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官能小説 Vな彼女と彼氏 後編


ホテルに行こう

『定休日』

拓馬が行こうとしていた店のドアにはそう掲げられていた。

「ここのバー。オススメって、ネットに書かれていたんだけどね」

ばつが悪そうにする拓馬は、腕時計で時間を見た。

「拓馬。そういえば、時間は大丈夫?」
「俺は今日はどこかに泊まるから。気にしないで」
「どういうこと?」

拓馬の言葉が引っかかり、結華は尋ねた。拓馬は「今日はたまたまこっちに帰って来ていて、いま住んでいるのは……」と、いま結華たちがいるところからいくつも離れた県の名前をあげた。それはここから容易く行き来するには難しい距離であった。

「だから、次にこっちに来るのは来月になるかも。ところで、結華の住んでいるところはどこだっけ。終電、大丈夫?」
「ちょっと、待って。いま調べる」

スマートフォンを取り出して、結華は終電の時刻を調べた。表示された時刻は、いまいる場所から小走りで駅まで行けば間に合う。だが、結華は内心それどころではなかった。「どうだった?」と尋ねる拓馬の声がすると、慌てて結華はスマートフォンをカバンに入れた。

「うーん? もう間に合わない……かなぁ」

困ったような顔を精一杯作って、結華は言った。

「えっ! ごめん、遅くまで引き留めてしまって。タクシーで送るよ」

大通りを探そうとする拓馬の腕を、結華は掴んだ。

「私は帰りたくない」

次に拓馬に会えるのは来月だ。それはあまりにも長く遠い。しかも、来月に必ず会えるとも限らない。次のチャンスはいつ来るか分からない。

「拓馬と一緒にいたい」

腕を掴んだまま、結華は上目で見た。拓馬は結華をしばらく見つめた後、視線を宙に泳がせた。そして、遠くにあるいくつもの『HOTEL』と書かれたネオンの看板を見つけた。結華もそれを見ると、拓馬をじっと見た。こくりと、頬を赤くして結華は小さくうなずく。

「『初めては拓馬と』って決めたから。行こう」

拓馬は結華の手を取ると、ゆっくり歩き始めた。コンビニ袋を持った手で、拓馬は部屋の入口で電気を点けた。狭くて短い廊下を少し進む間に、ドアがふたつ見えた。反対側の壁には小さな絵がいくつか飾られていた。

大きな空間に辿り着くと、暖色系の照明に照らされたキングサイズのベッドが目に入った。結華も拓馬もギョッとしたが「ここはそういうことをする場所である」ということを思い出すと、ふたりは赤くした顔を見合わせるしかなかった。

初めてのラブホテルでローションやローターに驚く男女

部屋の隅に小さなガラステーブルとソファが見えたので、カバンを持ったまま結華はいそいそと座った。拓馬はコンビニ袋をガラステーブルに置くと、近くにあるクローゼットに、カバンとジャケットを入れた。

「結華のも貸して」

手を伸ばした拓馬に、慌てて結華もジャケットとカバンを渡した。

拓馬は部屋を見回すと「先に、俺……行ってくるから」と歯切れ悪く言った。 来るときに通ったドアのところに行き、閉まる音がすると結華はソファにもたれ込んだ。 おそらくあれはトイレと浴室だろう。しばらくするとシャワーの音が聞こえた。 ふと、拓馬のシャワー姿が結華の頭に浮かんだ。

筋肉質でたくましく、無駄のない体。上から降り注ぐシャワーの水滴が、濡れた茶色がかった髪を通って、滑らかな肌を伝い落ちていく。そして、やがて水滴は下半身へと落ち、その下半身は――……。

「うわわわ!」

ぶんぶんと結華は頭を横に振った。どうしても、想像がやけに膨らんでしまう。心を落ち着かせるために、壁を見ていると大きな薄型テレビがあった。

――私の実家のものより大きいなぁ。ここで映画を見ると楽しそう。

思っていたよりも普通の部屋構えに結華は感心した。

――ラブホテルって、もっと派手なものだと思っていたし。

壁紙が真っ赤やピンク。プールや怪しい設備。浴室やトイレが丸見え。

どこから得た知識か分からないが、結華が想像するラブホテルはそのようなものであった。けれども、ここには落ち着きがある。そこらのビジネスホテルよりも、高級感があるのではないだろうかとすら思えた。

