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官能小説 心も体もつながる夜は 後編


かすかな期待

知宏との夜がうまくいかなかった翌日。 美冬が意気消沈して自宅に帰ると、可愛いワンピースを着た妹が洗面所で髪をセットしているところに遭遇した。

「あ、お姉ちゃんおかえり。冷蔵庫にLaClochetteのプリンがあるから食べていいよ」

「うん、ありがとう」

妹は昔から自分とは正反対の破天荒な性格だが、姉妹仲はとても良い。お泊まりなんてラブラブだね〜とからかわれ、美冬は曖昧に頷く。
普段は大好物で、行列に並ばないと買えないレア物高級プリンにもあまり心が躍らなかった。

「それより今日はどうしたの?可愛い格好してるじゃない」

「うん、私もデートなの。だから気合入れちゃった」

入念に髪型をチェックする妹の姿に、道理でと苦笑する。 他人から見ると大して違いはないのに、細かい部分がどうしても気になって身だしなみにこだわってしまう、知宏と出掛ける日の自分を見ているようだ。

「菜々子、あんまり時間かけすぎて遅刻しないようにね」

そう言って自室に上がろうとした美冬だが、妹がはーいと返事をした瞬間にふわりといい香りが鼻をかすめた。ちょっとフルーティで、妙に気になるシャンプーの香りである。

「ねぇ、こんなシャンプー使ってたっけ。マスカットの香りかな?」

「あ、お姉ちゃんも気に入った?でもこれシャンプーじゃなくてヘアオイルなの」

そんな妹が見せてくれたのは可愛らしい薄緑色のラベルがついた小瓶だった。
ラベルにはNa・de・teと書いてある。

「ナデテ……?」

「うん、髪のお手入れにもスタイリングにも使えるからデート前に使ってるんだ〜。お風呂上がりみたいな香りになるの。いいでしょ」

「へぇ、素敵だね」

他にも種類がいっぱいあるから見てみなよ、と販売しているウェブサイトを教えてもらい、美冬は妹を見送った。 早速自室でパソコンを開いてみると、目移りするくらいたくさんの商品がある。パステル調のサイトデザインがかわいらしい。

「わぁ、こんなにあるんだ。香水に、石鹸に、ボディケア……。あ、食べ物も売ってる」

そうやってしばらく商品一覧を見ていた美冬だが、ふとあるページに目が止まった。 それはリュイールという名前のラブコスメで、塗ったところからじんじん、じわじわと濡れてくると書いてある。『性交痛』『緊張感や気持ち面での準備不足』という文字に強く惹きつけられた。

「これを使えば、私も最後までできるのかな……」

もちろんこういう商品の場合、効果には個人差があると分かっている。
だがこのまま何もせずに時を過ごすよりはと、美冬は藁にもすがる気持ちで購入ボタンをクリックした。

彼は焦らなくてもいいと言ってくれたけれど、いつまでも前に進めないのは悲しすぎる。 最近、休みの日はいつも知宏の自宅で過ごすのが習慣のようになっているから、次の週末には試せるだろうか。

腕時計を取ろうとする手

思わぬ噂

その週の金曜日、美冬はナデテとリュイールをバッグに忍ばせて出勤した。 退社後はそのまま知宏のマンションに行く約束をしているから、そこで勇気を出してこのことを話すつもりだ。

ずっとアプローチを続けてくれていたのは彼の方だけれど、今では自分だって同じくらい、いやそれ以上に好きになっている。
心だけでなく、体も繋げたいと思っているのは美冬だって同じなのだ。

しかしその日の昼休み、なんとなくそわそわウキウキしていた彼女は、給湯室から漏れ聞こえてきた同僚たちの会話に大きな衝撃を受けた。 なぜならそれは、恋人である知宏にかかわる重大な内容だったからである。

