私は新しい恋人・ワタルのアパートへ買い物袋を手にして入った。
プログラマーのワタルは仕事が忙しくて、
毎晩のように事務所に寝泊りをしている。
今日は久しぶりに自宅に帰れそうだと、ハートマーク入りのメール。
可愛い。
彼は私よりも3歳年下で、私が初めての女性!
つまりワタルは童貞クンだったというわけ。
ワタルの部屋の前にある新聞受けに、
留守中に配達された日経新聞が束のようになって差し込まれていた。
それを取って整理していたら、人事欄にあの上田家の主人、
つまり弓子さんの義理のお父さんの上田氏が会社役員を退いた
という記事が載っていた。
上田家の運転手を辞めてから、8ヶ月になる。
辞めるきっかけは、弓子さん達の寝室にこっそりと忍び込んだときに、
ドアから覗いていたのが、上田家のご主人だったから。
視線が合ったときに体が凍りついて、
まるで蛇に睨まれた蛙のようにしばらく動けなかった。
応接室にある電話が鳴ったため、ご主人が部屋の前を離れた隙に、
忍び足で大急ぎで上田家を出た。
翌日母に退職願を渡してもらった。
辞めた理由を一言も語らない私に、母は何も尋ねなかった。
弓子さんから電話がかかってきたが、私はでなかった。
何だか全てが嫌になって、全部忘れたくなった。
付き合い始めの同級生とも別れ、新しい仕事を探した。
偶然知り合いから紹介された車愛好家に、
車関係のネットビジネス立ち上げに誘われ、軌道に乗り始めた。
そのビジネスで知り合ったのが、プログラマーのワタルだ。
知り合った頃は、TシャツにGパン、薄化粧、
ネイルなしという弓子さんと出会う前のファッションに戻っていた。
でも男をかぎ分ける嗅覚と男をその気にさせるコツは、
彼女から見事に受け継いだようだ。
童貞のワタルは、みるみるうちにセックス上手になった。
最初の行為の時――
私の上に乗って、私の乳房を何となく愛撫してから
女性の一番敏感なところへと指を移動したけど、
ワタルはなかなかその場所を見つけられない。
そこで私が自分の手でそっと誘導して、敏感な部分へ彼の指を誘った。
彼は一瞬引いたけど、やがて私の敏感な部分から
少しずつ雫があふれてきたのがわかると
「濡れているよ」と嬉しそうに耳元で囁いた。
それが初々しくて彼の背中に両手を回したら、びっくりして体を密着してきた。
すでに彼のが大きくなっていて、私に挿入しようとした。
が、途中でふにゃ、となった。
「ごめんね」
と謝った彼に「いいわよ」と言ったものの、ちょっと心配。
やっぱり私が誘導してあげたほうがいいのだろう。
そこで「握っていい?」
と彼に聞くと、「うん」と素直に頷いたので、彼のモノを握った。
「いきそう」
「ちょっと我慢してね」
私の額にも少し汗が。
彼のを摩擦してあげて大きくなったのを私の滴る部分へと導いた。
彼はやっと私の中へ入ってきてくれた。
二度、三度大きく体を揺らして、そして終わった。
あっという間の出来事だった……
「どうだった?」
と聞いてきたので、私は彼の気が悪くならないように伝えた。
「友達がね」
「うん」
「彼氏とのセックスはまず彼氏が緩やかに愛撫して
彼女が気持ちいいかを聞きながら、体中を念入りに。
それから入れて激しく動かすんだって。超気持ちいいそうよ」
これは弓子さんから聞いたことだ。あの銀座のスタバでのティータイムで。
「わかった。本を買って研究するから」
ワタルは翌日から試行錯誤で“女の子を悦ばす方法”を始めた。
ラブタイムを盛り上げてくれるグッズも二人で楽しみながら。
季節が変わって、秋の気配が深まった。
銀座へショッピングで出かけて、車を駐車場に入れたときに、
友達のミホとバッタリ会った。
彼女は今、芸人になるために、頑張っているそうだ。
「きれいになったね」とミホは褒めてくれた。
「私は相変わらずだよ」
相変わらず、というのはダメンズ遍歴が続いているのだろう。
そうそう、とミホがミーハーな口調で教えてくれた。
「弓子さん、婚約破棄してあの家を出たんだって。
この間、ライブに来てくれたときに言ってたよ。
新しい彼氏が童貞ですごく優しいって」
私はびっくりした。弓子さんに似てきたと思ったが、
次の男性が同じ童貞クンだなんて…
「ここへ来る前に弓子さんが松屋の裏スタバへ入るのを見たよ、行ってみたら」
「ありがとう!」
私は急ぎ足でスタバへ向かった。
再会した彼女との楽しいお喋りを想像しながら。
(終)