「拓馬、まだかなぁ……。まだ、だよね。やっぱり」

シャワーの音はまだ聞こえていた。居ても立ってもいられず、結華は部屋を探索した。テレビの下に小さな冷蔵庫が見えた。狭い冷蔵庫であったが、ふたり分の飲み物は入るように思われた。結華はしゃがみ込むと袋から出して入れた。途中でコンビニに寄ったのだが、当然ながら結華は上の空であった。緊張を鎮めようとして、思わずアルコールに手を伸ばしかけたほどである。

「ん?」

立ち上がりかけたとき、冷蔵庫の奥にもうひとつ冷蔵庫があることに気づいた。

「……げっ!」

しゃがみ込んで近づいて、結華は尻もちをついた。それはローターやバイブといったアダルトグッズの自販機だった。他にもローションやコンドーム、さらには精力増強の怪しいサプリメント、そして穴の開いた下着まで売られている。

――こんなのまであるの!?

結華はベッドに腰かけ、動揺を鎮めるためにテレビをつけた。チャンネルを切り替えていくが、深夜の番組は見慣れていないせいか、どれも面白そうに感じられた。どれにしようかと選びながら、結華は軽快にリモコンのボタンを押していく。

『あっ、あんっ! あ〜んッ!』

大きな喘ぎ声と一緒に、ぼやけた肌色が画面いっぱいに映った。

『そこ、だめっ! いやっ、あぁんっ! おかしくなっちゃう〜!』

目を皿のようにし、結華はリモコンを手にしたまま固まった。均整のとれた艶めかしいボディが四つん這いになっており、大きな胸が激しく左右に揺れていた。女性が男性に後ろから激しく突かれている。はちきれんばかりの、豊満だが柔らかそうな胸がアップで映る。

「ゆ……結華……?」
「拓馬ぁ!?」

声がした方を見ると、拓馬がいた。拓馬はバスローブを身にまとっていた。筋肉がほどよくついている体格に目を奪われる。バスローブの隙間から鎖骨と胸板が見えた。


一緒にいたかったから

「これは、違うの! 偶然、チャンネルが!」
『イェスッ! アハ〜ン! カモォン!』

驚いた結華の指が他のボタンを押す。先ほどよりも豊満なボディを持つ金髪女性が映った。それが男性の上で野性的に動くものだから、上下の胸の揺れがとにかく激しかった。ふたりとも思わず、金髪美女の咆哮のような喘ぎ声と動きに釘づけになった。

湯気が浴室に溢れていた。熱いシャワーを浴びながら、結華の頭の中はアダルトチャンネルのことでいっぱいだ。

――ひょっとして、私もあんなことするの?

金髪美女のそれはさておき、問題は四つん這いになっていた女性である。初めての機会でいきなりバックは怖い。かといって、どういったものが良いかとなると、それはそれで分からない。結華にとっては、すべてが未知のことなのである。

「はぁ……どうしよう」

蛇口を締めながら溜息が出た。いまになって怖くなってきた。洗面所の大きな鏡に映った自分の姿は、柄になく弱気なものだ。結華はその姿をしばらく見つめ、頬をパシッと強く叩いた。そして、強い眼差しで鏡の中の自分を見た。

――弱気になってどうする!

