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小説サイト投稿作品65 「ただ、そばにいて 前編」
「ただ、そばにいて 前編」
〜LC編集部のおすすめポイント〜
いつまでも、ただのいとこ同士ではいられない――実のいとこのナツを好きな朝海は、久し振りに彼と再会。
昔の彼の描写がみずみずしく、また、朝海の痛いほどに彼を想う気持ちが切なく描かれている作品です。
いくつもの出来事の中で彼を想う気持ちとなんとか折り合いをつけようとするも、うまくいかない朝海のもとへ来たのは…二人の恋の行方が気になります!
リーシュコード
水平線から、目が眩むほどの光を溢れさせて顔を覗かせる白い太陽は、朝の静かな海を銀色に輝かせていく。
ふわりと髪の毛を揺らすそよ風を身体に感じながら、私が一心に見つめるのは。
木の葉のようなボードに乗り、穏やかな水面をまるで波と一体化したように美しく滑る男の子の姿。
時折私に顔を向け、無邪気な笑顔で手を振るそのときだけは、彼が年下だということを思い出させてくれるけれど。私は彼を、ずっと1人の“男”として見てきた。
でも、一時足りとも止まらない波のように、私に彼を捕まえることはできない。
こうして砂浜から、遠くの海で遊戯する彼を見つめていただけだけれど、ただそれだけで、幸せだった。
──幸せだと、思っていた。
「来月またこっちに帰ることになったから、朝海(アサミ)のペンションに泊まらせて」
安いラブホテルの、固いシーツの上で抱き合った後。
倦怠感が残る身体を横たえる私の隣で、気怠げにマルボロに火を点けながら短髪の男が言った。
「え、何でうちに?」
「俺の友達も一緒に海に来たいんだって。お前んち行ったことないから興味あるし」
正確には“うち”ではなく、私の両親が海に程近い場所で経営しているペンションだ。
全部で五部屋ほどしかない少人数制のこじんまりとしたものだけれど、夏は海水浴客が利用して毎日満室になる。
いつもはOLをしている私も、夏場の休日は料理や掃除を手伝ったりしている。
私は煙草の煙から逃げるように鼻の上まで布団を引っ張って答えた。
「ふーん、わかった。来月ってことはお盆くらい?」
「あぁ。また詳しく決まったら連絡するけど」
お盆っていうと、あの子が帰ってくるのと被っちゃうな…まぁ、だからと言って特に問題はないと思うけれど。
この男──翔吾(ショウゴ)は保険会社の営業マンで、現在県外へ単身赴任中。
たまにふらりとこちらへ戻ってきては私に連絡を寄越し、都合が合えば会って抱き合う。
私たちはそんなドライな関係を約半年ほど続けている。
“好き”だなんて言葉は以っての外、“付き合おう”とか“セフレになろう”とかいう言葉も交わした覚えはなく、自然とそんな関係ができあがっていた。
翔吾にはきっと私以外にも同じような関係の女がいるだろうけれど、そんなことはまったく気にならない。
だって私も、本当に好きな人は他にいるのだから。
「なんか皆でバーベキューやろうって話出てるらしいじゃん。お前も行くだろ?」
「うーん、たぶん…」
「なに、あんまり乗り気じゃないのか」
「だって仲のいい友達は皆仕事で来られなさそうだし」
私と翔吾は同級生。高校が一緒だったけれどクラスは別で、お互いにどんな友達とどんな学生生活を過ごしていたか、その当時のことはほとんど知らない。
半年前に友達の結婚式で再会し、二次会で酔った私たちはそのまま一夜を共にしたことから今の関係が始まった。
その二次会で意気投合した数人で、これまでもたまに飲み会が開かれていて、今度のバーベキューもその集まりなのだけれど。
私が仲のいい友達はその中に2人しかいなくて、彼女たちが来ないと正直あまり行く気にはならない。
その程度の付き合いなのだ。
浮かない表情をする私を見てクスッと笑うと、翔吾は灰皿に煙草を押し付け、私が被っていた布団を剥ぎ取る。
