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官能小説 再びの春


先輩との恋愛

アヤカは、水道から冷水をすくいあげ顔にかけた。 そうやって、絶え間なくおとずれる睡魔を一時的に退治する。

顔をあげたアヤカは、 洗面所の鏡に映る自分を見てげんなりした。 化粧気のない青白い顔に、 無造作に縛った髪のおくれ毛が張りついている。

雑誌ライター三年目のアヤカは今日まで入稿作業に追われていたが、 ひとまず今月のヤマは越し、気分的にも落ち着きを取り戻しつつあった。 あと一つ原稿をチェックして入稿を済ませれば、帰ることができる。

「飲みに行かない?」

アヤカは、隣のデスクの後輩の女の子に声をかけた。

「すみません。約束が…」
「もしかして彼氏?」

からかうようにアヤカが尋ねると、後輩は恥ずかしそうに頷いた。 この三年間、まるで恋愛に縁のないアヤカは後輩が羨ましくなった。

結局帰り際まで飲みに行く相手がつかまらなかったアヤカは、 ある場所へ一人で行くことを決心する。

木製の重い扉を開けるアヤカ。 ランプ型の照明が灯る薄暗い店内には、微音でジャズが流れていた。

「いらっしゃいませ」

スーツを着込んだ容姿の整った店員が、 丁寧な挨拶をしてアヤカをカウンターに案内する。

ここは、アヤカが学生時代に憧れていた先輩が、 アルバイトしていたバーだ。 あの頃は高級すぎて足を踏み入れることが出来なかったが、 今日は自分へのご褒美として奮発するつもりだ。

ドライマティーニを舐めつつ、先輩の洋佑を思い出す。 彫りの深い美しい顔立ちの人。 洋祐とは短大時代にサークルを通して知り合い、 仲間うちでよく遊びに行った。 何度か二人で会う機会もあったが、 洋佑は極度に無口で照れ屋だったため、 結局それ以上距離を縮めることは出来なかった。

洋佑の思い出に浸りつつ数杯お酒を飲み、 アヤカはふらつく足で店を出た。

店を出たところで、ふいにアヤカの前に 学生風の男が三人立ちはだかった。

「一緒に飲まない?」

一人の男が言う。 無視して去ろうとすると、その男がアヤカの腕をつかんだ。

「離してっ!」

語気を荒げるアヤカに男が言う。

「そんなに怒んないでよ」
「とにかく離してっ!」
「可愛いねぇ…」

下品な声でせせら笑う男達。 周囲には人気が無く、アヤカは急に恐ろしくなった。

「いいからつきあえよっ!」

腕を引っぱられ「キャッ」と叫ぶアヤカ。

「やめろっ!」

ふいに背後から男の声がして後ろを振り向くと、 一瞬アヤカは自分の目を疑った。 なんとそこには、さっきまで思い出の中にいた 洋佑が立っていたのである。

好きだった人との再会

昔より少し面長になり細身のスーツをスマートに着こなした 背の高い洋祐が、目の前に立っている。

洋祐は、アヤカから男の手を引き離し腕を捻りあげた。

「いてて…」
「嫌がる女の腕をつかんだら立派な犯罪だ。警察呼ぶぞ!」

洋祐が手を離すと、男は素早く走り去った。 他の二人もいつの間にかいなくなっている。

洋祐が、しゃがみこんでいるアヤカを見下ろす。

「気をつけろよ」

そう言い残し立ち去ろうとする洋祐。

「洋祐君!私、憶えてる?」

洋祐は戸惑った様子で足を止め、アヤカを見ずに答える。

「…当たり前だろ」
「助けてくれてありがとう!ねえ、お礼にご飯おごるからつき合って」

アヤカは無理矢理、洋祐の腕を引いて繁華街へ向かって歩き始める。 道すがらアヤカは、洋祐に色々質問をした。 どうやら洋祐は、例のバーを経営している会社に就職して 店舗管理を行っているらしい。

アヤカはあらためて洋祐を眺める。 細身の体型は変わらないが、スーツの下には 筋肉質で逞しい体が隠れているようだ。 さっきあの若者の腕をつかんだ時、二の腕がぎゅっと締まるのが見てとれた。 ヒップから太ももへのラインも、無駄なたるみが一切なく美しい。

