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官能小説 絵の中のあなた 1話
バイト先での恋
干支が三周めに突入した24歳の春、真実は勤めていた区役所をあっさりと辞め、イラストレーターを目指すべく専門学校へ入学した。
真実はこれを機に、親元を離れ一人暮らしをすることに決め、貯金をくずし部屋を借りた。
さらにアルバイトも始めた。今まで箱入りで育てられた真実は、この新しい自由な日々に今まで味わったことのない刺激と充実感を得ていた。
バイト先の同僚はほとんど大学生だったが、一人だけそうではない同い年の青年がいた。
名前は佐伯俊祐。皆に「シュン」と呼ばれている。
ミュージシャンを目指しているらしく、いつも大きなギターケースを持って職場にやってきた。
ほどなくして真実は、シュンに恋をした。愛想はないが、そんなクールなところに惹かれた。そして何より、彼のビジュアルが真実を魅了した。
シャープで上品な顎のライン、奥二重のキレ長な目、知的で美しい鼻すじ…。
どこをとっても、ため息が出るばかりである。
「いつか彼の顔を描いてみたい」と、真実はそればかり思っていた。
だがシュンにはレイナという恋人がいた。
たまにシュンに会いに訪れる彼女は、ロングの黒髪と透けるような白い肌を持ち、誰もが振り向かずにはいられないオーラを放った美女だった。
細くて小柄だが、革ジャンとワークブーツというハードなアイテムを自然と着こなしているところを見ると、おそらくミュージシャン仲間なのだろう。
ところがある日、バイト仲間からシュンとレイナが別れたという噂を聞いた。
どうやら彼女は、シュンを介して知り合った音楽プロデューサーの目にとまり、シュンより先にメジャーデビューしたらしい。
そしてデビューの条件の一つに、シュンと別れるという項目も含まれていたという。
確かにレイナは、それから顔を見せなくなった。シュンの表情に特に変化はない。
相変わらず無愛想なので、悲しんでいるのかどうか逆にわかりにくかった。
しかしよく見れば、彼の目の下や頬骨の下には、以前にはなかった暗い影が出来ている。
そしてそんな憂いすら、シュンの美しさをひき立たせていた。
気持ちが抑えられなくて…
「シュンさん、私のモデルになってくれませんか?」
真実がシュンに話しかけたのは、その時が初めてだった。
棚の商品の整理をしていたシュンが、不機嫌そうな顔で振り返る。
「私、美術系の学校へ通ってて、人物の顔を描くという課題が出たので…」
「なんで俺?」
「いや、なんていうかすごく素敵な顔立ちだから…」
「ヌードはNGね」
「はっ?」
シュンの冗談に真実は真っ赤になった。
そっけない返事だったが、シュンはOKしてくれたのである。
「真実ちゃんって部屋キレイにしてんだな」
真実の部屋を眺めまわしながら、シュンはつぶやいた。
「レイナなんて…」
そう言いかけて、シュンは口をつぐんだ。
スケッチをしていた真実は、手をとめてじっとシュンの顔を見つめる。
(キレイな顔…悲しんでいる顔まで素敵)
そう思った真実は、無意識にシュンの顔に手を触れていた。
シュンは少し驚きながらもその手をとって、真実の唇に素早くキスをした。
真実は驚きのあまり、シュンを思いっきり突き飛ばしてしまった。
「ごめん…。そんなに嫌だった?」
「ちっ、違うんです。ただ私、こういうの初めてで…」
「まさかファーストキス?」
うなずく真実。
「でも、嬉しかった。だって私はずっと、シュンさんが好きだったから…」
思いがけない告白に、シュンは目を丸くしていたがすぐに笑顔になった。
「じゃ、続きね」
シュンは、真実のあごを軽く持ちあげそっとキスをした。
あらすじ
バイト先のシュンに恋をした真美は、最近親元を離れ一人暮らしを始める。
「人物画のモデルになってほしい」と彼に頼み、部屋に招き入れたが…