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官能小説 【小説版】シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 最終話


素直な想い

耳に発信音が鳴り響く。1コール鳴っただけで、心臓が飛び出しそうな緊張感があった。が、なぜか橘はすぐに電話に出るだろう、と誓子は確信していた。

2コール目が終わる直前、プツッと音が途切れ、ほんの少しの間を置いてから「…もしもし、橘です」という声が聞こえた。

誓子は声にすら愛おしさが募り、思わず喉が詰まった。声を出したら泣き出してしまいそうで、誓子はもどかしさに唇を噛んだ。

「もしもし…?」

橘から、相手の声が聞こえないことに戸惑うような気配を感じた。このままでは切られてしまう、と誓子が口を開こうとした瞬間、

「大橋さん、ですよね…?」と橘の方から切り出された。確信めいた言い方に、誓子と同じような直感が彼にも働いていたのではないか、と悟り、誓子は橘との間に説明できない強い縁のようなものを感じた。

「は、はい。夜遅くにごめんなさい」
「いや、電話してくれて嬉しいよ。ありがとう」

 言葉通り、橘の声は本当に嬉しそうで、声のトーンが上がった。橘の持つやわらかい雰囲気が耳にも伝わり、誓子は感情の波が少しずつ凪いでいくのを感じていた。

――今なら素直に言える。

誓子は決心したように前を向き、受話器を持つ手に力を込めた。

「橘くん、今すぐ会いたい」

耳に一瞬、橘の息を飲むような気配が感じられた。誓子はまっすぐ前を見据えたまま、橘の言葉を待った。

「…俺も。大橋さんに会いたい…」

まるで体の中にある想いのすべてを吐き出すような切なく濡れた声は、誓子の体をじん、と熱くさせた。

「橘くん…」
「俺、今すぐそっちに行くから。待ってて!」

橘は鬼気迫ったように言うと、電話を切った。しかし誓子も橘の腕が待ちきれなく、受話器を置くとすぐに近場にあったワンピースに着替え、家を飛び出した。

気持ちが通じ合う幸せ

最寄駅の改札口へ走っていくと、ちょうど橘がホームから階段を下りてくるのが見えた。

「橘くん!」

誓子が大きく手を振ると、改札を通り抜けた橘が驚いたように顔を向けた。目が合うとパッと顔が輝き、誓子の方へ走り寄ってきた。パーカーにデニムというカジュアルないでたちで、会社でのスーツ姿とはイメージが違う。しかし、本当の橘自身と向かい合えたようで、誓子は胸が高鳴った。

「大橋さん、わざわざ迎えに来てくれたんだ」
「うん、早く会いたかったから…」

誓子の言葉に橘は照れたように頭をかいて笑ったが、その手はすぐに誓子の背に回った。それは、誓子が橘の胸元に飛び込んできたからだった。

「お、大橋さん…?!」
「好きです。私、橘くんのこと、好きです」

突然の告白に、橘は驚いたように無言で誓子を見つめていたが、緊張が解けたようにふぅっと息を吐くと、嬉しそうに顔をほころばせた。そして誓子をギュッと強く抱きしめ、誓子の髪に自身の顔を擦り付けて「ありがとう。嬉しいよ」と、囁いた。

通り過ぎる人々から好奇の目で見られていることなど気にならないほど、誓子は甘い幸福感に満たされていくのを感じていた。好きな人と気持ちが通じ合うというのは、こんなに嬉しいものなんだ。生まれて初めての幸せな体験に、誓子は胸が熱くなった。

橘は強く抱きしめていた腕をそっとほどき、誓子の頬を両手でくるむと、唇を重ねてきた。

橘とのキスは今まで妄想フィルターで経験していたが、本物の口づけは妄想のそれとは比べ物にならないほど、誓子の気持ちを熱く高ぶらせた。

そして2人は何度も何度も唇を合わせ、高まる感情をむさぼるのだった。

初めての熱い交わり

「ん…っ!」

橘の部屋に入ると、電気をつける間もなく2人は玄関で唇を合わせた。

もっと深くまでほしくて、誓子は橘の首に腕を回し、唇を割って舌を絡ませる。唾液の音が響くたび、誓子の奥からとろりと欲望が溶け出してくる。

「大橋さんのキス…エロすぎるよ…。俺、もう止められない」

橘は荒い息をしながら唇を離すと、誓子を抱きかかえて奥のベッドへ下ろした。

そして自身の服を荒々しく脱ぐと、また唇を合わせ、性急に誓子の服を脱がし始める。ワンピースをたくし上げながら滑らかに体をまさぐる手…。誓子はぞくぞくする感覚に、思わず声を上げて体を震わせた。

