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官能小説 「妄カラ女子」…spotB〜彩子編〜・シーズン6
なぜ彼の姿が… ●榊川彩子
「好きな人とかいるの?」
その問いに、私は少し悩んでから「……います」と答えました。
「誰?」
さらに尋ねられて、はっとしました。
なぜなら、私の胸に最初に浮かんだのは、誰あろう瀬野の姿だったからです。
私は、自分は宗介さんをお慕いしているのだと思っていた。なのに……私は……。
「それは……あの……」
「あぁ、ごめん。そんなこというの、恥ずかしいよね」
答えられないでいると、イケ店さんは頭を掻きました。
しばらく不自然な沈黙が流れます。
ふいにイケ店さんが、いいことを思いついたとでもいうように手をぽんと叩きました。
「あのさ、明日、閉店時間が過ぎてから店に来られないかな。悪いようにはしないからさ。絶対、思い出に残る日にしてみせるよ」
「え、どういうことですか? 私は、その……」
「約束だよ。必ず来てね」
わけがわからずしどろもどろになっていると、イケ店さんは他のテーブルのお客様に呼ばれて、そちらに行ってしまいました。
最初の質問から一貫して、わけがわかりません。でもイケ店さんは悪い人ではありませんし、「絶対、思い出に残る」というのが何なのか気になりましたので、考えた末、私は行ってみることにしました。
翌日の夜、私はフェブラリー・キャットの閉店時間である午後11時少し過ぎに着けるように家を出ました。
最寄りの駅に着くと雨が降ってきましたが、小ぶりでしたし、遅くなるのもいやでしたので、そのまま濡れるにまかせました。
店の明かりはすでに消えていました。CLOSEDの看板が掛かっているドアをノックします。しばらく待っていると、宗介さんが顔を出しました。
「彩子さん? どうして……」
宗介さんは私が来るとは知らされていなかったようで、目を丸くしていました。
「私、イケ店さん……村川さんに閉店時間後に来てほしいといわれて……」
「そうだったんですか。そうか……店長、そういうことなんですね」
宗介さんはおひとりで何か納得されたようでした。
「あ、彩子さん、濡れてますね」
「えぇ、雨が降ってきて」
「そのままじゃ風邪ひいちゃいますよ。中に入って」
私は宗介さんにいわれるままに、薄暗い店内に入りました。宗介さんはすぐに倉庫からタオルを出してきて、私の髪を拭いてくれようとしました。
「だ、大丈夫です、宗介さん。私、自分でできますから」
「あ……っ」
宗介さんは慌てて手を離しました。
「ごめんなさい。僕、妹が二人いて……よくこうやって面倒を見ていたものですから、つい癖で……」
宗介さんの顔がみるみる赤くなっていきます。
私の心臓も高鳴っていました。静かな店内、気づかれたらどうしよう……。
「と、とにかく、そこに座って下さい」
宗介さんに勧められるままに、私は椅子に掛けました。
誰もいない店に宗介さんと二人きり……嬉しい反面、居心地が悪くもあります。瀬野の顔が何度も浮かんでは消え、また浮かびました。
瀬野、瀬野、瀬野……
それにしても、思い出に残るようなことって、何なのでしょうか。これから何が起こるのでしょうか。
私は宗介さんに尋ねようとしました。
そのとき……
宗介さんが、何か思いきったように口を開きました。
僕は決心する ●中村宗介
昨日、とつぜん店長に「明日の夜は、営業終了後も店に残っていてくれないか」といわれた。
基本的に残業なんてない店だから、当然、不思議に思った。
「何をするんですか? 掃除とか?」
他の店員たちのことも思い浮かべながら尋ねた。そういえばこの間、団体客が来たときにずいぶん騒がれて店が少し汚れたから、みんなで一度さっぱり掃除をしたいのかもしれないと思ったんだ。
しかし、店長はにやりと笑ってこう答えた。
「秘密」
え、何それ。
「……他には誰が残るんですか?」
「お前だけだよ」
わけがわからなかった。
