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官能小説 同居美人 プロジェクトA 〜千織編〜 シーズン5
もう少し 駆け引きが必要

「二軒目に行かない?」
鈴田くんの誘いを、私は受けた。
平野井さんや小島さんのことを心の片隅に置いたまま、今また鈴田くんの誘いを受けるなんて、
自分でもよくないことだと思う。でも改めて誘われてみると、鈴田くんへの思いも少しずつではあるけれどよみがえってきた。
これから長期間恋心を抱いてはいけない、その期間が終わってもどうなるかわからない関係に縋って悩むよりは、今、こちらに舵を切ってしまったほうがいいのかもしれない。
平野井さんも小島さんも掟がある以上――なくても、かもだけど、私に気持ちを寄せられても困るだけだろう。
「いいけど……」
と答えると、鈴田くんは私をあるホテルのバーに連れていきたいと言った。ホテルと聞いてちょっと身構えたが、 私たちのお給料では一晩泊まるだけでも大奮発しなければいけないほどのところだったし、 とりあえず行ってみればホテルの敷地内にあるというだけでバーそのものは独立した仕様になっていたから、まずは安心した。
(あれ、このジムって、確か……)
不安は別のところから芽吹いた。敷地に入るときに入口にあった看板に、ホテルの最上階に入っているジムの名前が書かれていた。
確か、平野井さんがときどきインストラクターの仕事に行っていると言っていたところだった。
お金持ちが集まる高級なジムだというのは知っていたけれど、ホテルの中にあったとは知らなかった。一瞬、迷う。
もし鈴田くんと二人で飲んでいるところを、平野井さんに見られたら……
(うぅん、いいじゃない、別に)
小さく首を振って迷いを振り捨てる。あきらめるのなら、そのほうが好都合のはず。
それに平野井さんは「ときどき」と言っていたし、ジムがあるらしいホテルの本棟とバーは距離があるし、偶然会ったり見られたりする確率そのものも低いだろう。
「どうしたの? やっぱりやめる?」
鈴田くんが心配そうな声をかけてきた。葛藤が顔に出てしまっていたらしい。
「何でもない、ごめんね」と少し無理をして笑顔を浮かべた。
さすが一流ホテルに併設されたバーだけあって、賑やかではあったけれど雰囲気には欠けていた一軒目とは全然違った。
計算され尽くした間接照明を見ているだけで、お酒を飲む前から酔ったような気分になる。
私はピーチリキュールのソーダを、鈴田くんはウォッカトニックを注文して、二度目の乾杯をした。
本当はもっとアルコール度数の高いものを飲みたかったけれど、酔って饒舌になってしまうのが少し怖い。
同僚だからこそ話せる仕事の悩みなどは口にできる相手だが、プライベートのことにまで及んだら、言ってはいけないことや言わないほうがいいことを言ってしまいそうな気がする。
集中すればお互いの呼吸まで聞こえそうなここに来て改めて、私は鈴田くんと自然に向き合えていることに少し驚いた。
以前は相手の視線がどこに注がれているか気になったり、どうやったら少しでも痩せて見える角度になるかひそかに考えたりで落ち着かなかった。
今は相手に見られているからではなくいつもの癖で背筋を伸ばしている。鈴田くんの姿勢や筋肉の付き方をさりげなく観察する余裕もある。
「名取さん、いいにおいがする」
一杯目のグラスが空になる頃、鈴田くんが少しだけ顔を近づけてきた。
今日はリビドー ベリーロゼをつけている。
どういうものか教えられはしたけれど、最近では仕事の支障にならない程度にほんのりつけていた。好きな香りなので、できるだけ纏っていたい。
「そう? ありがとう」
内心ではドキドキしながらも、そっけなく答える。だが、あくまでもいやそうではなく。
