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官能小説 恋愛エクスプレス 前編


恋をしてない私

「あ、この映画、もうDVDになってたんだ…」

27歳のOL城田真緒は、思わずそう呟いて、 棚に手を伸ばした。 特に予定のない金曜の夜、 仕事帰りにこのレンタルショップに 立ち寄るのは、いつの間にか 真緒の習慣になっている。 そして、DVDで映画鑑賞をして 週末を過ごすことも…。

恋から遠ざかって、もうすぐ4年。

遠ざかれば遠ざかるほど怖くなり、 目を背けたくなるもの。 それが恋だと、真緒はいつしか 感じるようになっていた。

今、手にとったのは、少し気になりながらも 劇場に足を運ばなかった映画のDVD。 劇場に行かなかった理由は… 恋愛ものだったから。

今観れば、「恋したい」って辛くなるだけ… などと考えているうちに、 上映期間を過ぎてしまったのを思い出す。

「恋愛ものなんだよね、これ…。 やっぱり、いいや」

映画館の前にいたときと同じ気持ちで、 真緒はDVDを棚に戻した。 そしてトンと指先でケースの背を弾いて 気を取り直し、ほかの映画に目を向ける。

すると、かすかに甘い香りが漂ってきた。 思わず顔を向けると、真緒がついさっき 棚に戻したDVDに迷わず伸びていく、 手入れの行き届いた女らしい手。

その女性は、タイトルだけ目で確かめると、 甘い香りと共にカウンターへと去っていった。

(私より、5歳くらい若いかな…)

若いうちは、何のためらいもなく ラブストーリーに浸れるよね、と 少し羨ましくなる。 若いうち、か…。 私だって、まだまだ若いのに…。

「フゥ」と少し強く声に出して息を吐き、 ギュッと数秒間目を閉じると、 真緒はまた、店内をぶらぶらと歩き始めた。

「ありがとうございます」という 店員の声を背中で聞いて、外に出る。

ここから歩いて5分で駅。 さらに4駅電車に揺られて、 自宅マンションに帰るのだ。

レンタルショップのバッグを駅のベンチに 置いて、その隣に腰掛けて電車を待つ。 改めてバッグの中を覗いてみた。 全部、アクション映画だ。 恋愛映画を借りられない自分を 蹴散らすように12本も借りてしまった。

積み重なるケースは、 自分が後回しにしている人生の宿題の 山みたいだと真緒は思わず苦笑いした。

(金曜の夜、飲み会もなければ、 ほかにすることがあるんじゃないか)


(週末の2日間、感動するのは 映画だけでいいんだろうか)

そんな自問は、もう年単位で続いている。 そして、モヤモヤと答えを出せずにいる 期間が長くなるほど、借りる映画が 過激なアクションに傾いていくことも 自分で気づいていた。 DVDの入ったバッグを、 真緒は膝の上に置き直す。

その中からは、さっきの女性のような 甘い香りは微塵も漂ってこない。 バッグの先に見えるスカートの裾と 膝頭だけが、自分が女だということの 証明のような気がした。

そう思うと、2日間で観終わるはずのない 量のDVDは、実際の重量をはるかに超えて、 膝の上で鉛のように重くなっていく。

そんな気持ちをくらますように 駅に入ってきた電車に、 真緒は救われる思いで乗り込んだ。

電車の忘れ物

ほどよく暖房のきいた電車の座席に座って、 真緒はガラスに映る自分を ぼんやりと眺めていた。

職場から自宅マンションに 直行すると1時間。 今夜のようにレンタルショップに 立ち寄るときは、途中下車する。 それから、スーパーや薬局に 立ち寄るときも。そうなると、 2時間かけて帰宅することも珍しくない。 今夜も、会社を出たのは1時間半前。

「ちょっと不便すぎるところを 選んじゃったかな」というのも本音ではある。 しかし、職場の人とプライベートでは顔を 合わせたくなくて、郊外にある マンションを選んだ。

(今週もお疲れさまって顔、してるな)

