注目のワード

官能小説 わたしたちのラブストーリー 第2話〜本当の私を、知ってほしい〜


わたしたちのラブストーリー 第2話〜本当の私を、知ってほしい〜 長続きしない 彩芽

『ウーマンズライフ』に通っているのは、自分のためではない。男のためだ。

ヨガは身体をやわらかくするから、どんな体位だってこなせるし、主宰者の安永紗季先生は骨盤底筋に特化したプログラムも組んでくれる。
膣を鍛えれば、男の人に飽きられることはない。きっと。

シャワーを浴びるなり、貴也はすぐさまベッドで大の字になった。
私も素早くシャワーを浴び、貴也の身体に覆いかぶさる。
体重をかけないよう、ていねいに愛撫していくのだ。

絡みあう男女

「気持ちいい?」
私の問いかけに、貴也の皮膚が熱でこたえる。

ややあって、貴也が私を組み敷いた。
「彩芽って便利だよな。離したくない」

離したくない。
女が一番よろこびそうな言葉だけど、矛先は私そのものではないことを、私はうすうす気づいていた。

ラブホテルで別れ、ひとり家路につくまでの時間が嫌いだ。
身体に残った男の感触が、中学三年生で初めてできた彼を思い出させる。

家庭教師の大学生で、真面目でやさしかった。
高校受験が終了した日にセックスをして、直後にフラれた。
私にとってのたった1回は、彼にとって試食品程度だったのだ。
あとから、二股をかけられていたと知った。

自宅最寄り駅に降りると、LINEが届いていた。敦司だ。
明日の夜会える旨返信し、夜空を見上げる。

するとまた着信が鳴った。
『彩芽さん。月が綺麗だね』
勇真だった。こういう場合、「うん、綺麗」って返せばいいのだろうか。
男とのSNSなんて、セックスの約束事だけで終始していたから、私にはわからない。

「それで、既読スルーのままにしたの?」
『ウーマンズライフ』に隣接したカフェで、レッスン後にお茶をしていた。

首を傾げた優絵に、私は、
「だって、何てこたえればいいの」
「綺麗、って返せばいいのよ」
優絵がくすぐったげに笑う。最近優絵は、とてもきれいになった。

テーブルに置いたスマートフォンが光る。敦司だった。

「私そろそろ行かなきゃ。デートなの」
席を立つ私に、優絵が言った。
「デート?でも彩芽、なんかつらそうだよ」
「つらくなんかないけど」
「あ、ごめん。少し疲れているように見えたの」
「……ううん、私こそごめん。じゃ、行くね」

優絵に腹が立ったのは、図星だったからだ。
デートだというのに私は、ラブホテルで過ごすのが義務のように感じている。

「気持ちいい?」
敦司は着衣のままするのが好きだ。
私はベッドに横たわりたいのを我慢して、立ったまま中途半端に服を脱がせる。
「彩芽って、実用的だよな」
勝手に果てたと思ったら、私の頭を撫でてバスルームに消えた。
便利。実用的。だから、離したくない。そんなのは違うって、わかっている。

素早く身支度を整えて、ラブホテルを後にした。夜空を見上げたら、月がふやけた。
私は、泣いていた。今さら、と思いつつ、勇真にLINEをする。
『月が綺麗』

たくさんの男がいれば、大丈夫だと信じていた。
かつて私を傷つけた男に、復讐する意味もあった。
『彩芽さん。明日、ごはんでも食べよう』
OKの絵文字を返信して、涙を拭う。ごはんだって。子供みたいだ。

翌日の夜、久しぶりに会った勇真ははしゃいでいた。
何が食べたい?と街をうろつきながらしきりに聞いてくる。
「でも、時間的に中途半端じゃない?」
ホテルに直行した方が手っ取り早い、という意味だった。

勇真は私を正面から見据えて、
「あ、こういう時は洒落た店を男が予約しておくべきなのか。ごめん、俺、そういうのわかんなくて」
頭をかいたのだ。なんだか拍子抜けしてしまう。
「本当にごはん食べるつもりだったの?」
私がたずねると、犬みたいに頷く。

「いいわ。コンビニで買って、ホテルで食べましょう」
ためらう勇真の手を引っぱって、コンビニへ行く。

食材とお酒を買ってラブホテルに入ると、勇真は私をベッドに座らせ、肩を揉んでくれた。
私はそっと勇真の手をはずし、勇真のポロシャツに手をかけた。
ええと、勇真はどういうのが好みだったっけ。
手が止まってしまうと、妙な間があいた。

「ごめんなさい。先にお風呂を沸かすわ」
「なんであやまるの。ほら、向かい合ってごはん食べようよ」
「セックスじゃなく?」
「彩芽さんがセックスしたいなら、するけど」
器用におにぎりを剥き、私に手渡す。

「私は……」
「彩芽さんは、何がしたいの?いつも、気持ちいい?って聞くけど、彩芽さんはどうしたいの。どうされたいの」
おにぎりを持ったまま、私は無言になった。
勇真は、食べ物はおろかお酒をあけようともしない。

