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官能小説 その指が恋しくて 前編


きっかけは安請け合い

「じゃ、里美、よろしくね!」
「いってらっしゃーい」

私に観葉植物のガジュマルを預けて、 友達の里奈はサイパンへと旅行に行ってしまった。 育てたこともないのに2週間も預かるなんて、 さすがに安請け合いだったかもしれない…。

ガジュマルだけじゃない。 私は、まともに植物を育てたことがないのに…。 それなのに、里奈の「お願い!」の一言に負けて、 預かることにしてしまった。

大体の手入れの方法は聞いているけれど、ちょっと不安かも…。 私は、パソコンを立ち上げて、ガジュマルの育て方を調べ始めた。

「このブログ、面白いな…分かりやすいし…」

最初は情報サイトを見ていたけれど、 すぐに、1つのブログに夢中になっていった。

書いてあることをメモしながら、 ときどき出てくる雑談や冗談に、つい笑みがこぼれていた。

「あれ…?」

里奈からガジュマルを預かって3日後。 朝起きると、1枚の葉の色が変わっていることに気づいた。

これは普通のことなのだろうか…。

私は、早速写真を撮って里奈に送ろうかと考えた。 しかし、写真を撮りながら、ふと「あのブログ…」と呟いてしまった。

里奈を送り出してから、 すぐにガジュマルの情報を調べたくてネットを開き、辿り着いたブログ。 私は、里奈に写真を送るのをやめて、思い出したブログを開いてみた。

“初めてのコメントで、いきなり質問をしてしまい、ご無礼します…。 数日前から友達からガジュマルを預かっていて、 今朝起きたら、1枚の葉が茶色っぽくなっている気がするのですが、 大丈夫なのでしょうか? もしも何かご存じでしたら、教えていただけると助かります。”

これで失礼ではないだろうか…、と 心配しながらコメントを残し、仕事へと向かった。

仕事から戻ってパソコンを開くと、すでにコメントの返事をもらっていた。

“この季節は、そういうこともありますよ! たくさん日光に当ててあげてください。 お友達から預かっているのでは、責任重大ですね! 何かあったら、いつでもコメントくださいね〜。”

なんて親切な人なんだろう。 私は、お礼のコメントを残して、ガジュマルに「元気でいてね」と声をかけた。

その後、ガジュマルは、葉の変色もひどくならず、 元気そうな顔つきで毎日を過ごしていた。 私は、数日前にコメントをしたブログに、改めてお礼の報告をする。

“先日はありがとうございました! おかげさまで、あれからガジュマルは元気そうです。 毎日お世話をしていると、可愛くなるものですねー。 ちょっとした葉のハリとか、艶とか、気になって声をかけてしまいますね。 私は、実は植物の管理そのものが初心者で…。 偶然友達から預かって、植物の魅力を感じています。 もっとガジュマルについてたくさん知っていたら、 もっといろいろできるのにって、ちょっと歯がゆくもなります。 もしもまた、困ったことがあったら、ご相談させてください!”

“その後、ガジュマルは元気なんですねー。よかったです! 植物、育ててみると面白いものですよね。 コメントをいただいて、僕もガーデニングを始めた頃の気持ちを思い出しました! こちらこそ、ありがとうございます。”

“ご迷惑おかけしましたけど、そう仰ってもらえると、気が楽です! ガジュマルの件だけじゃなくて、ブログが楽しくて、ついつい読んでしまいます。 これからも更新、楽しみにしていますね。”

“迷惑だなんて、とんでもないですよ!お役に立てて、嬉しい限りです。 あ、もしもよかったら、ガジュマルの資料、メールでしたら添付できますよ。 ご興味がありましたら、メールフォームからメールくださいね。”

…そんなやり取りのあと、メールでやり取りをするようになった。

メールをするようになると、 彼は早速、「本名は、今井瑛次(いまいえいじ)っていいます」と教えてくれた。 私も、「私は、今野里美(こんのさとみ)と申します」と伝えた。 それから瑛次さんと私は、ガジュマルの話だけでなく、いろいろと話すようになった。 年齢は、瑛次さんが33歳で私が29歳。 それから、偶然にも、電車で1時間ほどの距離に住んでいることも分かった。

こんなふうに人と知り合うこともあるんだな…。 私は、不思議な気持ちでメールのやり取りを続けていた。

短いメールの喜び

“今日も寒いですねー。 里美さん、お仕事、気をつけて出かけてくださいね!”

