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官能小説 「妄カラ女子」…spotB〜彩子編〜・シーズン8
かっこいいな ●村川敦史
「わかったぞ! 苦労したよ」
彩子ちゃんに、元・執事の瀬野さんとやらを探し出すと公言した翌日。
俺は瀬野さんらしき人物はやはり北海道・札幌にいることを突き止めた。普通の人探しなら、いつもだったらその日のうちにはできてしまうから、俺にしては苦労したほうだ。
フェブラリー・キャットに出勤してすぐに宗介にそのことを話すと、顔がぱぁっと明るくなった。
「本当ですか!? じゃあさっそく彩子さんに連絡します」
宗介は屈託のない笑顔を浮かべて、スマホを取り出す。
「おい、ちょっと待てよ」
俺はその腕を軽く掴んだ。
「……お前、本当にそれでいいのか?」
質問の意味を、宗介は理解していないようだ。ぽかんとした顔つきで首を傾げる。
俺はその顔を覗きこんだ。
「このままだと彩子ちゃんは瀬野さんって人とくっつくことになるぞ。お前、彩子ちゃんが好きなのに、それでいいのか。お前さえよければ、俺は『結局、瀬野さんは見つかりませんでした』ってことにしてもいい。男なら奪っちまえ」
宗介はしばらくぽかんとしたままだった。ひょっとしてこいつはまだ意味がわかってないのかと思って、もっと詳しく説明しようとしたとき、宗介は笑って首を横に振った。
「店長の気持ちはとても嬉しいんですけど、お断りさせて下さい」
口調は穏やかだが、言葉のひとつひとつに力がこもっている。
「もしそうやって彩子さんと付き合えたとしても、彩子さんの心の中には瀬野さんがずっと残ったままでしょう。僕は好きな人に対しては肉食だし、独占欲も強いんです。好きな女性が、誰かのことを思い続けたままでいるなんて耐えられません。だったら瀬野さんの問題にちゃんとケリをつけてもらってから、改めて奪いにいきます。男だからこそ、そうしたいんです」
俺はまじまじと宗介を見つめた。
コイツは見た目よりもずっと男気がある。いつもがおとなしいからといって、草食なんかじゃない……そのことに最近になってやっと気づけてきた俺だったが、ここまでとは思わなかった。
「それに彩子さんは、こんなとき人まかせにして、落ちこんで閉じこもっているタイプじゃありません。今僕がきっと本人も、時間はかかっても瀬野さんのことを見つけだすでしょう」
「……宗介、お前、かっこいいな」
俺は大きく息を吐いた。縁結びカフェの野望は遠のいてしまうかもしれないが、こんなところを見せつけられてしまったら仕方がない。
「彩子ちゃんに知らせて、できれば近くで助けてやれ。何だったらバイトは休んでもいい。俺にほかにも何かできることがあったら教えてくれ」
俺は宗介の背中を、敬意もこめたつもりで少し力を入れて叩いた。
居場所を教えて ●榊川彩子
瀬野は北海道・札幌にいるらしい――。
イケ店さんのご報告によると、瀬野らしい者の姿を、札幌のとある大きな公園の近くで見かけた方がいらっしゃるそうでした。
それ以上のことはわかりませんでしたが、それだけわかれば十分です。
あとは私が自分の足で探しだせばいいだけですから。
お父様から聞いたお話では、瀬野の実家は以前はそのあたりにあったそうです。瀬野はそこで生まれ育ったものの、ご家族たちは何年も前に同じ北海道の別の場所に引っ越してしまったとのことでした。お父様が瀬野のご実家に電話してくれましたが、ご家族も今、瀬野どこにいるかはわからないそうです。
瀬野は人生の転機を迎え、少年時代の思い出の溢れる地を再訪したのでしょうか……。
何もわかりません。何も……。
でもだからといって、何もしないでいるわけにはいきません。
私はさっそく榊川の者に、私と未由センパイと、一緒に行動してくれると申し出て下さった宗介さんの飛行機のチケットを手配してもらいました。
「さすが彩子。まさかファーストクラスだったとはね……」
「この座り心地、普通の席とは全然違いますね……」
