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官能小説 LOVERS〜恋が始まる〜


社員旅行

「ごめんね。入社早々、社員旅行だなんて」
「いえ…」

社員旅行の宴会中、申し訳なさそうに言う木下部長に首を横に振った。

30歳になる前に、と勇気を出してIT企業に転職したけれど、まさか、1週間後に社員旅行があるなんて、思ってもみなかった。

「会社には慣れてきた?」
「少しずつですが…」
「焦らず、ゆっくりやっていくといいよ。困ったことがあったら、遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
「まぁ、僕も水川さんと同じタイミングで、異動してきたから、あんまり頼りにならないかもしれないけど」

そう言って、部長は少し照れくさそうに微笑んだ。

お酒を飲んでいるせいか、部長の頬は少し赤く染まっている。部長は42歳らしいけど、実年齢を言われなければ30代にしか見えないくらい若々しかった。サラサラの黒髪に黒縁の眼鏡がよく似合う、いわゆるイケメンだ。

「グラス空だけど、どう?」

部長はそう言って、近くにあったビール瓶に手を伸ばした。

「すみません。ありがとうございます」

私は空になったグラスを部長の持つビール瓶に近付けた。

ビール瓶からグラスに、とくとくとビールが注がれる。白くキメの細かい泡がキレイにグラスの淵まで上がって来た。

「ありがとうございます」
「いえいえ」

さっきからお礼しか言っていない私に部長は陽気な口調で言うと、とんっとビール瓶をテーブルの上に置いた。

「今度は私が…」

手を伸ばし、ビール瓶を持とうとして、ふいに部長の手に触れてしまった。部長の大きな手は、温かい。

「すみません…!」

私は突然触れてしまったことに、思わず、ドキリとする。手に触れただけなのに、なんだか、男の人を感じてしまったのだ。

部長は「気にすることはないよ」と笑顔で言うと、グラスを持ち、「お願いします」と私の方に傾けた。私はまだ少しビールの残っているグラスにドキドキしながら、ビールを注ぐ。

「それじゃあ、改めて乾杯」

グラスとグラスがぶつかる音が聞こえてすぐ、私たちはグラスに口をつけた。

注がれたビールは少し生ぬるかったけれど、気持ちを落ち着かせるのにはちょうどよかった。

宴会で部長に…!

私と部長は何本もビール瓶を空けながら、話し込んでいた。時間がどんどん深くなっていく。気が付けば、宴会場にいた人がほとんどいなくなっていた。

「部長ってご結婚されてるんですか?」
「恥ずかしながら、まだ経験がなくてね。つい仕事に夢中になってしまって、気が付いたら40を過ぎても1人で」
「そうなんですか…?素敵なのに勿体ない」
「素敵?そんなことを言ってくれるのは、水川さんくらいだよ。きっとまだ僕のことをよく知らないからだろうね」
「そうでしょうか…?」

私は言いながら、自分がなかなか恥ずかしいことを口にしていることに気が付いた。

あれ…?部長の顔がかすんでる…?

部長の顔がしっかり見えていたはずなのに、次第にぼんやりとし始めていた。

「水川さん…? 大丈夫?」
「大丈夫れす…」
「あはは。呂律が回ってないよ」

部長は肩を揺らして笑っているようだった。私もつられて、にこっと笑う。ふいに睡魔が襲ってきて、大きく身体が前に傾いた。

「水川さん!?」

慌てて、部長が私の身体を支える。私はハッとして、部長の顔を見た。

「す、すみません…!大丈夫です!」

私、今、完全に寝てた…よね…!?

「飲ませ過ぎちゃったかな」
「いえ…。いつもなら、あのくらい平気なんですけど…」
「緊張とか疲れで酔いが回っちゃったのかなぁ…」

私は部長に申し訳なさそうに肩を抱かれながら、ホテルの廊下を歩いていた。

「すみません…」
「いやいや、僕こそ、ごめんね。もうすぐ、水川さんの部屋だと思うんだけど…」

部長の言葉が最後まで聞こえるか聞こえないかのところで、私は足を止めた。あれ…?おかしい…。

「水川さん…!?」

意識は朦朧として、視界はぐわぐわんと揺れる。身体が思うように動かない…。

私が自分の身体と格闘していると、ふわりと身体が浮いたような気がした。それと同時に温かな感触が腰と脚に触れる。

温かな何かに包まれたような感覚を覚えながら、私の身体と意識は重い泥の中に引きずり込まれていった。

お姫様だっこされて…

翌日、私はひどい二日酔いで目が覚めた。

しかも、記憶が曖昧で宴会場を出た後のことをあまり覚えていない。やっぱり、私は部長にお姫様だっこで部屋まで、連れて行ってもらったのかな…?社員旅行の帰りにお礼は言ったものの、ずっと気にはなっているその事実を木下部長に確認できずにいた。

