だ」ともっと言ってほしくて、 大事にしていたから。 けれども彼は、貴方の手のやわらかさをまだ知らない。
――こんど、そのことを恋人に教えてあげて。 好い香りのするハンドクリームを買って、 デートの前に両手によくすりこんで、彼に会ったら、 くちづけや言葉よりも先に、彼の手に手を差し伸べて。 そして、初めて手をつなぐ(初めては、いつも心を躍らせる)。
この瞬間、貴方は受身ばかりの恋を卒業する。
手をつないだら、次は、恋人にそうされたのと同じように、 貴方が彼の唇や頬、可愛らしい乳首や……に、手で触れてみて。 初めて貴方から積極的に恋人の身体に触れるのだ (初めてはエキサイティング!)。 手をつなぐことは最初の一歩。
――てのひらから恋心をつたえよう。 恋人の肌に触れる貴方のてのひらは、ピンク色で、 やわらかくて、女らしくて、素敵な香りがするだろう。 彼は、貴方の手に病みつきになるかもしれない。 てのひらから始まる、恋愛の第二章。
――ハンドクリームの用意は出来た?
こんどは貴方が愛を与える番よ!
【川奈まり子】
コラムニスト。元AV熟女女優。1967年11月9日生まれ。A型。
2004年にAV界引退後、エッセイ、官能小説などの執筆で活躍中。
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