未由センパイと宗介さんは飛行機の席がファーストクラスだったことに驚いていらっしゃいましたが、私にとってはいつものことです。
「あ、あの……普通席のほうがよろしかったでしょうか」
心配になって尋ねると、お二人は「全然!!」と揃って首を横にぶんぶんと振りました。
札幌に到着すると、さっそく行動を開始しました。
まず目指したのは、イケ店さんから聞いた公園です。
「さて、これからが正念場だね」
ベンチに座った未由センパイが、私が用意した瀬野の写真を眺めます。未由センパイも私も宗介さんも、休日を利用して来たので、時間の余裕はありません。とにかくこの周辺を歩き回って聞き込みをする、それが私たちの立てた計画でした。
公園を出るとすぐに、思わぬ人物を見かけました。
雨宮さんです。
瀬野が行った場所の見当はつく――そうおっしゃっていた雨宮さんがいるということは、私たちがこの近辺を探すのは正解だったようです。
「あの女性、雨宮さんです……!」
私は未由センパイや宗介さんが止めるのも聞かずに走り出しました。
突然後ろから声を掛けられて、雨宮さんはぎょっとしていました。
「雨宮さん、あなたがここにいらっしゃるということは、瀬野も近くにいるのですね」
「さぁ、どうかしら。ただの偶然よ。私は羽を伸ばしに北海道観光に来ただけよ」
雨宮さんは口の端に冷たい笑みを浮かべていましたが、その笑みはどこかぎこちないものでした。
私は直感しました。嘘だ、と。
「それに私がもし知っていたとしても、あなたに心当たりを教えるほど甘くはないわ。お父様の七光りでも利用して、せいぜいがんばることね」
「待って下さい!」
思わず、雨宮さんの肩を掴みました。
「離して!」
雨宮さんがその手を振り払おうとします。
次の瞬間、私は自分でも信じられない行動に出ていました。
道の真ん中で、雨宮さんに土下座してみせたのです。
「……お願いです。瀬野の居場所を教えて下さい。瀬野は私にとって、とても大切な人なんです」
通行人たちがじろじろとこちらを見ます。中にはスマートフォンのカメラを向ける方もいました。未由センパイと宗介さんが慌てて私を立ち上がらせようとしましたが、私はそのまま土下座を続けました。
野次馬の輪がどんどん大きくなっていきます。
「わ、わかったわよ」
最初に根負けしたのは、雨宮さんのほうでした。
「このあたりは清彦にとって思い出の場所らしくてね。まだ榊川の執事を始める前、私とも連絡を取っていた時期に、この近くのマンションをローンで買ったと教えてもらったの。とはいえ、そのマンションがどこにあるかは私にもわからない。……私が知っているのはそれだけ。これでいいでしょう?」
私がようやく立ち上がると、雨宮さんは人の輪を破ってそそくさと去っていきました。
瀬野は、このあたりに「来た」だけでなく、「今もいる」――。
私たちは再び、捜索を始めました。
まさか… ●榊川彩子&小森未由
捜索は手分けして行うことにしました。
みんなでとにかく歩き回り、写真を見せてひたすら話を聞きました。
3時間ほど経ち、疲れを感じてどこかの喫茶店でひと休みしようと考えたとき、スマートフォンが鳴りました。未由センパイからです。
「いたよ! 見つかった!」
「えっ!?」
私は思わずスマートフォンを握りしめました。
モワンモワンモワワ〜ん♪* * * * * *
妄想劇場開幕の音とともにこんにちは。小森未由です。ちょっと彩子パートから失礼しますね。
瀬野さんを見つけたいきさつについて、ちょっとお話しさせてもらうね。
私はちょっと足を伸ばして、やたら縦に長い公園に沿って歩いた。最初は誰彼かまわず声をかけていた。半ひきこもりみたいな生活を送っていたわたしには、すごーく勇気のいることだったけどね。
そのうちに「何?事件?」とか妙な方向で悪目立ちし始めたから、仕方なく、これぞ! という人――瀬野さんと同年代で、同じような雰囲気の人に絞って声をかけることにした。ほら、人は似ている者同士集まるっていうから。
で、きょろきょろしていると……なんと北村くんを見つけたんだ。こんなところで! 北海道でだよ!
