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官能小説 恋愛エクスプレス 後編


幼馴染との恋愛?

「いつもの金曜日と全然違うよ、今夜」

お酒が入っている真緒は、 照れ隠しの軽い声で言った。 確かに、普段の金曜日とはまるで違うのだ。 自宅でDVDの流れるテレビと 向き合っているのではない。 目の前にいるのは智哉。 口に運ぶのは缶ビールではない。

洗練されたデザインのグラスに注がれたワイン。 ここは、それぞれの住まいのちょうど中間 あたりにあるレストランバー。

突然で偶然の再会が、ちょうど1週間前。 その数日後に智哉から連絡があってから、 真緒は正直、ずっと落ち着かなかった。

待ち合わせ場所で、 智哉の姿が目に入ってきたときには、 一瞬立ちくらみをしそうになったほどだ。 しかし「よぉ」と軽く手を挙げた智哉に、 自然と笑顔になる。 そして、この店に向かう道すがらも、 食事とお酒が始まってからも、 話題が絶えなかった。

智哉の引越しのときに真緒が大泣きした事。 それからのそれぞれの生活。 智哉は、大学卒業後に鉄道会社に就職して、 このあたりの勤務になったのは最近らしい。 ふたりしてずっと喋り、ずっと笑っていた。

話すほどに、全身を固く縛っていた 時間という糸が解けていくように、 心が安らいでいくのが分かる。

「智くんにさ、DVD見られたとき、 恥ずかしかったなー! アクション映画ばっかりだったでしょ?」

どんなふうに切り出そうかと、 頭の隅で考えていたことを、 勢いでそのまま話してみる。

「いいんじゃない? アクション映画だって感動するじゃん」 という智哉の返事にほっとすると、 椅子の背もたれに寄りかかり黙ってしまう。

しかし、そんな沈黙の時間も、 話しているときと同じだけ、心地よかった。

「…そういえばさ」

短い沈黙を破った智哉の声に、 微笑みながら「ん?」と顔を上げる。

「あのときの約束、覚えてる?」

約束…?正直、何も思い出せない。

思わず不思議顔になると、智哉は 「そりゃ、そうだよな。何でもないよ」 と目を逸らした。優しく、微笑みながら。

店を出て帰路につき、駅に入っても、 智哉の言っていた'約束'が、 真緒の頭を離れなかった。 もうすぐ、真緒が乗る電車が 到着してしまう。

「ねぇ智くん、さっきの '約束'って、何だったの?」

ホームへと階段を下りながら、 目を合わせずに訊いてみる。 内心、どんな返事が来るのか 見当もつかず、少し怖い。

「ゲームでも借りた?それとも…えーっと」 と、独り言のように口にして、 身構えてしまう心をごまかした。

「うーん」と、隣で智哉は口ごもっている。

そして、少し声をはっきりとさせて 「実は」と切り出した。

「引っ越す前に渡した写真、なんだけど。 もしもまだ持っていたら、 そこに書いてある…よ」

「写真?」と真緒が目を合わせるのと同時に 、ホームではベルが鳴る。

「まぁ、気にしないで」と言いながら、智哉は 目でホームへと向かうように促した。

はっきりと教えてもらえずにもどかしく、 思い出せないことが申し訳なくもありながら 真緒は電車に乗り込んだ。

恋の約束

約束…。写真…。 駅で智哉に見送られ電車に乗り込んでからも 2つの言葉が頭の中をグルグル回り続けた。 気を抜くと「写真…」と呟いてしまいそうだ。

電車を降りると、自然に小走りになる。 早く自宅に戻り、古いアルバムを見たい。 実家を出るとき、母親に 「アルバムはどうするの?」と訊ねられ、 少し迷ったけど持って出た、あのアルバム。 それからの数年間、 実は見返してはいなかった、あのアルバム。

智哉から「写真」「約束」という言葉を聞いて こんなに気が急くのなら、 あのとき持って出て、本当によかった。 自宅に着くと、靴もきちんと揃えないままに 真緒はベッドルームへと向かった。

クローゼットの奥から古びたアルバムを 取り出すと、立ったままページをめくる。 幼い頃の自分と再会して、懐かしい気持ち。 智哉の言葉が気になり落ち着かない気持ち。 2つの心がやじろべえのように揺れている。

そしてその心の揺れは、 細かな指先の震えとなって現れた。

(…あっ!)

