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官能小説 同居美人 プロジェクトA 〜千織編〜 シーズン9
「強くなれたのだろうか」
私と想子ちゃんは、篠村さんと福生さんに、池部さんを今後どうするかについて意見を求められた。
より正確にいえば、二択のうち、どちらを選ぶか答えてほしいといわれた。
池部さんに出ていってもらうか、それとも居続けてもらいたいか。
私が選んだのは、後者だった。
「池部さんには今までたくさんお世話になっているし、今回のことを差し引いてもいてほしいです。そもそも連絡を取り合っていたのはなぎささんが道場を出ていった後だと考えれば、ルールは破っていないわけだし」
ここまで言って、ひとつ息をつく。冷静に、丁寧に説明しなければ。池部さんの進退に関わる話なのだから。
「軽率だというのは認めます。でも、私は今はもう許せますし、皆さんにも許してほしいと思います」
私も人にはいえないようなことをしてきたので、ともすれば腰が引けそうになる。だけど篠村さんはそれも分かった上で意見を求めているのだから……と、あえて自分を棚に上げた。
想子ちゃんは私以上に強く、池部さんに出ていってもらうことに反対した。
「ビューティー道場は私たち女性だけでなく、カリスマさんたちも人間を磨きあげていく場所ではないのでしょうか。池部さんが今回したことだって、十分反省しているのであれば、池部さんの今後の糧になるはずです。失敗ではなく、成長のためのきっかけだったと見てあげることはできませんか」
その口調は私以上に強く、しっかりしていた。語気こそ荒くはないものの、「断固戦う意志」ともいえる雰囲気が滲み出ている。
意外だった。普段おとなしい想子ちゃんがこんなにはっきりと主張するなんて。
「わかった。参考にさせてもらうよ」
あの篠村さんでさえ、気おされたようだった。
想子ちゃんと二人だけになってから、私は彼女に池部さんと何かあったのか尋ねた。
あれほど強く出られるなんて、二人の間に何かあったのでは……と勘繰ってしまったのだ。
想子ちゃんはしばらく迷っていたが、しばらくして「千織ちゃんにも協力してもらったほうが、もしかしたらいいかもしれない……」と、誰にも言わないことを約束させた上で、池部さんから相談を受けたことと、その内容を話してくれた。
「本人がどうしても出ていきたいというのなら止められない。でもどんな形にしても、今、池部さんが出て行ったらみんな苦い気持ちになると思うの。だから、やれるだけのことをやりたい。それがカリスマさんたちへの恩返しにもなるだろうし」
まっすぐこちらを覗き込んでくる想子ちゃんを、眩しく感じる。
想子ちゃんは本当に強くなった。以前であればこんなに深く、しかも多くの人のことまで視野に入れて物事を考えたりも、それをきちんと自分の言葉で主張することもできなかっただろう。
私はどうなんだろう。ちゃんと成長でき、強くなれたのだろうか。
なれていると、思いたい。
失敗も反省もたくさんあるけれど、乗り越えるべき壁を、ゆっくりとではあってもひとつひとつ乗り越えられたという自負は、ある。
その中で、ちょっと気を抜くと暴走してしまう大きすぎる感情のエネルギーは、自分を成長させる方向に何とかして充てることが大事なのだと知った。いつも完璧にできることではないだろうけど、目指すところがわかっただけでも大きい。
「恩返し……か」
私は呟く。
想子ちゃんに、できる限りのことは協力すると約束した。
「気持ちはわかる……」

一方で、私と平野井さんの溝はどんどん広がっていった。
理由はもちろん、結婚観が一致しないことがわかったからだ。
私も頑固だし、平野井さんも意外と頑固だった。
「結婚したら専業主婦になることは考えていなかったです。仕事を続けるつもりでした」
妥協点を見つけたい気持ちもあったが、お互い、結婚後の理想の生活として話したことは昔からの夢だった。
向かうゴールが違うのなら、いつか道はふたつに分かれる。
この人とは結婚しない、いや、できないだろう。であれば、この年齢で付き合うのは現実的ではない――。
口に出さないまでも、お互いそう思い始めた。
だが、一度心から好きになった相手だ。
理性がそう結論を出したからといって、簡単にあきらめられるものではない。
こんなときは、やっぱりカリスマさんに相談したい。
