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官能小説 【小説版】シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第4話


自信の芽生え

真樹夫のプロデュースが始まってから、誓子は数回妄想フィルターに入って、草山との仮想恋愛を楽しんだ。今日は休日のため、午前中にずっと見たかったエジプト展に行き、午後から真樹夫の屋敷で妄想フィルターに入ることとなっていた。エジプト展の興奮が冷めやらぬまま、誓子は真樹夫の元へとやってきた。

「あら、今日はいつもに増して肌艶がいいわね!素敵なことがあったのかしら?」
「そうですか?エジプト展のせい?夜用の美容ジェルのおかげかな?」

プロデュースのひとつとして、真樹夫からあらゆるコスメを与えられているが、最近は毎日夜に塗るフェイスジェルを使って眠っていた。朝起きると頬がぷるぷるで、確かに以前よりも肌のコンディションは良くなったように感じる。

「いいじゃない♪きっと恋のトキメキもお肌にいい影響を与えているんだわ。やっぱり恋は女をキレイにするのね?」

満足げに真樹夫はクルクルと回りながら、唇にキス専用美容液を塗った。ふんわりとフルーティーな香りが自分から漂う。それだけで女性らしくなったようで、誓子は鏡を覗いてみた。いつの間にか、鏡を見ることに抵抗感がなくなっていた。

「さぁ、準備完了!ではいってらっしゃーい!」

誓子がゴーグルとヘッドホンをつけて横になると、真樹夫は手を振りながら妄想フィルターのスイッチを押した。

踏み出した大きな一歩

目を覚ますと、目の前には神殿のような建物の光景が広がっていた。

「えっ…?!ここはどこ?!」

今までの妄想は、自宅や日常の場面が多かったが、今回は今までにない壮大なスケールのようだ。驚いて辺りを見渡すと、繊細に彫刻が彫られた柱には松明が焚かれ、ペルシャ絨毯のような高級そうなカーペットが敷かれている。すぐそこに豪華な寝台が置かれ、細く毛の短い猫が寝台の横で丸くなって眠っていた。

「なにこれ、まるでエジプト…」と言いかけて自分の服を見ると、ベリーダンスを踊るような露出度の高い衣服をまとっていた。耳や首元にはシャラシャラと高貴な音が鳴る、黄金の重たいアクセサリー。頭にも王冠のようなものが載っているようだ。

「まさか私、クレオパトラになっちゃったの…!?」

クレオパトラになる妄想をする誓子

ついさっき見たエジプト展を思い出す。どうやら、あまりにインパクトの強い映像や体験は、妄想に影響するようだった。

誓子は自分の状況が読めず、寝台の方に進んで行こうとしたそのとき、「女王様、お目覚めでしたか?」と柱の陰から男が出てきた。あまりに驚いて、誓子はキャッと悲鳴をあげた。

「驚かせて申し訳ございません…!」

男は近づいて跪いた。上半身は裸で、下に白いサルエルパンツのようなものを履いている。召使いの1人なのかな、と思って顔をよく見ると、それはなんと草山だった。

「本日の添い寝係として参りました。さぁ、御寝台へ」

草山は立ち上がると、誓子を突然抱きかかえた。

――わっ!草山さんにお姫様抱っこされちゃった!!

嬉しさと恥ずかしさに誓子はうろたえたが、たくましい腕の中にいられる幸せをかみしめていた。草山がそっとベッドへ誓子をおろすと、誓子の隣りに横になり、腕を差し出した。

「私の腕で恐縮ですが、どうぞ」

――憧れの草山さんの腕枕…!

誓子は生まれて初めて腕枕を経験した。草山の、弾力があり熱を帯びた二の腕は、誓子の心を熱く溶かした。このまま、抱かれるのだろうか…。

腕に頭を載せていると、草山の顔はすぐ目の前だ。期待と不安の入り混じった複雑な感情の中、草山の顔を見つめる。色黒だが端正な顔立ちで、スッと通った鼻がとても美しい。

草山も誓子の視線を感じたようで、見つめ返される。すると、草山がそっと頭を載せている腕を引き寄せ、誓子を抱きしめた。そして、もう片方の手が誓子の腰のあたりをそっとなでた。

「あっ…」

思わず、誓子は声を漏らした。驚きもあったが、声を出さずにはいられない、突き上げる衝動があった。草山は手を腰からウエスト、脇の下まで滑らせるようになで、胸元へと移動させた。そして、いつもより露出している胸を包むようになでると、誓子の額にキスをした。

「はぁ…」

誓子は喜びと快感に、ため息をついた。お腹の下の方が熱くなり、ムズムズする。こんな感覚は初めてだった。そのとき、目の前がだんだん白くなり、誓子は意識を失っていった。 そして目を覚ますと、妄想フィルターの中だった。

「どうだった?脳波を見ると、いい感じだったみたいね♪」

真樹夫が嬉しそうにフィルターを覗き込む。

「はい、素敵な夢でした…。だんだん彼との距離が縮まってきている気がします」
「そうなのね!またお肌がピチピチしてきたみたいよ♪」

自分のことのように真樹夫は喜び、手を叩いた。なぜか周りの執事やメイドも嬉しそうに拍手喝采だ。草山と思った以上に近づけたので、誓子も満足だった。たとえ現実でなくとも、草山の体温や心臓の鼓動を直に感じられて、大きく前進した気持ちになった。