「ああん…っ」
「大橋さん、感じやすいんだね。まだ肌に触れただけだよ」

橘はそのまま手を胸まで滑らせ、下着の上から誓子の突起をつまんだ。

「ああっダメ…!」
「ここ感じるの?ブラの上からでもわかるくらい硬くなって尖ってるよ。大橋さんやらし過ぎ…」

橘は誓子の反応を楽しむように、もう片方の手を誓子の足の間に滑らせた。そして指の先端で割れ目をなぞる。

「うわ、ここももうしっとりしてる」
「ああ、いや…意地悪…」
「意地悪じゃないでしょ。ずっとこうされたかったくせに」

橘は誓子の下着をすべて脱がすと、胸の突起に舌を這わせながら蜜の溢れる場所へゆっくり指を入れた。中でうごめく指に、誓子は思わず腰を動かした。

「ああん…」
「もっと欲しくて腰が動いちゃうの?ここ、どうしてほしいか言ってみて?」

意地悪な橘の言葉を聞くと、誓子の体はより熱くなる。恥ずかしくてたまらないのに、誓子の心は喜々として橘の命ずるままに従ってしまう。

「橘くん…挿れて…!」
「…よくできました」

橘は満足げにほほ笑み、誓子の頭をなでると足を割り開き、誓子に覆いかぶさるように体を重ねながら自身を挿入した。思った以上の圧迫感に誓子は驚いたが、橘とつながることができたという幸福感に体中が満たされていくのを感じていた。

キスしながらセックスする男女

「大橋さん…気持ちいい?」
「うん…幸せ」

橘はゆっくりと腰を動かしていたが、ふぅっと深い息を吐いた。

「あぁ、俺、気持ちよすぎてもう我慢できないよ…」

誓子に口づけをすると、橘の腰の動きが激しくなった。誓子も動かされるたびに、じんじんと快感の波が迫ってくる。

「あっああっ!橘くんすごい、気持ちいい…!」
「大橋さん…大橋さん…俺もうイクよ…!」
「私も…!」

ひときわ強く突き上げられた瞬間、誓子は意識が飛ぶような感覚に包まれた。張り詰めていたものが解き放たれたように、大きな快感が体中を駆け巡る。血液が沸騰しているのではと思うほど、体がドクドクと脈打っていた。

橘の体がぐったりと重なり、誓子はともに果てたことに気づいた。お互い荒い息を整えながら、どちらからともなく目を合わせる。

「感じやすくてかわいかった。もう離さないよ」

そう言うと、橘は誓子にチュッとキスをした。誓子は幸せをかみしめながら、「うん!」と橘を強く抱きしめた。こんなにスムーズにできたのは、妄想フィルターとひとりエッチのおかげかもしれない…と誓子は密かに真樹夫に感謝をするのだった。

幸せな結末と真の立役者

ゴーン、ゴーンと教会の鐘が高らかに響き渡る。

誓子が橘と結ばれて半年が経ち、今日は翔子と草山の結婚式だ。他の招待客とともに、誓子は橘と教会の外で2人を待っていた。

「本当に俺が来てよかったのかな?」
「もちろん、翔子が来てほしいって言ったんだもの。両親も喜んでたわ」

今では橘もすっかり家族公認の仲。翔子は大喜びで橘を招待したのだった。

「あ、来た!」

教会の大きな扉が開かれると、純白のウェディングドレスを着た翔子とシルバーのタキシード姿の草山がお辞儀をしながら現れた。

「翔子、キレイ…!」

誓子は感動して橘の腕にギュッと抱きついた。橘は、ほんとだね、と誓子にほほ笑みかける。

フラワーシャワーを浴びながら、翔子は少しずつ進み、ついに誓子たちの前へ来た。

「今日はありがとう!」

翔子は満面の笑みを見せて誓子の手を取った。

「翔子すっごくキレイだよ!…草山さんも、素敵です」

誓子は翔子の隣りに並ぶ草山を見た。かつての憧れの人…。すでに懐かしい思い出のようだが、生まれ変わるキッカケをくれた大切な人でもあった。あのときは、まだ芽吹いたばかりの子供の恋だったのだ、と誓子は今になって思う。