望んでいた展開ではあるけれど、すぐになびく様子は見せたくなかった。それほど恋愛経験が豊富なわけではないが、今はもう少し駆け引きが必要だろうと判断した。
ふと時計を見ると、いつの間にかだいぶ時間が経っていた。
胸の中が不安でいっぱい

「明日もあるし、今日は解散にしようか」
私の提案を素直に受けて、鈴田くんはお会計までもってくれた。バーを出て、敷地の出入り口に向かって歩く。両側からまばらな竹林が迫っていた。
突然、鈴田くんが私の腕をつかんだ。
どうしたの? と聞く間もなく、鈴田くんは呻くような声を出した。
「帰したくない」
あたりに人影はない。そのまま、ぐっと抱き寄せられた。
近い。
私は目を逸らしたが、鈴田くんは逸らしていないのがわかる。
「ライバルは、いないってことでいいんだよね?」
「え?」
「今、付き合ってる人とか好きな人とか、いない……よね?」
一瞬、平野井さんの顔が浮かぶ。それでも私は答えた。
「……いない、けど」
「ライバルがいないなら、今度は僕から行かせてもらうよ。遠慮なんてしない」
いつもは穏やかな癒し系キャラの鈴田くんだったから、こんな強気な行動に出るのは意外だった。
だがそのギャップに胸が高鳴ってしまう自分もいる。
「名取さん、うぅん、千織さん……改めて、僕と付き合ってほしいんだ」
鈴田くんに抱き寄せられたまま動けない。こんなに強引な人だったなんて、知らなかった。嬉しい。素直にそう思える。
なのに、どうしてだろう。「はい」と答えられない。
今となってはもう、駆け引きなんか考えていないのに。頭の中に浮かんだ平野井さんの顔が、消えない。
鈴田くんの顔が、唇が近づいてきた。受け止めたらきっと楽になれるのだろう。幸せになれるのだろう。
「…………!」
だけど私は顔を背けた。
「……ごめん」
少しして、ため息のような声が行き場を失った鈴田くんの唇から漏れた。
「ちょっと焦りすぎたかもしれない。名取さん、最近すごくきれいになったから、早くしないと誰かに取られそうな気がして」
抱きしめる腕の力を緩めて私を開放してくれる。小さく息を吐いて彼から離れた。
「返事は今すぐじゃなくてもいいんだ。少し考えてくれたら嬉しいんだけど」
敷地の出入り口まで来ると、鈴田くんはタクシーを止めてくれた。ここで乗り込まなかったら、私たちの運命は変わっていたのだろう。
でも、私は乗った。とてもこれ以上、鈴田くんと時間を過ごせる気分ではなかった。
胸の中が不安でいっぱいだった。今の場面を、平野井さんに見られていたりはしなかっただろうかと。
掟がどうしてできたのか

平野井さんから離れたかったのに、結果的には自分の気持ちはやっぱり平野井さんに向いているんだと再確認してしまった。
しかも、小島さんのことはいざとなったら浮かんでこなかった。これはもう決まりだ。私は平野井さんが好きなんだ。逃げも隠れもできない事実を、否応なく突きつけられた。
とはいえ、気持ちが定まってしまってすっきりしたところもある。これと決まってしまえば、そこに向かうにしろ、そこから逃れようとするにせよ、揺るがずに済むだろう。
「向かう」ことはできない。少なくとも今は逃れるほうに力を注がなければいけないわけだけど、
「はぁ……」
リビングでテレビを何となくぼんやり眺めながら、ため息を吐いた。ある休日……といっても私にとって休日というだけの日。
この間、休日出勤をした代わりに代休を取らなければいけなくて、取ったはいいけれど特にすることもなく、私は家でだらだらと時間を過ごしていた。
家には私のほかに福生さんと池部さんがいたが、福生さんはいつものように部屋で仕事をしている。
池部さんは隣のキッチンで料理をしていた。今度、料理雑誌に載せるレシピを研究しているらしい。
「昼間からため息なんてついてちゃだめだよ」
キッチンから出てきた池部さんが苦笑する。
「夜だったらいいんですか」
「そういうわけじゃないけど」