「まぁ、俺を信じろって。絶対に思い出に残る日にしてやるから」
何が待っているのか全然予想がつかなかったけど、店長には日ごろからお世話になっているからいやともいえない。僕は店長に言われた通り、最小限の明かりだけ点け、CLOSEDの看板を出したドアを少しだけ空けて、店に残った。
そこに、彩子さんがやってきたんだ。
「私、イケ店さん……村川さんに閉店時間後に来てほしいといわれて……」
彩子さんもここに僕がいるとは知らなかったようだ。
「そうだったんですか。そうか……店長、そういうことなんですね」
僕はひとりで納得してしまった。
いつの間にか雨が降りだしていたらしく、彩子さんは濡れていた。このままでは風邪を引いてしまうから、僕は倉庫からタオルを持ってきて、彩子さんの髪を拭こうとした。実家で妹たちにしていたみたいに。
「だ、大丈夫です、宗介さん。私、自分でできますから」
彩子さんにいわれて、はっとする。
「ごめんなさい。僕、妹が二人いて……よくこうやって面倒を見ていたものですから、つい癖で……」
言い訳をしながら、顔が、赤くなってしまった。つい癖でしてしまったというのは嘘ではない。勝手に体が動いてしまった感じだ。でも、まさか彩子さん相手にやってしまうなんて……僕はどこまでもヌケている。
それにしても、店長は僕の彩子さんへの気持ちに気づいていたんだな
だからこうして、彩子さんと二人きりになる時間をつくってくれたんだ。
……ちょっと強引だったけど。
最初、彩子さんについては、ズレているし、何だか得体が知れないし、正直ちょっと引いていた。
でもまっすぐで、行動力があって、行動してうまくいかなかったらちゃんと反省して……というところには、人としても女性としても惹かれていた。
その気持ちが「好き」にまで高まったのは、一緒に食事をした夜、「人生の先生みたいな人」のために飛び出していったときだ。
心にかかっていたモヤが、すっと晴れたようだった。このまっすぐな人に、あんなふうにまっすぐに思われたい。そう思ったんだ。
彩子さんは何だか居心地が悪そうだった。それはそうだろう。なぜ閉店後の店に呼ばれたのかわかっていないんだし、夜遅くに男性と二人きりで……というのも不安だろう。
いつまでもだらだらと時間を過ごすわけにはいかない。
僕は決心する。思いきって自分の気持ちを伝えようと。
めちゃくちゃ緊張する。でも、この場をつくってくれた店長のためにも、伝えたい。すぅっと息を吸った。口を「好きです」の「す」の形にする。
――カララン。
「好き」という気持ちが声になる前に、ドアのベルが店に響き渡った。CLOSEDの札は掛かっているはずなのに……
僕と彩子さんははっとしてそちらを見た。
そこにいたのは……
辞めないで… ●榊川彩子
宗介さんが何かおっしゃろうとしたとき、店に入ってきたのは瀬野でした。
瀬野は、何か思いつめたような顔をしていました。取り乱す、一歩手前のような顔。――普通の人間であれば、ですが。
しかし瀬野は取り乱すこともなく、いつもと同じ泰然とした様子でこちらに近づいてきました。
「……どうしたの?」
「夜遅くのお出かけでしたので、心配になりまして」
瀬野はこれもいつもと同じ口調で答えます。表情もいつの間にか元に戻っていました。
「瀬野、私は……」
「すみません!」
突然、宗介さんが立ち上がって、瀬野に頭を下げました。
「大事な方を、こんな夜遅くまで連れ出してしまって……でも、僕たちの間には何もありませんから……本当です」
「宗介さんのせいではありませんわ」
私は慌てて宗介さんをかばいました。
「でも僕と一緒にいたんだから、同じことです」
宗介さんは顔を上げると、毅然と答えました。
「ご理解いただきありがとうございます」
瀬野も同様に頭を下げます。ですがその動作は、宗介さんに比べるとずっと尊大でした。
「それではお嬢様……」
瀬野がドアのほうを指し示します。
私は宗介さんがおっしゃろうとしていたことを聞きたかったものの、瀬野が最初に入ってきたときの表情がどうしても気になったので、いうことに素直に従いました。