「誓子ちゃんもキレイになったね。橘くんと本当にお似合いのカップルだよ」

草山はまぶしそうに誓子と橘を交互に見た。誓子は草山に認められ、ここまで自分が挑戦してきたことが間違っていなかったことを確信するのだった。

「誓子、これ受け取って!」

突然、翔子がブーケを誓子に差し出した。

「え、私でいいの?」
「もちろん!次は私たちが誓子と橘さんの式に行くからね!」

翔子の結婚式でブーケをもらう誓子

翔子は嬉しそうに言うと、橘に微笑みかけた。橘は突然言われて顔を赤くしたが、はい、と言うと、誓子を見てほほ笑んだ。

すると、突然後ろからおいおいと泣く声が聞こえた。

「あぁ、なんて素敵なの…!やっぱりキレイになるってドラマティックよね…!」
「真樹夫さま、特注の黄金のおリボンが曲がっております!」

振り返ると、胸元に大きく輝く金色のリボンを執事に直されながら、涙をぬぐう真樹夫がいた。

「真樹夫さん!そこにいたんですね。今日は翔子のメイクをありがとうございました」
「いいのよ、私キレイになる女性を見るの大好きなんだからっ!任せてちょうだい!」

執事が差し出したティッシュでチーン!と勢いよく鼻をかみ、真樹夫は満足げに頷いた。

「集合写真撮りますので集まってくださーい!」

遠くから集合写真を呼びかける声が響いた。招待客がわらわらと写真撮影場所まで移動をする。誓子も、橘や草山とともに撮影場所へ向かった。

翔子は誓子と距離が離れたことを確認すると、サッと真樹夫の方を向き、肩に手を置いてこっそり話しかけた。

「やっぱり、真樹夫さんに誓子のこと相談してよかったわ」
「うふ♪私を信じてよかったでしょ」

真樹夫は得意げに、肩に乗った翔子の手をポンポンと叩いた。

「ええ、木に風船をくくりつけるの大変だったけど。駅前で真樹夫さんのプロデュース募集の張り紙を見たのが、運命だったのね」
「そうね〜。ちゃっかりラブグッズ持って営業に来て“妹をプロデュースしてください!”なんて、あなたの度胸に惚れちゃったわ!」

翔子は嬉しそうに両手を合わせた。

「うふふ。だって、女性をキレイにするにはうちの会社のラブグッズがぴったりだと思ったんだもの。誓子は絶対磨けば光るって信じてたから、これはいいきっかけになる!ってひらめいたのよ」
「さすが翔子ちゃん!でもあなたの会社のラブグッズ、完璧だったわよ。これからもプロデュースに役立てたいから、よろしくね」

真樹夫は翔子に手を差し出した。翔子はウインクしながら「もちろん!」と手を握り返した。

「翔子ー!写真撮るよ!」

遠くから誓子の声が聞こえた。翔子はハッと振り返り、

「今行く!」

とドレスのまま駆け出した。バサバサとドレスの裾をひるがえしながら、翔子を待つ人々の中へ吸い込まれていく。

「あの姉妹、本当にすごいわね。私の予想をはるかに超えてくるわ…」

翔子の後ろ姿を見ながら、真樹夫は満足そうに腕を組んで微笑んだ。幸せそうな2つのカップルを見つめてまたうるうると涙が溢れそうになったとき、メイドが「真樹夫さま!」と走り寄ってきた。

「あら、そんなに急いでどうしたの?」
「真樹夫さま、図書館に次回プロデュースの、ターゲット候補の目撃情報が入りました!」

ハァハァと荒い息をつきながら、メイドが電話を差し出した。

「まぁ!本当!?」

真樹夫は涙をぬぐった目をキラキラさせながら手のひらを組み、「さっそく新たな原石発見ね!!」と執事やメイドへ声高らかに宣言した。そして慌ただしく準備を始めるのだった。

澄み切った青空の下、パシャパシャというシャッター音とたくさんの笑い声がいつまでも鳴り響いていた。

END

シンデレラになる方法1

シンデレラになる方法2

あらすじ

橘への気持ちが固まった誓子。

告白の返事をしようと橘に電話すると橘はすぐに出た。

緊張で言葉が詰まりつつも、誓子は橘に「会いたい」と伝える。

橘は…?!

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