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官能小説 「クロス・ラバーズ」…spotB〜月乃編〜・シーズン12
親友と再会
月乃と哲也は新居でのパーティに、美陽と隆弘のほか、法務課と秘書課で特に親しかった人々を招いた。
同期が中心で、総勢で10名にも満たなかったが、みんな気の置けない、二人のことをよく知る人たちだった。
家の中で行うパーティなので、終了時間が遅くなって近所迷惑にならないよう、開始時間は昼からにした。
アルコールもあったが、時間が時間だったこともあり誰も酔いすぎることもなく、楽しく穏やかな時間が流れた。
月乃も哲也も、仕事の中にプライベートを持ちこむことを良しとしなかった性格だったため、二人が付き合っていることは同期でもほとんど誰も知らなかった。
何人か「ひょっとして?」と思った者はいたが結局は推測止まりで、ほとんど噂にはならなかったそうだ。
だからこのパーティで、哲也も月乃もひどく冷やかされた。
「秘書課の才媛と結婚なんて、恵まれた奴め」
「真面目そうな顔して、ちゃっかりしてやがるな」
「吉井さんは普段はおとなしいけど、ここぞというときは決断力があるのよね。仕事だけじゃなく、恋愛でもそうだったのね」
「ねぇねぇ、最初はどっちからアプローチしたの?」
哲也と月乃はさっきからずっと顔を赤らめている。そんな二人を、美陽と隆弘は微笑ましく見守る。
あたりが少し暗くなったころ、家のチャイムが鳴った。
「誰かしら」
招待客はこれで全員のはずだ。抜けている者はいるが、買い物にでも行ったのだろう。鍵が開いていることは知っているから、そのまま入ってくるはずなのに……。
玄関の扉を開けた月乃は、そのまま固まった。
「エイミー……!」
驚きと喜びが混じり合って、動けない。
そこにいたのは、イギリス留学時代の親友だった。哲也の同僚である法務課の男性が後ろに立っている。どうやらここまで案内してきたらしい。
後ろから月乃にゆっくりと近づいた哲也は、簡潔に説明した。
イギリス人である彼女はロンドン在住だが、偶然来日していることを月乃の父から知らされて、哲也が連絡をしたのだと。
今日が滞在最終日だったから、ぎりぎり間に合った。
哲也は月乃を驚かせるために友人に頼み、彼女をここまで案内してもらった。
エイミーと呼ばれた女性は大きな花束を月乃に渡すと、きれいなクィーンズ・イングリッシュの発音で結婚を祝福した。月乃も流暢な英語で礼を返す。
エイミーは同僚たちとの会話もそこそこに、飛行機の時間があるからとすぐに出て行ってしまったが、月乃の胸は大きな感動で包まれていた。
「ありがとう、哲也さん」
親友と再会できたことも、哲也の気遣いも、哲也と父がそんなふうに連絡を取り合っていたことも、嬉しかった。
クロス
夜がそれほど遅くならないうちに、招待客たちは撤収した。
だが、美陽と隆弘だけは残った。10人に満たない規模とはいってもパーティだ。部屋の中はずいぶん散らかった。二人は片づけを手伝うと申し出たのだった。
人手が二倍に増えたことで片付けはあっという間に終わり、四人はリビングで月乃の淹れてくれたハーブティを飲んだ。美陽と隆弘の終電にはまだ十分時間があるから、部屋にはゆったりとした空気が流れた。
「そういえば、結婚式の写真ができたのよ。招待していないみんなの前で見せるのは少し気が引けたから、さっきは出さなかったけど」
「わぁ、見たい見たい」
美陽が体を乗り出すと、月乃は隣の部屋から薄いアルバムを持ってきた。
スマートフォンやデジカメでも何枚か撮ったが、紙焼きの写真にはやはり独特の存在感がある。
「やっぱりきれいね。神前式って神秘的で、月乃と哲也さんによく似合っていたと思う」
「美陽たちもきれいだったわ。まるで王子様とお姫様みたいで」
