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官能小説 【小説版】シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第5話
橘の意外な一面
「僕に用ですか?」
誓子の目の前にいる橘は、いぶかしげな表情をして誓子を見ていた。どうやら誓子のことを認識していないようで、顔に「誰?」と書いてあるようだ。確かに、同期だけれどまともに話したことはなかったので、仕方がない。誓子は持っていた書類を橘に突き出しながら、さりげなく自己紹介をした。
「あ、あのWeb担当の大橋ですが、この書類についてお話ししてもいいですか?」
書類と誓子を交互に見た橘は、一瞬きょとんとしたが、「え、大橋さん?!」と2トーンくらい高い声で絶叫した。

周りにいた社員がクスクスと笑っている。誓子も恥ずかしくなり、少し下を向いた。だが、自分の名前と存在は知っていたような橘の反応に、意外な思いがした。
「いや…すみません。なんかすごく雰囲気変わりましたね!全然わからなかった」
「そうですよね、大丈夫です。髪型変えたので、今日はみんなそんな反応です」
橘は申し訳なさそうにしつつも照れながら、誓子に笑顔を向けた。誓子も橘の優しい明るさにつられ、つい笑みがこぼれた。チャラチャラしたイメージだったが、意外と普通なんだ、と少し親近感を覚えた。
「で、書類って…」と橘が話し始めたとき、横の女性が「橘さんすみません、お客様から急ぎのお電話が入ってます」と声をかけた。
橘は、おっと、という表情で、「ごめん、ちょっと待ってて」と誓子に向かって拝むように片手を出すと、デスクに座り受話器を取った。
「はい、営業の橘でございます」
橘の優しい目つきが急にピリッと引き締まり、真剣になる。相槌を打ちながらメモを取る姿は、なんだかとても男らしかった。
「かしこまりました。では早急に手配をさせていただきます。もしよろしければ明日の納品分もご一緒にお届けできるか確認いたします。…いえいえ、とんでもございません。少しでもお安くお届けしたいので」
詳しい内容は誓子にはわからなかったが、どうやら気の利く対応をしているということだけは理解できた。橘はペンを置き、また優しい笑顔に戻って相手と少し軽やかに会話をすると、「では、すぐに手配いたします。…はい、失礼いたします」と電話を切った。
受話器を静かに置く橘を見て、こんなに細やかな人だったとは、と誓子はまたもや意外な一面に衝撃を受けた。電話を終え、橘は誓子の方へ振り返った。
「待たせてごめんね。で、書類、何か間違ってた?」
「あ、そう。ここなんですけど…」
急ぎの対応ですぐにでも動きたいだろうに、橘は誓子の目を見て、話を聞いていた。誓子も早く伝えなくては、と少々早口で説明をした。
「なるほど、了解です。じゃあ直したらすぐに持って行くよ」
そう言って橘は書類を受け取ると、わざわざここまで来てもらって申し訳ないと言って、少し頭を下げた。こんなに素直で紳士的な人だったのか、と誓子は三度目の驚きを抱えつつ、「いえ、大丈夫です。じゃあ、よろしくお願いします」と営業部を去った。
今日はやっぱりいい日なのかな、と自然と行きよりも足取りは軽くなっていた。そんな誓子の後ろ姿を、橘はずっと目で追っていたのだった。
真樹夫の予言
誓子は会社の帰りに真樹夫の屋敷に寄り、今日の報告をした。
「みんな私を見に来たんですよ!なんか私、マドンナにでもなった気分で。恥ずかしいやら嬉しいやらで…」
誓子は興奮気味に身振り手振りを加えて伝えていたが、その様子に真樹夫は紅茶のカップを持ちながら満足そうにうなずいた。
「いいじゃない♪その体験がまた女を磨くのよ。しかも素敵な出会いもあったみたいだし、これからまたどんどんキレイになるわね」
そう言うと、真樹夫は紅茶をこくん、と飲み干した。誓子はその発言にきょとんとする。
「え?素敵な出会い?」
「んもぅ、あったんでしょ。お肌に書いてあるわ?」
「えっ?えぇっ!?なんだっけ??」
誓子は両手で頬をなでながら今日の一日を振り返った。もしかして、橘のことだろうか?