1枚の電車の写真を目にした途端、 心のやじろべえは止まった。 何の写真なのか、 智哉が言ったわけではない。

幼い頃にお別れした日のことを、 事細かに覚えていたわけではない。 しかし、その写真を目にした瞬間、あの日の 風景が頭の奥で映像になって流れ始めた。

「またね…」と小さな声で言いながら、 智哉はこの写真を手渡してくれたのだ。 真緒は、泣いてしまい返事もできなかった。 隣にいた母に促されて、 引きつった泣き声でお礼を言ったはず…。

暖かい陽射しが作った自分の影。 智哉が履いていた青と白のスニーカー。 その足元に咲いていた小さな雑草の花。 涙でぼやけていた視界の隅に、 確かにこの写真があった。 真緒は、さっきとは違う指先の震えを 感じながら、写真を取り出した。

「これ…だよね」

返事をする人などいないと分かりながら、 口にしてしまう。 すぐにでも裏返したい気持ち。 見るのが怖い気持ち。

今度は別のやじろべえが心中で動き出した。

「大丈夫」と、根拠のない言葉で 自分の背中を押して、写真を裏返す。 ドキンと音が聞こえるほどに心臓が縮み、 次の瞬間から、全身が 心臓になったかのように鼓動を早めた。

『大きくなったら、むかえに行くよ』

…小学生にしてはきれいな字が、 目に飛び込んでくる。 力強く、ゆっくりと丁寧に書かれた字。 改めて読み直してみると、 喉の奥が詰まりそうに切ない。

(思い出も、今の想いも、 何ひとつ飲み込めてなんかいないんだ…)

真緒は、行き場のない心が体中を 駆け巡るのを感じていた。 「智くん…!」 そう言葉が出たのが先か、 体が動き始めたのが先か…。

写真を手帳に挟みながら、時計に目をやる。 「終電、間に合う」という言葉に、はっきりと 力がこもっているのを自分でも感じていた。 玄関に脱ぎ捨てられた靴に足を入れ直すと、 バタンと閉まるドアの音を後ろに聞きながら 駅に向かって走り出した。

彼の告白

真冬の夜、冷たい空気を心の熱で 切り裂きながら、真緒は駅へと走った。 終電に乗り、智哉の住む町の駅まで出て… そこから先のことは、正直何も考えていない。 でも、駅に向かう足の勢いは止まらなかった。 駅に着いて、時計を瞬間的に確認する。

「あと10分、よかった」と 口の中だけで息をつき、少し歩を緩める。

そして、改札を目の前にしたところで 「真緒」と自分を呼ぶ声に足を止めた。 駅に着くまでの間、ずっと心の中から 聞こえていた、この声…。

「智くん…!」

肩で息をしながら顔を上げると、 改札の向こうに智哉が立っている。 アルバムの中にあの写真を見つけた瞬間から ここに走ってくる間…

…違う。

本当は、偶然再会して自分のカラダに 手が伸びたあの夜から。 ずっと、この声は耳元にある。

ずっと、あの手は、心のカラダに触れ、 ずっと、あの唇は、心の唇を塞いでいる…。

呼吸もままならない中でそう認めて、 真緒はうずきの波が生まれるのを感じた。

「大丈夫?」

智哉が、覗き込むように目を合わせてくる。

「あ…、うん。なんか、 アクションばっかり観てるからさ。 すごい勢いで出てきちゃった…」

両手で髪を整えながら、笑ってごまかした。

「もしかして…。約束、気付いてくれた?」

智哉のその声に、心の真ん中を つつかれたようで目が離せなくなる。 彼の目は、さっきよりも柔らかく、 でも奥に不安の色が漂っている。

「うん」と、真緒は肩の力を抜いた。

「20年越しだけど、嬉しかった…」

瞳の奥で増え始めている涙を感じながら そう言うと、智哉の目から不安の色が 蒸発するように消え、柔らかさだけが残る。

(同じ柔らかい目を、私もしてるのかな…)
(まだ、甘えた目をしているのかな…)

ふたりの間のある、改札と少しの沈黙。 そこに漂う風が、甘苦しかった。

「ところで…」

自分が駅にいる理由をはたと思い出し、 真緒は沈黙を破った。

「智くんはどうしてここにいるの?」

智哉の目は瞬間緊張して、すぐに真緒を 「よしよし」するような色になる。

そして、「約束どおり、迎えに来たんだよ」 と左手を真緒に向けて差し出た。 その目は、「来る?」と囁いている。

低くても透き通る声と、 どこまでも優しい目に、真緒は、 吸い寄せられるように改札を通った。 改札を抜けると、智哉の左手が 真緒の右手を包み、引き寄せられる。

(あぁ…。これがあの欲しかった手なんだ…)