「宗介さん、ごめんなさい。また……」
私と瀬野は、宗介さんを一人残したままフェブラリー・キャットを後にしました。
「瀬野、今日はどうしたの?」
私を後部座席に乗せた車が走り出してしばらくすると、私は瀬野に尋ねました。
「どう、とは?」
「お店に入ってきたとき、何だかひどく焦っていたように見えたわ。瀬野のあんな顔、私、初めて見た」
瀬野の肩がぴくりと動きます。
不穏な気配を宿した沈黙が流れました。聞いてはいけないことを聞いてしまったのだ……私はそう思いました。
ですが、空気はすぐに元に戻りました。
「お嬢様のお気のせいでございましょう。それよりも……」
カーステレオからパッフェルベルのカノンが流れてきます。執事のご指導タイムが始まりました。
タンタラタンタラ タラララララララ♪…
* * * * * *
「夜遅くのお出かけ自体、褒められたことではございませんが、いくら見知った店とはいえ、閉店後の、どのような方がいらっしゃるところにお一人で入るなど、不用心にも程がございます。いらっしゃったのが中村様でしたからよかったようなものの……どなたがいらっしゃるか確認もせずに行かれたのですか?」
「そうよ。だって声をかけてくれたのはイケ店さん……村川さんだったんだもの。村川さんはいい人よ」
「村川様とは、フェブラリー・キャットや中村様のライブの打ち上げでしかお会いされたことはないでしょう。店員が客に親切にするのは、売り上げを伸ばすためには当たり前のことでございます」
「……でも、せっかく誘っていただいたのだし、断りたくなかったの。いやなわけではなかったのだし」
「でしたら、お嬢様のほうから別の日時や場所……昼間の危険のない時間帯や店を提示されればよかったのです。こちらから積極的に代替案を出すことで、『いやがっているわけではない』とわかっていただけます。これは単にスケジュールが合わないという理由で何かをお断りするときも同じです」
「……わかったわ」
いつも通り瀬野の「ご指導」は流れるようで、私は口を挟めませんでした。
ですが、いつもとは違うことが、最後に起こりました。
「……とはいえ、私も反省しております」
「えっ?」
まさかご指導タイム中の瀬野が、そんな弱気な発言をするなんて……?
「相手が中村様だとわかった時点で、あえて止めるべきではなかったかもしれません。つい……」
「つい?」
「……いえ、何でもございません」
私を車から彩子を降ろすとき、瀬野はぽつりと「やはり、執事の仕事は辞めようと思います」と呟きました。
「辞めないで。これからもそばにいて私を……」
私は縋りつきたい思いで訴えましたが、もう、無駄でした。
「いいえ、決めました」
瀬野の顔には、さっき店に入ってきたときと同じ表情が浮かぼうとしていました。まだ浮かんではいない、でも気を抜いたらきっと出てきてしまう。瀬野はそれを驚異的な理性で抑え込んでいる……私にはそれがわかりました。だって、ずっと私のそばにいてくれた執事なのですから。
「今までありがとうございました」
瀬野は深々と頭を下げて、去っていきました。
もうそばにいない ●榊川彩子
数日後、瀬野は榊川家の執事を辞めました。
お父様からのお電話で、私はそのことを知りました。
「嘘でしょう……瀬野が、私に挨拶もなしに……そんな……」
「お前に会って引き止められるのがつらいから、あえて顔を合わせないのだと言っていた。瀬野の気持ちもわかってやれ、彩子」
最後に別れたとき、私に頭を下げた瀬野の姿が脳裏をよぎります。
「お父様は瀬野を止めなかったのですか?」
「もちろん何度も止めたよ。だが、瀬野の決意は固かった」
「戻る気があるならいつでも歓迎する」とも伝えたそうですが、それも見込みは薄いだろうとのことでした。
電話を切って、私は呆然としました。これまで私を支えてくれた瀬野……いいえ、支えてくれたなんて言葉ではとても足りないほどの存在だった瀬野は、もう私のそばにはいない。瀬野に自分の魂を持っていかれてしまったようでした。