もうすぐ卒業できるにしろ、そうでないにしろ、一緒にいられる時間はもう決して長くはないだろうから。吸収できることは、しておきたい。教えてもらえることは、教えてもらっておきたい。
私は福生さんと小島さんに意見を聞いてみることにした。
福生さんはなぎささんを捕まえる一件で距離が近づいた気がしたし、小島さんはそもそもこの状況に至るアドバイスをしてくれた張本人だからだ。
うさぎに餌をあげながら、福生さんは尋ねた。
「千織ちゃんはどうしたいと思っているの?」
「できればですけど、平野井さんにもう少し譲ってもらいたいと思ってます。私ももちろん譲らないといけないところはあるだろうけど、今の時点ではどこをどうすれば譲ることになるのか、ちゃんと見えてこなくて……お互い、ちょっとかたくなになりすぎちゃっているような気もします」
「そうだな……じゃあお互いの昔の話でも、一度じっくりしてみたらどうだ。いったん心をほぐすのも兼ねて」
「昔の話?」
ノンキなことを言い出すとひそかにいぶかしみながら、首を傾げる。
「そう。小説で人物を描くときにつくづく思うのだけど、人間の表に出てくる行動や考え方、言葉といったものは、全部過去の経験からできているんだ。だから私の場合、登場人物は小説に出る前に何をしていたかということから考えるようにしているんだけどね。お互いの過去のことをもっとよく知れば、解決の糸口を掴めるかもしれない」
過去、か。
未来のことばかり考えていて、全然頭に浮かばなかった。
でも、確かにそうだ。未来は過去があってこそ、できあがっていくもの。
私はさっそく、平野井さんに子供時代や学生時代など、昔の話を聞いた。
きっとそこに、平野井さんが結婚相手に専業主婦を希望する理由や、私が仕事をしながらでも平野井さんが望む生活を送ることのできるヒントが埋まっているはずだ。
平野井さんが語ったことは、こうだった。
共働きの両親を持つ彼は、鍵っ子で一人っ子だった。
そこまでは以前聞いていたけれど、じつは毎日かなり寂しい思いをしたらしい。中学校に入った頃には暗くがらんとした家に帰るのが無性にいやになって、夜遅くまでつるめる悪い仲間と付き合いかけたこともあるという。
「俺、子供が生まれたら絶対にそんな思いをさせたくないんだ。『お母さんがいつでもいる家』をつくるのは、子供時代の俺を救うことでもある。相手が専業主婦になれるぐらいは稼いでいるし」
お母さんがいつもいる家……それは今の仕事を今のまま続けていれば、絶対に無理だ。
多少早く帰らせてもらえるようになったとしても、「いつも」はさすがに難しい。
平野井さんの気持ちはわかる……でも。
どうしたらいいのだろう。
「予想外を楽しめる相手」
数日後、俺は大学の同級生で元・トレーニングの生徒だった生駒さんを訪ねた。
結婚した今は泉という苗字になっていたが、もともと苗字で呼んでいた相手だったので、結婚後も生駒さんという呼び方をしていた。仕事は旧姓で続けているようだし、本人もそれで違和感はないようだ。
元、というのは、今はトレーニングを休んでいるからだ。
妊娠が発覚してすぐにジムを休会し、今は七ヶ月になる。
相談がしたいことがあるとメールで切り出すと、自分で役に立てることならと快く家に招待してくれた。
平日の夜、旦那さんはまだ帰ってきていないようだった。
できれば生駒さんだけに話したいと伝えると、旦那さんが家にいない日時を教えてくれたのだ。
だいぶ大きくなったお腹をさすりながら、生駒さんは俺を迎えてくれた。
「本当はまだ妊娠するつもりはなかったんだけどね。いろいろ予定が狂っちゃって大変だったわ」
彼女は苦笑したが、お腹を撫でる手には十分な愛情が込められているように見えた
出してもらったハーブティを口に運びながら、さっそく話を切り出す。
相談というのは、もちろん千織ちゃんとのことだった。結婚観が合わずに、別れの危機さえ感じていることを正直に打ち明ける。
「平野井くん、自分の理想にこだわりすぎじゃない?」
生駒さんはあっけらかんと答えた。
「そう……かな」
自覚がまったくないわけでもないが、第一声でそういわれるほどとも思わなかった。
理想にはこだわるなんて当たり前だろうと思っていたふしもある。