私がうつむいていると、
「今日は、ごはん食べたら帰ろう」
勇真がやっと笑って、ビールのプルタブを引いた。
私はそれを奪い取り、一気に飲み干す。

「私がしてほしいことを言ったら、してくれるの?何を?みんな私を便利に扱うだけでしょう。私のことなんか見てないくせに」
知っている。男をそういう風にしてしまっているのは、私自身かもしれないってこと。

缶をゴミ箱に投げたら、縁にあたって床を転がった。
なんだかみじめで、私は肩で息をしながら泣いていた。
唇を噛んで涙を押しとどめて、服を脱ごうとした私を、うしろから勇真が抱きしめた。
「よしよし」
大きな手が背中を撫でる。ちっともいやらしくなく、私を包む。
私の全身の力が、ゆるゆると抜けていく。


END

あらすじ

身近にあるセクシャルなコトにスポットを当てた小説短編集。
甘くて切ない恋愛模様…身体に残った男の感触。

あわせて読みたいコンテンツ特集

お知らせ
休業案内
夜の道具箱
  • クンニ
  • さくらの恋猫
  • ヌレヌレSP
トロけるエッチ
騎乗位動き方
森美樹
森美樹
埼玉県出身。元少女小説家、小説家。2013年新潮社『R…
カテゴリ一覧
官能小説
幼馴染
仕事一筋
遠距離恋愛
夜明け前〜解放〜
夜明け前〜出逢い〜
絵の中のあなた
空をつなぐ
恋のチカラ
恋愛エクスプレス
キミに出会う旅
君が気づかせてくれたこと
home sweet home
恋の花の咲かせ方
まだ見ぬ君へ
ここにいること
未来の花ムコ
彼女の生きる道
本当の幸せ ―私の誤算―
コイの記憶
救世主
再びの春
天使の羽
キャンパス
恋愛診断
傷心旅行
甘い恋愛
始まりは雨
【小説版】遠回りした私たちの恋
LOVERS〜恋が始まる〜
LOVERS〜恋が揺らぐ〜
LOVERS〜恋がざわめく〜
揺れる明るみ〜癒し〜
揺れる明るみ〜包容〜
うずきがとける
おんなの、秘めごと
バースデーバレンタイン
【小説版】安藤呂衣は恋に賭ける
私の知らない私
ウーマン・オブ・プラネット
官能小説の書き方(投稿)
その指が恋しくて
あなたを感じる〜電話エッチ〜
寂しさの粒
ルームナンバー701
美味しいセックス
目で感じる官能エロ小説
「もうひとつ」の誘惑
新着小説作品
あなたを掴まえたい
夜はまた明ける
秘密の氷が溶ける音
心の糸を結ぶ場所
Sweet of edge
【小説版】となりのS王子 ファースト・クリスマス
【小説版】となりのS王子 恋におちたら
先生とわたし
【小説版】シンデレラになる方法 〜誓子の場合〜
【小説版】夜ごと課外レッスン
クロスラバーズ spotA 谷崎美陽の場合
クロスラバーズ spotB 吉井月乃の場合
妄カラ女子 spotA 小森未由の場合
純白と快感のあいだ
妄カラ女子 spotB 榊川彩子の場合
パラレルラブ spotA 加藤直紀
パラレルラブ spotB 高木洋輔
同居美人 projectA 名取千織
同居美人 projectB 上塚想子
心も体もつながる夜は
幼なじみの甘い脅迫
【小説版】甘恋レッスン
【小説版】恋のメイクレッスン
【小説版】彼女を震わせるモノ
オンナノコ未満、オンナノコ以上
本当にあった物語
恋猫、飼い始めました。
Lovecure
二度目の恋におちたから
【小説版】Vな彼女と彼氏
【小説版】タワーマンションの女たち
【小説版】年下わんこのおねだりタイム
【小説版】今夜は私から
私も知らないわたし
初めてのひみつ
心も体も通わせて
マンネリ打破!恋愛スイッチ
プリンセスになりたい
恋の誘惑は唇から
インサート・コンプレックス
上手なキスの仕方を教えて?
秘密、蜂蜜、果実蜜
エッチな女性はお好みですか?
【小説版】私だけの、キミでいて。
あなたのすべてが性癖なのです。
【小説版】きみの声じゃないと駄目なんです!
欲望まみれの執事に愛されて
彼の知らない私と、私の知らない彼
「気持ちいい」を聞かせて
恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき
読切官能小説
投稿官能小説
大人の恋愛小説
夏目かをるが描く官能小説
官能コラム
夢も欲も愛も飼い慣らして
恋愛とセックスのかけ算
【小説版】絶対ナイショのラブミッション
本当にあった!ラブ物語
ガールズストーリー
わたしたちのラブストーリー
メンヘラ社会人×ラブコスメ
同居美人 番外編
カレントループ〜蠍座と蟹座の秘密の共有〜
アストロロジーの恋愛処方箋
私のことが好きすぎるワンコな彼氏の甘い逆襲
朝靄の契り
恋欠女子とバーチャル男子
今夜の夜テク
招き恋猫