気合を入れ直した結華は、備え付けのバスタオルで丁寧に体を拭き始めた。タオルで肌を撫でると、さっと水玉は綺麗に消えた。ぷるぷるとした肌触りがあり、毛穴も黒ズミも目立たない。化粧を落とした素肌にも透明感がある。

ポーチを開けると、結華はウェットティッシュを取り出した。『ジャムウ・デリケートウェット』である。自宅ではこの固形石鹸である『ジャムウ・ハーバルソープ』を使っているのだが、出先でデリケートゾーンの臭いが気になったときのために持ち歩いていた。

――持ち歩いていてよかった。夏だから蒸れるし……。

念入りにシャワーを浴びたといえども、臭いが消えたかは疑問である。普段からワキやデリケートゾーンの臭い対策として『ジャムウ・ハーバルソープ』でパックをしているが、念には念を入れるべく、結華は『ジャムウ・デリケートウェット』で気になる箇所を拭いた。

拭き終ってポーチを見ると、薄ピンク色の袋を見つけた。

『シャイニング ラブエステ』

それはボディローションのサンプルのようであった。ポーチに知らぬ間に入っていた。いつもは風呂上りに『プエラリア・ハーバルジェル』で保湿をしていたが、今日は手持ちがなかった。商品名が気になったこともあって、折角の機会なのでこのサンプルを使ってみようと思った。

「いい香り!」

思わず、結華は声に出した。袋を開けてまず感じたのは、ベリーの甘い香りだ。とても美味しそうな香りであった。手のひらに取り出すと、とろっとした乳白色の液体が出てきた。指で触っていると糸を引く。ボディローションにしては、粘度が高いように思われた。

――どうか、素敵な夜になりますように。

そう思いを込めて、結華は肌に塗った。初めに感じたとろみとは裏腹に、肌にすっと馴染み、まるで魔法をかけてくれたかのように『シャイニング ラブエステ』は素肌を映えさせた。照明の下にある体は、自分のものながらも輝いて見えた。

バスローブを着ると、髪を乾かした。結華は鏡に向かって、自分に気合を入れる意味でにっこりと微笑んだ。恋をしている自分が楽しく、これから拓馬に会うのがとても待ち遠しかった。

部屋に向かうと、拓馬はベッドの上でテレビを見ていた。結華が近づくと、拓馬はこちらを見た。そして、目を瞬かせた。

隣に座る間も、拓馬は結華の顔をじっと見つめていた。化粧を落としたから、何か言われるのではないだろうか。先ほど自信を持っていたといえども、あまり見つめられるのが怖く感じられた結華は、無意識にバスローブの袖を掴んだ。

拓馬はテレビを消し、ベッド脇にあるパネルに触れた。部屋中のライトが薄暗いものになり、結華はそっと後ろから抱きしめられた。これから始まるのかと思うと、結華は呼吸を忘れてしまうほどだった。

「……いい?」
「いいよ」

問い掛けに結華は優しくうなずく。拓馬は結華を寝そべらせ、彼女の腰元にある結びをほどいた。エアコンによる冷たい空気が結華の胸を撫でる。ショーツだけになった肌を見て、拓馬の動きが止まった。ごくりと息を飲み込む拓馬の手は宙をさまよう。まるで、結華の素肌に恐れを抱いているかのようであった。

「……ごめん……俺も……」

控えめな声に「えっ?」と結華は顔を上げた。拓馬は正座をして言った。

「男がこんな年で初めてなんて、ね……その……」

言葉が続くにつれて、表情どころか声も次第に曇ったものになった。結華は首を微かに傾げた。ここは相手を思って察するべきであったのかもしれないが、素で意味が分からなかった。「初めてって何が? ホテルでエッチするのが?」などということを真面目に思った。

「いままで……一度も女性と付き合ったことがないんだ」
「えぇ!?」

結華はバスローブが脱げたこともお構いなしに、勢いよく起き上がった。

「ということは、つまりはそういうことも……?」

結華が尋ねると、拓馬は手で顔を覆って小さく何度もうなずいた。結華は大きな衝撃を感じた。拓馬のような素敵な男性ならば、女性と付き合ったことも性経験もあるとすっかり思い込んでいた。けれども、実際は女性と付き合った経験すらないと言う。

