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官能小説 同居美人 プロジェクトA 〜千織編〜 シーズン11
「大騒ぎの楽しいパーティ」
卒業式は、みんなで大騒ぎの楽しいパーティになった。
いつも食事をするリビングを片付けて、広々と使えるようにした。
その日は私たちの卒業式だけでなく、池部さんのお別れ会も兼ねていた。池部さんはみんなに引き止められはしたものの、結局自分の意志で出ていくことになった。
「べつに誰かが悪いわけじゃない。僕がなぎさちゃんを好きな限り、いつかはしなくてはいけない選択だったんだ」
池部さんは笑ったけれど、それでもどこか寂しそうだった。
私と想子ちゃんはこの日の朝、とびきりの華やかなメイクを有本さんにしてもらった。さらに私は平野井さんから、想子ちゃんは有本さんからもらったドレスを着た。
想子ちゃんのドレスは、二人で卒業記念に泊まりに行ったときにも着て行ったという真っ白なドレスだ。
私のは平野井さんが松垣さんに相談して選んでくれたという、深い臙脂色の体のラインがきれいに出るドレスだった。
お互い、別室での着替えとメイクが終わると、顔を見合わせて照れ合った。いつも顔を合わせている相手の特別な姿を見ると、あぁ、いよいよお別れなんだとしみじみと思えてくる。
皆はリビングの中で待っていて、私たちは外で司会役の篠村さんに名前を呼ばれるのを待っていた。
「ドキドキするね」
「うん、身内しかいないのにね」
身内と口にして、実際にはそんなものではないのにと気付いて、無性におかしくなる。いつの間にか家族みたいに感じるようになっていた。
「千織ちゃん、想子ちゃん、卒業おめでとう! 宗一郎、今までありがとう!」
篠村さんの威勢のいい声とともにドアが開かれる。
三人で部屋に入っていくと、ぽん! と何かが弾けるような音が次々と響いた。クラッカーだ。カラフルな細いリボンが髪や体にかかる。
「卒業おめでとう!」の声があちこちからかかった。
「ささ、真ん中へ」
篠村さんに促されて、小さなステージのようになっていたところに揃って立つ。
またもみんなが口々に歓声を上げ、口笛を吹いた。
「卒業おめでとう!」
「かわいすぎる!」
「きれいだよ!」
「宗一郎もかわいい!」
なぜか池部さんは照れていた。最後までいちいち不器用な人だ。
「はい!ではさっそく、卒業証書の授与を行います」
篠村さんが画用紙のような紙を持ち、私たちの前に立った。
「卒業証書、名取千織どの。あなたはビューティ道場での全過程を修了、美しく自立した女性として講師たちに認められたことを証する」
朗々と真面目に読み上げはするものの、卒業証書自体は太いペンで書かれた手作り感のあるものだ。つい、くすっと笑いたくなるようなあたたかみがあった。
想子ちゃんは私の後に受け取り、二人で篠村さんと、それからカリスマさんたちに深々と頭を下げた。もちろん池部さんにも。
「じゃあこれから一人ずつ、千織ちゃんと想子ちゃんがここで成長したところを挙げていこう」
篠村さんが皆を振り返る。
えっ、何だか緊張するなぁ……。
「お疲れ様、頑張ったね」

私たちはカリスマさんたち一人ひとりから、小さなプレゼントを渡してもらいながらそれぞれの意見を聞いた。
「どんな服でも着られる体型になっただけじゃなくて、服選びのセンスもよくなった。自分の良さを、ずいぶん理解できるようになったんじゃないかな」
「もともと自己主張はうまくできていたほうだと思うけど、今はそれに柔らかさも加わった感じだな。話していてほっとできる人になれたんじゃないかな」
誰の意見もうれしかったけれど、驚いたという意味では福生さんだった。
「よく頑張ったな。ダイエットや筋トレはなかなか長続きしないからな。なんだかんだ言っても身体的に苦しいことは続かないものだよ。正直、こんなにきちんと結果を出すとは思わなかった」
福生さんは普段、面と向かって人を褒めるような人ではない。だからこそこんなに真正面からきちんと認めてもらえて、喉がぐっと詰まってしまった。
想子ちゃんも、福生さんには、
「精神的にずいぶん不安定な子だと思っていたけれど、今は危なっかしい感じがないな。いろんな壁を自力で乗り越えてきたんだと思える安定感がある」
と声を掛けてもらって、涙ぐんでいた。