「そうだよ。理想があるのは、目指すべき目標があるって意味では確かにいいことかもしれないけど、結婚なんて予想外だらけだよ。お互いの全然知らなかった面に出くわしたり、家族や会社が今まで以上に強く関わってきたり、結婚前は想像もできなかったことがいろいろ起こったわ。いきなり妊娠しちゃったのもそう。本音をいえば、まだ休職したくなかったんだけどね」
「そうか、大変だったんだな」
俺は眉をちょっとしかめてみせる。
だが生駒さんはあっけらかんと笑い、首を横に振った。
「ぜーんぜん。むしろ楽しいわよ。予定外だとか、予想もしなかったことが起こるのはそりゃあびっくりするけど、夫はその予定外を一緒に楽しめる相手なの」
「いやじゃないのか」
ちょっと驚いた。
理想通りの生活を送れていないことに、不満はないのか。そう尋ねる。
「私は自分の理想の生活と結婚したんじゃなくて、夫と結婚したのだから、自分だけの理想通りにいかないことがあっても当然よ。そもそももし100パーセント理想の生活を実現できる相手と結婚したいと思っていたとしたら、いつまでも結婚できなかったと思う。だって、そんな人は絶対にいないもの」
そこまでいって生駒さんは、一度ハーブティに口をつけた。話し続けたから喉が乾いたのだろう。
そして、生駒さんの次の一言は俺のかたくなだった心を少しだけ溶かし、気持ちをわずかに楽にしてくれた。
「だからね、私、結婚って、理想の相手や、理想の生活を実現させてくれる相手を探すんじゃなく、この人とだったら理想と多少食い違ってもやっていける、楽しめる、話し合っていけると思う人を選ぶのが大事だと思うの」
「こんなことになるなんて」
私は小島さんと過ごす時間が少しずつ増えてきた。
平野井さんとのことを相談したのがきっかけだったが、小島さんはこれまでいろんな女性やカップル、生き方を間近で見てきたせいなのか柔軟で、良くも悪くも他人にあまり希望を持たないタイプの人だった。
それはそれで寂しいという人もいるかもしれないが、平野井さんのことがあったせいもあるのか、今の私のとってはかえって気が楽で、「自分のパートナーにはこういう人のほうが向いているのでは」と、ときどき感じてしまうこともあった。
(小島さんを好きになれれば、楽になれるんだろうなぁ)
以前惹かれたことも忘れかけて、そんなことを思ったりもする。
でも、だめだった。
そんなふうに考えること自体、平野井さんを好きだと証明しているようなものだからだ。
一方で、平野井さんとの距離はどんどん広がっていく。
卒業を目前にして、こんなことになるなんて考えもしなかった。
ある休日、私と小島さんは連れ立って出かけようとした。買い物に付き合ってほしいと頼まれたのだ。
普段お世話になっている人だから、自分で役に立てることがあるのならと二つ返事で承諾した。
玄関から出ていこうとすると、ちょうど休みが重なっていた平野井さんに後ろから呼び止められた。
「ごめん……千織ちゃんと話したいことがあるんだ」
平野井さんは私と小島さんを交互に見つめる。
「今すぐにしなくてはいけないことかな。一緒に買い物に行こうと思っていたんだけど」
「できれば早いほうがいい」
二人のちょうど真ん中あたりで、見えない火花が散っているような気がした。
男性に取り合われるなんて夢のようなシチュエーションではあるけれど、実際その場に身を置いてみると、気まずさのほうがずっと大きい。
「千織ちゃんはどうしたい?」
小島さんは私に尋ねた。
「私は……」
言葉に詰まってしまう。
普通であれば、ここは小島さんと行くと即答するところだ。私にだってそのぐらいの常識はある。前から約束していたのだし、だから小島さんもこのために時間を空けていた。
なのに、答えられなくなってしまったことが、答えになった。
「……わかったよ」
小島さんは小さく溜息をついて、肩をすくめた。
「納得いくまで話し合って、答えを出せばいい。買い物はいつでもできるから、ゆっくり待っているよ」
平野井さんと私とどちらに言うでもなく言って、小島さんは自分の部屋に戻っていった。
「今まで、凝り固まった考えを君に押しつけていた」
平野井さんの部屋で、開口一番まずこんなことを言われた。
「よく考えてみたんだ。この先、君のいない人生を送ることを想像するよりも、全部理想通りじゃなくても、君が隣にいる人生のほうがずっといいって」
何だか言葉がぎこちない。平野井さん自身も、まだそんな考え方に頭と体が慣れていないのだろう。
でも、そうしようと思ってくれただけでもうれしかった。始めの一歩は大抵、小さいものだ。