「ここに来ようと思ったのは、どうして?」
「結華と一緒にいたかったから」

拓馬から心なしか、ぐすりと泣き声が聞こえた。

――私がホテルに行こうと言ったのもあるだろうし。それに……。

『据え膳喰わぬは男の恥』という言葉が結華の頭に浮かんだ。もしかすれば、これもあるだろう。

「一緒にいるだけなら、ホテルは断ってくれてもよかったのに」

そんな結華の言葉に、拓馬は困った表情を見せた。

「『初めては結華と』って、俺も決めていたから。だから、あのとき結華が言ってくれて……嬉しかった」

軽く笑みを浮かべた拓馬を見て、結華は正座をした。

「ふつつかものですが、宜しくお願いします」

結華が一礼して言うと、拓馬も驚きながらも「こちらこそ」と一礼した


甘い熱い凹凸

寝そべった結華の胸に、拓馬の手がおそるおそる触れた。

「滑らかで柔らかくて……温かい。すごく綺麗。良い香りがする」

目を細めた拓馬は、きらきらと眩しい。結華の胸はこそばゆくなる。拓馬は結華を抱きしめ、まるで独り占めするかのように結華の香りや感触を感じ取った。拓馬の体は結華を包み込むくらいに大きい。小さい頃の面影は、外見にはあまり見当たらない。

とくとく、と脈打つ音がする。拓馬が聞いているだろう自分の音が、結華にも聞こえたような気がした。それに合わせて、固く結ばれていた緊張の糸も解けていった。

「ん……っ、ぁ……」

不意に乳首をなぞった拓馬の舌に、結華は思わず息をもらした。

拓馬は「あ」と声を小さく上げ、舌で何度か乳首を舐めた。細やかな舌触りは、くすぐったくて、どこか気持ち良い。結華がその感覚に浸っていると、今度は乳首を軽く吸われた。ちゅっ、と静かに音が鳴る。結華の耳に吸われた音が鮮明に入った。軽くされただけのことなのに、まるで体の力を芯から吸い取ってしまうかのようであった。

「体になにかつけているの?」

拓馬は唇を体から離すと尋ねた。

「ん、ん? ボディローションをつけてみたけど」
「それかも。甘い味がする」
「そう? ごめん、知らなかった……」
「いいよ。この味、俺は好きだよ」

呟くと、拓馬は結華の鎖骨に唇を当てた。そして、肩や首筋にキスした。拓馬は結華の肌にキスをするたびに、ちゅっちゅと音を鳴らした。そうして、何度も結華の体を味わった。

ぺろぺろと体のあちらこちらを舐められるたびに、最初はくすぐったいと感じていたものが、結華のなかで次第に気持ち良さへと変化する。

「あ、っ……」

身をよじった結華の手が、太ももを舐めていた拓馬の髪をくしゃりとした。薄明りの中で行われていたのもあってか、拓馬のすることも彼自身も、幻想的でありエロティックだ。結華は自分の顔が、ぼんやりと熱くなっていくのを感じた。拓馬の体へのキスのみならず、込み上げてくるものによって体の力が奪われていく。

拓馬の舌が、結華の少し開いた唇にゆっくりと侵入する。唇がグミならば、舌はゼリーに思われた。温かくてぬるっとした膜をまとったゼリーが、結華の舌を探して求めて、そして絡み合う。

「ふ、っ……ぁ……」

初めての感覚はとても不思議なものであった。舌同士が触れたとき、結華の背筋はぞわりとした。甘いベリーの味がした。これが拓馬の言っていたボディローションの味だろう。

その甘さに誘われたのもあって、結華は拓馬の舌を求めた。拓馬も結華の舌を迎えた。頭が次第にぼうっとしていく。拓馬のキスによって意識がとろける。

自分たちは深く繋がっていると結華は思った。

「っ、は……ぁ、……」

水中で空気を求める如く、結華は途切れ途切れに息継ぎをした。息継ぎをしていると、唾液が口から何度も溢れそうになる。結華の口内は、とろみを持った唾液で潤っていた。拓馬は結華の舌を吸ったかと思えば、そのとろみを使って今度は唇で優しくはんだ。

拓馬は唇同士も軽く擦らせた。温められてとろけたグミが、結華の唇を撫でる。体がぞくぞくとする快感に結華はまた声をもらす。拓馬にすっかり翻弄されていた。

――もっと沢山触って欲しい。

ショーツの下で蜜壺から愛液が溢れ出て、濡れた肉芽が触れて欲しいと求めている。 乳首も主張するかのように、つんと立っている。 敏感になった結華の体は、ただひたすら拓馬を求めていた。

拓馬がバスローブを脱ぐと、無駄のない引き締まった立派な胸板が現れた。

結華は拓馬の下半身を見た。下着の大きな凸に目を奪われる。

――あれが……そっか、私のなかに入るのか。って、入るの?