そして上に覆いかぶさると、首筋に唇を這わせながら言った。
「来いよ、俺がいるんだからいいだろ。俺は朝海に会いたい」
そんなセリフは、この男にとっては挨拶代わりのようなものだと理解していながらも黙って受け止める。
不思議と嫌ではなく、何の重さもない軽い言葉だからこそ、逆に気楽でいいのかもしれない。
翔吾は快楽を満たし、私は寂しさを紛らわすために、お互いを利用している。
使い捨てであっても必要なもの――よく言えば、サーフボードと身体を繋ぐリーシュコードのような存在なのだ。
彼は感触を楽しむように手の平で私の胸の膨らみを揉みしだき、小さな蕾を口で啄む。
思わず声を漏らすと、彼は満足げに口角を上げ、その手を下へ下へと滑らせていく。
敏感な場所に指を沈められ、いやらしい音を響かせながら掻き回されると、自然と潤いが増していくのがわかった。
「お前の身体って、綺麗で触り心地いいから好き」
「んっ…そう?」
「他の男には渡したくねぇな」
「っ、あ──」
再び私の中へ彼が入ってくるのを、何の躊躇いもなく受け入れた。
この甘い言葉が、快感が、あの子がくれるものだったらいいのにと、頭の中で都合よく変換しながら。
今激しく腰を打ち付ける男とは別の、海で輝く美しい男の子を想うふしだらな自分を嘲笑った。
彼の季節
八月に入ると、気温とともに私の気分は上昇する。
県外の大学へ通っている夏が、趣味のサーフィンをするためにこの地元へ帰ってくるからだ。
夏に生まれたから“夏”
朝の海が綺麗だから“朝海”
そんな安直な名前の付け方は、さすが姉妹だと思う。
私の母親の妹の子供、つまり私のいとこである五歳下のナツは、幼い頃から一緒に遊んで一緒に育った。
『アサ姉は泣き虫だから、俺がついててやらなきゃダメなんだ!』
…なんて、生意気なんだか頼もしいんだかわからないことを言って。
悲しいことや辛いことがあって泣いているときはそばにいて、泣き止んだ後は手を引っ張って立たせてくれるような、そんな男の子。
いつしか少しくらいのことでは泣かなくなったけれど、それでもナツは私のそばから離れなくて、それが嬉しかった。
でも、大学生にもなればさすがに私の周りをウロチョロするはずもなく、彼は遠くの大学を選んだ。
そのときに初めて気付いたのだ。離れてしまうことの辛さに。
私がナツを、いとこなんかじゃなく、ずっと1人の男として見ていたのだということに。
「今度の金曜日、夏くんが帰ってくるって」
ある日の夜、母からそう聞いて「そうなんだ」とだけ返した私は、内心飛び跳ねたくなるほどの喜びを感じた。
ナツが帰ってくるのは年に3回、長期休業のときだけ。そのあいだは両親のペンションで手伝いのバイトをしている。
だから私とも会う機会が増えるわけだ。
ナツとはメールや電話はほとんどしない。
彼がこの土地を出ていくまでは当たり前のように会っていて、そんな習慣がなかったから。
今更何の用事もないのに連絡をとるのはなんだか気恥ずかしいし、どうしたらいいかわからない。
だから、ナツの情報はいつも母経由で又聞きして知るのだった。
それでも、会うと前と変わらずに接することができる。
それは、私とナツがいとこという関係から抜け出していないことを露呈しているようで、少し切なくもあるのだけれど。
「夏くんが来たら皆で花火でもしようかしらね」
「あーいいね。昔よくやったもんなぁ…」
「あんた達、毎日のようにやりたいやりたいってうるさいんだもの。あのときは困っちゃったわ」
夕飯の片付けをする母は幼い私たちを思い出しているようで、優しい表情で笑っている。
まさか私がナツのことを特別な目で見てるだなんて思わないんだろうな…。
いとこ同士で結婚できるということは知っている。
それでも、ほんの僅かだとしても血の繋がりがある親戚だということに違いはない。
ナツの話が出るたび、親に対しての罪悪感と背徳感は拭えなかった。