私にはすぐに代わりの執事がつけられました。しかし振る舞いも気遣いも、瀬野には遠く及びません。贅沢をいってはいけないのはわかっています。それでも瀬野のことを思い出せば思い出すほど、どうしても物足りなさを感じてしまいます。
新しい執事が運転する車に乗っていても、気づけば涙が出ています。執事に余計な心配を掛けたくはないのですが、どうしようもできないのです。もうカーステレオからパッフェルベルのカノンが聞こえないのだと思うと、涙がこぼれてしまうのです。
寂しくてたまらず、フェブラリー・キャットからも足が遠のきました。未由センパイや宗介さんからもメールをいただきましたが、「体調が悪くて……」とだけ返事をしました。実際、お仕事に行くだけでどっと疲れるほどでした。
それでもしばらく経つと、少しは外に出てみようという気になりました。私は未由センパイをフェブラリー・キャットにお誘いしました。宗介さんのお顔を見れば、元気になれるかもしれませんし……。
「体調は大丈夫? 何だか……だいぶ痩せたね」
フェブラリー・キャットで久しぶりにお会いした未由センパイは、私の憔悴ぶりに驚いたようでした。
「じつは……」
私は未由センパイに、瀬野が辞めたことを打ち明けました。
「そうか……それは寂しいだろうね。あの人、何年もそばにいてくれたんだもんね」
未由センパイの優しいお言葉に、またぽろぽろと涙が溢れ出してきます。私は未由センパイに甘えて、瀬野の思い出話を語りました。未由センパイはうなずきながら、じっとそれを聞いて下さいました。
宗介さんのお顔を見れば、元気になれるかもしれない……来る前はそう思っていましたが、意外なことにそれはあまりありませんでした。それよりも、未由センパイがお話を聞いて下さったことが、私をじわじわと元気にしてくれました。
気がつけばすっかり遅くなっていました。
「そろそろ帰ろう」
私たちは揃って、フェブラリー・キャットを出ました。
未由センパイと私は、それぞれ違う路線の電車に乗るために駅でお別れしました。
私が自分の使う私鉄の改札を抜けようとしたときです。
「彩子さん!」
名前を呼ばれて、私は振り向きました。
そこには息を切らした宗介さんがいらっしゃいました。
「……どうしたんですの?」
私は他の方たちの邪魔にならないよう、改札の端に寄りました。
「何か、忘れ物でもしましたでしょうか?」
「いいえ、そうじゃなくて、あの……」
宗介さんの息が、少しずつ整っていきます。
「彩子さんが、今日、元気がなかったのが、どうしても気になって……」
「そんなにわかりやすかったですか、私」
自分で思わず苦笑してしまいました。私は確かに「わかりやすい」ほうだと自覚はあります。宗介さんにもわかってしまったのですね。
「いえ、僕が彩子さんを気にしていたせいだと思います」
「……え?」
どきん。心臓が大きく鳴ったのがわかりました。
「彩子さんに元気がないのを見ていたら放っておけなくなって……それで、追いかけてきてしまいました」
「……あの、それは、どういうことですの?」
鼓動が、少しずつ早くなっていきます。大きく、早く……
「何があったのか、よかったら話してもらえませんか? 僕は……僕は、彩子さんが好きなんです。彩子さんを元気にしたい」
……時間が、止まったようでした。
告白 ●榊川彩子
「僕は、彩子さんが好きなんです」
宗介さんの声は、どこか遠くで聞こえた音楽のようでした。
美しくて、力強い音楽です。
宗介さんがじっと私を見つめています。熱いまなざしでした。
「彩子さん……何があったんですか? ……この間お話しした『人生の先生みたいな人』に関係あることですか?」
「ええ……」
「僕は、何か力になれないでしょうか」
私はふと、思いを巡らせました。瀬野がいなくなってぽっかりと空いてしまった心の穴を、宗介さんが埋めてくれたら。これまで瀬野が私のそばにいて、私を見てくれていたのと同じぐらいの長い時間、宗介さんが私を見てくれるようになったら……この寂しさは、切なさは、空しさは、消えるのでしょうか。
