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官能小説 秘密の氷が溶ける音 1話
はかない恋の予感

1ヶ月半前の飲み会のメンバーは、とても気が合った。 合コンだったけれど、ワイン好きという共通点があって、このメンバーで顔を合わせるのは、今夜で3回目だ。
「じゃ、また連絡するから」
リーダーのようになっている佐々木洋平と、お店の外でみんなを見送る。 彼と私だけは、反対方向に帰るのだ。
「ちょっと、飲み直そうか、佐藤さん」
駅に向かう途中、私の返事も待たずに、洋平は路地に入っていく。 黙って彼の後ろを歩いたのは、やはり、私も飲み直したかったからだろう。…ふたりで。
「夕子さん、こういうの、好きでしょ?」
行きつけだというバーに入ると、彼は私を下の名前で呼んだ。
「…あぁ、まろやか!」
洋平に向けられる自分の笑顔が、とても無邪気になっているのは、鏡を見なくても分かった。
「でしょ?」
満足気に微笑むと、彼は、隣に座る私の肩にそっと触れた。 その手の温もりに、胸が一瞬熱くなり、次の刹那、サッと鋭く冷える。
(私はまた、はかない恋を失うんだわ…)
目の奥のずっと奥で、じんわりと涙が生まれた。
「どうした?」
洋平の声に、「ごめん、なんでもない」と笑顔で目を合わせる。 そう、なんでもない。ただ、ほんのりと漂っていた恋の予感が、消えていくだけ。 失恋にさえもならずに、終わっていくだけ。
洋平のように、近づいてくれる人は、今までに何人かいた。 30歳間際になれば、少しも不思議なことではないだろう。 でも、みんな離れていく。 曖昧な態度を見せていると、みんな去っていく。
そうやって、何度も恋の予感は消えてきた。 …違う。恋の予感を、消してきた。
だって私は…、 だって私は…、 処女なのだから。
それを知れば、男性は引いてしまう…と、私は思っている。 「重たい」と言われ傷つくのを覚悟で恋に飛び込んでいくほど、私は大胆ではなかった。その大胆さがあれば、きっと、こんな風に悩むことはなかったはずだ。
大学を卒業した頃は、まだあまり気にしていなかった。 25歳を過ぎると、アプローチしてくれる男性への接し方がぎこちなくなった。 そして、29歳の今、好意を感じる喜びとほぼ同時に、喪失感が襲ってくる。
それでも、処女というコンプレックスが邪魔をしているだけで、男性に好意を寄せる心が消えたわけではない。 恋の予感を繰り返す中で、楽しく会話をしてほろ酔いでお酒を飲む術は、すっかり身につけていた。

「俺んち、来る?」
店を出て終電に飛び乗り、私の降りる駅が近づくと、洋平は目を合わせずにそう言った。
「ありがとう。でも…」
握ってくれる彼の手を、軽く握り返してから、手を離す。
ついさっき触れた手を窓越しに振ると、私は、ひとりで自宅のアパートに歩き始めた。
もっと一緒にいたかった…。 少し強い夜風を1人で受けながら、空を見上げる。
処女じゃなければ…。 今頃、まだ洋平と一緒にいたのだろうか。 気軽に彼の家に行って、ロマンチックな時間を過ごしたのだろうか。 彼の好意をすんなりと受け入れて、自分の好意ももっと素直に表現できるのだろうか…。
(処女じゃなければ…)という言葉が頭に浮かぶたびに、処女という事実は、秘密にしなければならないことのようになる。 そして、その秘密の周りに、少しずつ氷が貼りつき、少しずつ、その氷が厚くなっていく。処女という秘密を隠すように。

誰もいないアパートに「ただいま」とつぶやいて帰り、ソファに座ってテレビをつける。 時計を見て、今頃洋平も家に帰りついただろうかと、気になってしまう。
(あ…)
ふと、ザッピングをしている指が止まる。 映画…だろうか。 ベッドの上で、むさぼり合うように体を重ねる男女。 女性の胸に顔を埋める男性の頭の上で、薄いピンクのマニキュアを塗った女性の指に、力が入っている。
「あぁぁ…もっと…して…。私が、ほしいんでしょ?」
眉間にしわを寄せて快楽の表情を浮かべながら、男性の耳元でそう囁く女性。 彼女の胸元から、一瞬視線を上に向けて目を合わせると、ジュルジュルと唾液の音を立てて彼女の胸にむしゃぶりつく男性。彼の右手は、彼女のスカートの中へと狂い入る。 同時に彼女は、はぎ取るように彼のシャツを脱がせた。
ぼーっと思考を失いながら (こんなふうに愛し合えたら…)という憧れが強く影を落とした。
心の真ん中にあるもの