朝起きると、瑛次さんからの短いメールがあった。

サイパンに旅行に行く友人の里奈から 観葉植物のガジュマルを預かった、何の知識も経験もない私。

瑛次さんのブログを見つけて、 ガジュマルの育て方を教えてもらうようになって、 メールのやり取りへと発展した。

もちろん、植物のこともたくさん教えてもらう。 でも、住んでいる地域も近いこともあって、 レストランの話やよく出かける場所の話なんかもするようになっていた。

でも、今朝のような挨拶だけの短いメールは、初めてもらった。 読んだ瞬間、顔がほころぶのが自分でもわかった。

嬉しい。

会ったこともない、話したこともないけれど、 自分をこうやって気遣ってくれる人がいるのは、 純粋に嬉しいものなんだと、初めて知った。

“そちらも寒いですか?瑛次さんも、お気をつけて!今日も頑張りましょうね!”

私も、ちょっとウキウキしながら短いメールを返して、仕事に出かけた。

部屋の明かりをつけると、まずテーブルの上のノートパソコンを開く。 これが、瑛次さんとやり取りをするようになってからの、私の習慣になっていた。

「あ…」

思わず、小さく声が漏れた。 瑛次さんのブログにアップされている写真の中に、指が写っている。

細めで長くて清潔感があって、でも男らしい関節で…。 正直、一緒に写っている葉よりも、 瑛次さんの指にばかり目がいってしまう。

“もし、この指に撫でられたら…”

私は、写真の指を眺めながら、 自分の頬をそっと自分の指先でなぞった。 ゾクッという感覚が頬に走り、胸がキュンとしめつけられる。

「…うそ」

半分笑いながら、私は、椅子から立ち上がってキッチンへと向かった。 こんなことでゾクゾクしたりキュンとするなんて、あり得ない…。

翌日もまた、瑛次さんのブログは更新されていた。 しかも今回の記事には、動画もアップされている。 ちょっと写真だけでは伝わり切らないからと、 揺れる植物の様子の動画を記事の中に載せていたのだ。

『こんな感じで、キラキラクルクル回っているように揺れまーす』

観葉植物の葉を突いて、ユラユラと動かしている。 その様子は、確かに可愛らしくて目を引いた。 でも、それよりも私は、また昨日と同じように、 瑛次さんの指にばかり目が奪われてしまう。

そして、彼の声が聞こえることに、胸の高鳴りを抑えられなかった。 清潔感がありながらも男らしさが漂う手と、変わらない。 声も、まっすぐに澄んでいて、でも芯があって、でもでも柔らかくて…。

パソコンの画面に映る瑛次さんの指。 その指に合わせて流れる声に、耳を溶かすように馴染ませながら、 私は、頭の中がジンジンとしてくるのを感じていた。

少しぼんやりとして、その代わり、 瑛次さんのイメージがくっきりと頭の中に浮かびあがってくる。 そして、昨日のように、いつの間にか私は、自分の指を頬に這わせていた。 頭の中には、瑛次さんの指先を描きながら。

「ふぅぅ…」

ほんのりと、息が湿り気を帯びている。 私は、メールのやり取りをしているだけで、 会ったことも話したこともない男性の存在に、こんなにも、女になってる…。

「どうしよう…」

戸惑った。恥ずかしさもあった。友達に話したら、笑われるだろうか…。 そんなことも考えていた。(話せないな…)と思う一方で 息はさらに湿っぽい色気を増し、敏感なしびれが全身に広がっている。

会ったこともないんだから…。

私は何度も自分に言い聞かせた。 でも、毎日のブログチェックは、大きな楽しみになっている。 それ以上に、だんだんと頻度が上がっているメールは、 私の心の潤いそのものになっていた。

「顔も知らないのに、好きになるなんて、あり得ない…」

そう声に出して強く首を振り、冷静な気持ちでブログに目を通し直した。

(声、素敵ですねってコメントしたいな…)

何も考えずにコメントを残せばいいものを、 自分がキュンとしたりジュンときたりしているのだと思うと、できなかった。

ダメだ…。 パソコンを閉じても、夕飯を作り始めても、食べ終わっても、 瑛次さんの指の動きと声が、脳裏を離れない。 そして、全身がうずくのを、止められない…。

彼を求めて

ソファに座ってテレビを観る。 観るというか、ボーッと眺めている。

さっき瑛次さんのブログにアップされていた動画。 その中の瑛次さんの指と声…。 それだけが、頭の中を埋め尽くしていく。 時間が経つほど、脳の深い部分に染み込んでいく。

(こんなふうに…)