仕事中、部長はいつもと変わらないし…。でも、腰と脚に感じたあの温かな感触は…。

社員旅行からあっという間に1ヶ月が経ち、仕事にも慣れ、残業するのも日課になりつつあった。結局、部長に何も訊けないまま、時間だけが過ぎていた。

企画書作りのために私は必要な資料を取ろうと、椅子の上に乗り、資料棚の上にあるファイルに手を伸ばす。

と、届かない…。

椅子の上で背伸びをして、思いきり手を伸ばした瞬間――。

「!?」

まずい!と思ったときには、すでに私は体勢を崩していた。落ちるのを覚悟して、ぎゅっと目をつぶる。

そのとき、突然、身体がふわっと浮いた。

なんで…?

恐る恐る目を開けると、部長が椅子から落ちかけた私を抱きとめてくれていた。

「よかった。間に合わないかと思ったよ」

部長は安心したような表情を浮かべつつも、苦笑する。

「すみません…。ありがとうございます…」

部長の腕の中で自分の頬がどんどん赤く染まっていくのがわかる。

部長の温もりを感じながら、この温もりを感じるのは、これが初めてではないことに気が付いた。社員旅行のあの日、動けなくなった私は部長にお姫様だっこされて、部屋まで連れて行ってもらったんだ…。

部長は私を静かに下ろすと、「気を付けてね」と言い残し自分の席へと戻った。

「…」

どうしよう…。ドキドキしてる…。

私は高鳴る鼓動に翻弄されながら、部長の手が触れた部分にそっと自分の手を重ねた。

こんなに胸が高鳴るなんて、久々…。もしかして、部長のことを好き…?

ちらりと部長のことを見る。

すると、部長は私の直属の上司の七瀬さんと肩を並べて、フロアを出て行くところだった。こんな時間に2人でどこへ…?

結局、2人は私が帰るときまで、戻っては来なかった。

上司を好きに…?

残業を終えて帰宅すると、私はお風呂に入り、今日の疲れを取るためにゆっくりと湯船に浸かった。お風呂から上がり、しっかりとスキンケアをして、丁寧に髪を乾かすと、軽めの夕食を取る。

転職してから、ずっとこんな感じの生活だった。食べてすぐ眠ることには抵抗を感じたけれど、明日のことを考えれば仕方がない。私はそのまま、ベッドに潜り込んだ。

二度三度と寝返りを繰り返すけれど、なかなか寝付けない。そう言えば…と思い、私はベッドの近くに置いてあったラブグッズに手を伸ばした。

いくつかあるラブグッズの中から、ピンクローターを手にすると、そっと下着の上からあて、電源を入れた。小さな振動が私の敏感な部分を刺激する。じわじわと這い上がってくる快感に身悶えながら、私は更に振動を強くした。

「ん…」

思わず、口から声が漏れるほど、快感の波が一気に押し寄せてくる。

気持ちよさと比例するように、愛液が下着をしたたかに濡らしていた。身体が更に上の快感を求め始める。

もう一段回、振動を強くしたくなったけれど、イキそうになる寸前で、私はピンクローターをそっと離した。

まだ、エクスタシーを得るには早すぎる。

ピンクローターを今度は胸の尖端へとあて、十分な気持ちよさを得た私は、少しずつ下へ下へとずらしていく。

柔らかな振動は、誰かに触れられているような錯覚を起こしては消えていく。腰のあたりに到達したとき、ふいに部長の顔が浮かんだ。

ここに部長の手が触れて…。

私の身体にはまだ部長に触れられた感触が残っていた。私の腰や脚にあの大きな手が触れたと思うだけで、不思議とじんじんと疼いてしまう。

私は我慢できずに、再び敏感な部分にピンクローターを当てた。振動を一番強くすると、静かな部屋に小さな振動音だけが聞こえる。

私は規則的に与えられる快感に抗うことができずに、あっという間にエクスタシーに達してしまった。鼓動は速まり、ひくひくと痙攣がおさまらない。

私は快感の余韻に浸りながら、部長のことを想っていた。

突然の告白

今日は少し遅くなった私と部長の歓迎会だった。歓迎会の最中、部長は七瀬さんと時折、見つめ合いながら、ずっと楽しそうに話していた。やっぱり、2人って…。

歓迎会が終わると、私はもやもやした気持ちのまま、帰路についた。私と部長だけ、地下鉄だったので、2人きりで夜の道を歩く。何を話したらいいんだろう…。もやもやした気持ちと2人だという緊張感が複雑に絡み合う。