二人とも、好きになった人の存在が大きかったと思う。この人とずっと一緒いたいと思える人がいたから、いつまでも笑って、自分に自信を持って一緒にいられるように頑張ることができた。
小島さんには、驚いたというよりもちょっとハッとした。
「じつはちょっと千織ちゃんのこと、気になっていたんだよね。でも、もう手の出せない人になっちゃったな」
まるで今日のお天気のことを話題にするみたいにサラリと言う。平野井さんのほうを見ると、気のせいかもしれないが笑顔が少しだけ引きつっている気がした。
プレゼントの中身は今はわからなかったけれど、外側の感触で何となくわかるものもあった。有本さんからのものはメイク用品だろうし、福生さんは本だろう。部屋に戻って開けるのが楽しみだった。
誰もが最後に
「お疲れ様、頑張ったね」
「またいつでも遊びにおいで」
「寂しくなるね」
などと言ってくれた。
頑張ったことに頑張った分、結果が出るなんて、実際の生活ではじつはあまりないことで、そんなことは奇跡といってもいいと思う。頑張らなければ何も起こらないか、ずるずるダメになっていくかするのは当然だけど、すごーく頑張ってちょこっとだけ結果が出るとか、普通に頑張って何とか現状維持とかいうぐらいが現実だ。
でもここでは、頑張った分だけの結果を出せた。こんな奇跡はもう起こらないかもしれない。でもこれ一度限りだったとしても起こすことができたから、私はこれからも腐らずに、愚直に頑張ることの力を信じて生きていける。ここで手に入れられたのは、きれいなボディや自分に似合ったファッションだけじゃない。そんな意志の力もそうだ。
私と想子ちゃんは、自分たちからもカリスマさんたちにプレゼントを贈った。二人で一緒に選んでお金を出し合った。中身は全部違う。
全員にプレゼントを渡し終えると、部屋の電気がぱっと消えた。私と想子ちゃんは二人で小さく悲鳴を上げた。
「ここでの時間は奇跡そのもの」
「ではこれから、サプライズタイムですっ!」
篠村さんの声が暗い中で響いた。
次の瞬間、部屋がまた明るくなる。
そのときにはもう、私たちの目の前に、見たこともないような大きな花束と寄せ書きの色紙があった。
バラとカサブランカの香りにふわりと包まれる。
花束は池部さんにも贈られていた。
自分たちだけではなく、池部さんも同じように惜しまれ、愛されていることを再び感じて、なんだか無性に嬉しくなった。
「じゃあ今度は、二人からコメントをもらおう。よろしく」
まったく何も知らされていなかった。無茶ぶりだと思ったが、卒業式ともなればこのぐらいのことは予測しておくべきだったのだろうか。
ともあれ、私たちは並んでみんなの前に立った。
改めて喋るとなると緊張したけれど、私は心に浮かんだ通りのことを飾らずに言った。
「みんなに、ビューティ道場に出会えて本当によかったです。ここでの時間は私にとって奇跡そのものです。奇跡があったから、これからもまっすぐに進んでいける。何かあったときは、ここで積み重ねた過去を思い出せば、きっと未来につなげていけると思う。本当にありがとうございました。みなさんもどうか、頑張って」
私たちの後には池部さんが挨拶をした。
「みんなには迷惑をかけてしまったけれど、それでも引き留めてもらえてうれしかった。だけど僕は、そろそろ次のステップに進まないといけないみたいです。たった一人だけ、幸せにしたいと思う人ができたから。今まで、本当にありがとう」
拍手がきれいな水のようにリビングに満ちる。池部さんは眩しそうにみんなを見つめ返して、深く静かにお辞儀をした。
「さて、しんみりしている場合じゃない」
篠村さんがまたも陽気な声を出す。
「みんなもう知っていると思うが、千織ちゃんと大樹、想子ちゃんと悠は晴れてカップルになった。はいはいお幸せにってことで、ここは4人に思いっきりのろけてもらうことにする!」
ひゅうっと誰かが口笛を鳴らす。
さっきの無茶ぶりなんて、まだかわいいほうだったのだ。
「世界一幸せにする!」
「ちょっと頑固だけど、その分頑張り屋なところだよなぁ。自分の意見をはっきり言ってくれるのもいい。あと、最近は特にセクシーになったよね。そこも好きだな」
「明るくて、全力でぶつかってきてくれるところかな。ケンカをしたら大変なことになりそうだけど、そのたびに情熱的に仲直りできそうな気もする」
