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官能小説 home sweet home 前編
変わらないもの
貫禄と風情のある玄関。それと不釣合いに新しさの残る『高橋』という表札。この前まで『東』とかかっていた家…ここが、俺の家だ。
家族は、高橋家長男の俺、雅広。ひとつ年下の妻の亜季、今年で16歳になる娘の幸。…だけじゃない。
弟の次男、純也。その妻の東千加子ちゃん。それから、もうひとりの弟、三男の圭、その彼女の東琴乃ちゃん。そう、千加子ちゃんと琴乃ちゃんは、亜季の妹。
つまり、三男三女がパートナーなのだ。
事業家だった亜季たちの両親が事故で他界して、大きな家に残ったのは三女の琴乃ちゃんだけ。それで、皆で話した結果、大集合となり、玄関の表札も『東』から『高橋』に変わった。
「雅広さん、おかえり」
妻の亜季が、キッチンから顔を出す。
「あ、ただいま」
俺は、一瞬返事が遅れた。バッグの中の“アレ”が、急に重くなったように感じる。
「どう、出すかな…」
夜、部屋に戻って“アレ”を手に取って呟いているところに、亜季が入ってきた。
「何?それ」
亜季の無邪気な視線は、すでに“アレ”を捉えている。
賽(さい)は投げられた。
「あぁ。これ、“ベッド専用ラブコスメ”だって。常連にもらったんだ。これ塗ると、エッチで女の人が感じるんだってさ。マスターの前で堂々と出すからさぁ、断るに断れなくてさ」
俺は、まくし立てた。
「そうだ、千加子ちゃんにあげようか。ほら、官能小説家なんだから、ネタになるだろ?」
用意しておいた逃げ場に、俺は、闘うことなく逃げ込んでしまった。本当は、1年ぶりに誘う口実がほしかっただけなのに…。
(情けない)
そう思ってため息がでる直前、俺の手はぐっと掴まれた。
「私、千加子には…。試して…みて…いいかな」
ひと言、口にするたびに、亜季の指に力が入る。その指は、震えていた。
俺は、勢いで亜季をベッドに押し倒した。
「雅広さん…、い、今?」
「やる気にしておいて、ひどいな」
それから俺は、亜季の全身を撫で、舐めた。なるべく優しく。ひとつひとつの細胞を、確かめるように。
亜季の胸に顔をうずめると、不意に涙が溢れた。
「ごめん。俺、…きっかけが分からなくなっちゃって…」
そう言って、涙を舐め取って隠した。
「嬉しい…」
亜季のその言葉で、ようやく、目を合わせた。
「…塗るよ」
ラブコスメを手に取る俺に、亜季は黙って頷く。
俺の指先は、ベッドサイドのライトに柔らかく反射して、それから、吸い込まれるように、まとわりつくように、亜季の湿った体温に沈み込んでいく。
ビクンと、亜季の脚が閉じられた。
「ごめん、痛い?」
俺は、反射的に指を離した。
「ううん。なんか…、なんて言うか…、やめないで」
声も瞳も、見たことがないほど潤んでいる。俺は、濡れた指を真ん中に戻した。亜季の吐息は甘い声に変わって、一秒ごとに激しくなっていく。溢れ出てくるものは、ますます熱く、手首まで、俺を染めていった。
「あぁぁ」
つながった瞬間、俺たちは同時に息を漏らした。
「ねぇ、雅広さん。私、これでよかったのよね?あの子を産んで16年。ずっと、家を守ることに精一杯で…。妻として、…女として。これで…」
しがみつきながら、亜季の声は、おずおずと細かった。
(俺は…、こんなに、亜季の気持ちをほったらかして…)
俺はつながったまま華奢な体を抱き起こして、目を合わせた。
(…ちゃんと、言わなきゃ)
俺は、くすぶる照れを踏みにじった。
「当たり前だろ。この荒れた手も、重くなったお尻も、俺にとって、宝物なんだから」
「もうっ」
亜季は、俺の肩に顔を預けた。少しずつ、亜季の涙で肩が濡れていくのが分かる。
(手もお尻も変わったけど、この髪も心も、今でも柔らかくて細いんだよな
「亜季。本当にごめん」