「もしかして、具合悪い?」
「いえ…」

つい俯いていた私を部長は心配そうにのぞき込む。

「僕と一緒に帰りたくなかった…とか?」
「えっ…」
「あんまり話したくないのかなって…」
「そんなことありません!」

私は予想外の部長の言葉に思わず大きな声を出していた。

「ホントに?」

木下部長は少し不安そうな目で私を見る。

「むしろ、一緒に帰れて、その…嬉しいくらいです」
「よかった。僕もだよ」
「えっ…?」
「僕さ、水川さんのことが好きなんだ」
「…」

あまりに突然の告白で、言葉が見つからなかった。

「一目惚れだったんだ。僕が異動して来て、君が転職でうちの会社に来たって聞いて、運命だって思った」
「…」
「水川さんは運命だと思う?」
「私の答えは…」

私は気持ちを落ち着かせるように、大きく息を吸い込んだ。

「私も部長が好きです」

私の言葉を聞いて、部長はぎゅっと私を抱きしめた。部長の温もりに私の口から安堵の溜め息が漏れる。

「全然そんな素振りなかったから、振られるの覚悟で言ったんだ。大人げないかもしれないけど、今、どうしても伝えたくて」
「てっきり、七瀬さんとお付き合いされてるのかと…」
「まさか。部下には手を出さないよ」
「私も部下ですけど…」
「直属の部下じゃない」
「それって、屁理屈?」
「かもね」

私たちは顔を見合わせ、声を上げて笑った。ふいに声がやむ。

お互いの瞳を見つめ合ったまま、次第に距離が近付いていく。ゆっくりと目を閉じ、完全に視界が暗くなったら、お互いの唇がそっと触れた。そして、唇が離れると、彼は言った。

“君が欲しい”――と。

上司とセックス

「本当にいいの?」
「はい…」
「それならいいんだ」

ホテルなんて、久々に来た。男の人とセックスするのだって、何年振りだろう。

ラグジュアリーな雰囲気の部屋で、思わず、空気に飲まれそうになる。

「おいで」

ベッドに腰かけ、部長が私を呼んだ。私は頷くと、ベッドへと向かう。

部長は私の腰に腕を回し、抱き寄せるとキスをした。そのキスは次第に深くなっていく。舌が絡まり、お互いを求めあうように激しさを増していた。

激しいキスをしたまま、私たちはもつれるようにベッドに倒れ込む。部長は荒々しくも優しく、私のブラウスのボタンを外し、そのまま、ブラジャーを手際よく外した。

私の胸が露わになると同時に、部長は躊躇いなく、尖端を口に含む。

「あっ…」

思いかげない甘ったるい声が私の口から漏れた。

部長は私の胸に舌を這わせながら、スカートの中に手を入れる。下着を引き摺り下ろすと、胸の尖端を舌先で転がしたまま、部長は私の秘部に指を差し入れた。

部長は私の身体をくまなく、愛撫し続ける。愛液が太腿伝うのが自分でもわかるほど、私は快感に飲み込まれていた。

「挿れるよ」

私の耳に唇をつけ、部長は囁く。

「…はい」

私は吐息を漏らしながら、答えた。部長はゆっくりと私の身体にペニスを沈める。

「優しくするからね」

部長の言葉に私は頷き、部長はそんな私の頭を愛おしげに撫でてくれた。

「ずっとこうしたかったんだ」

部長の甘い囁きに私はうっとりしながら、身体を預ける。

ゆっくりと、そして、次第に速く、部長は腰を巧みに動かし、私の身体を容赦なく貫いていく。

「あっ、あん…!」

部長が動くのに合わせて、私の口からは自分からは想像もできなかったほどの喘ぎ声がほとばしった。

部長のピストン運動が激しさを増し、エクスタシーへと徐々に近づいていくのがわかる。

そして、私たちは共に果てた。

果てる瞬間、部長は私をぎゅっと抱きしめ、私も部長の広い背中に回した腕に力を込めた。

「可愛いよ、律」

初めて名前で呼ばれて、私の胸は熱くなる。

「大好きです。文也さん」

部長は照れたように笑うと、もう一度、私のことをぎゅっと抱きしめた。


END

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あらすじ

社員旅行の宴会中、上司の木下部長と話す律。
IT企業に転職して早々、社員旅行があり、戸惑っていた。

部長は、若々しくてサラサラの黒髪に黒縁の眼鏡が良く似合う、イケメン。
お酌をしようとして、手が触れる。

大きな手にドキッとしてしまい…

野々原いちご
野々原いちご
小説家。 1984.3.12生まれ。 法政大学文学部…
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