この間告白を断ったばかりでできれば気づかれたくなかったけれど、北村くんもわたしにほぼ同時にお互いに気づいてしまった。そうなった以上、無視はできない。
話を聞いてみると、北村くんは観光がてら、こっちに住んでいる大学時代の先輩に会いに来たということだった。わざわざ会いたいっていうぐらいの人なんてどんな人なのか、好奇心も、話が途切れがちになる気まずさもあって詳しく聞いてみると、「ちょっと前まで榊川財閥で執事をしていたらしいんだ」なんてびっくり発言が飛び出すじゃない。
瀬野さんは雨宮さんの行った通り、近くのマンションに住んでいて、北村くんはそこに泊まらせてもらっているとのことだった。今は一人でふらっと市街観光をしていたそうだ。
彩子の了承を得る前ではあったけど、私は北村くんに事情を話して、まずは自分が瀬野さんに会いに行くことにした。いきなり彩子が行ったら、今回の経緯から考えて、もしかしたら拒絶するかもしれないからね。
私は瀬野さんに、彩子が瀬野さんに会いたい一心で札幌まで来たことを話した。彩子が雨宮さんに街中で土下座をしたことまで話した。彩子にしてみれば言われたくなかったことかもしれないけど、「会いたくない」と断られるよりはましだと思ったから。
その話が、効いたようだった。
顔色の変わった瀬野さんは、「……会います」と決心してくれたのだった。
* * * * * *
私は未由センパイから聞いた住所に急いで向かいました。
指定されたマンションは、最初に着いた公園のすぐそばにありました。
玄関のオートロックで部屋番号を押すと、何も答えがないまま入口のドアが開きました。
エレベーターで上の階に向かいます。
部屋のインターホンを押す手が震えました。
チャイムが鳴って、何秒経ったでしょうか。私には永遠のように長い時間に感じられました。
そして、その永遠を破ってドアから出てきたのは……私の愛しい人、瀬野でした。
その胸に、私は何の躊躇もなく飛び込みました。瀬野も私を受け入れてくれました。
私たちはお互いを強く抱きしめ合いました。
その横を通って、未由センパイと北村さん――というお名前だとは後で知ったことですが――は静かに部屋を出て行きました。
普通の女の子として ●榊川彩子
「小森様からすべて聞きました……お嬢様が、私が昔、口にしたことから、ここにいると見当をつけて下さったこと。英梨に対して、街中で土下座までなさったこと……」
部屋の中に入ると、瀬野はもう一度私を抱きしめました。
私はその力強さに、うっとりするような思いで身を委ねました。
「榊川のご令嬢ともあろうお方が、土下座などと……私がいたら、身を挺してでもお止め致しましたのに……」
榊川の令嬢……その言葉が、今の私には重く、冷たく感じられました。
あぁ、私は……普通の女の子として生まれたかった。
そうしたら瀬野も、ちょっとカラ回りしがちな女の子として、恋愛対象にしてくれたかもしれません。
でも、自分にないものをいつまでも欲しがり続けるわけにはいかない。
「瀬野、聞いて」
私は顔を上げました。
「お父様は私と瀬野のことを許して下さったわ。だから、私のことを好きだというのが嘘ではなかったのなら……一緒にお父様のところにお願いに行きましょう。私たちが今度は男女として向き合えるように。私は瀬野を愛しているの。お願いだからもう、いなくならないで。ずっと私のそばにいて」
私は思いのたけを訴えました。
しかし、瀬野の顔は悲しげに曇るばかりでした。
「嘘であるわけがありません。しかし、私とお嬢様が結ばれるなど、あってはいけないことでございます」
瀬野は私を離し、背を向けました。
「……頑固者!」
私はたまらず、その背中に縋りつきました。
「自分のような者がいては、榊川の家門が汚れる……あなたはそう言ったわね。でも私もお父様も、そんなことは気にしていないわ。誰でもない私たちが言っているのよ」
瀬野の背中がぴくりと動きます。私は続けました。言いたいことは、まだまだありました。
「……私は、自分が幸せになりたいためだけに言ってるんじゃないわ。私は瀬野を、榊川の呪縛から解放したいの。あなたがお父様に恩を感じるのは当然のことだと思う。でもそのために自分を卑下するのは間違っている。そんなことはお父様だって望んでいないわ。あなたはとても真面目で誠実だから、そうでないといけないと思い込んでしまっただけ。私を突き放すのならそれでもいい。でもお願い……どんな道を選ぶとしても、もう、自由になって」
瀬野は後ろを向いたままでした。外から子供のはしゃぐ声が聞こえて、私は自分が今、どこか遠い見知らぬ国にいるような気になりました。
大きな窓からは、沈んでいく太陽の光が静かに降り注いでいます。
穏やかな夕暮れでした。心なしか、東京よりも空気が透き通っているような気がしました。
瀬野が、ゆっくりとこちらに向きなおります。