そう思うともなく思っているうちに、 ウトウトとしてしまった。 プシューッと音を立てて開くドアに、 ハッと目を覚ます。

どうして、自分の降りる駅に着くと 目が覚めるんだろう…。 そんなことをまじまじと考えている暇もなく とにかく真緒は飛び降りた。

電車を降りると、外気の冷たさで ついつい速足になった。 駅から自宅までは5分間。 歩いて体温が上がるより、冷気が服を 突き抜け染みこんでくるほうがずっと速い。

パタンという小さな音と共にマンションの 玄関ドアを閉めて、コートを脱ぎ、 思わず「あれ?」と声が出る。

ない。借りたはずのDVDがないのだ。

冷や汗をかいて息を飲んだ瞬間、 電車の座席に置き忘れたことを思い出す。 それに気付くと、今度はズシリと 身体が重くなるように感じた。

どうしよう…。 しかし、だからと言って放っておくわけには いかない。

仕方なく、降りた駅に電話をしてみた。 すると、駅員室にDVDの入ったバッグが あるという。 同じ駅で降りた人が、 気付いて届けてくれたのだそうだ。

「すぐに声をかけたかったみたいなのですが 追いつかなかったそうですよ」

そう教えてくれた 駅員さんの話にほっとした。

しかしその次の瞬間、 安心する以上に落ち込んだ。 アクション映画が12本も入ったバッグを 抱えて電車で眠り、挙句の果てに忘れて スタスタと歩いていく。

…その姿を、落し物を届けてくれるような 親切な人に、見られていたなんて。

せめて、ひとり寂しく過ごす休日の必需品に なっているとは、想像されませんように…。 しかし、週末のDVD鑑賞は、真緒にとって 寂しい心の埋め合わせというだけではない。 時間を気にせず好きな映画を観るのは、 この上ない幸せであり贅沢でもあるのだ。

「あの…。可能なら、 今から取りに伺いたいのですが」

身体も心もうなだれながら言うと、 駅員さんは快諾してくれた。

真緒は電話を切ると、脱いだばかりのコート をもう一度羽織り、マンションを出た。

1週間仕事を頑張って、一番の楽しみを 目前に駅への道を引き返すのは、 正直、面倒でもあった。

でも、DVDを届けてくれた人といい 駅員さんの感じのよさといい。 今日は、人の親切にたくさん触れることが できた日なんだ。

…そう切り替えて気力をふり絞り、 冷たい空気の中を速足で進んだ。

初恋の男性との再会

金曜の夜とはいえ、真緒の住む郊外の駅は、 人もまばらだ。

電車に置き忘れたDVDを受け取るために 自宅から駅へ引き返した真緒は、 単調な足音で駅員室に向かった。

「すみません。先ほど連絡した 城田と申しますが…」

週末の夜に、DVDを12本も借りる若い女。 そう見られていると思うと、 うつむいてしまう。

しかし駅員さんは 「あ、こんばんは。落し物をされた方ですね」 と思いもよらぬ明るさで受け応えてくれた。

さっきの電話の人だろうか?ほどよく低くて でも深く透き通ったような声は、 電話でも直接話しても、 あまり変わらないようだ。 その心地いい声に、 真緒はきまりの悪さを忘れて顔を上げた。

そして、ハッと目を見開いた。 「ご迷惑をおかけしました」 と言いかけた唇は、途中で止まってしまう。

とっさに真緒は、 駅員さんのネームプレートに目を向けた。

…真鍋。

間違いない。 小学生の頃、近所に住んでいた おにいちゃん、真鍋智哉だ。

…それはちょっと、言い方が違う。 もっとストレートに認めてしまうのなら、 初恋の相手、智くんだ。

「真鍋…」と、真緒はネームプレートを 読むようにしてから、「智くん?」と ゆっくり視線を合わせた。

駅員さんは、 不思議そうな顔で真緒を見返した。 そして、みるみるうちに表情が緩まって、 「真緒?」と瞳を覗き込んでくる。

「こんなところで会うなんて! 久しぶりだね、元気だった?」

そう言って笑顔でいっぱいになる智哉の 表情は、20年前と少しも変わっていない。

(そういえば智くん、 あの頃も乗り物が好きだったな。 そうか、夢、叶えたんだな…)