≪近いうち、食事、行かない?≫
洋平からのメッセージが届いたのは、彼の家に行くのを断った翌々日だった。 最初に湧き上がってくるのは、純粋な嬉しさ。 そして次の瞬間に、
「これ以上、近づいていいの?」 という疑問が現れる。 食事の誘いには、乗りたい。乗れば、洋平も喜んでくれるだろう。 …そして、もっと接近しようとするだろう。
接近した結果、私が処女だと知ったら…?
彼は、困ってしまうかもしれない。逃げたくなるかもしれない。それは、ふたり共を傷つけることかも…。
そんなことをグルグルと考えていると、つい、返信が遅れる。 それでも、やはり、心の中にある一番大きな気持ちは、
(また洋平に会いたい)
というものだった。 コンプレックスが大きくなっても、恋を求める感情が、 それと入れ替わりに小さくなるわけではない。 かえって、コンプレックスの大きさに比例して、愛されたい気持ちも、 愛し合いたい気持ちも、大きくなるように感じる。 おしゃれや肌の手入れに念入りになったのも、それが原因かもしれない。
≪ありがとう!行きたい!≫
モヤモヤを潜りながらも、半日後、私は素直な気持ちを返信していた。
≪よかった!今夜、仕事終わったら、相談しよう!≫
洋平からは、1分後に返信がきた。

洋平との時間は、本当に楽しい。 結局、誘われた翌日の今、食事を終えて、バーで飲み直している。 私の降りる駅の近くにも彼の行きつけがあって、連れてきてもらった。
「ちょっと、ごめん」
トイレに立ちながら、彼は、私の手をギュッと握った。 飲んでいる最中も、前回よりも距離が少し近づいている。 目が合ったとき、視線を絡める時間も、長くなっている。
―――「なんか、夕子さん、疲れちゃった?今日は帰るね」
自宅の前まで送ってくれると、洋平は、数秒間私を抱き寄せて笑った。 …苦笑いのような気がしたけれど。 角を曲がるまで見送ると、 彼は振り返って手を振る。 カラ元気を出すように、 できるだけ大きく手を振ると、私は部屋に入った。
バタンと玄関ドアを閉めて、ため息をつく。 本当は、もっと一緒にいたかった。でも、
「上がっていい?」 と言わせなかったのは自分だ。 そういう空気を、作ってしまった。
そういう空気を作りながらも、もっと一緒にいたくて、本当は求めていて…。

触れたい…。 あのまま、抱きしめられたい…。 そして…そして…。
ベッドに入ってから、洋平に触れたい想いが、触れられたい想いが、 一秒ごとに大きくなる。私は、きっと、洋平を好きなのだ。 だけど…。好きだからこそ…、カラ元気で見送ってしまう。…失いたくなくて。
それでも、ひとりになると、触れ合いたいという欲求が、ムクムクと浮きあがってくる。 ゆっくりと、布団の中で、左手が、パジャマの中に伸び、胸を包み込む。 同時に、右手が、両脚の間に伸びていく。
(洋平くん…)
ひとつ年下の彼の名前を心の中で呼びながら、私は、ショーツを脱いでいた。 左手で乳首を転がしながら、右手の人差し指と中指は、敏感になっているクリトリスを挟んでいる。
「はぁ…はぁ…」
柔らかな胸の頂点で硬くなる突起も、2本の指の間で充血していく豆も、 自分の体温に包まれるだけで、どんどん敏感になっていく。 荒くなる呼吸に合わせて、両手の指先の動きが、激しくなった。
右手の指には、脈打つのが速くなるだけでなく、しっとりと濡れてきているのが伝わってくる。 それだけで、人差し指と中指の動きは、その間に挟まれる敏感な豆に、執拗になっていく。
絡めるように、ねっとりと押し付けるように、優しく包むように、 イタズラに転がすように…。 処女の私でも、自分のカラダの悦ばせ方は、知っていた。
「あぁぁ…。いいぃ…」
洋平に触れられるのを思い浮かべながら、それに小さな切なさを感じながら、私は、指の動きを止められなかった。ドクドクと脈打つクリトリスに挑発されるように、指を絡める。
「う…っ…い…いぃく…」
さらに激しくクリトリスに指を絡めると、全身が一気にカッと熱を帯びる。 そして、…果てた。
こんなふうに…こんなふうにひとりで彼を想うのなら、 恋に飛び込んで傷つくほうが、ずっと誠実なのかも…。
そんな痛みを胸に受けながら、眠りに落ちた。
心に突き刺さる冷たい氷