「ねぇねぇ、聞いた?飯塚さん、来週専務の娘さんとお見合いするらしいよ」

「うそ、あの人相川さんと付き合ってるんじゃなかったっけ」

「それがさ、秘書課の同期から聞いたから確実。顔合わせ前なのに連絡取り合ってるんだって。だいたい倉本専務から直々に指名されたんだよ。断れる訳ないって」

「そっかー。専務の娘婿なんて出世確実だしねぇ」

「うん。しかもフランスにピアノ留学してたお嬢様で、超美人の22歳。別世界の話だよ」

「うわ、完璧じゃん」

「お見合い……?」

目の前が真っ暗になるとはこういうことなのか、と美冬は思った。 鈍器で殴られたように頭がガンガンする。

既に連絡を取り合っている、出世、専務の娘、美人でお嬢様の22歳。秘書課が噂の出処で、確実な情報元。

もしも周囲に聞いて回ったら、このお見合いに乗る方が絶対正しい選択だと誰しもが答えるだろう。
ごく普通のOLで、とりたてて美人でもなく、さらに面倒なトラウマによってセックスすら満足にできない美冬と付き合い続けるメリットなど何もない。 それほど分かりやすい状況だった。

「そっか……。今日で終わりにしなきゃ、だよね……」

知宏のことは好きだ。ずっと一緒にいたい。 でも、本当に彼のためになることを考えたら、自分の気持ちばかり押し通しては駄目だと思った。まだ優しくしてもらえるうちに、静かに身を引くのが一番正しいはず。

それに彼は思いやりのある人だから、なかなか別れを切り出せずに困っているのかもしれない。
顔合わせ前なのに既に連絡を取り合っているのなら、お互い気に入って本格的に話を進めるつもりなのだろう。若い美人と結婚できて出世まで望めるなんて最大のチャンスだ。それを邪魔してはいけない。

あんな素敵な人に、キラキラ輝く夢のような思い出をもらえただけでも幸運だったのだ。

同僚たちに気付かれないよう給湯室を後にして、美冬はきゅっと手を握りしめる。 大好きな彼の負担にならないように、笑顔で別れようと思った。

別れてください

その夜、美冬はこれで最後なんだと噛み締めながら知宏のマンションを訪れた。
短い間だったけれど、この部屋には思い出がたくさん詰まっている。鎌倉に行った時に買った変なネコの置物、2人で撮った写真、お揃いのマグカップ。

せめてマグカップは思い出にもらえるだろうか。 新しい恋人に元カノとお揃いで買ったものを使わせることは、さすがにしないだろうから。

到着して早々にぎゅうっと抱きしめられ、美冬は慌てて彼を押しのけた。 こんなことされたら、未練で別れられなくなる。

「……美冬?」

拒否されたのが意外だったのか、知宏は不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んだ。
やっぱり別れたくない、優しくしないで欲しい。美冬の胸がそんな悲鳴を上げたが、怖気づいて何も言えなくなる前に伝えてしまおうと口を開く。

「…………私たち、今日で終わりにしよ?」

かすれ声を絞り出すと、その場がしんと静まり返った。
もしも嬉しそうな顔をされたら悲しいなと思い、俯いた顔を上げられない。緊張から体をガチガチに硬くすると、彼のまとう空気が一変した。

「…………は、どういうこと?」

妙にゆっくりとして、感情を押し殺した低い声。 なかなか別れを切り出せずに困っているはずの知宏は、美冬からそれを申し出たらホッとして同意してくれると思っていたのだが。

「わ、別れようって言ったのっ!私……、私しつこくつきまとったりしないから大丈夫だよ。文句も言わないし、ちゃんと綺麗にいなくなってあげる」

早口で並べ立てると、美冬の腕を掴む彼の手に力が入った。

「なんだよいきなり?!何か気に触るようなことしたか?それとも先週、俺が焦りすぎたからもう嫌になったのか?」

「違うっ、知宏は悪くない。……けど、私と付き合っててもメリットなんてないし、ちゃんと体で満足させてあげることもできないし……っ」

ギリ、と腕を握り締められて反射的に見上げれば、こちらを射抜くような視線と交差する。 悲しいのは美冬なのに、どうして彼も傷ついたような表情をしているのだろう。

「……理由はそれだけか?」

そして告げられたのは、この一言。

「それだけ、っていうか……」

これで十分大きな理由だと思う。 今別れれば、若くて美人の専務の娘さんと結婚できて、しかも出世だって確実なのだから。知宏にふさわしくない自分は身を引くだけだ。

美冬が口ごもると、彼は大きく息を吐き出した。そしてきつく抱きしめられる。

「……分かった。美冬がそんなに追い詰められているとは知らなかったんだ、ごめん。それならもうセックスなんてしなくてもいい。失敗して気に病むくらいなら、俺はいくらでも我慢できるよ」

