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官能小説 「クロス・ラバーズ」…spotB〜月乃編〜・シーズン7
いつもとは違う緊張
チンと軽やかな音を立てて、エレベーターが二人の目的としていた階に到着した。
哲也は我に返ったかのようにはっとして、慌てて、しかしあくまでも優しく月乃を離す。
「すみません」
エレベーターから降りるとホールの脇に立ち止まり、哲也はまず謝ってきた。
「失礼なことをして。どうかしていました」
二人の横を、数人の社員たちが通り過ぎてエレベーターに乗り込んでいく。
――夜、哲也の家に行く。
最近では珍しくなくなったことなのに、今夜行ったらたぶん、いつもとは違う、特別なことが起こるだろう。
哲也は何かを確かめたがっている。
月乃は少しうつむいたあと、決心して答えた。顔を赤らめて、小声で……しかし、はっきりとした口調で。
「行きたいです、哲也さんの部屋」
その日もいつものように、哲也の家の最寄りの駅から家に帰るまでの間に、二人で一緒にスーパーに寄った。
「哲也さん、何が食べたいですか?」
食材を選んで哲也の持つカゴに入れながら、月乃は「いつもと同じ」を勤めて装う。
「パスタにしましょうか。そうしたら僕もソースづくりを手伝えるし……」
少しだけ歪んだ笑みが哲也の顔に浮かぶ。
今夜、何が起こるとしても、哲也にわかってほしいことがあった。
(私にとって何よりも大事なのは、哲也さんと過ごす穏やかな時間……)
言葉でいうことはたやすい。だが、それだけではきっと哲也は不安なままだろう。
だから、行動で示そう。月乃はそう思った。
家に着くと二人ともまずは部屋着に着替えた。月乃のぶんの部屋着も、最近では部屋に置かれている。先日、一緒に買いに行った。
キッチンに並んで料理をつくる。「いつもと同じ」ことをしているのに、二人の間に流れる空気はいつもとは違う緊張をはらんでいた。
リビングのローテーブルでの食事が終わると、月乃は立ち上がって皿を片付けようとした。
「僕がします」
哲也が月乃を制して立ち上がる。
そのときに月乃は直感した。何か、が起こる、と。
予感は当たった。
立ち上がった哲也は皿を手にするのではなく、月乃の隣に移動して、その体を抱きしめた。
見たことのない種類の炎
哲也の抱擁があまりにも優しくてあたたかかったから、月乃は最初、自分に起こったことがよくわからなかった。
背後の壁に押しつけられている。
押しつけられているといっても、哲也が腕で包んでくれた上でだから痛みはない。
「哲也……さん?」
何をするの? と尋ねようとした乃の唇が、哲也の唇で塞がれた。
「んんっ……!」
強引なキスだった。今までの哲也とは違う。
唇から舌が入ってきて、月乃の舌に絡みついてくる。
ディープキスなら今までも何度かしたことがある。だが、今日のキスはこれまでよりもずっと濃厚だ。
「はぁ……ん、ふぅ……っ」
息を吸う間も哲也はなかなか与えてくれない。わずかに口を離した隙間に、唾液と唾液が交わるぴちゃぴちゃとした音が響く。
やがて哲也の唇がすっかり離れた。二人は見つめ合う。
哲也の目は、穏やかだった。それは、これまでと変わりなかった。だがその底では、月乃が見たことのない種類の炎が燃えていた。
「あなたの隣は誰にも渡さない。
僕の隣はあなたしかいない。俺だけを見て下さい、月乃さん。いや、月乃……」
名前を呼び捨てにされて、痺れるような快感が体を駆ける。
月乃。月乃さん、ではなくて、月乃。
そう、ずっと……そう呼ばれたかった。他人行儀な垣根を取り払って、もっと近づきたかった。
近づいて、哲也のものにしてほしかった。