「じゃあ、今日は一気にプロデュースを進めちゃいましょう!さ、あれ持ってきてちょうだい!」

誓子の気持ちを読み取ったかのように、真樹夫は満足そうに次の指示を執事に出した。そして執事はスッとはさみを差し出し、さらにメイドたちが誓子にケープのようなものをいそいそと取り付け始めた。

「あなたは過去のあなたではないわ。もうこれはいらないはずよ」

そう言って、真樹夫は執事からはさみを受け取ると、誓子の長い前髪をバッサリと切った。

「えっ…!」

目の前が明るくなり、はらはらと髪が落ちていく。誓子は驚きのあまり言葉を失っていたが、その間にも、チョキチョキとはさみは激しく動かされ、メイクと同じくものすごい勢いで姿が変えられていった。

それから2時間後。誓子は別人と化していた。

目が隠れていた前髪を短くして分け、おでこが見えている。さらに伸びっぱなしで重かったサイドの髪が鎖骨辺りで揃えられ、毛先に軽く内巻きのパーマがかかっていた。色はほんのり栗色で、上品な印象。すっきり軽い仕上がりになっていた。

「どう?お気に召して?」

得意げに言いながら、真樹夫はリボンを結び直した。鏡を見ていた誓子は、驚きすぎて声も出ない。

「こ、これが私だなんて…信じられない。真樹夫さんすごいわ…!」
「私じゃないの、あなた自身が変わったのよ。育ったからキレイになれたの」

真樹夫は誓子の肩を抱いて、鏡を見た。

「さぁ、自分をほめてあげて」
「はい…!ありがとうございます!」

誓子は自然と涙があふれ、真樹夫に出会えてよかったと思った。そして少し自分を好きだと思えた。周りの執事やメイドも涙し、真樹夫はそんな様子に嬉しそうにクルクルと舞うのだった。

翔子の反応

家に帰ると、翔子は誓子の変わりように、口をパクパクさせた。

「うそ、誓子…?」

「う、うん。変かな?」と照れながら誓子が言うと、翔子は突然抱きついてきた。

「すごいすごいすごい!!可愛すぎだよ、誓子!!!」

可愛くなった誓子

あまりに強い力で抱きしめられたので誓子は驚いたが、翔子の喜びのバロメーターのようで、なんだかとても嬉しくなった。

「やっと本来の誓子に会えたね!やっぱり誓子はダイヤの原石だったのよ!」

体を離し、見つめる翔子の目は涙目になっていた。気持ちに正直な翔子がやっぱり好きだ、と誓子は思う。そして真樹夫と同じことを言われ、より自信がついてくるようだ。

「さ、ご飯食べよう。お母さんと一緒に餃子作ってたの」

翔子が涙をぬぐいながら、誓子をキッチンへと連れて行く。誓子はいい匂いのするキッチンへと入っていった。

だがそのとき、翔子が背後で「作戦成功ね」とつぶやいたことなど、誓子は気づきもしなかった…。

キレイになった幸せ

翔子の反応もだが、会社の同僚たちの反応も上々だった。が出勤すると、社内がざわついた。どこからか「誰?」という声も聞こえる。挨拶をしてようやく誓子だと認識してくれた。

「すっごくキレイになったわね」
「その方がいいよ」
「見違えたわね、素敵!」

とあちこちからほめられ、誓子は人生で初めて女性に生まれてよかった、と思った。

驚くことに、他部署の社員も誓子を見に来ては話しかけてきた。なんだか会社のマドンナにでもなったような気分だ。キレイになったことを認めてもらえることが、こんなに幸せだったとは。気のせいか、仕事もサクサクとはかどるようだった。

その日の午後。上司から突然呼び出され、書類を渡された。どうやら、営業部からの書類に不備があったらしく、営業部に行って訂正の指示をしてほしいということだった。

「担当は橘くんなんだが、たしか同期だったよね?」

上司に言われ、ああ、と少し憂鬱な気持ちになった。橘は同期の中でも社交性が高く人気者で、ちょっぴり自信家のような印象があった。誓子には苦手なタイプだ。

「よりによって橘くんかぁ…」

営業部に向かいながら、誓子は少しだけ暗い気持ちになった。せっかくやる気が出たところに、こんな用事が入るとはついていない。座席表を見ながら橘の席へ行くと、彼はいなかった。

「ほんとについてないなぁ…」と誓子がつぶやいたとき、「僕に用ですか?」と背後から声がした。ハッとして振り返ってみると、すぐ目の前に橘がいた。

それが運命の始まりだったとは、そのときの誓子には知る由もなかった。


⇒【NEXT】きれいになる決意を固めた誓子は…(シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第5話)

シンデレラになる方法1

シンデレラになる方法2

あらすじ

真樹夫のプロデュースがはじまってから誓子は何度か妄想フィルターを経験し、仮装恋愛を楽しんだ。
休日、誓子は念願だったエジプト展に行き、興奮冷めやらぬまま真樹夫の屋敷へ…。
すると今日の妄想の舞台はエジプト…。誓子がクレオパトラ、草山が彼女の召使いという設定だった…!

凜音
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女性の体コラムの連載や、情報サイトの専属ライターとして…
海辺野ジョー
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漫画家 + グラフィックデザイナー。女性向けにHなラブ…
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