そして、私は……神様を信じたくなりました。
「私も、もう離れたくありません」
瀬野は私を、もう一度抱きしめたのです。さっきよりも、ずっと強く。
「お嬢様のおかげで、私は今、やっと本当に自由になれました。孝造様に感謝しつつ、自由に……」

瀬野の途中から声が潤み始めました。瀬野は泣いていました。
私は瀬野を抱きしめ返しました。小さな子供を慰めるように。
「お嬢様……愛しています」
瀬野の唇が近づきます。目を閉じるとすぐに、あたたかいものが唇に触れました。
舌がゆっくりと、唇を割って入ってきます。瀬野の舌はそのままゆっくり、私の舌を、口内を慈しみました。初めてなのに、とろけそうなキスでした。
キスの感触 ●榊川彩子
瀬野は、私が愛しくて愛しくてたまらないといった様子で、キスをしてくれました。瀬野の気持ちは、唇から肌に注ぎ込まれるようにはっきりと伝わってきました。
キスは、私の体のさまざまなところに優しい雨のように降り注ぎました。髪に、額に、頬に、唇に、首筋に……胸元に。
首筋や胸元へのキスの感触は、私が予想していなかったものでした。
くすぐったい。でも同時に気持ちよくて、体が芯から痺れとともに熱くなる――。
もっと求めたいような気も、恥ずかしいような気もします。
「んんっ……」
私は思わず吐息をこぼし、瀬野の首筋にしがみつきました。
止めてもらいたくてそうしたのか、キスより激しいもので、とろとろに溶かしてほしくてそうしたのか、自分でもよくわかりません。
瀬野の動きが止まりました。
「申し訳ありません。あまりにも愛おしくて、つい……」
瀬野が目を伏せます。
「孝造様に……お父様に、改めてきちんとお願いしようと思います。お嬢様、いえ、彩子さんとのお付き合いをお許し下さいと」
瀬野は私をじっと見つめました。その視線にもう迷いはありませんでした。
「えぇ、戻りましょう。東京に」
私はうなずきました。
こうして私と瀬野、未由センパイと宗介さんは東京に戻りました。
後でわかったことですが、未由センパイのお知り合いで瀬野の大学時代の後輩だった北村さんは、なんと雨宮さんの後輩でもあるとのことでした。
私が瀬野を見つけたとき、雨宮さんはまだ街中で瀬野を探していたそうです。そんな雨宮さんを偶然未由センパイと北村さんが見つけ、もう瀬野と私が会ってしまったことをお話ししたところ、雨宮さんは泣きだしてしまったそうでした。
しかし北村さんが、
「先輩、少し歩きましょう」
と未由センパイと別れ、雨宮さんを慰めてくれたそうです。
お礼をいわなくてはいけない人が、またひとり増えました。私は本当に、いろんな人に支えられてここまで来たのでした。
ですが、事はこの期に及んでも簡単には進みませんでした。
私たちがお父様とお母様にご挨拶をしようと榊川の家に行くと、応接室にやってきたのはお兄様お二人でした。
お二人の険しい表情から、私も瀬野もただごとではないとすぐに察しました。
「話は聞いた」
張り詰めた空気の中、上のお兄様――孝一お兄様がまず口火を切りました。
「彩子、お前と瀬野の付き合い自体に、口を出す気はない。ただ、この先結婚ということになれば、瀬野は必然的に榊川のトップ近辺で経営にも大きく関わることになる」
ごくり、と瀬野が唾を飲んだのが聞こえました。
続いて、下のお兄様――孝二お兄様が言いました。
「父さんは瀬野をずいぶん買っているようだが、俺たちはまだ信用していない。今まで執事をしていた男に、果たしてそんな大役が務まるのか……お前たちが結婚を前提に付き合うというならなおのこと、俺たちは瀬野をテストしなければならない」
「テスト?」
私は聞き返しました。いったいお兄様たちは瀬野に何をさせるつもりなのでしょう。
「どんなことでも、何なりとお申し付け下さい。必ずやり遂げてみせます」
瀬野は胸を張って、お兄様たちをじっと見返しました。
「お前が雨宮という女性からヘッドハンティングを受けていた橋本財閥の海外貿易部門と、一部業務提携を結びたい。その商談をまとめてほしい」
「そんな……!」
立ち上がってしまいました。ヘッドハンティングを断った会社に商談に行ってこいなんて、いくら世間知らずな私でも無理難題だとわかります。商談自体はビジネスとはいえ、先方の瀬野への心証は相当悪くなっているはずです。
「それができたら、彩子との結婚を……榊川財閥の一員になることを認める。だが、できなかったら、彩子のことは諦めてほしい」
結婚相手をやっと見つけたと思ったら、こんなところに思わぬ壁があったなんて……。
これを乗り越えられれば、私と瀬野は結ばれる。でも、あまりにも高い壁でした。
私は瀬野を振り返りました。
瀬野は表情を緊張でこわばらせながらも、はっきりとこう答えました。
「わかりました。おまかせ下さい」
あらすじ
清野に思いを伝えた数日後、彼は失踪してしまった。
困った彩子はフェブラリー・キャットに助けを求め…。