ナツが帰ってくるという金曜の夕方、仕事が終わりお盆休みに突入した私はペンションのフロントで部屋の予約状況を確認していた。
翔吾からも連絡があり、日曜に一泊することになっている。
バーベキューはその翌日の月曜に海岸で行う予定で、結局私も参加することにしたけれど…案の定気が乗らない。
やっぱり断ればよかったかな、なんて少し後悔し始めていたとき。
「アサ姉!」
カラン、と軽やかなドアベルの音がしたと思うと、外の眩しい光とともに懐かしい声が飛び込んできた。
ふわりと揺れるココアブラウンの髪、大きな二重の瞳と愛嬌のあるきゅっと口角が上がった口。
可愛いけれど前よりもまた男らしくなったナツが、大人びた笑顔で私に近付く。
──あぁ、やっぱり好き。
「ナツ…!久しぶり」
「久しぶり。元気だった?」
「うん、私は相変わらず。ていうか、今日帰ってきたばっかりじゃないの?」
「そうだよ。早くアサ姉に会いたかったから来たんだ」
──ドキン、といちいち反応してしまう心臓が憎い。ナツが私をいとこ以上に思って言っているはずないのに。
テイクオフ
彼は私の両親とも少し話をした後、小さなラウンジのテーブルを拭く私のところへやってきて世間話を始める。
大学はどうだとか、友達とこんなとこへ行ったとか。
たわいない会話は昔から呆れるくらいしてきたのに、ナツとだったらそのすべてが宝物みたいに思える。
「明日はいい波が来るかも」
不意に、テレビのニュースを眺めながらナツが言った。
小学5年生くらいからサーフィンを始めた彼は、天気図を見るだけで波の状態を予測できるようになったらしい。
そして彼が波のことを言うのは、イコール“アサ姉も来てよ”という意味だと、私は捉えている。
2人だけの、暗黙の了解だ。
「じゃあ、朝食出し終わったら海行こ」
「たまには水着着てきてくれたら嬉しいんだけど」
「何言ってんのよ」
鼻で笑いながら、ふと翔吾に言われた『お前の身体って綺麗』というフレーズが蘇る。
あの人にはもうすべてを見せてしまっているけれど、ナツには水着姿すら見せるのは恥ずかしい。
昔は一緒に海で遊んでいたくせにね。
「私の水着姿なんか見せれるほどのもんじゃないわよ、色気ないし」
嘲笑しながら言い、ふきんを手にキッチンへ戻ろうとすると、腕組みをして壁に寄り掛かっていたナツがこんな言葉を投げ掛ける。
「色気があるかどうかを決めるのは男でしょ。その権利、俺にはないわけ?」
──ドキリ、激しく胸を鳴らされてしまった。なんだかナツじゃない、知らない男の人みたい……。
「俺、もう“オトコノコ”じゃないからね?」
耳元でそんな言葉を残し、私の横を通り過ぎてラウンジを出ていくナツを、急激に沸き上がる熱を持て余したまま見つめていた。
どうして、急にそんなこと言うの──…
──翌日。
午前十時の太陽に照らされてキラキラ輝く海と、ウェットスーツに身を包んで波に乗るナツを、海岸に座って眺める私は大きめのTシャツに、ショートパンツといういつも海へ来るときと同じ格好。ただ、今日はその下に水着を隠している。
白地にピンクの花柄で、いやらしすぎず、可愛すぎないデザインのものにしたつもり。
別に見せるわけじゃないけど…なんとなく、着てみようかなって気になって。昨日のナツの言葉が、うねる波のようにずっと頭の中をぐるぐる巡っているせいかな。
──『俺、もう“オトコノコ”じゃないからね?』
「知ってるよ、そんなこと…」
濡れた髪を掻き上げる彼に胸を高鳴らせながら呟き、折り曲げた膝に口をくっつけた。
いつの間にか完璧なオトコになっちゃって…。
何気ない仕草にも私がドキッとさせられてることに、あの子は気付いてないんだろうな。
ひとしきり波乗りを楽しんだ後、ボードを持ったナツが満足げな表情で私の隣にやってくる。
「楽しかった?」
「あぁ。やっぱり今日はオフショアだからね、いい感じ」
オフショアって、たしかいい波を起こす風が吹いてるときのことだっけ?