「た、橘くんは出会いなんかじゃないですよ!もともと同期で知り合いですし」
「あら、恋の出会いは知っている人同士でもあるものよ。彼、イケメンなんでしょ?」
「い、イケメンって…。まぁ確かに橘くんはどちらかというとイケメンですけど…」
誓子は橘の顔を想像した。細面で目が大きく、口角の上がったやんちゃな口元…。女装させても美しいだろうという整った顔立ちをしている。しかし誓子は、草山のような端正だけど少し無骨でゴツゴツしたタイプの方が好みだった。
「私には草山さんがいるんです!橘くんはただの同期ですよ」
「あら、そうなの」
ほほほ、と真樹夫は何かを見抜いているかのように笑い、また紅茶を口にした。その日の妄想フィルターでは会社が舞台だったが、当然橘は現れず、草山に髪型をほめられた。
「誓子ちゃん、すっごくかわいいよ」
草山に抱きしめられ、髪にキスをされた。頭皮をケアするシャンプー、LC’Sジャムウ・スカルプクレンザーを使っててよかった、と内心思う。
真樹夫に与えられたときは「シャンプーまでプロデュースに必要なんですか?」と聞いたものだが、今になってやっと理解した。恋愛には細かいケアが必要なんだなぁと再認識しつつ、草山の腕の余韻を感じながら、誓子は帰路についた。
突然の恋の終焉
帰宅し、誓子が自室でメイクの練習をしていたとき、コンコン、とノックの音が聞こえた。
「誓子、いる?」
翔子の声だ。なんとなく上ずったような声で、いつもと違う印象を覚えた。静かな興奮を感じ取り、誓子は内心ドキッとする。
「…うん、入っていいよ」
誓子はメイク道具をサッと机の下にしまうと、ドアを開けた。そこにいた翔子の顔は、頬が紅潮していて、今にも泣き出しそうだが、なんだか口元が緩んでいる。嬉しい知らせの予感がしたが、同時になにやらとても不吉な気配が胸をよぎった。
「どうしたの…?」
誓子が翔子を部屋に通すと、急に翔子が抱きついてきた。
「誓子!私…ついに修ちゃんにプロポーズされちゃった…!」
翔子は感極まったのか、誓子の胸の中でぽろぽろと涙をこぼした。
「私が修ちゃんのお嫁さんになれるなんて…。夢みたい…!」
翔子は満面の笑みで誓子を見た。やはり、と誓子は一瞬感じた気配に確信を得て、足の力が抜けそうになった。が、翔子の嬉しそうな顔を見ると、祝いたい気持ちも芽生えてくる。
「すごい、おめでとう!よかったじゃない!お嫁さんになるのは翔子の子供の頃からの夢だったもんね」
涙で声が出せず、うんうんとうなずく翔子。思いのまま無邪気に喜ぶ姿が本当に愛しく思えたが、一方で「これで終わった」という絶望感もひたひたと押し寄せてきた。
ついさっき、誓子の体は草山に抱きしめられたはず。髪にキスをしてもらったはず…。誓子は、心のどこかで「キレイになったらいつか自分を選んでくれるかもしれない」などと期待していた自分に気づき、なんと愚かだったのだろうと思い知った。――罰が当たったのかな…
心の裏でちらりとそんな考えがよぎる。それを知ってか知らずか、翔子が誓子をギュッと強く抱きしめてきた。
「誓子、私誓子と離れたくないけど…幸せになるからね」

誓いのような言葉を聞いて、誓子は「そうか、結婚したら翔子はこの家をでるのか」と改めて思った。ずっと一緒に暮らしてきた翔子と離れると思うと、確かにとても悲しかった。
「うん、私も離れたくないけど…いつでも帰ってきて」
誓子もついに涙があふれてきた。その涙が、翔子の幸せを祝う涙か、翔子と離れる寂しさか、はたまた恋の終焉を思う悲しさか…誓子にはもう何もわからなかった。
⇒【NEXT】草山と翔子の結婚に複雑な感情を抱く誓子は…(シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第6話)


あらすじ
誓子は真樹夫のプロデュースを経て、会社の仕事仲間でも今の彼女を誓子ととわからないほどに印象が変化していた。
誓子が営業部の橘に書類を持っていくと、彼女がだれかわかった瞬間絶叫して驚いた。
誓子は変化を感じて嬉しくなり、足取り軽く営業部を後にする。
橘がその後ろ姿を目で追っていたことを誓子はまだ知らない…