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官能小説 「クロス・ラバーズ」…spotA〜美陽編〜・シーズン6
告白
「ほら、起きろ」
肩をゆっくり揺らされて美陽は目を覚ました。
まだ夜行バスの中だったが、カーテンからうっすら朝日が差している。
美陽はまず、慌てた。
(なんで私、副編集長と寝てるのっ!?)
と同時に、昨夜の記憶がよみがえってくる。ひそやかな愛撫。「付き合う?」と告白されたこと。
(あれは……告白でいいんだよね?)
確かめたいが、こちらから言い出すのは恥ずかしい気もする。
そのとき、ピンポーンとバスの中をチャイムが鳴り響き、続いて機械音声が流れた。
『ご乗車お疲れ様でした。間もなくこのバスは新宿駅東口に到着……』
「ほら、準備するぞ」
隆弘に促されて立ち上がる。隣の席に戻って、自分の荷物をまとめた。
バスから降りても、隆弘の態度は変わらなかった。昨日、バスに乗り込む前と同じように淡々としている。
二人は始発を少し過ぎたばかりの、まだ人もまばらな電車に乗って今日これからのことを軽く打ち合わせた。
とりあえず、家に帰って支度をしたらすぐに出社だ。
(あれってやっぱり遊びみたいなものだったのかな。私に触りたかったから、あんなこと言ってごまかそうとしたのかな……)
「告白」について何も触れてこない隆弘に、美陽は不安を覚える。
不安がもう少しで嫌悪になってしまいそうなときだった。
「昨日の返事な……あんまり待たせるなよ」
「…………」
聞きたかったはずのことなのに、いざ聞くと何も言えなくなってしまった。
「付き合う?って聞いたの、俺は本気だからな」
「で、でも、お酒も入っていたので……」
「俺は酔っていなかった。お前は酔っていたというんなら……まぁ、一度ちゃんと考えてみてくれ」
美陽は電車の床をじっと見つめる。隆弘の顔を見られない。恥ずかしくて。
「……だけど、あの、副編集長は、私を下僕って」
「あほか、お前は!」
隆弘が大きな声を出す。周囲の乗客が数人、こちらを振り向いた。
心臓の音
「前にも説明しただろ。あれは言葉のあやみたいなもんだ」
視線に気づいた隆弘は声をひそめる。
新雑誌の創刊で何かと忙しい自分の直属で動かせる編集部員がほしい。そのことを指して下僕といったのだと。
「じゃあ本気で下僕って思ってるわけじゃないんですか」
「いや、ちょっと思ってた」
さらりと答えた隆弘に美陽はむっとする。表情にも出てしまった。
「でも今は下僕じゃなくて、彼女にしたいと思ってる」
隆弘はまた、さらりと言う。電車が速度を下げていく。次は隆弘が降りる駅だった。
何か返さなければと焦る。だが、顔が熱くなるばかりで言葉は出てきてくれない。
隆弘は美陽をまじまじと見つめている。次は何が出てくるのだろう。自分の心臓の音が、美陽には電車の音よりも大きく聞こえる。
隆弘はククっと喉を鳴らして笑った。
「お前は表情がころころ変わって面白いな」
「面白いとか、またからかって……」
美陽の顔がまた熱くなる。今度は少し別の種類の熱だ。
「怒るなよ、お疲れ様」
隆弘は美陽の頭にぽんと手を置いた。
「ありがとう。お前の資料に助けられたよ」
その日も翌日も、隆弘は何ごともなかったように接してきた。何となくだが、これまでよりも優しくなった気がしないでもない。
しかし、そんなふうに思っているとこれまで通り無茶を命じられたりして、美陽は戸惑った。
「谷崎さん、ちょっといいかな」
その日の仕事を終えて編集部を出て、エレベーターを待っていた美陽を浩太が呼び止めた。 浩太と話すときは今でもまだ少し胸が高鳴る。もうとっくにあきらめていたと思っていたのに、体が覚えているみたいだ。 隆弘と話したとき思い出してしまったこともあって、今もまた少しだけ鼓動が早まりだした。