池部さんはプリンのようなものを載せたお皿を持っていた。
「これ食べて元気出して。僕でよかったら相談にも乗るよ」
砂糖漬けにした菫(すみれ)とバラの花びらで飾った、かわいらしいパンナコッタだった。
「ありがとうございます」
スプーンですくって食べてみると、パンナコッタそのものの甘さは控えめなのに、砂糖漬けの花びらのおかけで濃厚に感じられた。
目で楽しめるのも嬉しい。そのことを伝えると、池部さんはノートを取り出して何かメモした。
相談といっても、事は重大だ。恋愛禁止のここで恋愛に関わる相談なんかしたら、平野井さんに迷惑がかかってしまうかもしれない。
パンナコッタのおいしさに、ふと思ったことがあった。
「ビューティ道場を卒業するには、料理もできるようにならなくちゃいけないんですか?」
卒業は7人のカリスマ全員に認められて初めてできるという。池部さんの評価も必要だということだ。
「今から卒業のことを考えているなんて気が早いね。向上心があるのはいいことだけど」
池部さんは笑ってから、続けて教えてくれた。
「自分や大事な人の健康のために、基礎的な栄養学や、それを活かした簡単な料理づくりについては学んでもらうよ。それ以上はその人が望めばかな」
「そうですか」
少しだけ安心する。池部さんほどの腕前を身につける自信はないけれど、あくまでも基礎というのなら何とかなるかもしれない。
「どうしたの? もしかして好きな人でもできた? 掟について聞いた?」
いきなり核心を突かれて、パンナコッタを噴きそうになった。
「いいいいいいや、そそそそそんなことは……」
どうしようもなくうろたえたことが、答えになってしまう。
「掟についてはね、確かに厳しいと思うけど、仕方ないところもあるからね」
池部さんは私の向かいの席に座った。
「掟がどうしてできたのか、聞いた?」
「いいえ」
思わずパンナコッタを口に運ぶ手を止めてしまう。内容が衝撃すぎて、理由まで聞く余裕がなかった。
「そうか。じゃあ、別に秘密にしていることでもないし、教えてあげるね」
「お、お願いしますっ」
私は慌ててテレビを消した。
覚悟が決まった

「僕はみんなと比べて道場に入ったのが遅かったから、又聞きなんだけど……」
そう前置きして、池部さんは話し始めた。
「以前ここに住んでいた女性が、住んですぐ有本さんに片思いをするようになったんだ。有本さんは、道場は別の目的があるところだから、少なくとも今は気持ちを受け入れられないと断ったんだけど、彼女はそれで納得するような相手じゃなかった。ついにはひょっとして彼女がいるんじゃないかと家の外でストーカーまでするようになって、有本さんは仕事にも支障をきたすようになった」
「ストーカー……」
その単語に、以前想子ちゃんから聞いた話を思い出した。
彼女が有本さんと買い物から帰るとき、遭遇したという女性……それは、ひょっとして……。
「もともと精神的に不安定な女性だったんでしょうか」
「というわけでもなかったようなんだ。最初に篠村さんも問題ないと判断したぐらいだからね。でも、道場にいる間は心と体がやわらかくなって再成長している時期。そんなときに普通の男性なら問題なくても、自分を大きく変えてくれるカリスマとの恋愛は刺激が強すぎるんだよ」
その女性の気持ちも少しわかるような気がする。自分を大きく変えてくれた人なら、「この人こそ運命の人!」と思うぐらいにのめり込んでしまうことも、そのときの状況によってはあり得るのかもしれない。それはたぶん、私にも起こったかもしれないことだった。
「最終的には手に負えなくなって、出ていってもらうことにした。彼女が追ってきてほかのみんなに迷惑をかけないように引っ越しもしたんだ」
その後、篠村さんの判断で、道場では卒業、つまり心にも体にも新たな芯がきちんとできるまで恋愛禁止ということになったそうだった。
