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官能小説 恋の誘惑は唇から 2話
恋のスタートライン
三島さんは30歳。あたしより7つも年上の大人の男の人で。
初めて会った時から、あたしの手を引いてくれる存在。
きっかけは、就職活動のOB訪問。
大学の教務課にあったリストから三島さんの名前を見つけて、会って欲しいとお願いしたのは2年前のこと。
快く応じてくれた三島さんが待ち合わせに指定してきたのは、三島さんの勤務先…つまり当時あたしが志望していた会社の近くのカフェ。
『昼に抜けるから、短い時間しか取れないのに来させちゃうけどごめん』、そう言った三島さんに、『とんでもないです!行かせていただきます!』と勢い込んで返して出かけた当日、あたしは見事に迷子になっていた。
どっちを向いても同じような灰色のビル。
そんな事態のために、1時間は余裕をもって出たはずなのに、気づけばその余裕も少なくなっていて。
10分くらい前にも見た看板をもう一度目の前にした時、半泣きになったあたしはようやく勇気を出して、通りすがりのサラリーマンに声を掛けた。
今ではあたしもちょくちょく利用している、ビジネス街にポッと現れる憩いの場。
その店名を告げて道を聞いたあたしに、その人は穏やかな笑顔で『僕もそこに行くところだから』とお店まで連れて行ってくれて。
それからすぐにたどり着いたお店で『ありがとうございます』と頭を下げたあたしに、『どういたしまして。仲谷つばささん?』といたずらっぽく笑った。
ぽかん、としたあたしに破顔して。
『無事に会えてよかった』
と言ったその人こそが、その日待ち合わせの約束をした三島隼人さん、という人だった。
そんな醜態から始まったOB訪問をした後も、三島さんはちょくちょく連絡をくれたり、会ってアドバイスをくれたりして。
それは初対面からあたしがあんまり頼りなかったから、なんとなく放って置けないと思ってのことだったのかも知れないけど、いつだって優しくて頼りになる三島さんに、あたしが惹かれるのは当然のことだった。
無事に内定をもらった時は、一緒に喜んでくれて。
働きだしてからは、希望してた会社で働けることと同じくらい、部署は違っても三島さんと同じ会社で働けることが嬉しくて嬉しくて。
だけど彼にしてみたら、あたしなんて本当に子供にしか見えないだろうと思ってたあたしに、三島さんに気持ちを告げる気持ちはさらさらなかった。
それどころか、社内に入ってみてわかったのは、三島さんが実は結構すごい人なんだってことで。
そのことに、あたしは血の気が引く思いだった。
役職付きではないけど重要な案件を幾つも任されていて、いずれ同期の誰よりも早く肩書を得るだろう、って噂されてるような。
―――そんなふうに言われるような人を、社内で見かければいつも忙しくしているような人を、あたしの就職活動なんかに付き合わせてたなんて。
だから、三島さんが『お祝いに』と誘ってくれた食事の後。
『あの、今まで本当にありがとうございました。いっぱいお世話になって、三島さん忙しいのに、いっぱい迷惑掛けて。あの、これからは、一人で頑張りますので』
二人で出たお店の前、精一杯の感謝の気持ちと、謝罪の気持ちであたしは頭を下げた。
それで、三島さんから離れようと思って。
三島さんの優しさに甘えるのはこれで最後。これからは、邪魔しないように、遠くから見ていよう、そう思って。
だけど、そうして頭を下げたあたしの耳に聞こえたのは、小さな笑い声。
え?と顔を上げれば、『そっちに行っちゃうんだ』と笑う三島さんがいて。
首を傾げたあたしに、
『あのね、つばさちゃんの言うとおり、俺、ほんとは結構忙しいんだ。―――だから、下心がなきゃ、いつまでもつばさちゃんに付き合ったりしてない』
そう言って。
『俺はつばさちゃんが好きだ。…つばさちゃんは?』
ふわりと、春の風に揺れたあたしの髪の先をそっと指に絡めて、三島さんは、―――そうして、あたしを二人の恋のスタートラインに立たせてくれたのだ。
何もかもが初めて
だけどそれからも、あたしが三島さんに手を引かれて進むのは変わらない構図。
誰かを好きになっても、見つめるだけで終わる恋しか知らなかったあたしには、何もかもが初めてのことで。
きっと三島さんにしてみれば、本当によちよち歩きの子供みたいなもの。
―――そんなんじゃ、大人の女として思われなくてもしょうがない。
そんな気持ちと、
―――でもあたしはちゃんと、女として三島さんを好きなのに。
だから、