サーフィンのことはさっぱりわからないけれど、ナツが笑っているから私はそれだけで楽しい。
「テイクオフできた瞬間ってさ、最高に気持ちいいんだ」
まだまだ波乗りを楽しむサーファーを眺めながら言うナツに、私も笑顔を返す。
「一番の醍醐味って言うもんね。見てても気持ちよさそうだもん」
「そう。でも波に乗れたことがっていうより、いいポイントを見付けられたことが嬉しかったりするんだよね」
そういうものなんだ、と思いながらふむふむと頷く。
サーフィンのことを話すナツの目は真剣で、趣味に留めておくのがもったいないと思うくらい。
「テイクオフするときって最初は転ぶのが怖いんだけど、怖じけづかずに突っ込まないと上達しないんだ」
「へぇ…」
「きっと、何でもそうだよな」
──何でも。それは例えば、恋愛でもそうだろうか。
怖がらないで、突き進んだ方がいい?いとこという関係を越えたものを、求めてもいい…?
ぼんやりと考えを巡らせていた私は、首の後ろに違和感を覚えて我に返った。
振り向くと、何やらナツの手が首に回されている。
「アサ姉は昔から恥ずかしがり屋だな」
「え?」
「服なんて着なくていいのに」
「……あ!」
クスッと笑うナツが何を弄っているのかわかった途端、顔に熱が集まる。
そういえばこの水着、ホルタータイプだから首の後ろにリボンがついてるんだった…!
隠そうとしても無駄だというのに手で隠そうとする私に、ナツはおかしそうに笑う。
そして、セミロングの髪をハーフアップにした私の頭をぽんぽんと撫でた。
「でも、そうやって恥じらうところも可愛いんだけど」
──あぁもう、何なの昨日から。
突然女の子みたいな扱いをするから、私の心臓は休む暇がないじゃない。
ハタチそこそこの男に、こんなに心を揺さ振られるなんて。…そう思いながらも、嬉しくないわけがなく。
私は口元を緩めながら、立ち上がるナツの隣に並び、ペンションへの道のりを2人でゆっくりと歩くのだった。
ウィンドスウェル
「よぉ、朝海」
「…いらっしゃいませ」
日曜日の午後にやってきた見慣れた短髪の長身の男に、平静を装って他人行儀の挨拶をする私だけれど。
胸が鳴るのは、ときめきの音ではなく“ギクリ”という擬音が相応しい。
なぜなら、偶然バイト中のナツがキッチンにいるから。
特に気にすることはないのかもしれないけれど、できれば合わせたくはない。
「何だよ、そんなかしこまって」
「一応仕事中ですから。はい、ここに名前と連絡先書いて」
「ハイハイ。あ、連れは来るの夜になるから」
「そう。わかった」
いつものように接客し、ナツがまだ出てきませんように…と祈る。
そして、翔吾がペンを置いたのを見計らって、すぐに部屋へ案内しようと動いた。
「じゃあ、部屋は──」
「あ、いらっしゃいませ!」
あぁぁ、ダメだったか…キッチンから出て来たナツが、愛想良く挨拶をしてこちらに歩み寄る。
私が内心大きなため息をついていることも知らずに。
「荷物お持ちしますよ」
「あぁいいよ、このくらい」
荷物を持とうとしたナツを制した翔吾は、私に顔を向け当然の質問をする。
「朝海、部屋どこ?」
──そのとき、ナツの表情が固まったのがわかった。
名前を呼び捨てで呼ばれたら、もう私たちが知り合いだということはわかっただろう。
