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官能小説 ここにいること 2話 (休日の出会い)
休日の出会い
年月という香りが染み込んだ店内。心にまで流れ込んでくるような優しいコーヒー。
すっかり休日の定番になった『喫茶 白樺』で、今日もキリマンジャロを2杯目。休日用の本も、ここで読むのが一番だ。
―――ガタン。
突然テーブルが少し揺れた。
慌ててコーヒーに手を伸ばしたとき、ギュンと心臓が跳ね上がる錯覚と共に、全身が硬直した。なにしろ、見ず知らずの男が、目の前に座っているのんだから。
「この店、いいですよね」
頭も体もフリーズしている私に、男は、顔の全部で笑って話しかけてくる。
「…あぁ、えぇ」
なんとか動き始めて、警戒のサインを出した脳に従って、私は生返事をして本に目を戻す。
そして、バッグからタバコを出して火をつけた。
(煙たがって、どこかに行ってくれないかしら…)
「あ、俺と同じの吸ってるんだ。マスター、今日はダークブレンド、お願いです!」
(お願いです!って、ちょっと…。)
「あの、ほかの席も空いてますけど」
今度は、しっかり目を合わせて言った。“迷惑”の文字を視線にこめて。
「そうですね、あはは。あ、俺、園部翔っていいます」
「だから、ほかにも…」
できるだけ大きいため息と一緒に同じことを繰り返そうとする私にすかさず、男はこう言った。
「ここでいつも、あなたを見てました」
拒絶
…何言ってるの、この男。というより男の子??茶色い前髪なんか伸ばして、大学生かしら?まさか、…新手のナンパ?
ずっと笑ってるし…なんなの?ひとつ疑問が湧くたび、表情もひとつ強張っていく。
「少し、話してもいいですか?」
という男の声に、これ以上しかめられない顔になるのが、自分で分かった。
「俺、ここから歩いて10分くらいのところに住んでるんです。で、このお店は…」
「帰りますっ」
今度は、私が男の話を遮った。本とタバコを、とにかくバッグに放り込んで席を立つ。
あぁ。せっかくいいお店を見つけたのに…。怒りと残念が入り混じった思いで、私はカウンター越しにあるレジの前に立った。
…「あれ?」
彼の声
思わず、声が出てしまう。おかしい。財布がない。
どうしよう。携帯で電子清算なんて…できないわよね。
事情を話そうと、顔を上げたとき、「お、翔君、ふたり分?」とマスターの声がした。
「はいっす」
また心臓が跳ね上がりそうで、反射的に声の方向を見上げる。
すると、さっきの男が代金をマスターに渡して、こちらに目を向けた。
「コーヒーぐらい、いつでもごちそうします」
最初からの変わらない笑顔でそう言うと、男はカウンターのスツールに「よっ」と腰掛けた。
私は…。足をどこに向けていいのか分からず、靴の中を踏みしめるしかできなかった。
体は動かないのに、首はうなだれて、うつむいていく。軽く会釈だけして、半ば飛び出すように店を後にした。 カランと、ドアはいつもの音を鳴らす。
いつになく耳の奥に響くその音で、自分の頭に血が上ってるんだと気がついた。
まともにお礼も言わない自分に、苛立ってるのか、恥ずかしいのか、情けないのか…。考えるほど、足早になった。
「また、…来てくださいねぇ!」
翔…、と名乗った男の声が、後ろから聞こえてくる。
顔の全部で笑う、あの青年の声が…。