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官能小説 恋の花の咲かせ方 4話 (恋のはじまり)


恋のはじまり

思い切ってGREENを訪問して以来、マユは店に立ち寄ることが日課となった。

花にも興味を抱き始めたマユは、ある日、有名な華道家の展覧会が開かれることをインターネットで知る。
「お花なら…」と、勇気を出して拓巳を誘ったところ、快く応えてくれたのだった。

拓巳は、展覧会の最中も花について解説し、自分の見解も熱心に語った。
そんな真摯な姿を見ていると、マユもまた、彼と同じ夢を追っているような錯覚に陥る。
その一方、拓巳が発する男の熱に惑わされてもいた。

官能的な容姿

花のフォルムを語る時によく動く腕は、しなやかながらも筋肉が締まっていて逞しい。
花を見つめる時だけ一瞬動きが止まる唇は、適度な厚みがあり、肉感的な艶を感じさせる。

彼のセクシーさに気づいて以来そこに意識が集中し、何とも言い知れぬもどかしさがみぞおちあたりを渦巻くようになった。
欲情していることを恥ずかしく思うマユだったが、禁じようとするほど思いは募る。
沸き起こる欲望を抑えつつ、平静を装うことにマユは必死だった。

展覧会の帰りにカフェに立ち寄り、二人で色々な話をした。
小さい頃から花が好きだった拓巳は、将来、花屋になりたいと思っていた。
しかし、成り行きでサラリーマンになってしまい、それをずっと悔いていたという。

そして3年前、一念発起し花屋を開店したのだそうだ。
今は、花の勉強やフラワーアレンジメントの練習に自分の時間のほとんどを費やしているとのこと。
毎日夜遅くまで店の電気がついていたのは、そのせいだったのだろう。

恋のはじまり

夢らしい夢も持たず、日々を淡々とやり過ごすだけのマユにとって、拓巳の生き方は眩しかった。

「自分のしたいことを実現できるなんてすごい。私なんてやりたいこととか特にないし、これでいいのかなって不安なんですよね」

マユがそう言うと、

「僕にもその気持ちわかります。でも、焦る必要はないんじゃないかな。マユさんなりのペースで何かを見つければいいんです」

と言って、目尻にしわを寄せ優しく笑った。

こんな風に自分を肯定してくれる人に出会ったのは初めて…マユはますます拓巳に惹かれた。
自分の気持ちに気づいて欲しいと思い始めたマユは、帰る途中の駅で何気なく拓巳の腕に手を絡めてみた。
拓巳は驚いたような表情で一瞬振り返ったが、慌てて前を向いてしまった。

それは、恋の始まりを確信させる一瞬だった。
そしてマユは、彼の筋肉の形や温度を感触として焼きつけようとでもするように、左の手のひらをあてて少し強く絡めなおした。

あらすじ

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