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官能小説 「クロス・ラバーズ」…spotA〜美陽編〜・シーズン3
トラブル
「僕が行きます。僕に行かせて下さい」
渋峰編集長に迷う間も与えまいとするかのように、浩太が身を乗り出す。
編集長は「じゃあ……」と言いかけたものの、途中で首を捻ってその言葉を止めた。
「いや、やっぱり森尾が行ってくれ」
「なぜです?」
浩太は眉をひそめた。
「勘違いしないでくれ。西原では務まらないだろうと軽んじているわけではない。ただ森尾のほうがこの会社に長くいた分、雑誌だけでなく会社のことにまで話が及んだときに的確な受け応えができるかと思ったんだ」
渋峰の言うことは正論だ。実際、口調も弁解めいておらず堂々としている。
「わかりました」
隆弘はとくに表情を変えるでもなくうなずき、「ではすぐに谷崎さんを追うことにします」とデスクまわりを片づけ始めた。
「谷崎さん?森尾だけど」
手を動かしながら、空いているほうの手で隆弘は美陽のスマートフォンに電話をかける。
「やっぱり谷崎さん一人だと心配だってことになってさ。俺も行くから、ちょっと東京駅で時間つぶしててくれる?寄っていくところがあるから少し時間がかかるかもしれないけど、あと1時間半以内には行けると思う」
支度を終えて編集部を出た隆弘を、浩太は追った。
男の戦い
エレベーターホールに向かうまでの人気のない廊下で、浩太は隆弘に後ろから話しかけた。
「あの……あまり谷崎さんに無理をさせないで下さい」
同じ副編集長という立場だが、35歳の隆弘に対して30歳の浩太は敬語を使う。
隆弘は足を止めて振り向き、かすかな笑みを浮かべて、小さな溜息をついた。
「だけど……森尾さんの谷崎さんの扱いは、副編集長が一編集者に仕事を振るときの分(ぶ)を超えているように見えます」
「つまり、俺が谷崎さんをコキ使っているようだと?」
「そんなことは言っていませんが……」
「まぁ、多少他の社員以上に厳しくしているというのは否定しない。でもそれは谷崎さんに期待をしているからだ。ウチは大手と呼ばれてはいるけれど、このご時世の他の会社と同様に人手不足なんだ。使えそうな人員はきちんと育てておきたい」
「でも、それで谷崎さんが折れてしまっては元も子も……」
隆弘の目がそれまでになかった冷たさと硬さを帯びる。
「君は谷崎さんがこの程度でダメになると思ってる?」
浩太は、何も答えられなかった。
「昔はもっとヤワだったのかもしれないけど、今の彼女はパワフルだよ。もう、大学時代の後輩として見るのはやめたほうがいい」
隆弘が腕時計を確認する。それは、これ以上は話さないという意志表示だった。
エレベーターホールに向かう隆弘の背中を、浩太は黙って見送った。
寂しさ
エレベーターで1階に降りながら、隆弘は考える。
さっき電話で自分も同行することになったと伝えたときの、美陽のあからさまにほっとした声。泣き出しそうにも聞こえた。
(あんな声を聞かされたら……たしかに心配したくなる気持ちもわからないでもないけどな)
チン、と軽やかな音を立てて、エレベーターが地上に着く。
隆弘はネクタイを締めなおして、颯爽と歩き出した。
――もう、大学時代の後輩として見るのはやめたほうがいい。
隆弘の言葉が、浩太の胸の中で何度も繰り返される。
暁水社にヘッドハンティングされたとき、暁水社に美陽が勤めていることまでは知っていた。
だが、まさか同じ編集部で働くことになるとは思っていなかった。
美陽は大学時代から美陽は行動力があったが、それだけに無鉄砲で、練習や実戦のときも必要以上の無茶をしてまわりをやきもきさせた。
そんな思い出が、そのときの感情が、いざ顔を合わせたらよみがえってきた。
頑張りすぎる美陽を止めないと……そんな気になった。
そう思っていると、どうしても美陽に必要以上に厳しく接する隆弘に意見しないわけにはいかなくなった。
しかし……。
(いや、僕が谷崎さんを心配している理由は、本当は……)
