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官能小説 【となりのS王子小説版】恋におちたら 第4話
トキメキの行方
気まずい……。
翌日、いつものように出社したけれど、私の心の中は今、気まずさであふれている。
あのくらいのことは編集長にとって、なんてことないのかもしれない。
だけど……。
私はちらりと編集長の席へと目を遣る。
不覚にも、私はあの時トキめいてしまった。
ううん、正確には改札を抜けた後、一人になった時にトキめいてしまったのだと思う。
編集長の温もりや感触が、私の心を捉えて離さなかった。
そして、私はあの一瞬の出来事で、編集長のことを完全に“男”として見てしまったのだ。
「はぁ……」
思わず、溜め息がこぼれる。
私が好きなのは、田中さんのはずなのに……。
田中さんの席に視線を向けると、千夏さんと楽しそうに話しているのが見えた。
田中さんのことを追いかけてても、上手くいく気がしないんだよね……。
愛するより愛される方が私には向いてるってことはずーっと前からわかってることだし。
それに、最近のことを思い返してみても、編集長だって私のことはきっと満更でもないと思う。
勿論、昨日のことは優しさからだろうけど、全く好意のない相手にあんなことが出来るほど、無神経じゃないだろうし……。
あーあ。どうすればいいんだろう……?
緩みと迷い
数日後、私が千夏さんに呼び出されたのは会議室だった。
「香奈、これちゃんと確認した?」
「はい……。しましたけど……」
「赤いしるしがついてるとこ、見て」
「あっ……」
「数字がこんなにも元のデータと違ってるの。多すぎでしょ?」
「すみません……」
「もう新人じゃないんだから、よく確認すれば間違えないような簡単なミスにはしちゃダメよ」
「はい……」
「それじゃあ、その原稿直して、入稿の準備進めておいてね」
「わかりました」
千夏さんは重たい空気を払しょくするかのように微笑むと、会議室を出て行った。
私ってば、何してるんだろう……。
最近、田中さんのことや編集長のことばっかり考えてて、仕事に集中しきれてなかったんだ……。
会社に好きな人がいるからって、浮ついてちゃダメだよね。仕事とプライベートはちゃんと分けなきゃ……!
私は会議室から自分の席に戻ると、千夏さんに指摘された部分を修正していく。
ちゃんとミスは取り戻さないと……!
すべての作業が終わった頃、ふと時計を見ると、随分と時間が過ぎていた。同時に田中さんの姿が視界に入る。
どうしたらいいんだろう?
田中さんのことは諦めた方が気は楽にはなるだろうけど、それは何かが違う気がした。
でも、明らかに田中さんの心を占めているのは、千夏さんのように見えるし、私のことを思い出すことなんてないようにも思える。
私があげた紅茶を飲む時くらいは、私のことを考えてくれたりするのかな……?
どちらにせよ、追いかけ続ける恋は私には向いてないし、田中さんのことは諦めた方がいいのかもしれない。
「さーて、仕事仕事!」
私が再びパソコンに向かったその時だった。
「柴田さん」
甘い声で呼ばれて、私は飛びあがりそうになる。
「田中さん……!」
「あの、お願いがあるんですけど」
「なんでしょう……?」
どうしよう……!デートのお誘いだったりして……。
私は思わず理由を聞く前に舞い上がる。
「千夏さんが回りきれてない取材先がいくつかあるんですけど、同行お願い出来ませんか?」
「同行……?」
ドキドキしたのも束の間、私は一気に現実に引き戻された。
「はい。俺一人じゃ、女性視点で見るのは無理だし、柴田さんに同行してもらえたら心強いなって思って。アポはもう取ってあるんでお願い出来ますか?」
「わかりました。行きましょう」
私はそう言うと、ホワイトボードに行き先を記入し、バッグを持って田中さんと編集部を後にした。
小さな違い
リストにある取材先は五件。田中さんのアポを取った時間だと、どれもギリギリ回れるくらいのスケジュールだった。
「ここ、つっきちゃいましょう」
私はホテル街を指差す。ホテル街をつっきた方が取材先のあるオフィス街には近かった。
「はい。あ、ちょっと待って」
田中さんに言われて、私は足を止めた。
「ゴミ、スカートについてたから」
「ありがとうございます」

本当に田中さんって、カッコイイなぁ……。
ゴミを取ってくれただけなのに、きゅんとしてしまう。
大きな二重の目に整った唇と鼻。何をとっても、カッコイイ。隣にいるだけで、ドキドキする。
あ、でも……。田中さんと一緒にいても安心感ってないかも……。
その時、ふと、編集長の顔が過ぎった。
ああ、そうか。編集長と一緒にいると、私は落ち着けるんだ。
二度目の誘い
結局、時間が足りず、残りの取材先には田中さんが一人で行って、私は資料をまとめる為に会社に戻って来ていた。
「ふぅ……。全部終わり……!」
私はうんと伸びをして、パソコンの電源を落とす。
「香奈ちゃん、仕事終わった?」
「はい、今、終わりました」
「俺もそろそろ帰るから、帰りに食事でもどう?」
編集長と食事かぁ……。
この前のこともあるけど、折角、誘ってくれてるし、行こうかな……?