「君が本当にしたいと思ったことは、誰にも止められないし、止める権利なんかない。でも、誰かといる未来は一緒に作らなくちゃできないものだ。それならお互い歩み寄らなきゃね。俺は君が大切で、でも俺自身のことも俺は大切にしたいと思っている。千織ちゃんには千織ちゃんらしくいてほしいし、俺も俺らしくいたい。だから二人で歩み寄っていこう。君にも歩み寄ってほしい」
危機ながら、恥ずかしくなってしまった。
私はこのところ、ただ単に溝が広がったとだけしか感じていなかったけれど、その間に平野井さんはこんなことを考えていたのだ。
私はなんて浅はかだったんだろう。
「仕事を頑張るのは応援するよ。でも二人の時間は大切にしたいな。子供が生まれたら、子供と一緒の時間も。結婚したら思いも寄らない大変なことも、思い通りにならないこともたくさん出てくるだろうけど、千織ちゃんとなら一緒に乗り越えていけると思う」
平野井さんはそこで一度黙ると、次の一言に備えて息を吸った。
「愛しているから」
「愛しているから、ずっと一緒にいてほしい」
平野井さんは私をまっすぐに見つめて言う。
私はしばらく呆然としていたが、三秒ほど経ってやっと顔がぼっと熱くなった。
あまりにも嬉しすぎて、すぐには理解できなかったのだ。
「私も……平野井さんのことが好きです。私も平野井さんに歩み寄っていきたい。いろんなことを一緒に乗り越えていきたい」
そうはっきり誓えたのは、それからさらに数秒経ってからだった。
「俺たち、一からやりなおそう。 どこなら譲れて、どこは絶対に譲れないのか、譲れないとしたら理由は何なのか、ちゃんと話し合おう。今だけじゃなく、これからもずっとそうしていこう」
「ええ」
私はうなずく。
ごく自然に……お互い意識したわけでもないのに、二人の唇が近づいていく。
まるで「新しい恋」が始まった喜びを分かち合おうとするように。
でも、すんでのところで同時に止まった。
「卒業してから、ね」
私たちは二人して笑い合った。
数日後、篠村さんに呼び出された。
「みんなで話し合って、千織ちゃんはもう卒業しても構わないということに決まった。おめでとう」
うれしいというよりも、こんなにあっけなくていいの? という、肩透かしを食らった気分だった。
もっと大々的に発表をするとか、そんなことを想像していたんだけど。
でも、こんなふうに伝えられたのには理由があった。
想子ちゃんの卒業もほぼ確定しているということだったけれど、まだ正式には決まっていないらしい。
先に私の卒業を伝えてしまっては真面目な彼女のことだから変に焦ってしまうかもしれないし、せっかくなら二人一緒に発表したほうが気まずくもならないだろうという配慮からだった。
「どうせならちゃんと卒業式もしたいしな」
篠村さんは言う。最初おでん屋さんの屋台で会ったときには想像できなかったぐらい厳しい人だったけれど、厳しいだけの人でもないのだ。
篠村さんはもうひとつ教えてくれた。
卒業の、最後の決め手になったこと。
それは私と平野井さんの結婚観の違いに、私たちがどう結論を出すか、だった。
「『恋愛禁止』状態を保ったまま、つまりお互い理性的なままで着地点を見出せるかどうか。一時の感情や熱に流されて自分を殺すのは簡単だ。でも、それでは絶対に長続きしない。あくまでも冷静に、自分に必要なことを伝えられるか、相手の意見をきちんと受け止められるか。それは今まで学んだことの集大成にもなるだろうと思ったんだ」
篠村さんとしては、どっちに転んだとしても、つまり私たちが恋愛を始めないことを選んだとしても、逃げずに結論を出せばそれでよかったらしい。
しかし、うまくまとまったのならそれは喜ばしいことだと言ってくれた。
一足遅い想子ちゃんの卒業。
池部さんがここを出ていくか否か。彼となぎささんのこと。
気になることはまだ残っているけれど、私自身はひとまず落ち着いたことになる。
私と平野井さんは、篠村さんから「あること」を許可された。
「想子ちゃんがいるからあくまでもコッソリやってほしいんだが、もう卒業決定だからな。みんなで卒業式をする前に、先に二人でゆっくり祝ってきても構わないぞ」
それはつまり、お泊りの許可だった。
あらすじ
千織と大樹の結婚観が大きく食い違っていることがわかり、大きく溝ができてしまった。
そこで2人はある人に相談をすることに…。