編集部に戻り、ぽっかり空いた美陽のデスクを目にして、浩太はやっと自分の本当の気持ちに向き合う。
美陽がそこにいないことを、寂しい、物足りないと感じた。
彼女
浩太が数年ぶりに再会した美陽は、大学にいたときと比べて格段にきれいになっていた。 仕事に一生懸命打ち込んだ成果だろうか、大学の時よりずっと輝いていた。
大学の卒業式で浩太が美陽に告白されたとき、たしかに付き合っていた相手はいて、そのときはその人を心から愛していた。
美陽のことも、卒業してからは会いたいと思うこともなかった。
だが、そのとき付き合っていた女性と別れて早数年。いいなと思う相手がいても、なかなか恋愛関係にまで発展しないことが続いていた。
(今さらずるいよな、そんなの……)
美陽と隆弘が消えた編集部で、浩太は一人で苦笑しながら自分の仕事の整理を始めた。
数時間後、美陽と隆弘は並んで新幹線に乗っていた。
「何やってるんだ、お前」
ノートPCを広げている美陽に、隆弘が尋ねる。
二人だけでいるときの隆弘の口調はぞんざいだった。まさに下僕に対しているようだ。美陽はむっとしたものの、言い返せなかった。
弱みを握られている以上、言い返すのは結果を出してからだと決めていた。
今の美陽は、隆弘に惹かれ続けていた分、「下僕になれ」などという言い方をされた上で一介の編集部員には過ぎた仕事を次々押しつけられることに失望している。
向上心の強さを買ったといわれたが、ぞんざいな扱いが続けば本当にそうかと疑いたくもなる。
要するに自分の思う通りに動かせる、都合のいい存在がほしかった……本当に下僕がほしかった、それだけのことではないのか。そんなふうに思ってしまう。
「何だ、雑誌の企画書じゃないか」
答えない美陽に、隆弘は横から体を近づけてきて画面を覗き込んだ。
下僕と主人の関係
(ちょ……!)
至近距離にまで近づいた隆弘に、美陽の心臓がドキンと高鳴る。失望したとはいっても、ずっと憧れていた相手だ。そう単純にその気持ちを拭い去ることはできない。
美陽は雑誌の企画書にさらに詳細に、店が取り上げられた際の店側のメリットや、雑誌の理念などを詳しく書きこんでいた。
「あのなぁ、こうなったらもう相手の出方次第で臨機応変に行くしかないんだよ。今さらこんなことしたって……」
「でも、これぐらいしか今できることがないんです」
美陽は隆弘を途中で遮った。
「今、できることを全部やっておかないと、気が済まないんです。じゃないと、何だか怖くて……」
隆弘の前では弱いところを見せたくない。だが、ぽろりと本音が出てしまった。それほど緊張していた。
嫌味のひとつでも言われるかと美陽は身構えたが、隆弘はふぅと大きく息を吐いただけだった。
次の瞬間、隆弘の口から信じられない言葉が飛び出した。
「じゃあ後は俺がやっておくから、お前は仮眠していろ。昨夜も遅かっただろう。到着15分前に起こしてやるから、それを確認すればいいだろう」
「えっ?」
急に視界が薄暗くなった。何かと思えば、隆弘がハンカチをかけたのだった。
「ほら、アイマスク代わりだ。たまには俺を頼れ。体調管理も仕事のうちだぞ」
「で、できません!」
美陽はハンカチを取って、隆弘が取り上げようとしているノートPCを押さえる。
「京都から戻ってもやることは山積みだし、倒れられたりしたら困るんだよ。休めるときに休んでおけ」
たしかに今の超過密スケジュールでは最悪そんなことが起こってもおかしくはない。
それでも、できなかった。隆弘に言った通り、今できることをしなければ落ち着かないというのもあったし、隆弘の言いなりになるのもいやだった。
「あのなぁ、お前は俺の下僕になったんだ。ご主人様の言うことは聞け。書類のこと、バラすぞ」
「んぐっ……!」
顔にもう一度ハンカチを載せられる。あのことを言い出されては、従わないわけにはいかなかった。
あらすじ
美陽の担当していた雑誌の目玉記事になるはずだった旅館が記事の掲載を断ると言うトラブルが…。
急遽旅館に直接お願いに行くことになった美陽だったが、そこに編集長の命令で隆弘も同行することに…