いえ、消えないでしょう。
瀬野も宗介さんも、誰かの替わりにはなれない。私が今必要としているのは、まぎれもなく瀬野でした。
「いいえ、これは自分で乗り越えないといけないことだから……」
私は精一杯、微笑んでみせました。
「……好きなんですね」
「え?」
「彩子さんは、『人生の先生みたいな人』が好きでたまらないんですね」
宗介さんと目が合います。その瞬間、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。それが答えでした。
――私は、瀬野が好き。
気づくきっかけは何度もあったのに、あまりにも近くにいすぎて、自分の気持ちにずっと気づけなかった。
ふいに宗介さんが言いました。
「僕、その人と張り合います」
柔らかな笑みには似合わない、強い言葉でした。
「僕は草食に見られるけど、この人と決めたら肉食なんです。僕はすぐに、その『人生の先生みたいな人』に追いつきます。彩子さんに僕のことを好きになってもらいます」
強がっているわけではないのでしょう。口調から優しさと落ち着きが滲み出ています。
「だから……まずはその人とのこと、後悔しないようにして下さい」
宗介さんが右手を出して下さいます。
「何ですの?」
「握手ですよ。がんばってって意味です」
男性と握手をするなんて初めてです。私がおそるおそる宗介さんの手を握ると、宗介さんは力強く握り返して下さいました。
「でも、がんばりすぎないで。ときどきはフェブラリー・キャットにも遊びに来て下さい」
離された手がふわりと私の頭に乗りました。宗介さんは私の頭をぽんぽんと軽く撫でると、駅から出ていきました。
好きだと思っていた人に、好きだと自覚した人との恋を応援されるなんて……不思議な気分でした。でも宗介さんのおかげで勇気が出たことは確かです。やっぱり宗介さんはすばらしい方でした。
私は瀬野に何とかして気持ちを伝えたいと、それから瀬野が最後にどうして彼らしからぬ様子を立て続けに見せたのか、その理由を知りたいと思いました。単に慣れ親しんだ職を辞める寂しさからではないでしょう。瀬野はそこまで感傷的な男性ではないはずです。
私はお父様に「どうしても瀬野に話しておきたいことがある」と頼みこんで、瀬野のプライベートの電話番号を聞きだし、電話をしました。しかしどういうわけか、何度かけても通じません。
(こうなったら、家に直接行ってみよう)
それが常識から外れた行為であることは、私にだって薄々わかりました。だからこそ、もしも迷惑そうな顔をされたらすぐに帰ってこようと、最初に決めました。
それにしても男性の家に押しかけるなんて……またカラ回りになるかもしれません。いいえ、その可能性のほうが高いでしょう。でも、カラ回ってもいい。このまま瀬野とのことを終わりにするぐらいなら、カラ回って、のたうち回ったほうがずっとましです。
翌日、私は瀬野の家に向かいました。
ですが、瀬野のマンションまであと少しというところで、思わぬ相手に会いました。
雨宮英梨と名乗った、瀬野の元恋人の女性です。
「やっぱりあなたは、清彦につきまとうだろうと思っていたわ。清彦のスマホからあなたの番号を探し出して拒否設定にしたのは私よ。あなたにこれ以上邪魔をされたくなかったから。でも、そうしたからには今度は直接会いに来るかもしれないと踏んでいたけれど……予想通りだったわ」
背の高い雨宮さんは、顎を上げて私を見下します。冷たい視線でした。
「そこを通して下さいませんか? 私は瀬野と話したいんです」
私はその視線に負けないように、雨宮さんをじっと見つめ返しました。
⇒【NEXT】 「瀬野はもう、私にとって執事以上の存在なの。ずっとそばにいてほしい」(「妄カラ女子」…spotB〜未由編〜・シーズン7)
あらすじ
フェブラリーキャットのイケメン店員、イケ店さんに好きな人の有無を聞かれた彩子。
好きな人と聞かれて一番真っ先に浮かんだのは、執事の瀬野のことだった…。