心のカラダに触れ続けた手と、 本物の智哉の手がぴったりと重なるようで、 くすぐったい。 そのくすぐったさは、真緒の全身を そっと震わせて、最後に1番敏感な中心を つつくように刺激した。

「次、終電だよ…?」

恥ずかしさを振り払いながら、 すぐそばにある顔を見上げる。

思いがけず、少しいたずらっぽい視線が 返って来た。

「迎えに行くって言ったけど、 送るなんて言ってないよ」

智哉はそう笑うと、 真緒の手を引いてホームに向かう。 真緒は、一緒に黙って歩き出し、 ぴったりと肩を寄せた。

運命の恋

終電を待つホームから智哉の自宅まで、 ふたりはずっと手をつないでいた。 新鮮で、でも懐かしい愛しさが指先から溢れ 流れ込んでくるのを感じながら…。

そして自宅に着くと、智哉はまずコーヒーを 淹れ、本棚から古いアルバムを出してきた。

「こんなに…」

ふたり一緒の写真が多い事に驚く真緒に、 智哉は「この目、今も全然変わらないな」と 1枚の写真を指差した。 それは、真緒が真剣な顔で 智哉を見上げている写真。

「こんな感じ?」と、真緒は目を合わせた。

智哉も、写真の中と同じ、 まじめな少年の目を返してくる。 数秒、ふたりで時間を巻き戻して、 それから同時に20年後の顔で笑った。

「もう会えないって、諦めてた」

そう告白する少年のままの目の奥に、 20年分のうるみが溜まっている。

「運命って…、あるんだな」という言葉に、 真緒は何度も頷くだけで精一杯だ。 そして、涙の向こうに近づいてくる 愛しい顔と唇に、自然と目を閉じた。

抱きかかえてきた真緒をベッドにおろすと、 智哉はライトを弱くした。

真緒は、できる限りの力で抱きつき、 もう一度唇を重ねる。 ゆっくりと服を脱がせ合ううちに、 真緒はさっきまでとは違う涙が こみ上げてくるのを感じていた。

(この匂い、知ってる)
(この肌の感触、知ってる)

しばらく裸のままで抱き合いながら、 お互いの肌を、表となく裏となく 指でなぞり、頬ずりをし、舌を這わせた。

「んうぅ…」という声にならない声と熱い息、 それから、肌と舌をつなげるピチャピチャ という唾液の音が、全身の細胞を震わせる。

やがて智哉の舌は、真緒の全身を くぐり抜けた後、お腹に愛しそうに キスの足跡を残して、中心へと辿り着いた。 ジュルリ…。ゴクリ…。 濡れた唇が、泉に吸い付き、吸い取ってゆく。

「は…ぁぁ…」

舌の柔らかさと温もり、そして少しの ざらつきに、声を抑えられなくなる。 その舌をもっと深く欲しいと底から 訴える泉は、腰を蝶のようにうねらせた。

真緒は、どこかに落ちてしまいそうな錯覚に しがみつくように智哉の頭に手を伸ばした。

「だめ…もう…」

苦しさの混じった真緒の声に、智哉は 少しだけ強く泉を吸い上げ、顔を上げた。 ジンジン響く全身を抱き直され、少しずつ 身体を結ぶと、真緒は不思議な程安心した。

「どうしてだろう…。あぁぁ…。 初めてなのに…ぁぁぁん。 なんか、ぅぅん…。懐かしい」

快感と安堵を途切れ途切れに伝えると、 「俺も…」と吐息まじりの声が返ってきた。 照れくさく微笑みながら、ふたりは、 長い長い時間、泉に揺れていた。

時々荒い波を起こしながら、 時々凪に身を任せて…。

「せめて、真緒の人生の中で、あと何度か 俺のことを思い出してくれたら、 それ以上は望んじゃいけないのかなって、 そうも思ってたんだ」

深くつながりながら聞こえてくるその声に 真緒は少し上体を離した。

そして、 「これから、数え切れないくらい、毎日…」と まっすぐに目を見つめて、唇を寄せた。


END

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あらすじ

幼馴染との恋愛に発展しそうな予感。久しぶりに会って話していると昔が蘇る。そんなとき、彼がある約束について話し始めた…。

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