甘酸っぱい思い出が心の奥で旋回する。 しかし、智哉の「はい、落し物」という声が 旋回をピタリと止めた。

バッグを受け取りながら、真緒は、 さっきよりも深くうつむいてしまう。 普段は数本借りるだけのDVDが今夜は12本… しかも、全部アクションだなんて…。 懐かしさも憧れも。 全部、恥ずかしさでかき消されていく。

それでもひとまず、笑ってお礼を言おうと したとき、智哉は、笑顔を倍以上に 大きくして口にした。

「せっかく再会できたし、近々会わない?」

笑おうとしていたところに、その何倍もの 驚きの波が押し寄せて、真緒は硬直した。

智哉はそんな戸惑いをよそに、 早速自分の連絡先をメモしている。 その姿の後ろ、駅員室の向こうでは、 次の電車がホームに入って来る。 不意の眩しさで真緒は、自分が駅にいること 目の前にいる智哉は仕事中であることを 急に思い出した。

少し慌てて自分の連絡先も教え、 「またね」と手を振って駅を後にした。 帰り道は、冬の寒さもDVDの重さも、 まるで感じなかった。

幼い日憧れだった智くんは、 大人になった今も'憧れの智くん'だった。 心は、軽いとか明るいとかいうよりも、 いろんな音色でざわついていた。

1週間働いて重たいはずの脚は、 妙にくすぐったい。

「また、会えるんだ…」

歩きながらそう呟いたことに、 真緒は自分の白い息で気がついた。

恋の思い出

自宅に戻ってシャワーを済ませても、 真緒の胸のざわつきは、 少しも治まらなかった。

「せっかく借りたんだし…」と流したDVDにも 集中できず、派手なアクションの音に、 ビクッとして我に返った。

「寝よう」

リモコンを手に立ち上がり、 真緒は寝室に向かった。 ベッドに入っても、まるで寝付けない。 ついさっきの智哉の笑顔と声が脳裏に蘇る。 胸の奥にチクンと細い針が差したようで、 ほのかに苦しい。 全身から空気を出すように息を吐いて、 真緒は寝返りを打った。

カーテンの向こうに、 電車の走る明かりがぼんやりと見える。

「恋…」

そう呟くと、胸を差す針は身体の中を抜けて みぞおちの奥深くにまで辿り着いた。 無意識に下腹部に力が入り、中心が いつになく熱く、そして溢れ出るくらいに 潤っていることに気付く。

(うそでしょ…?)

真緒はもう一度、身体の向きを変えた。 太ももが擦れ合うだけで、その間にある粒は ビクンと大きく鼓動する。

(忘れていなかったんだ、…智くんのこと)

そう自分で認めただけで、睡眠とは 真逆の方向に、息が向かってしまう。

こんなにうずくなんて、久しぶりだ。 触らなければどうしようもないほど、 身体は内側からうねってくる。

真緒は右手をショーツに伸ばし、 熱くなっている部分を包み込んだ。

ドクドクという粒の脈を受け取る手が、 自分のものではないような気がして、 智哉の手がそこにあってほしいと願ってしまう。

そしてそう願うと、心にも肉体にも一気に 切なさが充満して、真緒は ブランケットの中で下半身をあらわにした。

中指の先は、自分でも恥ずかしいほどに、 すんなりと泉の水面へと誘われた。 泉だと思っていたそこは、まるで沼のよう…。 とろりとまとわりつく液が、たっぷりと満ち さらに溢れてくる。

指では受け止めきれない愛液を、 鼓動する粒に、すくっては運ぶ。 ビクビクといっそう激しく波打つ粒は、 いまや、果汁を含みすぎて 割れる寸前の果実だ。

(果実を割って、楽になりたい…達したい…)
(でも、まだもったいない…)

ふたつの気持ちの間で葛藤しているうちに、 中指はニュルリと沼の中に沈んだ。 そして、沼底まで吸い込まれていく。

その瞬間、絶えずもれていた吐息は、 「あぁぁ」とはっきりとした声に変わった。 その声がスイッチとなって、 指は、沼の中をまさぐり、もがき始める。 自分の声が耳から入ってくるほど、 指は止まらなくなった。