哲也は月乃をもう一度強く抱きしめる。
耳元に唇が近づいたのが、息遣いでわかった。
「帰さない、帰したくない……今夜はずっと一緒にいたいんです。今まで我慢してきたけれど、あなたのすべてが欲しい」
しかし、
「哲也さん……」
愛しい名前を呼んで睫毛を上げた月乃の顔を見るなり、哲也ははっと動きを止めた。
「……え……私?」
「ごめん……なさい……」
哲也がこわごわと、壊れものを扱うかのようにゆっくりと月乃を離す。
月乃の目からは、涙が溢れ出していた。
本当はずっと…
違う。哲也がいやなのではない。哲也と近づくのが、結ばれるのがいやなのではない。
それなのに、体は心に反した反応を示した。
驚いただけなのだ、と月乃にはわかる。あまりにも突然のことで、嬉しくて、でもびっくりして、どうしたらいいのか戸惑ってしまって……それが涙になってしまったのだ。
だからそれを哲也にちゃんと伝えないといけない。そうしないと、哲也は誤解して、傷ついてしまう。
哲也はいつも通りの距離をとった。
(お願い……止まって。うぅん、止まらなくてもいい。せめて話をしたい)
自分の涙に月乃は訴えかけるが、体がいうことを聞いてくれない。恋愛を長らくしていなかったせいで、体がうまく適応してくれない。
だが哲也は、気まずそうな顔をすることも、言い訳をしてくることもなかった。
ただ黙って、再び月乃の目をまっすぐに見つめた。その目からは先ほどの炎は消えていたけれど、代わりに森の奥の湖水のような静けさが漂っている。
「急にごめんなさい。不安にさせてしまったね」
その湖水にそっと言葉という木の葉を乗せるような落ち着きで、哲也は話しだす。
「焼きもちなんてカッコ悪いのはわかっているのに、不安になってしまった……」
哲也の声からは、染みだしてくるような誠意が感じられる。
「今日のことに何だか焦りを感じてしまって、子供じみたことをしてしまった。……怖がらせてしまって、ごめん」
ふっ、と、月乃の心と体を隔てていたものが溶けた。長い時間をかけて氷になっていたその障壁を、月乃の涙から逃げなかった哲也の誠意が溶かしてくれた。
魔法が解けたように、月乃は自由になる。
体が動く。心が思うように。
よかった、これで気持ちを素直に、強く、正しく、伝えることができる――。
月乃は腕を伸ばして、今度は自分から哲也を抱きしめた。
「違うんです。ただ、びっくりしただけで……こんなときに驚いて泣いてしまった私のほうが、よっぽど子供です」
一瞬間を置いて、哲也は月乃の体をおずおずと抱きしめ返してきた。
「心配しないで。私が好きなのはあなたです」
月乃は決意を固くする。恥ずかしいけれど、哲也に言わなくてはいけないことがある。
「本当はずっと……こんな時間が訪れるのを待っていたんです。
私、哲也さんに抱かれたいです」
女に「戻る」

二人は順番にシャワーを浴びることにした。
哲也がバスローブを羽織ってバスルームを出てくると、次は月乃の番だった。
体を洗い、ゆっくりと浴槽に沈んでいると、ひとりで体を慰めた夜のことを思い出す。
あのときにすでに予感はあった。その予感は今、現実のものとなって月乃に訪れようとしている。
(私、女に「戻る」んだ……)
しばらくそういう行為をしていなかった自分には、戻るという言葉が適切なように思う。
今日、これから、哲也とどんな夜を過ごすことになるのだろう。朝までのことを考えると、湯船のせいではなく体が上気してきた。体の芯がじわりと熱くなる。
体を十分に温めると、最後にシャワーをもう一度浴びて浴室を出た。
部屋着を着ようとして、その手を止める。
代わりに、バスタオルを一枚だけ、体に巻きつけた。