小さな顔の割に筋張った太い首。 首筋のラインを辿った先には、少しだけ盛り上がった胸筋があるのだろう。 服の下の洋祐の裸体を想像した途端、アヤカの鼓動は高鳴った。 顔を赤らめつつ洋祐の横顔を見る。 ややこけた頬とキリッとした男らしい眼差しに、過ぎた数年間を思う。 容姿は大人になったが、無口で愛想のない性格は昔のままだ。

不機嫌そうな顔を見ているうち、洋祐を誘ったことを後悔し始めるアヤカ。

「忙しいのに、ごめん…。今日はやっぱ帰ろうか」

洋祐はきょろきょろ目線を泳がせた後、やはりアヤカの顔を見ずにうつむく。

「連絡先教えてくれる?」

そう頼むと洋祐は自分の名刺を出し、 裏に携帯アドレスを書いて渡してくれた。 アヤカが礼を言うと、洋祐がまた目線を泳がせた。

「そっちのも教えてくれ…」

恥ずかしそうに言う洋祐。 アヤカは驚きながら連絡先を教えた。

「今日は本当にありがとう」

アヤカは洋祐に連絡先を尋ねられたことで、気分がにわかに高揚した。

好きだった人との偶然の再会を、 運命と思わない人なんているだろうか…と、 アヤカは今夜の出来事を思い出しながらベッドの中で考えた。

洋祐へのときめきが、数年の時を経て再びアヤカの心に蘇る。 しかも以前よりさらに強い情熱を秘めて…。

再会のキス

洋佑が近くにいると思うだけでアヤカの心は華やぎ、 ノーメイクで出かけることもなくなった。

そんなある日、アヤカは昔親友だったサチに数年ぶりに電話して 洋佑に再会したことを告げた。 すると、サチは予想外のことを言った。

「えっ?私は、とっくにつき合ってると思ってた。 洋佑くん、アヤカのこと好きだったって噂だよ」

洋佑の本心を知ったアヤカは、戸惑いながらも メールのやりとりを開始した。 反応は素っ気なかったが、彼の性格を考えれば気にするまでもない。 いずれ自分から告白するつもりだった。

そして怒涛の入稿地獄が過ぎた後、 昔よく仲間と時間をつぶした公園に洋佑を呼び出した。

ベンチに座っていると、チェックのシャツにジーンズという格好で 洋佑がやって来る。

「懐かしいな、この公園」

隣に座る洋佑。

「昔ね、洋佑君が好きだったの。そして今も…」

沈黙を破り、アヤカは告白した。 しかし、洋佑は黙っている。 不安がよぎる。 何年も経っているのだし、心変わりして当然だとアヤカは思った。

「変な事言ってごめん」

アヤカはひきつった笑顔のまま立ちあがる。 その瞬間、洋佑はアヤカの腕をつかみ引き寄せた。

洋佑の部屋は、物が少なく片付いていた。 並んでベッドに座っていると、洋佑は長い腕をまわしアヤカの体を包んだ。 洋佑の鼓動が全身に響きわたり、自然と唇が重なる。 意外なほど情熱的なキス。

洋佑のシャツのボタンを外すと、やや隆起した胸があらわれた。 汗ばんだ彼の胸に唇を這わせるアヤカ。 ワンピースの下から手を入れ、服を脱がせる洋佑。 洋佑は弾力を味わうように、長い指で胸を揉みしだきながら乳首を吸う。 敏感な部分を愛撫され、アヤカの下腹部は熱を帯びる。

脚の間に洋佑の手が忍び込む。 太ももや尻を撫でまわされていると、アヤカの泉から蜜がどんどん溢れ出てくる。 洋佑の下腹部も興奮で硬くなっている。

「欲しい…」

その言葉は洋佑を興奮させ、 彼は再び激しいキスを浴びせながらアヤカの中に入ってきた。 二人の体は、密着しながら一体化していく。

「アヤカ…」

初めて洋佑に名を呼ばれ、胸に愛しさが溢れる。 洋佑の熱い吐息が耳元にかかる。

「ああ…」

アヤカが限界に達し声をあげたのと同時に、洋佑も果てた。

「もっと早くこうなりたかった」

洋佑の腕枕の中でアヤカが呟いた。

「…君が綺麗すぎて目も合わせられなかったから」
「そんなシャイなところも好き」
「大事にする」

その言葉に、アヤカは涙ぐみながら無言で頷いた。

<再びの春 〜おわり〜>

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あらすじ

ドライマティーニを舐めつつ、先輩の洋佑を思い出していたアヤカ。
店を出たところで、ふいにナンパをされ乱暴をされそうになっていたところに現れたのは、さっきまで思い出していた先輩の洋佑だった!

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