「……へ?」

「それとメリットだっけ?俺は美冬が隣にいるだけで毎日がんばれるんだ。週末まであと何日だろうって指折数えて、かっこ悪いって思われたくないから死ぬ気で仕事して、ちょっと笑いかけてもらっただけでバカみたいに嬉しくなって……。だから頼む。嫌いになったんじゃないなら、別れるなんて言わないでくれ」

悲しそうな表情で真摯に見つめられ、美冬は激しく動揺した。 どうしてこんなに引きとめられているのだろうか。

彼のためにすっきり身を引いてあげるはずだったのに、ここまで言われては本当に別れたくないように聞こえてしまう。 自分の願望が作り出した幻聴だろうか。

別れ話に反応する男性

「でも……でも新しい彼女がいるんでしょ?」

そう言って抱擁から抜け出すと、また彼の腕が追ってくる。 余計みじめになるからこんなこと言いたくなかったのに。

「新しい彼女?ってなんのことだよ。俺の彼女は美冬しかいないだろ」

「うそ!私、知宏がお見合いするって聞いちゃったんだから。顔合わせ前なのに、もう連絡先を交換して仲良くなってるんだって……っ!」

いつの間にか感情が昂ぶって、目からは涙がこぼれ落ちていた。
あぁ、本当はみっともない姿を見せずに身を引くつもりだったのに。せめて彼の記憶の中でだけは、最後まで可愛い恋人でいたかったのに。 ここまでくると、もう止められなかった。

「本当はずっと一緒にいたいよ!だって、ほんとにほんとに好きだもん!でも……でも仕方ないじゃない。若くて、美人で、知宏の役に立てる人がいるなんて、私じゃ全然敵わないの!」

肩で息をして、ボロボロと泣きながら叫ぶ。 せめて良い印象のまま別れたいと思っていたけれど、それも無理そうだ。 最後の姿がこれなんて、本当についていない。

彼は美冬の悲痛な告白を黙って聞いていたが、やがて大きなため息をついた。 そしてよろめくように壁にもたれ、美冬を強引に引き寄せる。

「……そのことか。ったく、驚かせないでくれよ……」

「やだっ、放して!もう別れるんだから!」

じたばたと暴れるが、びくともしない腕にがっちりと捕まえられて動けない。 抱きしめられて厚い胸に頬をつければ、早鐘を打つ心臓の音がドクドクと響いてきた。

「マジで心臓に悪いから別れるとか言うな。その見合いの話はちゃんと断ってるから。安心して」

「……え」

――――断った???

信じられない思いで見上げれば、目元の涙をぺろりと舐め取られる。

「社長賞を取った時の懇親会で専務に打診されたんだ。恋人がいるから無理ですって断ったんだけど、無理やり連絡先を渡されてさ。じゃあ本人に直接説明しようと思って連絡取ったら、向こうにも結婚を考えてる彼氏がいるからって逆に謝られた。結局専務の暴走だったんだよな」

「え。そ、それじゃ……」

「見合いはしない。俺の大切な人はずーっと美冬だけだよ」

「ええええーっ!!」

苦笑いの知宏に、『お仕置き』と称してほっぺをむにっと引っ張られる。 大福のような顔面にされながら、美冬はこの夜、噂だけで突っ走ってはいけないと非常に大事なことを学んだ。

溶けた誤解

「ごめんなさいっ。これからはもう絶対に早とちりなんてしません……!」

別れる別れないの大騒動のあと、お風呂を借りてからベッドに正座して、美冬はもう何度目かの謝罪を繰り返していた。 同僚の噂だけを鵜呑みにして、大騒ぎして、知宏に愛想を尽かされなかっただけでも奇跡である。 また頭を下げようとして、少し困った様子の彼に止められる。