「よかったらこれから食事に行かないか?ちょっと仕事について聞きたいことがあるんだけど……」
今日は特に予定もないし、仕事と言われたら美陽には断る理由はない。何か確認したいことでもあるのだろうか。
「いいですよ」
美陽はうなずいた。
二人だけの会話
二人は会社から数駅離れた駅で降りた。駅から少し離れた路地にある居酒屋に入る。 中は個室になっており、仕事の話もまわりを気にせずできそうだった。
「森尾さんと何かあったの?京都で」
運ばれてきたウーロン茶に口をつけて、浩太が口火を切った。美陽も同じものを飲んでいる。
「何かって?」
美陽はどきりとする。何かといわれれば、真っ先に夜行バスでのできごとが思い浮かぶ。
「いえ、特に何もなかったですけど……。森尾副編集長は私をサポートしてくれて、それで交渉もうまくいって……」
しどろもどろにならないように気をつける。
「ならいいんだけど……。前々から思っていたけど、森尾さんは君に無理を言いすぎるところがある。だから京都でも何かあったんじゃないかと思ったんだ。帰ってきてから、君は何だか森尾さんに対してやりにくそうにしていたしね」
心臓が口から飛び出しそうになるというのはこういう状態のことをいうのだろう。美陽はかろうじて冷静さを保ちながら、「どうしてそう思ったんですか?」と返す。
浩太に気づかれるような行動があったのなら、他の編集部員にも怪しまれていたとしてもおかしくない。自分が何か「やらかしてしまった」のなら、早めに対処しておこう。
「それは……」
浩太は目を逸らし、一呼吸置いた。
「……僕は、君が心配だからね」
「まぁ私、大学の頃から先輩方によく心配かけてましたもんね。考えなしで突っ走っちゃう性格だし」
美陽は苦笑する。
「先輩としてじゃなくて」
「え?」
美陽は尋ね返した。浩太は「しまった」という顔をしている。
「ま、まぁとにかく、これから森尾さんに関してだけでなく、困ることがあったら何でも相談してほしい。君は頑張りすぎてしまうところがあるから」
「……わかりました。ありがとうございます」
美陽はぺこりと頭を下げた。
――先輩としてじゃなくて。
その言葉に、美陽は熱を持つ何かを確かに感じた。 二人は居酒屋を出て駅に向かった。遅くなってしまったせいか、あたりに人影はない。 もう少しで大通りに出るというあたりだった。
体が暖かく、力強いもので包まれる。浩太に抱きしめられたのだとわかったのは、少し時間を置いてからだった。
トク、トク……と、浩太の鼓動が伝わってくる。
美陽は自分から体を離した。
――付き合う?
夜行バスの中での、隆弘の囁きがよみがえったから。 今、浩太に胸が高鳴るのも、隆弘に告白されたとき浩太を思い出してしまったのも、昔の憧れの名残だったのだと、その声が教えてくれたから。
「……ごめん、もうしない」
浩太は絞り出すように言って、美陽に頭を下げた。
駅まで二人は無言で歩き、そして別れた。
わからないこと
隆弘とも浩太とも、何ごともなかったように接する日々が続いた。 やりづらくないとはいえなかったが、仕事が忙しくてそんな悠長なことをいっていられないのが幸いだった。 自分が今、惹かれているのは浩太ではなく隆弘。 それを確認できたまではよかったが、美陽にはまだ拭いきれない疑問があった。
どうして隆弘が自分のことを好きなのか、わからない。
そうこうしているうちに創刊日が近づいてきた。
ある夜、美陽は隆弘と二人だけで編集部に残っていた。 他の編集部員は皆帰ってしまった後だった。浩太は夕方に出ていった打ち合わせから直帰の予定だ。会社自体にも、人はもうほとんど残っていないようだった。 美陽は編集部を出ると、フロアにある自動販売機で栄養ドリンクを買った。休憩も兼ねてコーヒーも淹れようと、給湯室に向かう。
「おっさんか、お前は」
給湯室で栄養ドリンクを飲んでいると入口から声を掛けられた。隆弘だった。