前回一緒に食事をしてから4日後。 また洋平が声をかけてくれて食事をした帰り、私の降りる駅に向けて、電車がスピードを落とし始める。
「今夜は、送らせてよ」
洋平は、私の手を取って立ちあがった。
その手を離す理由など、ひとつもない…と思いたかった。 その手が離れてほしい理由など、ひとつもなかった。 ただ…。
(処女だと知ったら、洋平くんはどう思う?引くんじゃない?これ以上近づいたら、きっと傷つくだけ…。)
そんな自分の声が心の真ん中に突き刺さって、ギュッと強く握ってくれる彼の手を、同じ力で握り返すことも、振り払うこともできなかった。

「送ってくれて、ありがとう」
自宅のアパートのドアの前でそう言うと、洋平はいっそう強く手を握った。
私が再び「ありがとう」と言うのと、彼が「ちょっとだけ、お邪魔してもいい?」と口にするのは、ほぼ同時だった。
ここで断れば、私は、また恋のチャンスを逃すのだろう。 彼は脈ナシだと察して、もう連絡をしてこないかもしれない。 でも…、もしかしたら、処女だと打ち明けても、彼は何も変わらないかもしれない。 …いや、それは淡すぎる期待だ。 真実を打ち明けて傷つくよりも、曖昧にしてフェイドアウトしたほうがいい、きっとお互いに…。
「今日は、とにかく、ダメなの…」
うつむいたまま、握っている右手に、左手を添える。
「ごめん、困らせちゃったね。今日もありがとう」
洋平は、私の肩を優しく撫でてくれる。
「私こそ、ごめん」
声が、沈む。 洋平を見上げて「でも…、また誘ってくれる?」と言ったときには、声にも目にも、涙がにじんでいた。
告白

バタンと背中で玄関のドアを閉めると、とたんに涙がこぼれ落ちる。
どうして私は、また誘ってくれる?などと言ってしまったんだろう。 そう言ってしまえば、彼からの連絡を待ってしまう。また会えば、もっと好きになってしまう。そうして、もっと傷を深くするのに…。
「ばかみたい…」
きっと私は、今まで出会ってきた人たちよりも、洋平のことをずっと好きなのだ。 でも、強烈な恋心を自覚するほど、処女というコンプレックスは、いっそう高く厚い壁となって、私の前に立ちはだかった。
「どうしよ…」
ため息をつくと、携帯が鳴る。 洋平からだ。どうかしたのだろうか…。
声を落ち着けて電話に出る。
「あ、よかった。出てくれた。今、夕子さんの家の前の道にいるんだけど」
カーテンを開けると、洋平が手を振る。
「どうしたの?玄関に出るね」
慌てて涙をふくと、玄関の外に出る。洋平も、戻ってきた。
「どうしたの?」
その言葉は、ふたりの口から同時に出た。
「夕子さん、泣いてたの?」
次の言葉を続けるのは、洋平の方が早かった。 そう言われると、止めていた涙が、再び流れ出てきてしまう。
「どうして?俺、何かしちゃったかな…」
「違う、そんなんじゃないの」
肩に添えられる彼の手の体温に、ますます涙が止まらなくなる。
そこへ、隣の住人が帰ってくるのが目に入った。 こんなところに帰ってくるなんて…。
「入って」
隣の住人に会釈をすると、私は洋平を部屋の中へと促した。
「ごめん。入るなとか、入れとか…」
「いいんだよ、全然。でも、夕子さん、どうしたの?やっぱり、俺、何か悪いことした?」
お互いに靴も脱がずに、玄関先に留まっている。 私が部屋に上がらないのだから、当然かもしれない。 これから、どうするの?隣の人は部屋に入ったから、もう帰ってと言うの? そんなひどいことを、どうして、好きな人に言わなきゃならないの? きっと…彼だって私を好いてくれているのに…。
「処女なの」
何の前置きもなく、私は、言っていた。 意を決して告げたわけではない。 彼を好きな気持ちと、ふたりきりの空間にいることと、処女というコンプレックスと…。 3つ波が一気に押し寄せて、もう、心がおぼれてしまったのだ。思わず、口から出てしまった。
「え?」
聞き取れなかったのか、ごまかしているのか…。洋平の言葉は一瞬だった。
「だから、私、処女なの。恥ずかしいでしょ?30間際で、処女なんだよ…。だから…」
だから…の続きが何なのか、私自身も少しも見当がつかずに黙り込んでしまう。
息の詰まるような沈黙に、1秒ごと、空気が張りつめていく…。
官能にまつわるお役立ち記事
あらすじ
合コンで出会った洋平とは、ワインが好きなことで気が合った。
彼の好意を感じるたび、夕子は冷めてしまう。