結華は男性の性器の平均サイズなんてものは知らない。だが、拓馬のそれは「ちょっと大きいのでは?」と思うサイズに感じられた。頭の中で、もうひとりの自分が騒ぎ始める。

拓馬は結華のショーツに手をかけた。タイミングに迷っているかのような表情と手つきだ。結華は拓馬が脱がしやすいように腰を浮かせた。脱がされていくショーツ。もっと可愛いものをはいて来たらよかったという後悔は、とうの昔に風呂場に置いてきた。

現れた秘部は蜜に溢れており、ショーツまで濡らしていた。すらっとした脚の間にあるのは、柔らかな毛に覆われたもの。なだらかな丘を描き、一筋の線がある。

拓馬は結華の脚の間に体を入れて、彼女の秘部を見た。

「あまり、まじまじと見ないでよ……恥ずかしい」
「ごめん。でも……綺麗。結華はどこもかしこも綺麗だ」

拓馬はその割れ目に沿って、指を這わした。双丘を開くと、とろとろした、まるでシロップのような愛液が指に絡みついた。両手を使って、ぷっくらと赤く膨らんだ肉芽の皮を剥く。愛液による濡れで、よりいっそう敏感になっていた肉芽に触れた。

「あっ、ん……!」

男性の太い指に結華は思わず体を強張らせるが、拓馬は指を激しく動かすということはしなかった。指で優しく擦っただけだ。拓馬は中へと通じるくぼみに気を遣いながら、肉芽を指の腹で優しくなぞった。軽く力を加えてこねることもしてみた。結華はそれらのひとつひとつに、気持ち良い声をあげ、身をよじらせた。

拓馬が肉芽をいじっていると、シロップがどんどん溢れてくる。指に絡みつく量が増え、肌を伝い落ちてシーツに染みを作った。拓馬が指を動かしていると、くちゅくちゅとした粘着質な音がする。

「なんだか恥かしい……」

結華の声は消え入りそうである。けれども、結華は拓馬に「止めて欲しい」と言えなかった。拓馬にいじられることに悦びがあった。


王子様

ベッドに身を沈めた結華の体には汗が滲んでいた。部屋には結華の熱っぽい声と吐息、そして、体から発する粘着質な音が聞こえていた。拓馬は空いた手で結華の胸を愛撫した。触ってくれと立っている乳首を、肉芽と同じようにいじる。

「はぁんっ! だ、だめぇっ……!」

二か所からの攻めに、結華の喘ぐ声が大きくなった。体の奥が疼き、快感が増す。そうかと思いきや、快感ポイントがそれて絶頂から少し遠ざかった。

しかし、また絶頂に近づけられる。思うように導かれないもどかしさ。このままされ続けると、頭がどうにかなってしまいそうだ。

「っ、はぁ……はぁ……いきそうっ……!」

ぼんやりとする頭は、結華に無意識にそう呟かせた。じわじわと拓馬によって込み上げる快感が、はっきりとしたものになる。結華は拓馬の指に翻弄されながらも、着実に拓馬によって絶頂に導かれるのを感じた。

結華の声を聞き、拓馬は指の動きを少し強めた。

「やっ! あぁ、ん!!」

途端、結華は身を反らせた。秘部を始点として、電流が体中を駆け巡る。そして、頭のなかで炭酸が弾けた。しゅわしゅわとした余韻で、結華は何も考えられない。拓馬が指を離し、結華は無意識に体をびくりとさせた。拓馬は指についた愛液を舌先で舐め取った。