「もういいよ。別に怒ってないから」

「でもっ、でも……本当に本当にごめんなさいっ」

「分かったから。もう謝るの禁止な?ていうか俺、どさくさに紛れて美冬が熱い告白してくれたの超嬉しかったし」

「……!!」

ぽん!と音が出そうな勢いで赤くなれば、ニヤリと笑った知宏がにじり寄って来た。その腕にぎゅーっと閉じ込められて、彼のまだ水気の残る髪がわずかに触れる。優しく背中を撫でられると、トゲトゲしていた心が落ち着いていった。

「美冬、なんかいい匂いするんだけど」

「あ……、新しいヘアオイルを使ってみたの」

くん、と鼻を鳴らした彼が気がついたのは、マスカットの香り。妹がつけていたのと同じものを、さっきお風呂上がりに髪につけてみたのだ。

気に入った?と聞く前に唇が重なって、少しだけ乾いた唇で啄ばまれる。

「……んっ」

「上品で甘い匂いだな。……美冬にすごく似合ってるから、ずっと嗅いでいたくなる」

ちろりと表面を舐められ、誘われるように口を開いた。 肉厚の舌がぬるりと侵入して、甘く優しく絡め取られる。触れ合った先から切ない想いが流れ込んでくるようだ。

「ぁ……ん……」

ざらりとした舌が気持ちよく、思わず鼻にかかった吐息が漏れる。 本当は今日、彼のために消えていなくなろうと決めていた。だから、こんなに甘いキスをまた与えてもらえるのが信じられなくて。

――――大切な人は、ずっと美冬だけ。

彼がくれた、永遠の誓いにも似た言葉を思い出し、逞しい背中に回した手に力が込もった。

自分にとっても、大切な人はずっと知宏だけだ。 過去のつまらない恋愛経験で傷ついた臆病な心を、ゆっくりと丁寧に解きほぐしてくれた優しい人。彼がいなければ、こうして異性と触れ合う温かさを知る日は来なかった。 身も心も彼のものになりたいという想いが心の底から湧き上がってくる。

「美冬……好きだよ」

「……うん。私も……大好き」

それはうっとりとするような時間だった。 何度も何度も角度を変えて唇を合わせる合間、2人で競い合うように愛の言葉を交わす。穏やかな睦言。

やがて彼の手にぐっと力が入って、細い体は簡単に柔らかいベッドへと押し倒された。大きな体にのしかかられ、いよいよだ……と美冬は心を奮い立たせた、のだが。

誤解したままキスする男女

溶け合う二人

「もう遅いから寝ようか」

「…………へ?」

ちゅ、と小さな水音を立てて唇を離すと、落ち着いた笑顔の知宏はそう言った。
美冬が目を丸くして驚いている間に掛け布団をめくり、美冬に腕枕をして抱きしめ、完全に寝るモードに入ってしまう。 あんなにいい雰囲気だったのに?

「え、……えっと、でも。あの……」

「大丈夫だよ、俺はいつまででも待てるって言っただろ。美冬が怖いことは何もしない」

「…………」

だめだ、この人本気で何十年でも待つつもりだ。 待つのは得意だからと言ったのは伊達じゃない。 それは当然美冬が怖がりすぎたからで、彼は全然悪くない。分かってはいるけれど、彼と結ばれたければ、自分から抱いてくださいとお願いするしかないわけで……。

「…………っっ」

「どうした?本当に無理やりやったりしないから大丈夫だよ」

恥ずかしさでどうしようもなくなった美冬を見て、知宏は何か勘違いしたようだった。 襲われる心配をしているのではない、襲って欲しくて困っているのに。なにしろ自分の太もものあたりに当たっている彼の雄の象徴はすでに硬く勃起していて、それを意識すると余計に体が熱くなるのだ。

「あっ、そうだ……」

なんと言っていいか分からずに困り果てていると、ふとバッグに入れたままのリュイールのことを思い出した。

すっかり眠る気になっている知宏だが、あれを見ればこの気持ちに気がついてくれるに違いない。良いことを思いついた美冬はベッドから抜け出して、化粧ポーチの中にしまっていたリュイールを取り出した。

