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官能小説 心も体も通わせて 1話

心の中を…

欠陥品。

冷たい視線と共に面倒くさそうに言い放たれた言葉が、未だに胸にくすぶっている。

自分の体のことなのに、どうして思い通りにいかないのだろう。

※ ※ ※

不安を押し隠し、いつも通りに仕事をこなしていたつもりだったが、分かる人には分かってしまうようだ。

午前中にふっと仕事の手が空いたタイミングで、隣の席に座る佐伯優枝さえきゆえから、妙に真剣な表情で声をかけられた。

「笠本(かさもと)さん、何かトラブルでも抱えているの?」

「え……っ」

心の中を読まれたのかとぎょっとして、笠本七海(かさもとななみ)は誰より信頼している先輩社員を見返した。

とっさに反論できず息を詰まらせてしまったせいで、彼女の中の疑念が確信に変わったらしい。佐伯はさらに表情を引き締め、わずかに身を乗り出してきた。

「あなた、何か困ったことがあっても、いつも一人で抱え込んで思い詰めてしまうでしょう。私じゃ大した力になれないかもしれないけど、話を聞くぐらいならできるから」

ふ、と目元を和らげた佐伯の優しさに、じん、と胸が熱くなる。

三年前、新卒入社時の指導係として出会って以来、彼女には何かと助けてもらってばかりだ。

「ご心配かけてすみません。その、思いっきりプライベートなことなんですけど、……今日、仕事が終わったら、少し、相談に乗っていただいていいですか」

佐伯は察しがいいだけでなく、とても頭の回転が速く口も堅い。さらに、守ると決めた秘密は泥酔しようと脅されようと絶対に漏らさない精神力の強さを持った、非常に頼りになる女性である。

余談ながら、そのさっぱりしていながらも面倒見のいい性格ときりりとした美貌に魅入られた、少なくない数の男性社員達から熱い視線を送られたりしているのだが、本人は別の会社に勤めているという恋人一筋のうえ妙なところで鈍いため全く気付いていない。

何にしても、あまり個人的なことに佐伯を巻き込んでしまうのは申し訳ないところがあるのだが、下手にごまかしても余計に心配をかけるだけだろう。それならいっそ打ち明けてしまった方がお互いスッキリするはずだ。

そう腹を括って尋ねた七海に、佐伯は安心したような笑顔を見せて「もちろんよ」と頷いた。

仕事を終えて会社を出た二人が向かったのは、今までも何度か行ったことのある、創作料理が自慢の居酒屋だった。会社から近すぎず遠すぎずの距離に加え、やや分かりづらい場所にあるため穴場となっている。

店の広さはそこそこだが、しっかり壁に囲まれた個室がいくつか用意されているため、こうした人に聞かれたくない相談事がある時にはありがたい。

もちろん、今二人がいるのも個室だ。昼の休憩時間中に、佐伯が電話で予約しておいてくれたのである。

「それで、相談事っていうのは……、もしかして、大峰(おおみね)君に関わることだったりするのかしら」

「……!」

明日も仕事だからとジンジャーエールで乾杯した後、佐伯がいきなり核心を突いてきた。おかげで七海は手に持っていたグラスを落としそうになり、佐伯はその動揺で正解だと悟ったらしい。おやおやと言いたげに苦笑して、突き出しの白和えを軽くつついた。

体の悩みを相談しながら呑むお酒

付き合って三ヶ月

「もうすぐちゃんと付き合って三ヶ月になるんだっけ。早いものよね」

「……はい……」

恥ずかしいようなくすぐったいような気分で顔が熱くなりかけたが、相談したい内容を思い出してすぐに熱が霧散する。まったく、自分のことだというのに情けない話である。

大峰康彦おおみねやすひこは、七海達が勤める文房具メーカーで、営業部に所属している男性社員だ。七海より一年先輩なのだが、抜群の営業成績と人当たりの良い性格のおかげで周りから信頼と尊敬を集めており、社内最年少で主任の肩書を持つエース社員だったりする。

その有能さに程よい長身と爽やかに整った容姿がプラスされるとなれば、女性社員から人気が出るのは当然だろう。実際、康彦はどこにいても熱い視線を向けられるし、彼と少しでも接点を持つために、わざわざ用事を作って営業部を訪れる女性も珍しくない。

