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官能小説 【小説版】シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第2話
須藤真樹夫との出会い
「こちらでお待ちくださいませ」
誓子をソファに座らせると、執事は静かに部屋を出ていった。
須藤の家で誓子がまず案内されたのは、客間と思しき部屋だった。客間といっても、ちょっとした舞踏会でも開けるのではと思えるほどの広さを持ち、家具はアンティーク調のゴージャスなものばかり。まるで海外の宮殿の一室にでもいるようだ。
密かに美術品に興味のある誓子は、ついいろいろ見てみたくなり、外に足音が聞こえないことを確かめつつ部屋のインテリアを観察した。
「すごい、このソファの曲線模様…ロココ様式だわ」
ソファをなでながら立ち上がり、部屋で一番目立つガラス張りの戸棚に近づいた。
「うわぁ!この猫脚のアルモワール※、バラが彫ってある!」
見たこともない美しい家具に、誓子は心をときめかせた。絨毯から天井まで、すべてが美術品のようだ。
すっかり夢中になって、戸棚を開けようとしたそのとき、ガチャッとドアが開く音がした。誓子は慌てて手を離し、ソファへとダッシュして腰を下ろした。
「あら、好きに見てていいのよ。あなた美術品お好き?」
ドアから出てきたのは、胸に大きなリボンをつけた男性…のようにも女性のようにも見える人物だった。その口調から、誓子は間違いなく電話に出た人物だ、と確信した。彼はシャラシャラと高級な布が放つ絹擦れの音をさせながら、向かい側のソファに座った。
その後ろからメイド2名と執事も部屋へ入り、メイドの1人がテーブルへ花柄のティーカップを静かに置いた。
「あなたが大橋誓子ちゃんね。私が昨日電話で話した須藤真樹夫よ。よろしく」
ぱちりとウインクをされ、誓子は対処の仕方がわからずモジモジするしかなかった。そんな誓子の反応をよそに、真樹夫はパチンと指を鳴らし執事からルーペを受け取ると、誓子に近づき、顔や肌、指、髪などを見始めた。
「な、なんですか…!?」
驚く誓子だったが、真樹夫は構わず誓子の手を取り、ソファから立たせた。そして今度は遠くから誓子を観察するように見た。時折、写真の構図をみるように指で四角を作り、覗き込む。何が何だかわからず、誓子はただただ呆然と立ちすくむしかなかった。
そして5分ほどあれこれチェックした後、真樹夫が突然指をさし
「いいわ!あなた合格よ!!」
と叫んだ。
あまりに急に大声を出したので、誓子は驚きすぎて2センチほどビクッと飛んだ。そのまま無言で真樹夫を見つめていると、彼はキラキラした瞳をしながら近づき、誓子の両手を取った。
「私のプロデュース第一弾は、あなたしかいないわ…!」
※ フランス語で、大型のワードローブや戸棚又はクローゼットのこと。
誓子と真樹夫の覚悟
須藤真樹夫の肩書きは『メイクアップアーティスト兼発明家』という大層怪しいものだった。発明家というのは、彼の父である須藤真太郎の後を継いだからだという。
真樹夫はメイクアップアーティストとして、たくさんの女性をキレイにしてきたが、メイクだけではどうしても変えられないことがあった。それは内側から放たれるオーラだった。素敵な服を着て、ヘアメイクで整えれば一見キレイになるが、本当の女性らしさや艶っぽさは内面から変えなければ表現できないのだった。
「そこで、父と一緒に作ったのがこれよ」
真樹夫が目で合図すると、執事は隣の部屋とつながるドアを開けた。すると、奥から大きな機械が運ばれてきた。未来的なベッドというイメージで、頭上には円盤のようなもの、サイドには謎のスピーカーが付いている。まるで、改造人間の手術台のようだ。誓子は、温かいアンティークに包まれたこの部屋とは正反対の雰囲気に、少々おびえた。
「これは…?」

