私は弓子さんからもらったドレッサーの前でヘアをパフュームで整えた。
フローラルの甘い香りがして、気分転換にとても良い。
車の整備工をしていたときに、
お客さんの須藤由紀さんからもらったものだ。
由紀さんも弓子さんと同じ事を言っていた。
「あなたは磨いたらきっと男にモテるわよ」
私はドレッサーの前で着替えた。
ディオールのリップスティックにマニュキア、
ブルガリの時計にエルメスのスカーフ、
ティファニーのペンダントにシャネルのスカート…
これも全部弓子さんからもらったものだ。
弓子さんの運転手になってから一ヶ月――
鏡の中の私はだんだん彼女に似てくる……
買い物のたびの弓子さんとのティータイムはとても刺激的だった。
喫煙をすると過激な言葉の連続。
最初のティータイムのときから、いきなりすごい告白。
「ねえ、性癖って知ってる?」
過激に不意打ちをされて、
私はあやうく飲んでいたカフェモカを吐き出しそうになった。
「私って絶頂期になると関西弁でわめくんだって。それがエッチで可愛いって」
弓子さんのお父さんは転勤族で、
小さい頃、大阪や神戸など関西を転々としていたという。
「繁之さんがあそこに入れると、彼、アレが大きいから初めは痛くって、
だんだん気持ちよくなって…あああ、と呻きたくなって、
でも繁之さんってSだから手で私の口を塞いでしまうのよ。
でもあそこは気持ちいいのね。
繁之さんの動きが早くなってくると、
呻きたいけど塞がられてしまっていて、
それがますます気持ちよくて。
で、どんどんエスカレーターしてきて頭が真っ白くなってきそうになってきて、
耐えられなくなって繁之さんが塞いでいる手にかみついて、
驚いた繁之さんが手を離した瞬間に、関西弁が出るの。
『いややいやや、何するの〜、ああん』って。」
私は自然に身体が熱くなるのを感じた。
聞いているほうが恥ずかしくなるくらい、彼女の告白はエロい。
「ねえ、ユカさんはどんな性癖があるの?男の人から言われたこと、ない?」
私は困ってしまった。
「男の人は一人しか知らないし、すぐ別れたから」
「あら」
弓子さんは意外な顔で、私を見た。
「そうは見えないわよ。ユカさんはとてもセクシーよ」
弓子さんは私の全身を舐めるように見つめた。
女が女を値踏みしている。芸者の置屋の女将のようなその目線もエロい。
「スレンダーで色黒だから、野性的な香りがする。
M男なんか、イチコロなんじゃない?」
「Mは嫌ですよ」
「じゃあ繁之さんと同じS?
彼、時々私の目をネクタイで塞いで、
見えなくさせて、襲ってくるのよ」
うふふ、と笑う弓子さん。
私はぞくッとなった。
彼女から漂ってくる色気は、男性遍歴の結果なのか、それとも先天的なものなのか。
どちらにしても、色気とは無縁な私と住んでいる世界が違う。
スタバを出たときに、弓子さんは私にいたずらっぽく笑って囁いた。
「このことは内緒よ」
秘密めいたことも大好きなのだろう。
それが彼女の色気を増殖させている。
上田家に着いてから、私は弓子さんの部屋へ荷物を運んだ。
「ドレッサーに座って」
ドアの手前にあるドレッサーは鏡が3つあって、
正面のミラーを包み込んで左右のミラーは閉じるようなスタイル。
木製のドレッサーはアンティークな香りが漂っていた。
勧められるまま、ドレッサーの前に座ると、
弓子さんはドレッサーの引き出しの中からリップスティックを取り出した。
「これ、まだ使っていない新品だけど、気にいったら使ってみて」
そう言って、彼女は私の唇にルージュを塗った。
口紅の独特の香りがつーんときて、
弓子さんの香水の混じって私は息苦しくなった。
それからファンデーションを塗り始め、メイクも、そしてネイルも。
鏡の中の私はどんどん弓子さんに近づいていった。
ふと彼女が手を休めて「ちょっと待って」と耳元で囁いてから、
ドアを開け、周囲を見渡してから閉めて、戻ってきた。
「繁之さんのお母さんが外にいるかと思ったわ」
弓子さんは耳元で囁いた。
「私達がセックスしているところも覗きにくるのよ」 その告白も、衝撃的だった。