「教えてくれて、ありがとうございます」
聞いてよかった。知らないでいたら悶々と悩み続けて、彼女と似たような運命を辿ったかもしれない。確かに今の私はまだ心身ともに不安定だ。
覚悟が決まった。
(きちんとカリスマたちに認められて卒業するまで、頑張るんだ)
そんな気合いは表にも出たのか、数日後、福生さんに会ったときに、
「なんか……ふっきれたみたいだな」
と驚かれた。
私が好きなのは……
平野井さんのトレーニングはそれからも続いたが、前のように心が乱れることはなかった。好きだという気持ちは否定できなくても、今はトレーニングに集中しようと思える。
だが、そんな私を試すような出来事が起こった。
少し前から、私たちはバランスボールを使ったトレーニングをしていた。主にインナーマッスル、つまり体の内側の筋肉や体幹を鍛えるトレーニングだ。普通の筋トレに比べると目に見える効果はあまりないが、基礎代謝が上がったり、筋トレの効率が良くなったりするらしい。
大体膝ぐらいまである大きさのボールの上に座ったり、寝転んだりしてポーズを維持する。ボールだからバランスを取るのは当然難しいが、その際にインナーマッスルが鍛えられる。
バランスボールはそう大きなものでもないので、トレーニングは平野井さんの部屋でやらせてもらった。
「こ、こうですか……わ、わわっ」
「そう、もうちょっとお腹に力を入れて……」
ゆらゆらする私の肩を、平野井さんが支えてくれる。そのとき、体がぐらりと大きく傾いた。
「きゃあっ!」
平野井さんまで巻き込んで、床に倒れ込みそうになった。
「危ない!」
平野井さんがとっさに下にまわりこんでくれる。体を抱きしめてくれていた。

私は仰向けになった平野井さんの上に落ちた。
「んっ……」
唇が……熱い……
「んんっっ!?」
あまりの驚きに、とっさに動けなかった。私と平野井さんの唇が、重なっていた。平野井さんが私を抱きしめてくれていたのと、変なところを打たないようにと頭をひねっていたせいだろう。
「ご、ごめん!」
「ごめんなさい!」
私たちはお互いの体をはねのけるようにして起き上がった。顔が熱い。ちらりと見ると、平野井さんも真っ赤だった。
「ご、ごめん……」
「ごめん……なさい……」
お互い気の利いた言葉を見つけられず、それきり黙り込んでしまう。やがて平野井さんが、申し訳なさそうに言った。
「……その……彼氏にキスしてもらって、俺のキスのことなんか忘れてよ」
「は? 彼氏!?」
思わず聞き返してしまう。
「え、違うの?」
「いませんよ、彼氏なんて……」
「じゃあ、あれは……」
「あれって?」
じつは、平野井さんは私と鈴田くんのやりとりを見ていたのだった。ちょうど敷地の出入り口からバーに続く竹林の道が見えたらしく、帰り際に目にしてしまったそうだ。
しかも角度の問題なのか暗さからか、私たちがキスしているように見えたらしい。
「千織ちゃん、好きな人がいるって言ってたからその人か、もしくは新しくいい人を見つけたんだと思ってたんだけど……」
「違います!」
すぐに否定した。私は焦っていた。平野井さんと今すぐにどうこうなれるのではなくても、勘違いはされたくない。
「私が好きなのは、平野井さんです!」
気づいたときには、もう啖呵を切ってしまった後だった。
「あ……」
しまった。
平野井さんもあっけにとられた様子でこちらを見ている。
「恋愛禁止」の「恋愛」は相手あってのことだから、このままでは平野井さんにも迷惑をかけることになるかもしれない。
私は……
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あらすじ
平野井と小島の間で揺れる千織。
想いを寄せていた千織の同僚の鈴木卓志から食事に誘われた。
二人の男性を心の片隅に置いたまま鈴木の誘いを受けるのはよくないことと思いつつ千織は誘いを受け…。