のろけるなんてそんなに簡単にできるわけないと思っていたけれど、多少お酒が入っていたせいか、私も平野井さんも意外とすらすら出てきた。
有本さんもそれほど苦戦しなかったようだ。
「壁にぶつかるたびに素直に反省して、ひとまわりもふたまわりも大きくなって乗り越えるところかな。女性としてというより、人間として憧れるね」
想子ちゃんはなかなか苦戦していた。真っ赤になって口をモゴモゴさせて挙句、
「全部です。全部……好きです」
と呟いて、みんなから「かわいい!」と拍手されていた。
いったん気持ちを口にすると、勢いがついてきたらしい。平野井さんも有本さんも、そのまま「のろけ」を続けた。
「俺は千織ちゃんを世界一幸せにする! 他の誰にも渡さないぜ!」
他の誰にも、のときにちらっと小島さんを見た気がした。みんなの前で私をぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう! 卒業をずっと待っていた!」
「え、ちょっ……」
さすがに照れてしまった。
「俺だって一生想子ちゃんのそばにいて、幸せにする! みんなが褒めたのに正直ちょっと嫉妬したけど、ここにいる誰にも負ける気はしない!」
有本さんも想子ちゃんを抱きしめた。
あとはもう、無礼講だった。
この日、おそらく私と想子ちゃんがここに来てからいちばんたくさんのビールとワインと日本酒と焼酎とウォッカとジンが空になった。
最後にみんなで写真を撮った。それぞれのスマホやデジカメで何枚かずつ。それから道場のみんなで共有するデジカメで1枚。みんな真っ赤になって、顔の部品がもう少しで入れ替わっちゃうんじゃないかっていうぐらい、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
―――
それから十日ほどして、私と想子ちゃん、それに池部さんが道場を離れる日がやってきた。
私はまた一人暮らしに戻り、想子ちゃんはいったん実家に帰るという。
池部さんも一人暮らしだが、なぎささんと同棲しようという話が進んでいて、ゆくゆくは二人で住めるような間取りの部屋を借りたそうだ。
荷物のなくなった自分の部屋は、妙に広くて明るく感じられた。急に「他人」じみた気がして、ぽつんと取り残されたみたいな気持ちになる。取り残していくのは私のほうなのに。
「またみんなで、パーティをしよう」
そう誓い合って、私たちは、別れた。
「そろそろ一緒に暮らさないか」
あれから半年が経った。
私たちが卒業してから数か月後に、道場に新しい女性たちが入った。
平野井さんと有本さんは依然として道場に残ってはいたが、やがて、彼女たちを卒業させたら自分たちも出ていくと決めた。
やはり付き合っている人がいる状態で他の女性を親身になって導くというのは、やりづらいものがあるらしく、二人して池部さんの気持ちがやっとわかったと苦笑していた。私も想子ちゃんも、仕方のないこととはいえ正直穏やかにはなれないところもあったから、こういっては何だけれどうれしかった。
今、平野井さん――もうお互いを大樹、千織と名前で呼び合っているが――は、かなり多くの時間を私の家で過ごしている。夜から泊まりに来て、朝、一緒に仕事に行くことも多い。
「今日もたくさんの幸せがありますよーに!」
いつもそう声を掛け合って、仕事に出かける。
週末は大樹は仕事だけれど、私は休みだ。朝、お見送りをして、晩御飯を作って待つのが毎週のことになった。
「行ってきます、気をつけていってくるね」
大樹は私の頭を大きな手のひらで包み込むようにして優しく撫でてから、抱きしめて、バードキスをして出ていく。
卒業してから半年経った今でも、大樹は何かにつけて頑張ったご褒美だと言って大好きだと囁き、キスをして、夜はたっぷり愛してくれる。いったいいつまで言い続けるつもりなんだろうと笑ってしまいそうになるけれど、もちろんいやな気はしない。むしろ、ずっと続けばいいと思う。
―――
有本さんと想子ちゃんとは、ちょくちょくダブルデートをしていた。
ある日のデートで、二人が同棲を決めたと聞いた。もちろん結婚が前提だ。もう新居探しも始めているらしく、今、道場にいる女性たちが卒業したタイミングで引っ越すそうだ。
「俺たちもそろそろ一緒に暮らさないか」
帰宅後、大樹が切り出した。もちろん異存はなかった。
あらすじ
いよいよ卒業式。
千織と想子はそれぞれ飛び切りのドレスとメイクで会場へ入っていく…