拓馬の指に絡みついたシロップのような愛液は、薄明りのライトに反射し、きらめいていた。脱力感と羞恥心に襲われている結華に、拓馬は軽くキスをした。

「さっきの結華、綺麗だったよ」

拓馬は恥ずかしがる素振りもなく言った。おそらく素の発言だろう。

――悶えた姿や、イった姿を綺麗だなんて。

喘ぐ姿をそう表現されると、結華の心中は複雑である。どちらかといえば恥かしさが大きかったが、そのなかには嬉しさもあった。「綺麗だ」と拓馬は結華に何度も言っている。それに、自分の体どころか愛液を舐めることも厭わない。

ふかふかの大きなベッドの上で愛でられていると、結華はまるで自分はお姫様のような錯覚に陥る。

――拓馬って王子様みたいだし。ガトーショコラが好きな王子様。

ガトーショコラが大好きな彼とセックスを楽しむ

なんて幸せなのだろうか。

余韻でぼうっとした頭で結華が思っていると、衣擦れの音がした。拓馬が下着を脱いでいた。息を飲み、結華は見えたものに目を白黒させる。

「……まじまじ見られると恥ずかしいかも」
「あ、ごめん……」

今後は結華が謝った。下着越しの大きな凸は、やはり脱いでも大きい。

――痛いのかな? やっぱり、入るときって。

コンドームをつける拓馬の姿を見るのは、気が引けたので結華はベッドに寝転んだ。一度絶頂を迎えて気持ちはほぐれているはずなのに、結華自身、固くこわばっているように感じられた。

上にまたがった拓馬は、結華を見つめた。

「結華、怖い?」
「……うん。少し。……拓馬は?」
「俺はー……緊張しているけど嬉しい方が大きい。だって、大好きな結華がいま目の前にいるから。

そう思うと、身も心も繋がりたいって感じる」

拓馬は嬉しそうに、結華のひたいに軽くキスをした。拓馬の人柄を表すかのような、ふわっとした優しいキスだ。唇が離れるとき、拓馬は結華に微笑みかけた。結華は下から手を伸ばして、拓馬を抱きしめた。

「俺、幸せだよ」
「私も」

拓馬は結華の腰を浮かせると身を沈めた。

狭い入り口をこじ開けるように、拓馬の剛直が入っていく。思っていたよりも大きな質量と存在感だ。拓馬を抱きしめる結華の手に力が入る。大きな背中に痕を残すかのように、結華は爪を立てた。

「ん、んん、ぁぁ……」

結華は声をもらした。そして、同時に息を整えた。初めての剛直が優しく入ってくるといえども、体は驚いて抵抗しようとしている。

しかし、結華自身は抗おうとしなかった。気を抜くと体がいっぱいになってしまうような存在感だが、受け入れることを決めていた。

やがて、裂けた痛みを体の奥底に感じた。結華は拓馬を強く抱きしめ、息をもらした。

――これで本当に身も心も繋がった。拓馬と、本当に。

腰よりも手前あたりで、拓馬と繋がった感覚がある。初めての挿入に対するだが、幸いにも想像していたより痛みは感じなかった。じわりと結華の目頭が熱くなった。

拓馬の眉を寄せた表情が滲む。拓馬への愛おしい思いが大きくなり過ぎ、耐え切れず思わず涙が出た。決して、痛さの涙ではない。嬉しいから泣いているのだ。結華の胸にこみ上げるものがあった。

「結華、涙が……」

心配そうに見つめる拓馬は、結華の頬を撫でて涙を指で拭ってくれた。

「ううん。私、嬉しくて……それで……」

どうして、拓馬はこれほどにも自分を夢中にさせるのだろうか。結華は不思議でならなかった。これほどにも、互いのことを思える人と巡り合えることがあるだろうか。結華は、それは運命だとしか思えなかった。

「大好き。拓馬」

涙を零しそうになるのを堪え、結華は微笑みながら言った。拓馬は顔を赤くすると、そっぽ向いた。

「結華の笑顔はたまに怖くなる」
「どういうこと?」
「見ていると、自分を抑えきれなくなる。いま、こうしているときも」

ぐっ、と拓馬は結華に体を押し付けた。

「あ、あぁっん!」

体のナカいっぱいにあった拓馬の存在が、よりいっそう大きくなる。体を起こした拓馬は、髪をかき上げると動き始めた。ぎゅうぎゅうになった結華のなかで、拓馬の高ぶるものが滑りよく動く。