「ずいぶん大泣きしたお姫様だったけどな」
隆弘が茶化したのに、美陽がふくれてみせる。
急に哲也が真面目な声を出した。
「改めて、お礼を言わせてほしんだ」
三人の視線が一斉に哲也に注がれる。
「僕たちの関係がぎくしゃくしてしまったとき、美陽さんが後押しをしてくれなかったら、僕は月乃のことに対していつまでも悩んでいたままだったかもしれない。あのことがあったから、僕は勇気を出せた。ありがとう」
哲也は美陽に少し大袈裟ではないかというぐらい深々と頭を下げる。
「た、大したことはしていないわ。そもそも、哲也さんが月乃のことを心から思っていたからできたことよ。私はちょっと背中を押しただけ」
哲也の丁寧さに、美陽はつい慌ててしまう。
「それだったら、俺も伝えておきたいことがある」
今度は隆弘だった。
「俺も、美陽にプロポーズをしようと決意したのは、月乃さんの指輪を目にしたからなんだ。そろそろ一歩前に進まないといけないと思った」
月乃は思わず左手の薬指の指輪に触れた。その指輪を月乃は今、結婚指輪と一緒につけている。あれから婚約指輪ももらったが、同じぐらい大事なものだ。
「お互いいろんなところでクロスして、誰かの思いが誰かを動かして……私たちって本当に不思議ね」
指輪に触れたまま、月乃が微笑む。
夜は優しく更けていった。
手紙
――いろんなところでクロスして、誰かの思いが誰かを動かして……
皆が月乃の言葉を反芻する。
その先に今の自分たちがいることが、得がたい奇跡のように感じられた。
ふと、哲也が立ち上がる。
「どうしたの?」
月乃が尋ねると、哲也は隣の部屋から、封筒を持ってきた。
「じつはもうひとつ、お父さんからこれを預かっていたんだ。月乃に読んでほしいって」
封筒を受け取り、中から便箋を抜き出す月乃の手は少しだけ震えていた。
自分がなぜ震えているのかわからないままに、月乃は黙って文章を読み進めていく。
……だめだった。数行読み進めたところで、目から涙が溢れ出してしまった。
「何が書いてあったの?」
美陽が首を傾げる。
「美陽、お願い……読んでくれる?」
月乃は美陽に便箋を渡す。
手のひらに乗せられてぱさりと音を立てた便箋を、美陽は開いた。
「私の大事な娘・月乃へ……」
皆に聞こえるよう、声を大きめにして、ゆっくりと読み進める。
そこには、父から月乃への溢れるほどの愛情が綴られていた。
結婚したいと哲也を連れてきたとき、嬉しかった反面、どうしようもなく寂しかったこと。
その感情に振り回され、大人げなく哲也に冷たい態度をとり、二人を心配させてしまったのを今も申し訳なく思っていること。
哲也と二人で一晩じっくり話したとき、この男性なら月乃を幸せにしてくれると確信できたこと。
思わず泣いてしまった結婚式の後、哲也がわざわざ親族控室に来てくれたのを、本当にありがたく感じたこと。
いつの間にか美陽ももらい泣きしていたので、手紙の最後のほうは隆弘が代わって読み上げた。
「――これから何十年も一緒に暮らしていくのだから、つらいことも、怒りたくなることも出てくるかもしれない。そんなときこそ、お前たちがどれほど惹かれ合って結婚したのかをよく思い出しなさい。これから、どんなときもお互い支え合って生きていくように。私は何よりも、誰よりも、お前の、お前たちの幸せを願っている……」
手紙はそう終わっていた。
王様の命令
女性陣のすすり泣きが部屋に響く。
「よし、ゲームでもするか」
決していやな涙ではないが、結婚パーティという今日には似つかわしくない気がして、隆弘は明るい声を出す。
「そうだね。みんなで楽しもう」
哲也も同じようなことを感じていたのか、すぐに同意した。
「何をするの?」
「そうだな……王様ゲームとか?」
美陽が尋ねると、隆弘はさして深く考えたふうでもなく返した。
「この人数だと、何度かやれば全員一度は王様の命令を聞くことになりそうね」
