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官能小説 【小説版】シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第6話
真樹夫の優しさ
「私…ついに修ちゃんにプロポーズされちゃった…!」
そんな翔子の告白を聞いた翌日。まだ現実をしっかりと受け止めきれていない誓子だったが、今日も真樹夫の屋敷を訪れていた。根が真面目な誓子は、いかなるときでも一度した約束は断れない質(たち)なのだ。
そんな悲しい性格を自身で呪いながら、プロデュース部屋で一人座っていると、ノック音とともに真樹夫が入ってきた。
「いらっしゃい。あら、なんだか浮かない顔ね」
真樹夫は言葉のわりに心配する様子もなく、テキパキとメイクの準備を始めた。
「ま、まぁ…いろいろありまして…」
誓子はまだ詳しく話す気分にならず、曖昧に答えた。言葉に出してしまったら、事実を事実として受け止めなければならなくなるような気がして怖かったのだ。
「そりゃあ人生だもの。いろいろあるわよ」
そう言いながら、真樹夫は手にクリームをつけ、誓子の顔にくるくると手際よく塗った。真樹夫の手の温もりが頬から伝わり、誓子はなんだか泣きそうになる。
「でも大丈夫、あなたは確実に変われているわ」
真樹夫は手を止め、ふっと微笑んだ。この人は不思議な人だ。何も聞かずとも、さりげなく静かに心に寄り添ってくれる。
「ありがとうございます…」
「うふふ、お礼はプロデュースが終わってからにしてちょうだい。まだまだやることはたくさんあるんだから!」
真樹夫は指先でぺちぺちと誓子の頬を優しくタッチし、ウインクをした。そしてヌレヌレを誓子の唇にたっぷり塗る。今日はローズの香りのようだ。誓子のささくれだった気持ちが、少し落ち着いていくような気がした。いつものように誓子が妄想フィルターに入ると、真樹夫がスイッチを押す。
――今日は草山さんに会いたくない…。
マシンの上から小さく手を振る真樹夫を横目に、誓子は心が冷たく固くなっていくのを感じていた。
顔の見えない救いの手
ふと気づくと、そこはすべてがゆらゆらと揺れていた。ときおりあちこちから細かいあぶくが見える。どうやら海の中のようだ。
海は遠くへ行くほど濃い青が広がり、底は全く見えない。美しい青緑色の世界なのに、それはまるでブラックホールの真上にいるようで、吸い込まれそうな錯覚を感じた。
「ここは…どこなの…」
不思議と息はできるようだったので、誓子は水をかき分け前へ進もうと試みた。すると、足元に違和感が。そこに足はなく、魚のような大きな尾が伸びていた。
「えっ、人魚になってる!?」

エメラルドグリーンの鱗が、ギラギラと水の中でグロテスクに光る。上半身は何もつけておらず、胸が露わになっていた。髪が海中で揺れ、ねっとり頬にまとわりついた。
「私…ここでどうすればいいんだろう」
見渡したところ、誰もいないようだ。とりあえず、海の中をさまよってみようと少し動いてみたが、人はおろか、魚すら一匹もいない。誓子はどうすることもできず、ただ呆然と立ち尽くした。プクプクという泡の立ち上る音だけが、ひたすら耳に響く。
プクプク、プクプク…。
暗い底から湧き上がる小さな泡。誓子は昇っていく様子をぼんやり眺めながら、海面へたどり着いたら跡形もなく消えてしまうのだろう、と思った。
そのとき、ふと『人魚姫』の童話を思い出した。たしか、姫が王子に会うため魔女に人間の足をもらったが、結局王子は別の女性と結婚してしまい、海の泡になって消えてしまう、という悲恋だったはず…。
――もしかして、私も泡になってしまう…?
その瞬間、足元からたくさんの泡が噴き出した。ボコボコと大きな泡が誓子を包み込む。急に、息ができなくなった。
「誰か、助けて…!」
尾をばたつかせるが、だんだん体の力が抜け、感覚が失われていく。ついに、溶ける…!と絶望したとき、誰かが誓子の手をつかんで強く引いた。
「えっ…?!」
誓子は驚いて目を見開いたが、暗いのと泡が邪魔をして、相手の顔が見えない。手の感触ではおそらく男性のようだ。ずんずんと力強く昇り、泡の中から誓子を引き出していく。しっかりと握られた手は、絶対に離すことはない、という強い安心感があった。
そして、やっと海面に到達したとき。顔を見ようとした瞬間に、唇を押しあてられた。柔らかくて温かい、でも少し強引な口づけ。誓子はお腹の奥からキュンと何かが湧き上がってくるのを覚えた。…愛おしい。まさにそんな感覚だった。

どのくらい時間が経っただろうか、ただただ、2人はひたすら唇をむさぼり合っていた。相手の背に手を回すと、細身だが引き締まった体が心地よい。相手も誓子の体を強く抱き、露わになっていた胸が相手の胸にグッと押しつけられた。甘い官能が体を突き抜ける。
――このまま、ずっとこうしていたい…
誓子は一層腕に力を込めたとき、目の前に白い光が広がり、スゥッと意識が薄まっていった。
妄想の余韻
目が覚めると、妄想フィルターが開き、メイドが心配そうな表情で温かいタオルを差し出してきた。
「だいぶうなされておいででした。ご気分はいかがですか?」
「え、えと…悪くはないですが…良くもないですね…」
メイドはタオルを誓子の額や頬へそっと当てた。どうやらひどく汗をかいていたようだ。自覚したとたん、どっと疲れを感じた。
「マイナスの脳波が強く出ていたわ。切ない夢をみたのね」
真樹夫は妄想フィルターから出力される脳波の様子を見ながら、ふう、とため息をついた。
「切ない夢…そうですね。今まで見たことのない、不思議で悲しい夢でした」
誓子は妄想フィルターに座ったまま、ぼんやりと前を見つめて言った。まだ絶望感と静かな興奮の余韻が、胸に残っている。
「今日は疲れたでしょ。今夜はゆっくりお風呂に入って、心を休めて。お風呂は美容にもハートにも優しいのよ」
真樹夫は誓子の左手を取り、もう片方の手を重ねて包み込んだ。冷えていた誓子の手に、じんわりと熱が伝わっていく。
「大丈夫、自分を信じるの。まだすべての結論を出すのは早すぎるわ」
やはり何かを悟っているのか、真樹夫は意味深に誓子へ囁いた。その強く優しい目に、誓子は心が解きほぐされていくような気がした。
「はい、ありがとうございます」
誓子は溢れそうになる涙をグッとこらえながら、真樹夫へ笑顔を向けた。この人に賭けたら、きっとまだ明るい未来に期待できるのかな…と少し前向きな気持ちになるのだった。
…しかし。綺麗になる目的を失ってしまった誓子は、結局次のプロデュースの約束をしないまま、数週間を過ごしてしまった。
ときおり思い出す夢の中の手…。間違いなく、あれは草山ではなかった。だが、おそらく知っている人のはずなのに、誰なのかわからない…。
誓子は真樹夫への罪悪感と、その謎のモヤモヤで、どうしてもプロデュースへ踏み出す勇気が持てないでいるのだった。
⇒【NEXT】目標を失ってしまった誓子。プロデュースの行方は…?!(シンデレラになる方法 番外編 〜誓子の場合〜 第7話)


あらすじ
誓子は片思いの相手である草山が、祥子にプロポーズしたことを聞いた。
失恋を受け入れられず、プロデュースの目標も失ってしまった誓子は真樹夫の屋敷で意気消沈していた。
真樹夫もそんな誓子に…