指で沼の中を激しく掻き回しながら、 手の平を脈打つ粒に押しつける。 全身を縮めたりよじったりしながら、 真緒は快感を苦しんでいた。

身体が宙に浮くと思うほどに気持ちよく、 しかし沼の底に沈んでいくようで 息が苦しい。 脳がしびれる「快」と「苦」の狭間に、 智哉の笑顔が遠くから迫ってくる。 ついさっきの智哉も、 遠い思い出の中の智哉も…。

いろんな顔の、でも全て笑顔の智哉が 駆け巡り、真緒は、果てながら、 思わず「智くん…」と口にした。 その言葉の響きは、 真緒をさらに深い絶頂へと連れて行った。

恋の思い出

自宅に戻ってシャワーを済ませても、 真緒の胸のざわつきは、 少しも治まらなかった。

「せっかく借りたんだし…」と流したDVDにも 集中できず、派手なアクションの音に、 ビクッとして我に返った。

「寝よう」

リモコンを手に立ち上がり、 真緒は寝室に向かった。 ベッドに入っても、まるで寝付けない。 ついさっきの智哉の笑顔と声が脳裏に蘇る。 胸の奥にチクンと細い針が差したようで、 ほのかに苦しい。 全身から空気を出すように息を吐いて、 真緒は寝返りを打った。

カーテンの向こうに、 電車の走る明かりがぼんやりと見える。

「恋…」

そう呟くと、胸を差す針は身体の中を抜けて みぞおちの奥深くにまで辿り着いた。 無意識に下腹部に力が入り、中心が いつになく熱く、そして溢れ出るくらいに 潤っていることに気付く。

(うそでしょ…?)

真緒はもう一度、身体の向きを変えた。 太ももが擦れ合うだけで、その間にある粒は ビクンと大きく鼓動する。

(忘れていなかったんだ、…智くんのこと)

そう自分で認めただけで、睡眠とは 真逆の方向に、息が向かってしまう。

こんなにうずくなんて、久しぶりだ。 触らなければどうしようもないほど、 身体は内側からうねってくる。

真緒は右手をショーツに伸ばし、 熱くなっている部分を包み込んだ。

ドクドクという粒の脈を受け取る手が、 自分のものではないような気がして、 智哉の手がそこにあってほしいと願ってしまう。

そしてそう願うと、心にも肉体にも一気に 切なさが充満して、真緒は ブランケットの中で下半身をあらわにした。

中指の先は、自分でも恥ずかしいほどに、 すんなりと泉の水面へと誘われた。 泉だと思っていたそこは、まるで沼のよう…。 とろりとまとわりつく液が、たっぷりと満ち さらに溢れてくる。

指では受け止めきれない愛液を、 鼓動する粒に、すくっては運ぶ。 ビクビクといっそう激しく波打つ粒は、 いまや、果汁を含みすぎて 割れる寸前の果実だ。

(果実を割って、楽になりたい…達したい…)
(でも、まだもったいない…)

ふたつの気持ちの間で葛藤しているうちに、 中指はニュルリと沼の中に沈んだ。 そして、沼底まで吸い込まれていく。

その瞬間、絶えずもれていた吐息は、 「あぁぁ」とはっきりとした声に変わった。 その声がスイッチとなって、 指は、沼の中をまさぐり、もがき始める。 自分の声が耳から入ってくるほど、 指は止まらなくなった。

指で沼の中を激しく掻き回しながら、 手の平を脈打つ粒に押しつける。 全身を縮めたりよじったりしながら、 真緒は快感を苦しんでいた。

身体が宙に浮くと思うほどに気持ちよく、 しかし沼の底に沈んでいくようで 息が苦しい。 脳がしびれる「快」と「苦」の狭間に、 智哉の笑顔が遠くから迫ってくる。 ついさっきの智哉も、 遠い思い出の中の智哉も…。

いろんな顔の、でも全て笑顔の智哉が 駆け巡り、真緒は、果てながら、 思わず「智くん…」と口にした。 その言葉の響きは、 真緒をさらに深い絶頂へと連れて行った。

あらすじ

恋をずっとしてない真緒。気づけば年単位で恋愛から遠ざかっているそんな真緒にある出会いが訪れる…

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