彼の指を思い浮かべながら、自分の頬を撫でる。

心地よいくすぐったさに、目を閉じる。 何度か頬をまるくなぞると、指先が自然と耳へと流れていった。

「…ぅ」

指の触れた耳がゾクゾクと震えて、 体に色気が広がってきていることを訴えてきた。

(こんなふうに…撫でてほしい…)

瑛次さんの指を閉じた目の裏に浮かべながら、 無意識の内にシャツのボタンを外して、鎖骨、 そしてブラの中へと手を伸ばしていた。

指先が乳首に触れると、子宮がキュッと縮まると同時に、 腰がフワッと浮くような感覚に襲われる。

その気持ちよさに引っ張られるように、指の動きが激しくなっていった。

指先で乳首を転がして…、 人差し指と中指で軽く挟んで揺らす…。

右手で乳首を軽くつまむようにしながら、 左手で柔らかい膨らみを揉んで…。

「はぁぁ…」

ソファにもたれかかると、 瑛次さんが後ろから抱いてくれる錯覚が脳裏に広がった。

ひと息ごとに、はぁはぁと肩の動きが大きくなる。 胸から全身に広がる快感も、大きくなる…。 腰が、快感を求めるように、クネリと動き始めた。

ザワザワとした感覚が腰全体を包んで、 その中心で、大きく鼓動を打つ小さなボタンが充血してくるのがわかった。

「…ふぅぅぅ」

腰を落ち着けるように息を吐きつつ、 胸を揉んでいた左手でスカートをたくし上げ、中に忍ばせる。

ショーツの上から充血したボタンに触れると 「あぁ」と声がこぼれた。

右手は胸を…。 左手はクリトリスを…。

瞼の裏では、瑛次さんの指が触れてくれている。

腰のうねりが大きくなって、はぁはぁと吐く息よりも、 必死に吸う息の方が、大きくなってくる。

(ショーツの中に手を入れて、直接、触れたい…)

そう思った瞬間、「気持ちいい?」という言葉が、 瑛次さんの声で頭の芯に響いた。

「うん…うん…」

吐息混じりに答えながら、ショーツの中に手を伸ばす。 溢れていた愛液で、ショーツの中は既にしっとりと湿り気を帯びていた。

敏感なボタンを隠している柔らかな花びらを数回撫でると、 辛抱ができずに花びらをかき分け、 たっぷりと充血しているボタンに触れる。

触れた途端に、自分でも驚くほど激しくボタンを転がしてしまう。

(こんなに、求めてたの…?)

瑛次さんが頭の中にいるだけで、 こんなに猛烈に気持ちよくなりたがってしまう…。 触れる指も…、耳元で優しく「気持ちいい?」と囁き続ける声も…、

彼のそれだと信じたくなってしまう…。

「…ダメッ」

快感の大きな波がやって来るのを感じて、小さく声が出た。 そして、両手の指の動きは、さらに激しく熱くなっていく。

胸が溶けてしまいそうな、 クリトリスが弾けてしまいそうな甘さと苦しさとの中で、 私は、「瑛次さん…」と口にしたかもしれない…。

「あっ…あっ…ダメ…。くる…」

自分よりも二まわりは大きいであろう瑛次さんの手を思いながら、 快感の波にのまれていった…。

会ったこともない瑛次さんを想像しながら、 ひとりで…してしまった…。

ぼんやりと、今自分がしたことの不思議さを感じながら、 しばらくぐったりとしていた。

「水…」

あえて声に出して立ち上がってキッチンで水を飲み、 バッグの中からスマホを取り出すと、

瑛次さんからメールが届いていた。

“お疲れさま!今日は、ブログに動画もアップしてみました。 また、お時間あるときに覗いてみてくださいね”

(もう、見たよ…)

と、恥ずかしくなりながら読み進めると、 ドキッとするひと言に目が釘づけになった。

“里美さん、あなたのことが、もっと知りたいです。 できれば、お会いしてみたいな”

グラスの水をゴクリと音を立ててひと口飲み、大きく息をついた。

嬉しい。私だって、瑛次さんのことをもっと知りたいし、会ってみたい。

でも、でも、会えば傷つくかもしれない。 がっかりさせるかもしれない。顔に自信があるわけじゃないし…。

「どうしよう…」

思わず声に出して、立ち尽くしてしまった。

初めての待ち合わせ

ブクブクと水槽の中を沈んでは浮く水の泡。 それをひとつずつ数えてしまうほど、私は緊張していた。

瑛次さんのブログを見つけたことがきっかけで、 メールのやり取りもするようになった私たち。

“会ってみたい”というメールを読んで、胸がざわついた。 がっかりされたくないという不安もあったけれど、 自分の中にもあった気持ちをストレートに言葉にされて、 胸のざわつきは高鳴りに変わっていった。