「妄想フィルターよ。寝るだけでまるで現実のようなリアルな妄想を見ることができるの」
真樹夫は少し得意げに言うと、立ち上がって妄想フィルターに触れた。
「これで理想の妄想を体感すると、脳が実際に経験したことのように認識して、プラスの作用を働きかけるの。ほら、恋をするとキレイになるって言うじゃない?その仕組みを利用して、実際に恋人がいなくても、妄想フィルターで理想の彼氏とデートしたり、エッチしたり、色々な疑似体験をすることで、内面からの女性らしさや色気を出せるようになるってわけ。すごいでしょ?」
真樹夫は満足そうに両手を胸の前で合わせてウフフ、と笑った。
「エ、エッチ…!?」
思ってもみないワードが出てきて、誓子は戸惑いを隠せなかったが、『理想の彼氏』と聞いて思わず草山を思い浮かべた。妄想フィルター自体は怪しいが、たとえ妄想でも草山と恋人気分が味わえると思うと、かなり興味深いものがあった。
――草山さんの指が私に触れたら…どうなるんだろう。
草山が誓子の手を、腕を、肩を、顔を順々に撫でていくのを想像する。あの男らしい厚い手のひらが頬を包んだら…きっと温かくて溶けてしまう。もしそのまま唇が触れたら…。
「あら、もう始まっちゃったかしら?そうよ、その気持ちが大切なの!」
真樹夫の声に、誓子は我に返る。心を見透かされてしまったようで赤面したが、真樹夫はなぜか嬉しそうに続けた。
「あなたほどの逸材に出会ったのは初めてよ。今まで誰も妄想フィルターを信じてくれなかったけれど、あなたはすぐに心と体が反応したわ。あなたは絶対キレイになれる」
心なしか真樹夫の目は潤んで見えた。とてもウソやだまし文句を言っているようには思えない。その瞳は驚くほど青く澄んでいて、美しかった。
その目を見たとき、誓子には「この人に賭けてみたら?」という心の声が聞こえた。正直、第一弾ということは実験台と同じ。もしかしたらとても危険なことかもしれない。しかし、何もしないで自信のないまま一生を終えるくらいなら、チャレンジして最期を迎えた方がずっと心が救われる、と思った。
誓子の決意
「わかりました。私をキレイにしてください」
誓子は真樹夫をまっすぐ見つめて言った。こんなに相手をしっかり見て話したことはない。今、迷いが晴れ、自分でも驚くほどスッキリ晴れ晴れとした気分だった。
「ありがとう…!私、がんばるわ!絶対あなたを美しく仕上げてみせる!」
真樹夫は誓子の手を握り、胸に抱いた。あしらわれている大きなリボンがふわりと柔らかく腕に当たり、なんだか心地よい。

誓子から体を離しながら、真樹夫はぽつりと言った。
「実はね、妄想フィルターを作り始めてすぐに父に病気が見つかって、亡くなってしまったの。でも私はどうしてもこれを完成させたかったから、父の作った設計図を見ながら必死で作ったのよ」
父親を思い出しているのか、真樹夫は遠くを見た。そして誓子を見るとニッコリ笑い、
「これが成功すれば、私だけでなく父の想いも成就する。発明家として、須藤家にとって、一身を左右する重要なプロジェクトでもあるの。私は、あなたに賭けたわ」
「…はい!がんばります」
真樹夫の力強い言葉に、誓子は誰かから必要とされる喜びを感じた。誓子が真樹夫に賭けたように、彼も自分に運命を託した。それはとてもとても強い絆になるような気がして、誓子はこれから起こる変化に改めて覚悟を決めた。
「さぁ、さっそくプロデュースの準備をしなくちゃ!みんなも手伝って!」
と真樹夫はパンパンと手を打ちながら、執事たちへ声をかけた。
「かしこまりました!真樹夫さま!」
と声をそろえてお辞儀をする彼らだったが、よく見るとみんな泣いていた。きっと先代の真太郎への想いもあるのだろう。誓子は、みんな須藤家の家族なんだ、とほっこり温かい気持ちになるのだった。
それから1週間後、ついに誓子のプロデュースが始まった。
⇒【NEXT】きれいになる決意を固めた誓子は…(シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第3話)


あらすじ
綺麗になる決意をして、怪しげなメッセージカードの差出人である須藤の家に招かれた誓子。
誓子は執事に案内され、お城と言うにふさわしい須藤の家の豪華な客間で須藤を待つ。
須藤はいったい何者なのか!?