「これ……使って欲しいのっ!」

ベッドで体を起こした知宏に、美冬は勇気を出して差し出した。彼は不思議そうな顔で受け取り、小さな容器を見て首をかしげた。

「なに?化粧品?」

何も知らない彼に、まずはリュイールの説明から始めなければならない。 恥ずかしいけれど、なんとか言葉を紡ぐ。

「……うん、ラブコスメっていうんだけど……潤いが少ない時や、挿れると痛い時に使うといいんだって。説明には、敏感な場所に塗ってマッサージしたら自然に潤いが増えるって、書いてて……」

口頭で説明しているのがどんどん恥ずかしくなっていって、最後の方はとても小さな声になってしまった。 ウェブページを開いて見せてばよかったのではないかと今更気が付いたが、それを実行しようとする腕を掴まれる。

知宏の方に向き直らされ、確固たる意志を持った手に、顎をクイと持ち上げられた。

「…………本当に、いいのか?」

それは真摯で、一途で、だが欲望に濡れた瞳だった。 生々しい男の部分にゾクリとするが、もう迷わない。

彼は誰より優しくて、我慢強くて、もし失敗しても決して責めたりしない人だ。受け入れたい。それにリュイールがあれば、彼を受け入れる助けになってくれるはず。

「……うん」

肯定するや否や、美冬は優しくベッドに押し倒された。 上から覆いかぶさる彼が、ちゅ、ちゅ、とキスの嵐を降らせる。

「絶対、優しくするから」

「……ん」

小さく首肯すると、大きな手がそっと胸を包み込んだ。 ふんわりとした感触を楽しむように揉まれて、口からは思わずかすかな吐息が漏れる。そんな息ひとつも逃さないと言うかのように唇を塞がれ、たらりと唾液を流し込まれた。甘く感じるのは錯覚だろうか。

そして髪を梳かれ、耳たぶを甘噛みされ、危ういところにチリリと痕をつけられて。 蕩けるような愛撫で、なんだか雲の上にいるみたいにふわふわした気分だった。

優しい彼に抱かれて

「美冬、腰浮かせて」

着ていたパジャマは、まるで女王様にかしずくかのように丁寧に剥ぎ取られた。 勝負下着のつもりでつけていた新品のブラジャーも外され、最後の1枚であるショーツに手がかかる。そっと足から抜かれると、それがしっとりと濡れているのが自分でもよく分かった。

「美冬、もうすごく濡れてる。これなら痛くならないね。だから安心して」

「ぅ……、うん」

耳元で密やかに囁かれ、頬に熱が集まるのを感じる。 安心させようと思って言ってくれているのだろうが、そんな恥ずかしい部位の状態を実況中継されるなんて羞恥プレイ以外の何物でもない。できればやめてもらいたかった。

だがそんな余計な願望は、赤く色づく胸の先端を舐められたことで霧散する。 頭の中が何かに塗り替えられたように気持ちいい。 艶かしい声を上げて身をよじる美冬に気をよくしたのか、知宏は執拗にそこを攻めてきた。

「あのね……、そろそろ、使って?」

お互い一糸纏わない姿になって、全身に蕩けるような愛撫をほどこされたあと。 美冬は力の入らない腕を伸ばし、ベッドサイドにある小瓶に手をかけた。

優しい彼は、自分に受け入れる準備ができるまでずっと待つつもりのはずだから。もういいんだよ、という控えめな意思表示だ。 ハッとしてこちらを見た知宏は、ちゃんと意図を汲んでくれたようだった。

「分かった。最初だけ冷たいかもしれないけど、ごめんな」

「ううん……だいじょうぶ」

とろんとした液体を指にのせ、花弁をかき分け、小さな入り口に太い指を添える。 すでに彼の愛撫によって潤んでいたそこは、なんの抵抗もなくつぷんと指を飲み込んだ。自分の中にいる彼を意識してしまい、きゅうっと指を締め付けてしまう。

「ん……っ」

「どう?なにか変わった?」

「ん……入れたばっかりだし……まだ分かんない、かも……」

秘められた部分に指を入れられたまま、どこか冷静に会話をしているのが気恥ずかしい。いたたまれなくて目をそらすと、お腹の中にある指がくいと折り曲げられる。

「……ぁっ」

「そろそろ動かすな?」

「……ぅん……っ」

くちゅんと音を立てた彼の指が動き始めて、変化は次第にやってきた。 じわじわとお腹の中が熱くなっていき、どっと愛液があふれだす感覚がする。リュイールホットを塗り込んだところから、なにか切ない気持ちが湧き上がってきた。