(女として、男の三島さんに愛されたいのに)
そうは思っていても態度には出せない、そんな悶々とする状況にあたしは陥っていた。
もともと引っ込み思案な性格に恋愛だって奥手。何もかも若葉マークの新米で、自分の気持ちのままに振る舞うだけの勇気と自信がなかったから。
だけど、降ってわいたこのふた月あまりの長過ぎる三島さんロス。
ただでさえ「もっと」って思っていたあたしにとって、それがひと月もあれば受けるダメージは甚大で。

―――こんなんじゃ駄目だ。もっと、って思うならあたしから動かないと。
だって、三島さんがどうでも、あたしは三島さんに触れられたい。
だけどどうすればいいのか分からなくて、動けなくて。
ネットで恋愛ハウツーなんか検索してみたりしてるうち、偶然辿り着いた、女性向けのサイト。
そこで知った情報と、ラブコスメというものの存在は、あたしの背中を押して。
あたしに、それまでの鬱々とした”待ち”の姿勢から、”攻め”の姿勢に転じる決意をさせるのに、十分な武器だった。
「つばさちゃんの髪は、ほんと触り心地いいね」
触れられる距離にいれば、そう言ってあたしの髪を指に絡めるのは三島さんの癖。
真っ直ぐな黒髪はあたしの数少ない自慢出来るところだけど、それを三島さんに褒められてから、より一層力を入れて手入れしていることを多分彼は知らない。
「でも、前とは違う匂いだ」
くん、掬った毛先に鼻を付けて言った三島さんにドキンとする。
変えた香りに込めた下心に気付かれたような気がして。
それは三島さんに触って欲しくて、触りたいと思って欲しくて身につけた香り。
「き、嫌い…?」
男の人が触りたくなる香り、って謳い文句のヘアパフュームだったけど。
不安に思って聞けば、「いや、好きだよ」と返されて、また胸が鳴った。
好き…好き…いやこれはこの香りが好きなのであって…いや、あたし自身も好きでいてくれてるはずだとは思うんだけど―――って。うん。
三島さんの、いつもと同じ仕草。
別に、触りたくない、って思われてるわけじゃない。おいで、って隣に呼んでくれて、ちゃんとあたしの目をみてくれてる。
三島さんの雰囲気は違っても、嫌われたわけじゃない。
―――それなら、まだ、頑張れる。
怖気づく自分の心に喝を入れて、あたしはぐっと手を握る。
―――決めたんだから。
あたし、ちゃんと女なんだってアピールするんだって。
少しは胸を張って、三島さんの前でそういられるように、この1ヶ月、頑張ってきたんだから。
だから、怯んでる場合じゃないんだから。
一つ、大きく息を吸って。
「あの、ですね」
あたしは意を決して、三島さんに顔を向けた。
魔法みたいなアイテム
自分から動くんだ、と決めてから、あたしはその後押しをしてくれるコスメを買った。
とはいえ新米OLだ。あれもこれもっていうわけにはいかない。
だからとりあえず、三島さんが触れてくれる髪をもっと艶々にしてくれるヘアケア用品と、あとは唇用の美容液。
―――キスしたくなる唇になるってほんとかな。気持ちよくてキスをやめられなくなるって。ほんとかな。
気まぐれにいたずらに与えられるキスじゃなくて、恋愛映画で観るような…大人のキスを、してくれる?
正直半信半疑で、そのままキスの先まで、なんてことはさすがに鵜呑みにはしなかったけど、そうだったらいいな、って期待にドキドキしながら。
毎日髪を手入れして、唇をケアして。
そんな日々を過ごすうち、「なんだか雰囲気変わったね」って言われるようになって、それがまたあたしを勇気づけた。
それはきっと、意識してケアを始めた髪や唇だけじゃなく、それこそ無意識に、それ以外の部分も気に掛けるようになったからだと思う。
肌の調子も、顔色も。他愛ない会話の中でも、褒められればそれが自信になって。
―――次、三島さんに会ったら。
何か変わるかな。変えられるかな、あたし。
そう思って、今日も唇に、それを付けて来た。
「えと、ですね」
―――三島さんに、触って欲しいんです。
恥ずかしくて言葉に出来ない欲望を乗せた、唇。
これで少しでも、三島さんの表情が変わったら。
「つばさちゃん?」
髪だけじゃなくて、手のひらだけじゃなくて。あたしの全部に触って欲しいんです。
三島さんの手で、唇で。
―――それで、三島さんが、欲しいんです。
頭の中で空回りする言葉。
眉を顰めて首を傾げる三島さんに、あたしは唇を噛む。
…やっぱり口にしないとダメなのかな。
やっぱりそんな、魔法みたいなアイテムはないのかな。
それとも、触れたくなるパフュームで髪をケアして、キスしたくなる美容液で唇を濡らしても、まだ足りない?