月乃は涙を拭きながら笑う。
反対意見が出なかったので、隆弘は哲也に手伝ってもらって1から3までの番号と「王様」と書かれたカードをつくった。
意外に真剣な目つきの隆弘に、美陽が噴き出す。
「隆弘さんって子供っぽいところがあるのよね。こういうことを嬉々としてやるんだから」
「うるさい。男はみんな少年の心を残しているんだよ」
言っているうちにカードができあがる。製作者ということで最初は隆弘がカードを配った。
月乃が言った通り、ゲームを進めると全員がまんべんなく王様になり、全員がまんべんなくその命令を聞くことになった。
「よし、じゃあ哲也。お前、いつから月乃さんのことが気になり始めたのか言ってみろ」
「えっ、そんなこと、ここで言うんですか」
「王様の命令だ」
「わかりましたよ……副社長の海外案件が始まって、法務課でも何かと書類の作成が増えた頃かな。何度かやりとりしているうちに……」
「え、哲也さん、そんなに前から私のこと……私はてっきり、あの、過労で倒れたのを看病してくれたときからかと……」
「あのときにはもう、だいぶ気になる存在だったよ。……っと、今度は僕が王様だ。じゃあ3番が、口説き文句か口説かれ文句を打ち明ける」
「えぇっ、私だ。……隆弘さん、いいの?」
「ちょっ……いいわけないだろ」
「王様の命令ですよ」
「告白されたのは、一緒に京都に行ったときで……」
「お前、そんなこと言うなぁっ!」
「正直に言わないのはルール違反よ」
結局、蓋を開けてみれば、王様ゲームとは名ばかりののろけ合いになった。
他愛もないことだとわかってはいるが、四人とも楽しくてなかなかゲームを終わらせられなかった。
いつまでもこんな時間が続けばいい。皆、そう思った。
家族
――数年後。
公園の砂場を、月乃と美陽が微笑みながら見つめていた。その後ろには哲也と隆弘の姿もある。
美陽と隆弘の間にさゆりが生まれてから約1年後、月乃と哲也の間にも子供が生まれた。ちょうど副社長のプロジェクトが落ち着いた頃に、月乃の妊娠がわかったのだった。
子供は男の子で、良一郎と名づけられた。
月乃は当初、自分が育児休暇を取得して育児に専念しようとしたが、落ち着いたとはいえ、月乃が必要とされる案件は多かった。結局、哲也のほうが会社で初めての「男性の育児休暇」を取得した。
一年足らずで復帰したものの、哲也の決断は他の社員にも影響を与え、その後ちらほらと男性社員でも育児休暇を申し出る者が出てくるようになった。
「すっかり家族ぐるみの付き合いになったなぁ」
無邪気に遊ぶ子供たちを見て、隆弘が呟く。
四歳のさゆりと三歳の良一郎は、幼稚園のほかの誰よりも仲が良く、休みの日でも一緒に遊びたがる。結果、親も引っぱり出されることになり、四人はまるでひとつの家族のような付き合い方をしていた。子供を連れて旅行に行ったこともある。
美陽に似て明るく、少し強引なところもあるさゆりに比べて、月乃に似て良一郎はおとなしく、さゆりの後を黙ってついていくようなことも多い。だが芯は強く、いやなことは絶対に譲らない性格をしていた。
「この子たちが大きくなって、お互い恋をしたらいいわね……っていうのは、親の勝手かしら」
美陽が笑うと、
「あら、今もう恋をしているかもしれないわ」
月乃が返した。
「もしさゆりが良一郎くんのことを好きだって言ってきたら、私は月乃の指輪がきっかけで隆弘さんが私にプロポーズをしたことを話してあげるわ」
「じゃあ私は良一郎に、哲也さんが美陽に背中を押してもらったことを言う」
二人は目を合わせて笑った。

二組の夫婦は目を細め、もう一度砂場を眺める。そこでは「幸福」が目に見える形になって、太陽の光にきらきらと輝いていた。
END
あらすじ
月乃と哲也を祝福しに集まった新居でのパーティ。あまり遅くならないうちに招待客は帰って行ったが美陽と隆弘は残り…。