「あっ、ぁ、あ、ぁんっ!」

壁肉を擦られるたびに、結華は拓馬の下で甘く鳴いた。手を胸の前で固く握り喘ぐさまは、まるで子犬のようであった。その姿を拓馬は目をそらすことなく見つめた。薄暗い部屋では、拓馬の瞳は美しいまでの漆黒であった。

「あぁん、やだぁっ……」

足首を掴みあげられた結華は、指の間を舐められて声をあげた。くすぐったい感覚が結華のすべてを煽る。ふくらはぎに夢中でキスの雨を降らしながら拓馬が視線を送ると、かぁっと結華は顔に熱を感じた。一度とろけてしまった体が、またとろけてしまいそうだ。

「気持ちいいよ。結華のナカ、すごくいい」

ぐるぐると結華の頭の中で、快楽の深い渦が描かれる。


互いの心音

――あぁ、もう。ずるい。拓馬の何から何まで、ずるい。

蜜に溢れた壁肉が、拓馬の剛直をぎゅっと掴む。律動が激しくなる。粘着質な接合の音は、結華にとって決して卑猥ではなく、深く愛し合っている証拠だ。

「結華、素敵だ。堪らない。大好き。愛してる」
「私も好き。大好き」

結華は、うっすらと汗ばむ拓馬の頬やひたいにキスする。

「あぁっ、そこ、だめっ! あぁっ!」

結華は頬を紅潮させて、腰を浮かせて喘ぐ。

拓馬を必死にのみ込んで離さない結華。そんな結華の健気な姿に、拓馬は心を奪われる。なんて愛らしいのだろうか。そう思ってしまった自身と、結華のナカの心地よさに、拓馬は困ったような笑いをもらした。

身を揺さぶられるたびに、結華の身も心も熱くなる。拓馬が愛おしくて、どうすればよいのか分からなかった。結華は拓馬に身を任せ、彼を抱き締め続けた。結華の高ぶる感情と感覚は止まることを知らない。自分はどこにいき、どうなってしまうのか。皆目見当もつかない。

「あっ、あぁ! ダメっ、おかしくなっちゃう!」
「いいよ、結華の乱れるところをもっと見たいから」

結華にとって、自分を初恋と呼ぶ拓馬の一途さは、あまりにも無垢で眩しかった。拓馬をいま独り占めしているのだ。自然と結華は四肢を拓馬に絡ませ、自分から腰を動かしていた。拓馬が愛おしくてどうしようもなく、ひたすらに夢中であった。

「たくま、たくまぁ……! そこ、だめぇ……!」

拓馬も答えるように、腰を動かした。深く挿入された剛直が、結華のナカを何度も行き来する。擦りつけるように、剛直が結華の膣にある膨らみを刺激した。結華は恥骨の下に強い衝撃を感じた。背筋を崩されてしまうような衝撃が体中を駆け巡る。痛いような気もしたが、癖になる気持ち良さが確かにあった。

そこを刺激されるたびに、目尻に快感の涙を浮かばせて、結華は甘い嬌声をあげてしまう。そして、拓馬の名前を何度も呼んでいるうちに、結華の体から次第に力が抜けた。

「だ、だめぇ……」

下唇を噛み締めた結華は、手足をだらりとさせた。拓馬は結華の腰元を持って、彼女を悦ばせ続けた。初めて経験する快感に、結華は打ち震える。シーツを掴む力さえなく、ただ身を拓馬に委ねてしまう。

「はぁ、んっ!」

弓のように、結華は身をしならせた。突然、波が来た。それは電流のような激しいものではなく、もっと穏やかなものだ。

そんな優しい波に結華が包まれていると、拓馬の「いきそう」という言葉が聞こえた。結華は拓馬にキスをした。自分から緩やかに舌を動かした。絡み合う舌には、まだあのベリーの味があった。甘く、そして情熱的な味だ。

