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官能小説 水族館デート【1-3】彼女の、愛のゆくえ


水族館デート【1-3】彼女の、愛のゆくえ

久住の唇がうなじから乳房へと這わされていく…
優雅な久住のどこに、こんな荒々しい動物的な力が潜んでいたのだろう。
のけぞって、私は首をイヤイヤと振った。

久住の指が湿った密やかで敏感なところへと忍び寄る。
「お願い…」とあえいだが、私は久住の体を突き放した。

「どうして?」

久住の前髪が崩れた。荒い息を整えながら、私は久住を見つめた。

「一線を越えてしまうと……あなたのことがとても好きになってしまって、もう後に戻れなくなりそうなの…それが怖いの」
「素子…」

久住は私を抱いた。そっと包み込むように。
彼のシトラスコロンの香りに包まれながら、いとおしさがこみ上げてきた。

久住は既婚者だった。
子供はいないが、妻も音楽関係者で、ほぼ別居状態だというが、私を愛しているからといって、妻と別れるとは思えなかった。
それよりも、彼を受け入れてしまうと、愛人のままで生きようと決心してしまいそうな自分が怖かった。
彼の気配を感じただけで幸せでいっぱい。日に日に愛していた。だから愛人として生きると決めてしまえば、きっと揺るがないだろう。

好きだけど、怖い…怖いけど、一番愛している!誰が何と言おうと。

既婚男性を好きになって彼のために生きたいと思うのは、罪なのだろうか?
素子の心は左右に頼りなくやじろべえのように揺れていた。

久住への愛が苦しくなって、力を抜きたいと友達の由紀を誘って、紅茶のインストラクターの講習を受講した。
大好きな紅茶の世界は、私を夢中にさせた。好きなことをやっていると本当に幸せだ。

久しぶりにはしゃいだ私はミノルという男性に誘われるままに、由紀と三人でカフェへ入った。

ここ数年、デートはいつも夜だった

ミノルはベンチャー企業の社長で26歳。二つ年下だった。

「ヨーロッパで人気のパティシエのお菓子を逆輸入する会社で、本格的なヨーロッパ菓子を届けたい」

ミノルの口調に力と熱がこもって、何だか強がっているようだ。それが年下男の可愛らしさなのかもしれない。
由紀が途中で席を立って化粧室へと向かった時に、すかさずミノルが「デートしようよ」と単刀直入に申し込んだ。
ベリーショートの年下男の野性的な顔立ちに、NOと言わせない強引さがにじみ出ていた。

「デートってどこ?」

ちょっとノッたフリして、もしウザイ場所なら、すぐに断ろう、と私。

「品川の水族館はどう?」
「水族館?」

ぷーっと噴出すと、ミノルはちぇっ、と口を尖らした。
予想外の可愛いデート場所でOKサインを送りたかったが、もったいをつけたくなった。

「いつ何時にデートするの?」
「今度の土曜日、午前11時」

まるで暗号のよう!何て素敵な約束事!
ここ数年、デートはいつも夜だった。興奮を抑えて、年下男の前で私はゆっくりと「いいわよ」と余裕の微笑を浮かべた。

品川水族館の魚達は、よく見るとユーモラスな顔をしていた。
水槽には様々な光が乱反射して、魚達がゆったりとたゆたいながら列を作って、まるでダンスをしているように目の前を通り過ぎていく。
水面から天井へ向かう光のラインに沿って、魚たちも輪になりながら、ゆらゆらしていた。
日常からかけはなれた夢のような世界だった。

「魚たちのマイペースぶりを見ていると、俺はこれでいいんだって、自分を肯定したくなるよ」と呟くミノル。

年下男の可愛らしさは消え、闘う男の静かな闘志がみなぎっていた。

別れ際のミノルはさよならと手を振った後で、ポケットからさっとサングラスをとってつけた。
水族館での無邪気な遊びの時間は終わり、男の背中は再びビジネスへと向かう。

携帯メールの着メロが響いた。

『羽田に着いた。会いたい』

久住からだった。

胸の高鳴りを抑えながら、駅の化粧室で仕上げにスウイートオレンジのグロスをつけた。
今夜何かが起こりそうだった……

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