だから半年前、康彦から告白された時には本当に驚いた。彼はいつも華やかな女性達に囲まれていて、七海との接点も決して多くはなかったから、そもそも名前を覚えてもらっているかすら怪しいと思っていたぐらいだったのだ。

総務部という地味な部署にいる地味な存在の七海からすれば、康彦はどんなに憧れようと手が届くことなどない、雲の上の存在に等しかった。おかげで最初はその告白を本気とは思えず、何かの罰ゲームか賭けだろうと決めつけて本気にしなかったほどだ。

しかし時間をかけて康彦の熱意と真剣さが本物だったと思い知らされ、三ケ月前、改めて正式な恋人となったというわけだった。もっとも、女性社員の嫉妬や憎悪を受けないようにと、佐伯以外には二人の関係は極秘にしているのだが。

「喧嘩をした、ってわけじゃなさそうね。今日社内で見かけた大峰君は普段通りというか、むしろやたらと浮かれて張り切っているような感じだったし」

「……っ」

ぎくり、と体が強張った。その様子を見た佐伯がおや? と首を傾げ、問いかけるような視線を向けてきた。

その視線を受けた七海はふーっと一度深く息を吐いて気持ちを落ち着かせ、声量を落として口を開いた。いくら個室とはいえ、堂々と声を張り上げて話せるような内容ではない。

「その、実は……。先月デートした時、二人で一泊二日の温泉旅行に行こうって話になったんです。少し前に大型のプロジェクトがまとまったおかげで、しばらくは忙しさも落ち着くだろうからって」

「ああ、あのプロジェクト、大峰君が中心になって進めていたんだっけ。会社で打ち上げはしたみたいだけど、個人的にはその旅行がちょうどよく慰安を兼ねるわけね。いいじゃない。……で、泊りがけってことは、つまりそういうこと、なんでしょう?」

少しばかり拍子抜けした表情になった佐伯だが、何かに思い当たったようにニッと笑った。

はっきり話したことはないが、まだ七海と康彦が体を繋げていないことは、彼女も薄々感じ取っているらしかった。

続きを話すのに佐伯と向き合っているのがつらくなり、顔を俯かせてしまう。

「はい、多分。でも、私……っ、無理、なんです! 絶対、嫌われる……!」

「……え? どういうこと?」

きょとんしとた佐伯の声が耳を打ち、七海はこのまま逃げ出してしまいたい衝動にかられた。しかし、一度口火を切ってしまったのだから、もう洗いざらい吐き出してしまえという、半ば開き直った気分にもなり始めていた。

じっと注がれる視線を感じながら、膝の上でぎゅっと手を握り、さらに声のボリュームを落とした。

「あの、私、康彦さんの前って、高校生の時に一人と付き合ったことがあるだけで。その人と、その、何回かしたことはあるんですけど。私……、全然、ぬ、濡れなくて……! どうしても、気持ちいいと思えなかったんです!」

「……あー。……そういう、ことね……」

佐伯は七海の訴えに一瞬絶句した後、妙に納得した様子で頷いた。

七海はぐっと唇を引き結び、恥ずかしさと情けなさで縮こまりそうになる背中を必死で伸ばしていた。とはいえ、一番言いにくかったことを先に吐き出せたおかげで、続きを話すためらいは少しだけ弱まった。

「私、康彦さんのことはちゃんと好きです。手を繋ぐだけでもドキドキしますし、キスする時とか、すごく幸せな気分になるんです。だけど、その先のことを考えると、一気にすごく怖くなるんです。またうまくできなくて、嫌われたらどうしようって」

こんな個人的な下ネタの相談など、本当なら職場の先輩になどするべきではないのだろうが、友人達に相談しても「そのうち慣れるよ」と流されてしまうだけで、何の解決法も見出せなかったのだ。今回佐伯に打ち明けたのは、まさに藁にも縋る思いという心境になってしまっているからだった。

「だから、旅行に行こうって言われた時、嬉しいっていう気持ちより、どうしよう、逃げたいって思う気持ちの方が強かったんです。でも、ずっと彼に我慢させているって自覚はありますし、あんな楽しそうな笑顔を向けられたら、とても嫌だなんて言えなくて」