「く、っ……」

剛直がびくびくと熱を持って微かに震える。ゴムの薄い膜を越えて、結華は体の奥底でそれを感じ取り、受け止めた。息を詰めた後、拓馬は大きく呼吸をした。

拓馬の動きが止まっても、結華の壁肉はしばらく離そうとしなかった。

拓馬の唇から熱い吐息がもれ、彼は息を整える。ふたり共、優しく温かな波に包まれていた。たゆたうように抱き合い、互いの心音を聞いた。胸を内側から大きく叩いている音がする。

それは、先ほどまで激しく愛し合った零れものだ。真っ白になった結華と拓馬に、流れ込むように音が入る。優しく、心地よい音楽を奏でた。


バレンタインの約束

エプロンをつけた結華は、鼻歌交じりで冷蔵庫から白い皿を取り出した。

そこには綺麗に焼かれた丸いガトーショコラがある。リビングのテーブルに置くと、チョコレートの香りがした。しっとりとしており、食べ頃である。結華はその出来映えに、思わず嬉しくなる。

「拓馬くんは、いつ来るの?」

来客用のティーカップを用意する母の言葉に、結華はスマートフォンを見た。

「あと30分くらいだって。……って、あ! これ、20分以上前のだ!」

そのとき、チャイムが鳴った。母の「拓馬くんじゃない?」との声に、結華は玄関に走った。約半月ぶりに拓馬と会うことに喜びを隠し切れず、結華はエプロン姿のままドアを開けた。

バレンタインデーに彼氏のために作ったケーキ

「拓馬! いらっしゃい!」
「こんにちは」

コートを羽織った拓馬は、挨拶を交わすと小さく笑みを見せた。「どうしたの?」と結華は首を傾げる。

「だって、結華。すごく嬉しそうだから。可愛いなぁ、と思って」

結華は心がむず痒くなる。ベッドの上だけでなく、普段も拓馬は直球な愛情表現を口にする。けれども、結華は未だに慣れない。にこにことする拓馬とは対照的に、いつも結華は照れを隠そうとするのが精いっぱいである。

――こういうところがズルい。サラッと言っちゃうんだよなぁ。

だから私は拓馬に敵わない。結華は内心で常々そう思う。

「どうしたの? 拓馬」

視線を感じて拓馬を見ると、彼は返事を待っているかのようであった。

「……拓馬も、その……カッコイイよ」

照れが体中から溢れて、うつむく結華の声は消え入りそうであった。けれども、拓馬はしっかりとその言葉を受け取っており、結華の頭をぽんぽんと嬉しそうに撫でた。

結華の母は拓馬の顔を少し見ると「ちょっと百貨店に」と買い物に出かけた。家から百貨店まではバスで片道20分程かかり、なおかつバス停まで徒歩10分である。これは気を利かせてのことだろうと、ふたりはすぐに察した。

リビングでテーブルを挟んで、結華と拓馬は向かい合っていた。彼らの前には、ワンホールのガトーショコラがある。

「これ全部、俺に?」
「だって、ずっと渡していなかったから」

十年分のガトーショコラ、と結華は恥ずかしそうに言った。

「食べ切れるかな。でも結華のガトーショコラ、大好きだから。俺、すごく嬉しい」

口角を上げ、拓馬はにっこりと微笑んだ。きらきらとした眩しいくらいの爽やかな笑顔だ。それは結華にとって、いつまでも変わらないもの。

結華は、きょろきょろと辺りをうかがうと、忍び足で拓馬の隣に座った。そして、家にいるのは自分たちだけであることを確認すると、拓馬の肩に寄りかかった。

「これからずっと、私のガトーショコラを食べてね」
「もちろん。よろこんで」

ふたりは見つめ合い、そしてゆっくりと唇を重ねる。窓の外では、雪が降っていた。


END

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あらすじ

ついにホテルへ入る2人…愛に溢れる拓馬は…

凛野あかり
凛野あかり
マルチな活躍を目指す小説書きです。女性向け・男性向け、…
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