「ぜひ」
少しの間をおいて、私は編集長に笑顔を向けた。
言葉の重み
編集長が連れて来てくれたのは、雰囲気のあるスペイン料理のレストランだった。
私たちは料理に合わせた白ワインで乾杯する。
「この間は色々と話を聞いてくださって、ありがとうございました」
「あのお店、気に入った?」
「はい、とても素敵で……」
編集長はきっと私が言っている意味をわかっている。けれど、敢えて、田中さんの話題には触れないようにしているのだろう。
「俺じゃダメかな?」
「えっ……?」
突然の言葉に頭が真っ白になる。
「俺、ずっと香奈ちゃんのこといいなって思ってたんだ。でも、部下だし、香奈ちゃんが俺のことをそんな風に思ってないってことはわかってたから、言うつもりはなかったんだけど……」
ずっとって、いつからなんだろう……?
最近はもしかしたらって思うことはあったけど、今まで一緒にいても全然気が付けなかった。
「香奈ちゃんってさ、見た目はふんわりしてるのに、芯が強くて、ちょっとやそっとじゃへこたれないでしょ?そういうところがいいなぁって。でも、この間、田中くんのことで泣いてる香奈ちゃんを見て、月並みだけど守ってあげたいって思ったんだ。俺ならこんな風に悲しませたりしないのにって」
「そうだったんですね……」
そう言うしかなかった。それ以上の言葉は今の私には出て来そうにない。
「すぐに答えを出してほしいとは言わない。よく考えて、答えが出たら教えて」
「はい……」
どうしよう……。
田中さんのことと編集長のことが頭の中で天秤にかけられる。
私は言葉を見つけられない代わりに、ワイングラスに手を伸ばした。
どれくらい時間が経って、どれくらい飲んだのかはわからないけれど、私はしたたかに酔っている。それだけはよくわかった。
決意の瞬間
食事を終えて、私と編集長は肩を並べて歩いていた。
ふわふわとしたワインの余韻が心地いい。
編集長の顔をなんとなく見上げる。
別にタイプってわけじゃない。顔なら、田中さんの方が断然好き。
だけど、編集長の隣は田中さんの隣にいるより、ずっと落ち着く。
私が一番欲しいのは、見た目じゃなくて――。
「いいですよ。編集長の彼女になっても」
不意にそう言った私を編集長は少し驚いたように見た。
「本当?」
「その代わり、大事にしてくれないとダメですからね?」
私が悪戯っぽく笑うと、編集長は立ち止まって私を引き寄せた。そして、そのまま、ぎゅっと抱きしめる。
「絶対大事にするに決まってるじゃん」
「あの……」
「何?」
「今日は帰りたくないな……」
「えっ……」
「聞こえませんでした……?今日は……」
私がそこまで言うと、編集長は私の唇を自分の唇で塞いだ。

あらすじ
田中の事が好きなのに、男らしく編集長に慰めてもらったことで不覚にもトキメキを感じた加奈。
編集長の温もりや抱きしめられた感触が加奈の心を捉えて離さない。
加奈が迷いと気まずさを抱え、翌日出社すると…