今日は何かとせわしなくて二人きりでいても会話らしい会話をしていなかったが、改めてこうやって人気のないところで向かい合うと緊張してしまう。
「こういうものに頼りすぎるのは体に悪い。ほどほどにしとけ」
隆弘は近づいて、美陽から瓶を取り上げて捨てた。
「そういう副編集長だってずいぶん疲れて見えますけど」
「俺はいいんだ、元気の素がすぐそばにいるからな」
「どういうことですか?」
「……お前、意外と鈍感だな」
隆弘は呆れたような顔をして、わざとらしい溜息をつく。
「お前を見てると、俺は元気になれるんだよ。自覚があるのかどうかわからんが、パワフルなところだけは一人前だからな。そこを好きになったんだよ」
ずけずけと大きな声を出す隆弘に美陽は慌てる。幸い周囲には誰もいないようだ。 いないとわかったら、顔が熱くなってきた。こんなにはっきり好きだなんて。 隆弘が美陽の真正面に移動する。何をするのだろうと思っているうちに、両腕を壁につき、美陽を囲いこむような格好をした。
顔が、近い。
端正な形の唇が動く。
「早く返事を聞かせろよ。じゃないと……襲うぞ」
腰を抱き寄せられる。首筋にそっとキスをされた。声が出てしまいそうになる。
(……ダメ。こんなところで)
美陽は身をすくめる。隆弘はそこで止めた。
「ま、もう少しだけは紳士でいてやるよ」
美陽の頬に軽くキスをすると、隆弘は給湯室を出ていった。
帰り道
数時間後、隆弘は美陽の分の仕事をしていた。校正の確認だ。 今日中にどうしても美陽が終わらせられないことがわかり、隆弘が残りを一部手伝ってくれたのだった。 時間はすでに22時を回っている。週末とはいえ、だいぶ遅くなってしまった。
「俺はお前に厳しいことも言うが、どうしてもできないと思ったら……前にも言っただろう。頼れ」
少し離れたデスクから隆弘に叱られる。自分が振った仕事じゃないですかと怒りたくなる気持ちはなく、むしろ与えられた仕事を完遂できなかった悔しさばかりがあった。
「すみません……」
美陽は謝るしかない。自分の手に負えないと見切って早めに助けを求めるのも、プロの仕事のうちだ。
いちばん避けなければならないのは「間に合わない」ことなのだから。
隆弘は美陽の倍はあるのではないかというスピードで仕事を終わらせた。
ちょうどその頃に美陽の残りの仕事も終わり、二人は帰り支度を始めた。
終電にはまだ多少余裕がある。焦り過ぎることはない。
先に支度をした隆弘が、入口で美陽を待っていてくれた。電気を消そうとしている。
美陽がバッグを抱えてそちらに行くと、隆弘が話しかけてきた。
「一緒に帰るか?」
美陽は息をのんだ。
隆弘と美陽の家は、会社からは反対方向だ。一緒に帰るという選択肢はあり得ない。
それに、もうすぐ終電という時間を考えれば、それはつまり今夜をお互いの家か、そうではなくてもどこか別の場所で、とにかく一緒に過ごそうということではないのか。
美陽の心を見透かしたように、隆弘が付け加える。
「お前もわかってると思うが……一緒に帰るとなったら、ただじゃ帰さないけどな。明日は休みだし」
自分の気持ちは確認できた。 隆弘がなぜ自分のことを好きなのかもわかった。 それでも美陽は混乱する。そんなことを急にいわれて、何と答えたらいいかわからない。 考えた末、美陽は口を開いた。
⇒【NEXT】「俺への返事ができないのは、西原のことが気になってるからか?」(「クロス・ラバーズ」…spotA〜美陽編〜・シーズン7)
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あらすじ
夜行バスの中で隆弘と夜を共にし、隆弘の愛撫と「付き合う?」と告白をされたことを思い出した美陽。
新宿駅でバスを降りても今までと態度の変わらない隆弘に、美陽は不安を覚えて…。