「……まあ、ね。恋人になった以上、基本的に避けては通れない道だものね」

聞き流したり馬鹿らしいと一蹴したりすることもなく、佐伯は静かに言葉を返してくれた。ほっとすると同時に過去の記憶が蘇り、痛みと共に再び口を開いていた。

「前の彼には、ちゃんと濡れないのは私が不感症だからだ、……女として欠陥品なんだろうって言われて、半年たたないうちに振られました。それ以来、恋をすること自体が怖くなってしまって、康彦さんが告白してくれるまで、男の人から距離を置くようにしていたんです」

「はあっ!? 何よそれ! 馬鹿じゃないのそいつ!」

珍しく声を張り上げた佐伯に驚き、七海が思わず顔を上げると、盛大に眉を顰めて瞳を険しくした彼女と目が合ってしまった。ぎょっとした七海の表情に我に返ったらしい佐伯が、数度瞬きをして気まずそうに顔を伏せ、軽く咳払いをして姿勢を整えた。

「大声出しちゃってごめんなさい。けど、そんな何も分かっていない間抜けの言うことなんか気にすることはないわよ。そういうのは体質ってこともあるし、その日の体や精神の状態によっても変わってくるものだし」

「……体質、ですか?」

意外な言葉に瞬きすると、佐伯は「私も受け売りだけどね」と苦笑しながら頷いた。

「刺激するだけで、どんな女性も簡単に濡れるなんてありえないわ。もともと濡れにくい女性だっているし、心や体に余裕がない時はどうしても反応が悪くなるものだそうだから。特に笠本さん、その彼が初めてだったんでしょう? そんなの、緊張して体が硬くなって当然じゃない。そういう時こそ、男の方が女の子をリラックスさせる努力をしなくちゃいけないんだから!」

先輩社員の過去

「は、はあ……」

きっぱりと言い切った佐伯を、七海は呆気に取られて見返した。佐伯はハッと自嘲気味に笑い、グラスのジンジャーエールをぐいっと呷った。

「私ね、こういう見た目だから、昔から男の子から怖がられてばっかりで、初めて恋人ができたのは大学生になってからだったのよ。同じサークルにいた、一つ年下の男の子だったんだけど、なんというか。彼、罵られたりぶたれたりしながら攻められるのが好きな……言っちゃえば結構なマゾ体質でね。私、そっちの趣味は一切なかったから、正直毎回するのが苦痛だったんだけど、初めてできた恋人を失うのが怖くて言い出せなかったの。普段は基本的に明るくて優しいいい子だったし、甘えてくれるのが可愛い、嬉しいって思えるところもあったから」

「……」

七海は返す言葉もなく佐伯を見つめた。確かに佐伯は隙がなさそうな、人によってはきつめに見える容姿の持ち主だが、少し話せば穏やかで誠実な女性だとすぐに分かる。そんな彼女の初めての恋人がそんな特殊性癖の持ち主だったとは、当時は相当悩んだのではないだろうか。

「私も、彼とキスしたり触れ合ったりすること自体は好きだった。それ以上のことをする時も、彼なりに私を感じさせようと色々頑張ってくれたわ。けど、やっぱり根本的なところでかみ合っていなかったせいでしょうね。ある程度までは気持ちよくなっても、肝心な時になるといつもうまく濡れなくて」

佐伯が苦々しい表情で眉を寄せ、グラスに残っていたジンジャーエールを一気に飲み干した。

「今思うと、うまくできないと、次の時にも、気持ちよくなれなかったらどうしようっていう不安でまた体が強張ってぎこちなくなる、っていう悪循環にはまっちゃっていたのね。結局、私が卒業論文で忙しくなり始めた頃、自分では力不足だったって、彼から別れを告げられたわ。その後も何人かと付き合ったけど、やっぱり私のことを経験豊富な女豹みたいに思っている男ばっかりで、それぞれ半年も続かなかったわね」

ふ、と一瞬遠い目をした佐伯が、コホンと軽く咳払いして七海を見据えた。

「とにかく、女の子の体はデリケートなんだから、そういうところはきちんと話し合うべきね。そこの認識がずれていると、お互いにとって不幸な結果にしかならないし」

「そういう、ものですか」

「そういうものよ。少なくとも私の知る限りではね。私自身も含めて、それが原因で破局したカップルを何組も知っているもの。私自身、今の彼と出会っていなかったら、どうされれば自分が本当に気持ちよくなれるのか、知ることはできなかったと思うわ」

