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官能小説 心も体もつながる夜は 4話

別れてください

その夜、美冬はこれで最後なんだと噛み締めながら知宏のマンションを訪れた。
短い間だったけれど、この部屋には思い出がたくさん詰まっている。鎌倉に行った時に買った変なネコの置物、2人で撮った写真、お揃いのマグカップ。
せめてマグカップは思い出にもらえるだろうか。
新しい恋人に元カノとお揃いで買ったものを使わせることは、さすがにしないだろうから。

到着して早々にぎゅうっと抱きしめられ、美冬は慌てて彼を押しのけた。
こんなことされたら、未練で別れられなくなる。
「……美冬?」
拒否されたのが意外だったのか、知宏は不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んだ。
やっぱり別れたくない、優しくしないで欲しい。美冬の胸がそんな悲鳴を上げたが、怖気づいて何も言えなくなる前に伝えてしまおうと口を開く。
「…………私たち、今日で終わりにしよ?」
かすれ声を絞り出すと、その場がしんと静まり返った。
もしも嬉しそうな顔をされたら悲しいなと思い、俯いた顔を上げられない。緊張から体をガチガチに硬くすると、彼のまとう空気が一変した。

「…………は、どういうこと?」
妙にゆっくりとして、感情を押し殺した低い声。
なかなか別れを切り出せずに困っているはずの知宏は、美冬からそれを申し出たらホッとして同意してくれると思っていたのだが。
「わ、別れようって言ったのっ! 私……、私しつこくつきまとったりしないから大丈夫だよ。文句も言わないし、ちゃんと綺麗にいなくなってあげる」
早口で並べ立てると、美冬の腕を掴む彼の手に力が入った。
「なんだよいきなり?! 何か気に触るようなことしたか? それとも先週、俺が焦りすぎたからもう嫌になったのか?」
「違うっ、知宏は悪くない。……けど、私と付き合っててもメリットなんてないし、ちゃんと体で満足させてあげることもできないし……っ」
ギリ、と腕を握り締められて反射的に見上げれば、こちらを射抜くような視線と交差する。
悲しいのは美冬なのに、どうして彼も傷ついたような表情をしているのだろう。

「……理由はそれだけか?」
そして告げられたのは、この一言。
「それだけ、っていうか……」
これで十分大きな理由だと思う。
今別れれば、若くて美人の専務の娘さんと結婚できて、しかも出世だって確実なのだから。知宏にふさわしくない自分は身を引くだけだ。
美冬が口ごもると、彼は大きく息を吐き出した。そしてきつく抱きしめられる。
「……分かった。美冬がそんなに追い詰められているとは知らなかったんだ、ごめん。それならもうセックスなんてしなくてもいい。失敗して気に病むくらいなら、俺はいくらでも我慢できるよ」
「……へ?」
「それとメリットだっけ? 俺は美冬が隣にいるだけで毎日がんばれるんだ。週末まであと何日だろうって指折数えて、かっこ悪いって思われたくないから死ぬ気で仕事して、ちょっと笑いかけてもらっただけでバカみたいに嬉しくなって……。だから頼む。嫌いになったんじゃないなら、別れるなんて言わないでくれ」
悲しそうな表情で真摯に見つめられ、美冬は激しく動揺した。
どうしてこんなに引きとめられているのだろうか。
彼のためにすっきり身を引いてあげるはずだったのに、ここまで言われては本当に別れたくないように聞こえてしまう。
自分の願望が作り出した幻聴だろうか。

彼女のこと

別れ話に反応する男性

「でも……でも新しい彼女がいるんでしょ?」
そう言って抱擁から抜け出すと、また彼の腕が追ってくる。
余計みじめになるからこんなこと言いたくなかったのに。
「新しい彼女? ってなんのことだよ。俺の彼女は美冬しかいないだろ」
「うそ! 私、知宏がお見合いするって聞いちゃったんだから。顔合わせ前なのに、もう連絡先を交換して仲良くなってるんだって……っ!」
いつの間にか感情が昂ぶって、目からは涙がこぼれ落ちていた。
あぁ、本当はみっともない姿を見せずに身を引くつもりだったのに。せめて彼の記憶の中でだけは、最後まで可愛い恋人でいたかったのに。
ここまでくると、もう止められなかった。

「本当はずっと一緒にいたいよ! だって、ほんとにほんとに好きだもん! でも……でも仕方ないじゃない。若くて、美人で、知宏の役に立てる人がいるなんて、私じゃ全然敵わないの!」
肩で息をして、ボロボロと泣きながら叫ぶ。
せめて良い印象のまま別れたいと思っていたけれど、それも無理そうだ。
最後の姿がこれなんて、本当についていない。

彼は美冬の悲痛な告白を黙って聞いていたが、やがて大きなため息をついた。
そしてよろめくように壁にもたれ、美冬を強引に引き寄せる。
「……そのことか。ったく、驚かせないでくれよ……」
「やだっ、放して! もう別れるんだから!」
じたばたと暴れるが、びくともしない腕にがっちりと捕まえられて動けない。
強制的に抱きしめられて厚い胸に頬をつければ、早鐘を打つ心臓の音がドクドクと響いてきた。

「マジで心臓に悪いから別れるとか言うな。その見合いの話はちゃんと断ってるから。安心して」
「……え」
――――断った???
信じられない思いで見上げれば、目元の涙をぺろりと舐め取られる。
「社長賞を取った時の懇親会で専務に打診されたんだ。恋人がいるから無理ですって断ったんだけど、無理やり連絡先を渡されてさ。じゃあ本人に直接説明しようと思って連絡取ったら、向こうにも結婚を考えてる彼氏がいるからって逆に謝られた。結局専務の暴走だったんだよな」
「え。そ、それじゃ……」
「見合いはしない。俺の大切な人はずーっと美冬だけだよ」
「ええええーっ!!」

苦笑いの知宏に、『お仕置き』と称してほっぺをむにっと引っ張られる。
大福のような顔面にされながら、美冬はこの夜、噂だけで突っ走ってはいけないと非常に大事なことを学んだ。

⇒【NEXT】9/22公開予定!誤解の解けた二人は…(心も体もつながる夜は 5話)

あらすじ

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