でもとりあえず、私は翔吾を部屋へ案内しなければ。
「部屋は2階だよ。案内するね」
ナツの顔を見れないまま、私はそそくさと木の階段を上がる。
後からついてくる翔吾は、物珍しげにペンションを見回しながらこんなことを言い出した。
「お前、今仕事抜けられねぇの?」
「抜けられなくはないけど…何で?」
「ちょっと来いよ」
「!?や…っ!」
階段からすぐの部屋の前に着き、ドアを開けた瞬間、翔吾に手首を引かれて中へ連れ込まれてしまった。
「ちょっと翔吾、何す…んっ」
──ドサッと荷物が置かれた直後、頭を引き寄せられ強引に唇を塞がれた。
突然の貪るようなキスについていけず、よろめいた身体は壁に押さえ付けられる。
ようやく唇を離した翔吾は、目を細めて私を一瞥する。
「しばらくお前に会ってないから溜まってんだ。これくらい許せよ」
そう紡いだ彼の薄い唇は私の首筋に移動し、服の上から胸を掴まれた。
いや…嫌だ。すぐそばにナツがいるのに。
これまで何とも思わなかったのに、急に嫌悪感に襲われる。翔吾のことが嫌なんじゃない。
ナツの特別な相手になれないからと、好きでもない男と抱き合っていた浅はかな自分が、心底醜くて──。
「っ、いや!!」
「…朝海?」
力一杯翔吾の胸を押し返した私は、木製の床にぽたりと落ちた一粒の雫が、自分の涙だということに気付いた。
私が泣いているのを見た翔吾は、驚いたように少しだけ目を見開き、私の腕を押さえていた手の力を緩める。
「ごめん翔吾…もう終わりにしよう?」
「好きなヤツでもできたか」
これ以上この関係を続けることはできそうもなく、終末の言葉を告げると、翔吾は淡々とした口調で返してきた。
俯いた私は、静かに首を横に振る。
「違う…ずっと前から好きだったの」
それを聞いた翔吾は、「俺はお役御免ってことか」と言い、ふっと微笑を漏らした。
きっと彼も、私が寂しさを紛らわすためだけに関係を持っていたことに気付いていたんだろう。
「気になるな、朝海がどんなヤツを好きなのか。会社の同僚とか、上司?それか友達の紹介とか…」
「いとこだよ」
…初めて、他人にこのことを告白した。どうしてだろう。
友達にも言えないことが、翔吾にはサラッと言えてしまう。
さっき以上に驚いた様子で一時停止する彼に、私は涙を拭って自嘲気味に笑う。
「おかしいよね。いとこを好きになるなんて…」
「まぁ、別にいいんじゃん?俺は博愛主義者だから気にしねー」
ざっくりとした返しに今度は私がぽかんとして、思わず笑ってしまった。
こんなふうに楽観的な人だから、一緒にいても苦じゃなかったのかもしれない。
私の想いを否定しないでくれたことが、とてもありがたかった。
ルームキーを渡し、部屋を出ようとすると、ベッドに腰を下ろした翔吾の声が私を引き止める。
「明日のバーベキューは来いよな。今からドタキャンしたらきっと幹事がうるせぇから」
「うん、わかってる」
「それに、朝海のビキニ姿も一度拝んでおきたいし」
「……サイテー」
「その最低の男と寝てたお前も、似たようなもんだろ」
──冗談のやり取りだとわかってはいても、最後の一言は胸に突き刺さった。
今の私には、冗談では片付けられない気がして。
翔吾の軽い笑い声を耳に入れながら部屋を出て、パタンと扉を閉めると深いため息を吐き出した。