「もう、謝りすぎだよ」
次々と肩を伝う愛妻の涙は、切ないほど温かかった。
理性とエッチ
今思えば…、僕たち夫婦は正直に体を重ねるまでに、随分と遠回りをした。僕らは5年前、当時兄夫婦が住んでいたマンションで偶然に顔を合わせた。初対面から「純也くん」と呼ばれながらも、「千加子さん」と呼んでしまう僕。
このときから本当のところ僕は、妖艶でいて少女のような瞳に翻弄されていた。それから、僕らは読む本や雑誌が似ていて、友達として仲良くなった。
ある日、雑誌の編集をしている僕が仕事で扱っている官能小説の話をしたとき。千加子さんから「私も、書いたことあるの」と言われて驚いた。
その小説を読むために、僕は初めての千加子さんの部屋に入った。男の衝動を抑えながら。読み進めるうちに、どんどんその小説に引き込まれていく。それと同時に、主人公の台詞が千加子さんの声で頭の中に響いてしまう。
部屋に上がったときに抑えた男の衝動は、結果として、さらに複雑な形になって僕を襲ってきた。ただ一方で、この小説を世に出したいという編集者魂もうずいた。
(しかし結果次第では、千加子さんとはこれ以上にはなれない…)
そう葛藤しながらも、やはり、小説を賞に出すことを勧め、一緒に準備をした。
そして期待どおりに、その小説は特賞を取り、僕らは作家と編集者という関係になった。
(もう、気持ちを整理しよう…)
胸の奥で膨らんでくる寂しさを、「仕事」という針でパチンと潰した。
何度も、何度も。
しばらくして、千加子さんはスランプに陥った。
「…もっと僕を頼ってください!!」
苛立ちが高まっていく千加子さんに、僕も知らずに声が大きくなっていた。
編集者として頼られないことが、まるで男として頼られていないようで…。それとこれとは話が別だと、頭では分かっているのに…。
そして「あなたに何ができるのよ」と言われて、何も反論できなかった。
(こんなに尊敬しているのに、こんなに守りたいのに、僕には何もできない)
ため息混じりにうつむいて床に腰を下ろした瞬間、僕はすごい勢いで押し倒された。
目の前に、強烈な視線があった。
それから千加子さんは、音のない息をひとつ吐いて、「あなたにできることは…」と、僕の唇を塞いだ。
僕は、一瞬たじろぎ、それから千加子さんの肩をぐっと掴んで唇を離した。
千加子さんは激しく横に首を振り、僕の首筋に吸い付いてきた。強気で、でも、とろけそうに温かい。…そんな口の中で、何かが振り切れた。
「もぅっ!僕は編集者なんです!!」
僕は一気に、甘い香りを放つ耳の奥まで舌を這わせ、太ももを撫で回し、ミニスカートをたくし上げた。辛抱していた時間の分だけ、指も舌も貪欲になっている。
脱ぎ捨てた理性の代わりに、全身ににじむ汗が、ふたりの肌を包んだ。そして、がむしゃらなほどに動くふたつの舌が、その汗を剥ぎ取っていった。
それから深くつながっている間、僕はずっと千加子さんの目を見つめていた。
腰が物欲しげに動くたびに表情も切なく動いて、それがおかしくて一緒に笑った。
「純也くん、私…ずっとこうなるのを…、待ってた気がする」
「僕もです」
僕は、愛しさを込めて、さらに深く身を沈めた。

あれから、4年。今、出社前に、妻の書き終えた原稿に目を通している。
「OKです、これで持っていきましょう」
そう言う僕の首に、妻は甘い目で手を回してきた。
「どうしたんですか?」
「ううん、昔のこと、思い出して」
「僕もです」
懐かしいセリフと共に妻を抱き上げ、ベッドに向かう。
「もしかして、同じこと思い出してた?」
「多分」
僕は笑いながら視線を逸らせ、眩しい朝日に顔を向ける。
そして、カーテンを閉めて部屋に夜を作り、妻にブランケットをかけた。

あらすじ
セックスレスや片思い、マリッジブルー…
恋愛の様々な悩みを抱える方に送る、カップルたちのオムニバスストーリーです。