「……あ、ぁ、……ぁあっ」

熱くて、じんじんとして、ドロドロになって。 いつしか秘所をかき回す水音は信じられないくらい大きくなっていて、もっと強い刺激を求めるむずむず感が抑えきれなくなる。

指で擦られているのに物足りないのだ。お願い、助けてと口走りそうになる。

「は……っ、ぁ……あああ……んッ」

「すごい。美冬、この音聞こえるか?ここまで熱くてトロトロになったの初めてだよな」

「うん……っ。私……こんな感覚知らない……っ」

彼の言う通り、こんな風に熱くなるのは初めてだった。 多分これは、大きな愛で包み込んでくれた知宏とリュイールホット、両方のおかげ。早く彼と繋がりたくて、美冬は太い首に腕を回す。

「ね……知宏、私、もう……っ」

潤んだ瞳で切なさを訴えると、彼は目に見えてうろたえた。

「……ッ、その顔は反則だろ!なぁ、ゆっくりやるから、怖かったら言えよ?」

「大丈夫。私、あなたとひとつになりたい……っ」

「……っ、本当に自制できる自信がないから。怖かったら、本気で殴ってでも止めてくれ」

濡れた花弁に、丸い切っ先があてがわれる。 少し物騒な頼みごととは裏腹に、狭い隘路を押し入ってきた彼はとても優しかった。

指とは違う質量に一瞬息を止めかけたけれど、気を紛らわせるように胸の先端を舐められて緊張が緩む。柔らかくなった隙にずずっと進まれ、密着した部分からは初めて知る快感が溢れ出した。

気持ちいいのに、苦しい。呼吸が浅い。 ゆっくりと進むごとに声が抑えきれなくなり、いつしかぴたりと体が重なった。

「ふぁっ、ぁ……は……っ」

やっとひとつになれた、と感動で目が潤む。 達成感にも似た幸福感でいっぱいだ。だが熱を持った蜜壺はもっと大きな快楽を求めていて、細い腰が勝手に動いてしまう。

「……なぁ、痛くないか?」

「ううん、すごく、気持ちいいの……っ。だから、もっと……っ」

心配そうな彼に対し、うわ言のような返事をした。 そして均整のとれた筋肉をまとう体にすがりつく。じんじんと熱を持つ秘所も、震える脚も、汗ばむ上半身も、これ以上ないくらいにぴったり密着していた。 お腹の奥で溶け合って、本当にひとつになってしまいそうだと思う。

そして知宏が腰を動かし始めた時も、美冬が感じたのは痛みではなく、途方もない快感だけだった。 悩んでいたのが嘘みたいに膣壁は柔らかく彼を包み込む。

あふれた愛液は太ももまで濡らしていて、初めてナカで絶頂を迎える愉悦を知った。その甘美な痺れは長く美冬を苛んで、同時に知宏をも果てさせることになる。 短く呻いて欲望を吐き出した彼は、少しだけ悔しそうだったけれど。

ラブコスメを使用した裸の男女

「……美冬、愛してる。俺の大切な人は、一生美冬だけだよ」

そんな言葉が聞こえてきたのは、もうすぐで重いまぶたがくっつきそうな時だった。 額に優しいキスが落とされて、そっと髪を撫でられる。

私もよ。 愛してる。 ずっと一緒にいたいの。

言いたいことはたくさんあったけれど、眠さには抗えずまぶたを閉じた。

でも大丈夫。 明日も、明後日も、その先も、ずっと一緒にいられるはずだから。

明日の朝、今日の分も含めて好きだと言おう。 そう決めて幸せな眠りについた美冬を、ふわりと甘いマスカットの香りが包み込んでいた。


END

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あらすじ

知宏とのセックスが上手くいかず落ち込む美冬が帰宅すると、デート前の妹に出くわした。
妹に勧められた良い香りのヘアパフュームのウェブサイトでは、性交痛の悩みのためのラブコスメも販売されていた…

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