恥ずかしい。だが、ここまできて服なんて着てしまったら、覚悟が揺らいでしまいそうだった。自分を鼓舞するためにも、月乃は勇気を出した。
心臓の高鳴りとともにバスルームを出ると、部屋の照明が落とされていた。
見慣れているはずの部屋。見慣れたと思っていた部屋。なのにこんな照明で、こんな姿で眺めると、何だかどこか特別な場所みたいだ。
「月乃……」
ベッドに座っていた哲也が月乃にすっと手を伸ばす。
ゆっくりと哲也のほうに向かう。自分の足先が震えているように感じるのは気のせいだろうか。
哲也からは少しだけ離れたところに座ると、横から白いタオル地が目に飛び込んできた。バスローブに包まれた哲也の腕だった。
「あ……っ」
声をあげる余裕もなく、哲也に抱きしめられる。
「んんっ……ん……む……っ」
すぐにキスが降り注いできた。
さっきのキスも濃厚だと思っていた。だが、それを撤回したくなるほどの激しいキス。
それほど、哲也に求められている。そう感じると、キスだけで体の中心が濡れてきてしまいそうだった。
「んん……はぁ……ん」
キスを受け止め、舌に舌を絡め返し……そんなことに夢中になっていた月乃が巻いていたバスタオルの端に、哲也の指がそっとかかる。
「あっ……」
はらり、とバスタオルが落ちた。
もっと知りたい…
「あっ……」
月乃は反射的に体を隠そうとした。しかしその両手を、哲也の両手が優しく押さえる。
「や……っ」
部屋の照明が暗くなっているとはいえ、お互いの顔や体は十分によく見える。月乃の一糸まとわぬ姿は、哲也の前にすっかりさらけ出されてしまった。
せめて少しだけでも隠したいと脚をもじもじさせる。しかし、当たり前だが脚だけではうまくいかない。
覚悟はしたつもりだったが、恥ずかしい気持ちはどんどん湧き出してきた。体の手入れを怠ってきたわけではない。特に哲也と付き合うようになってからは、何がいつ起こってもいいように、今まで以上にケアを心がけてきた。
それでもやっぱり、恥ずかしい。
「隠さないで」
哲也の声が毛布のようなぬくもりで月乃を包む。
「見な……いで……」
絞り出すように月乃は訴える。だが、哲也の目は月乃の裸体から逸れない。
「恥ずかしがらなくていい。もっと……見せて」
哲也の声に、抵抗する腕の力が抜けていく。もっともそんな抵抗なんて、我ながら無駄だと思ってしていたことだった。哲也に対しても、自分に対しても無駄な抵抗だ。
「綺麗だ、月乃の体」
うつむいていても、哲也の視線が体をすべり落ちていくのがわかる。
首筋、肩、鎖骨、胸もと、胸……。
腰のくびれ、お臍、ヒップの丸み、そして脚のあいだの陰り……
視線がそのまま愛撫のようで、見られているだけで月乃の息は荒くなっていく。気を抜いたら声まで出てしまいそうで、奥歯を軽く噛む。
「君を……僕のものにする……」
哲也に包まれたまま、押し倒されていく。月乃は体重を哲也に預けた。
横になった状態で二人はまた見つめ合い、またキスを交わした。
そのキスは、今度は月乃の肌から離れることはなかった。ゆっくりと肌を這い、下へ、下へと移動していく。
「んんっ!」
首筋を唇で甘くついばまれ、月乃は思わず体を硬くした。
「ここ……気持ちいいんだ?」
哲也は反応があった場所を、舌先でそっと舐める。
「ふぁっ……あっ」
月乃が答えるよりも早く、月乃の体がそうだと返す。
「もっと知りたい。月乃のこと……月乃の体のこと……」
哲也の手が胸に伸びてくる。
「は……うん。私も哲也さんに、知ってほしい……」
月乃は答えた。
あらすじ
エレベーターの中で哲也は月乃を寄せ「今夜、家に来ませんか?」そう、囁いた。
月乃は今までにないその強引さにぞくっとして…。