大人の三島さんにとっては、あたしがそんなコスメを付けたぐらいじゃ、全然。
「あの、」
何でもないです、と。
勇気がしぼむまま視線をそらして、そう続けようとした言葉は、
「―――つばさちゃん、何かした?」
するり、と。
伸ばしてきた右手であたしの頬を撫でた三島さんの囁きに遮られた。
「え、」
それから、ちゅっ、と、唇に軽く触れるだけのキス。
―――だけじゃなくて。
「ん、」
はむっ、と下唇を三島さんの唇で食まれる。そのままぬるりと表面になぞったのは、舌?
くすぐるように舐められて、ぞわりと身体の奥に震えがはしった。
「みっ、」
驚いて目を開いたままのあたしの視界いっぱいに三島さんの顔。
下を向いていた長い睫毛がゆっくりと上向いて。薄っすらと開いた目に視線を絡め取られて背中が震えた。
同じ細めた目でも、今日のそれは、いつだって穏やかな微笑みの形をしているいつもの三島さんと違う。
同じように上唇にも吸い付いて、味わうように触れ合わせた後、三島さんは小さなリップ音を立てて唇を離した。
「何かしたでしょ、つばさちゃん」
左手の指は髪に絡めたまま、頬に当てた右手の親指で唇を撫でた三島さんが言う。
かっちりとした筋肉質の腕の中、動けない状態で、至近距離で目を覗き込まれて、あたしは喘ぐように唇を動かした。
半分は動揺、半分は初めての官能的なキスにクラクラして、上手く頭が働かなかったからだ。
「つばさちゃん?」
謳い文句はホントだったという驚きと感動と、ふしだらな画策を見抜かれてしまったんじゃないかって羞恥に動揺したまま、
「何もしてない、です」
と答えれば、
「何もしてないなら無意識?…だったらなお悪い」
即座にそう言った三島さんの指が、つ、と顎を撫でた。
「え」
「俺がいない間に、綺麗になって。じゃあ、誰に磨いてもらったの?
「…え」
「それで無意識に男を誘えるだけの経験値を積んで、一体誰に教わった?」
続けられた思いがけない言葉に、あたしは思い切り首を横に振った。
「そんなの、ないです!」
「そうかな。でもこの2ヶ月、ろくに会えなかったからね」
「な、ない!絶対ない!」
そんな誤解をされるのは、絶対に嫌だ。
三島さん以外となんて。三島さんだから、「何か」をしたいのに。
「だって、俺の知ってるつばさちゃんは、こんな表情かお出来る子じゃなかったよ?」
濡れたような髪をして。
濡れた唇で。濡れた目で。
誘われずにいられなくなるような、甘い匂いをさせて。
「誰を誘って覚えた顔で、俺の前にいるの?」
―――微笑みの形じゃなく、眇められた目。
その奥に揺らめくのは。
ずっと、今日、三島さんから感じていたのは。
「…み、三島さん、です…!」
眼差しに、痺れるような熱を感じながらあたしは声を絞り出した。
「…?」
「み、三島さんがあたしを、き、綺麗にして、三島さんが、あたしにこんな顔させてるんです…!」
「―――え?」
「だから、さ、誘われてくれますか?あたし、三島さんを誘ってるんです…!三島さんにもっと、っ―――!」
触られたい。
その言葉は、三島さんに塞がれた口の中で溶けた。
さっきよりもっと、官能的なキス。忍び込むより荒々しく侵入してきた舌に、あたしの舌と一緒に舐められて。
「ん、っ」
呼吸もままならない。それ以前に、どう息をすればいいのかわからない。苦しさに喘げば、もっと深く舌を絡め取られて。
食べられちゃいそうなキス、ってこういうの?
嬉しい。苦しい。頭がくらくらする。
頭が―――…。
ぱたり。
⇒【NEXT】「つばさちゃん前はそんな雰囲気なかったから、ほんとに手、出しちゃってもいいのかな、って」(恋の誘惑は唇から 最終話)
あらすじ
三島に触れてほしい気持ちが高まるつばさ。ラブコスメというサイトへたどりつき購入を決めるつばさだが…