きっぱりと言い切った佐伯を唖然と見返した時、注文していた料理が運ばれてきた。サラダや揚げ物をお互いに取り分け、食事をしながら会話を再開する。

「私が見る限り、大峰君は自分さえよければいいっていう傲慢な俺様タイプではないはずだから、勇気がいるだろうけど、全部正直に話した方がいいと思うわ。余計なお世話かもしれないけど、あなた達とてもお似合いだから、ぜひこのままうまくいってほしいのよね」

「え!? あ、いえその……。あ、ありがとうございます……」

頼もしい応援の言葉と共ににっこりと笑いかけられ、七海は驚きながらも照れ臭くなって顔を伏せてしまった。

確かに、黙っていたまま彼を失望させてしまうぐらいなら、先に打ち明けておいた方がお互いのためになるのだろう。とはいえ、内容が内容だけに、いつどうやって切り出せばいいのか、正直に話しても失望されないだろうかという不安が、七海の胸をざわつかせる。

沈んでいく気分を持て余して唇を引き結ぶと、佐伯が身を乗り出し、七海の肩を軽くポンと叩いてきた。

「そんなに思いつめなくても大丈夫よ。どんな形で切り出しても、きっと大峰君はちゃんと聞いてくれると思うから。……って言っても、そう簡単に気持ちを切り替えられるものじゃないわよね。そういう真面目なところも、あなたのいいところなんだけど」

佐伯が優しく言ってくれたが、七海の気分は晴れないままだ。元彼の冷たい言葉と嫌悪の表情はトラウマになってしまっていて、思い出すと、いまだに心臓が刺されるような痛みが走る。

原因が分かったとしてもすぐに改善できるような問題ではないうえ、もう旅行の日まで時間がないという焦りで、胸が締め付けられるように息苦しい。

「念のため確認するけど、大峰君とすること自体が嫌ってわけじゃないのよね? うまくいくかが不安なだけで」

「……はい。そう、です」

康彦は自分にはもったいないぐらい素敵な恋人で、正直なところ、顔を合わせるたびに好きという思いが強くなっているぐらいだ。ただ、だからこそ、彼に失望されたらどうしよう、という恐怖心が付きまとって離れない。

しかし、できるものなら彼と本当の意味で恋人になりたい、と思う気持ちも、間違いなく七海の中にあるのだ。

初めての旅行で

「それで、その旅行っていつ?」

「……今度の土日です」

「っは!? もう一週間もないじゃない!」

佐伯の呆れと驚きが混ざった声に、「すみません」と小さく返した。日程が決まってから、悩みの内容が内容なだけに人に打ち明ける勇気がなかなか持てず、気付けば直前になってしまっていたのだ。

申し訳なさに俯いて体を丸めると、「怒鳴ってごめんなさい」と苦笑した佐伯が、食事の手を止めてスマートフォンを取り出した。

「……今が月曜日の夜だから、ここで注文すれば明日の受付で……」

佐伯が小声で何か言いながら画面を操作し始め、七海はその姿をぽかんと眺めた。しばらくしてぱっと画面から顔を上げた佐伯は、七海に安心させるような笑みを向けてきた。

「恥ずかしかったでしょうに、話してくれてありがとう。ちょっと私に考えがあるから、少し時間をもらえるかしら。木曜日には間に合うはずだから、その時にまたちゃんと説明するわ」

「……? 分かり、ました」

言葉の意味はよく分からなかったが、佐伯がそう的外れなことをするとも思えず、七海は戸惑いながらも頷いた。

「とにかく、旅行の前に大峰君ときちんと話し合いなさい。万が一、彼がそれで失望するような器の小さい男だったら、私が全力で往復ビンタかまして説教してあげるから」

「……ありがとう、ございます」

冗談交じりの口調だったが、間違いなく佐伯は本心から言ってくれているのだろう。胸の内を吐き出したおかげか、ほんの少しだが胸の重苦しさが小さくなった気がした七海は、佐伯にお礼を言いながら、ようやく口元に笑みを浮かべることができた。

⇒【NEXT】今回の旅行の手配は、彼の希望でほぼ任せきりだったが、さすがというのか、できる男は旅館選びのセンスもいいらしい。(心も体も通わせて 2話)

あらすじ

彼氏との体の関係に悩む主人公。先輩社員に相談をもちかけるが…

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