そして、待ち合わせ場所の喫茶店に、約束よりも20分も早く着いてしまった。

(はぁ、落ち着かなきゃ…)

冷たい水を一口飲んでテーブルにグラスを戻したとき、 入り口のドアが開いて、男性が1人、入ってきた。

とっさに手に目がいく。

ブログで何度も見入って、 その指を思い浮かべては自分のカラダを気持ちよくした。 その手を、見間違えるはずもなかった。

(あの人だ…)

大きく息を吸い込んで、そのままうつむいてしまう。

「紺野里美さん…ですか?」

心臓が半分に縮まるほどギュッとして、反射的に顔を上げた。 そして、目の前にある顔を見て、黙って頷く。

(きれいな顔…)

スッと通った鼻筋の両側に、澄んだ目がある。

「あ、はい…。今井瑛次さん…ですか?」

「よかった、やっぱり里美さんだ。待たせてしまってごめんなさい」

と言うと、瑛次さんは私の正面に腰かけた。 見回してみれば、女性ひとりで座っているのは、私だけだった。

あんなに緊張していたのに、話し始めると、 一時停止していた映像が再生を始めるように、話して、笑った。 水槽の泡をひとつずつ数えてしまったことまで、はしゃぐように喋っていた。

瑛次さんは、待ち合わせ場所になったこの喫茶店の常連さんで、 店内にあしらってあるグリーンについて、あれこれと教えてくれた。

「どうして?」「これとこれは何が違うの?」と質問攻めになってしまう私にも、 ニコニコと答えてくれる。

(私、この指を想像して、ひとりでしたんだ…)

そう思うと、心はほどけていくのに、お腹のあたりがくすぐったい。 女の泉が、ジワジワを動き出していく…。

植物の話をする透明感の塊のような気持ちと、 カラダの芯からジュンとくる熱っぽさがないまぜになって、私をいつになく饒舌にした。

瑛次さんと別れて家に戻りながら、 帰宅してガジュマルの世話や食事の支度をしながら、 夕飯を済ませてお風呂に入りながら…。

どんどん熱くなるうずきを抑え込み、意識的に理性を保っていた。 ブログやメールでやり取りをするだけよりも、 実際に会ってみた瑛次さんは想像の何倍も素敵だった。 とても惹かれている。尊敬もできるし、もっともっと知りたい。 そう思える人を思い浮かべてカラダを熱くするなんて…。 手を繋いだことだってないのに。

自分にブレーキをかけながらも、ベッドの中で、 鼓動を増すクリトリスに伸びる手を、止められなかった。

下着の上からでなく、今夜は、いきなりショーツの中に右手が忍び込む。 トロリとした愛液が、柔らかな花びらを濡らすほどに溢れている。 それに驚くのとほぼ同時に、左手もショーツの中に滑り込み、 勢いでショーツをずり下ろしていた。

左手の指先でクリトリスを、右手は愛液の溢れる泉の入り口を。 そっと撫でるだけで、指がカラダにどんどん馴染んでいく。

「こうして…。お願い、瑛次さん…。その指で…、こうして…」

はぁはぁと荒い息をつきながら、右手の中指を泉の中に沈ませた。

「あぁぁ…」

沈んだ指は、じっとしていられず、泉の中を泳ぎ始め、激しくかき回した。 指の芯まで熱が浸みこんで来そうなほどに、泉の中は熱くたぎっている。 その中の、ざらついた壁をこすると、腰から背骨を抜けて頭まで、全身が大きくうねった。

「うっ…」

声と息が同時に詰まって、身体をめぐる酸素が徐々に少なくなっていくのが、 ほのかなしびれで分かる。

別れ際、「また会いたい」と言いながら鼻を掻いていた彼の手を思い出すと、 右の指はさらに執拗に壁のざらつきをこすり、左の指はクリトリスの鼓動を弄ぶ。

「あぁぁ…もぅ…ダメ…」

最後に「瑛次さん…」と口の中だけで声を震わせて、果てた。

右手も左手も、指はすっかり愛液で濡れそぼって、 泉の中に入ったままの指が、痙攣にヒクヒクと吸い付かれていた。

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あらすじ

友人に植物を預けられ、不安に感じた里美は、とあるブログにたどり着いた。
初めてのコメントからメールする仲にまで発展し、 偶然にも近くに住んでいることがわかって…

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