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官能小説 カレントループ〜蠍座と蟹座の秘密の共有〜 第一話 蠍座の彼と、蟹座のわたし
第一話 蠍座の彼と、蟹座のわたし
「誰を好きになるかはわたしが決める」
「違うな、とっくに決まっているんだ。きみが決めるまでもない」
スゴイ言葉と同時に、入って来た熱に、背中を突っ張らせてシーツを掴む。
「声、あげていいぞ」
口元を強い親指が愛撫する。
――そう、わたしが決める。
多分、決めたのはこの瞬間。
甘えたな彼の孤独の計画を知る、それは少し前の話だ――。
***
(またか……)
と山室聖菜はキーの指を止めた。
口元を押さえ、カバンを手にばたばたと去る女性事務を目撃するのは何人目か。
走って来た方向を見ると、やはり。広域営業本部の小野里雅哉の姿があった。
クールで、それでいて少しばかりユーモアがあり、得意先からのご指名も多いが、実は社内では「収監営業」と揶揄される。
「また事務がいなくなったわ。来週のプレゼンどうするつもり」
「知りませんよ。そっちで調達してくださいよ」
調達。
事務は部品かなんかですか。
会社的には小野里を窘めることは出来ても、止めようとはしない。
聖菜は手を上げた。
昨日振られたばかりで、むしゃくしゃしていた……というよりも、急いで終わらせる理由がなくなった。
ちょうどいい、仕事に没頭してやる。そんな気持ちで。
「わたし、ちょうど担当分が終わったので、引き受けますけど」
「まあ、聖菜ちゃん。……どう? 小野里主査」
「僕としては、誰でもいいんですよ。さっさとしてくれれば。営業本来の仕事の妨げにならなければ、ナスもカボチャも、同じです」
こんな言動を当たり前にする、少し冷めた小野里の担当を引き受けたそこからが始まりだった。
***
広域営業本部の仕事は幅広く、時には海外の問題も引き受けるエリート営業集団である。
しかし、彼らは事務時間が圧倒的にたりない。
契約者や請求書の類である。
従って、彼らが動くと、請求書の発行や、受注経理の仕事が浮塵子のように押し寄せて来る。
聖菜の職種は「営業事務」の類になるだろう。
さっそく小野里がやってきた。
「請求書、出てないみたいですが」
「引継ぎがこれからですから」
「俺のボーナスが下がるじゃないですか、悠長にやるなよ」
――なるほど、これは、入りたての事務は耐えられないだろう。
聖菜は早くも3年の中堅だが、小野里の担当はした経験がなかった。
これは泣きたくなる。人間性全否定の塩対応。
「それはともかく」
小野里はスマートフォンを見ながら、聖菜の隣の席に座った。
邪魔です、主査。
言いたいが無理にぶつかりあうこともない。
「今夜、良かったら食事でもどうかと思って」
「ナンパですか。お断りです」
「僕がナンパなんかするはずないでしょ。事務の接待ですよ」
そこは、聖菜が振られたばかりのレストランだった。しかし、断る理由もない。
***
『彼女が出来たんだ。きみは、もっと仕事したいだろうし別れよう』
(ああ、思い出す。なんで振られた翌々日に、同じレストランで、接待されなきゃいけないの)
と食事を楽しむ振りをすることにした。

「お待たせしました」
――ワインリストだ。実は聖菜はワインに目がない。
とはいえ、営業事務社員なので、それほど高いワインは買えないが、ちょっとした記念日には必ずワインを買うし、年末のボジョレ・ヌーヴォーの解禁日は半休を取って、ワインセールを渡り歩くくらいは好きだ。
「甘口ですか、辛口、フルーティー? スパークリング系?」
「あ、辛口で。って高い!」
「僕と一緒で何を言うのか。それでは、この年代物で行きましょう。グラスは……二つで」
(あれ?珍しい)
聖菜は年末の社内打ち上げを思い出した。
小さい規模のブッフェだったが、小野里はまったく酒に寄りつかず、むしろ乾杯の時も、水を持っていた気がする。
「ワイン、飲まれるんですね」
「いえ、僕は水で。貴女が好きなだけどうぞ」
そう言われると、かちんと来る。
やがて磨かれたグラスと、若い色をした赤ワインが氷水に浸されてやってきた。
慣れているらしい、小野里はナフキンでボトルを包み、
「よろしく」
と聖菜のグラスにつぎ足して、素早く自分のグラスにはミネラルウォーターを入れた。
「ちょっと、せっかくのワインなのに」
「帰ったら仕事があるからです。どうぞ」
明らかに距離を置くような物言いに、聖菜はボトルを掴んだ。
「営業なのに、お酒が飲めないとか、ないと思いますけど」
完全なる八つ当たり。
「なんだと」
低い声に、顔を上げると、声とは裏腹に、驚愕する美麗な顔があった。
「つまらないじゃないですか。今日くらい、飲んでください」
「……わかった。きみを信じよう」
ワインを手に座り目になった。
小野里は半分ほどのワインを飲み干し。美味だと目を細める。
「ね?」
と微笑むと、
「きみは蟹座だったね」
とどこから個人情報を……。
「営業と事務は一蓮托生だ。フィーリングが良くないと困る。きみは蟹座で、俺は蠍座だ。どちらも水のエレメントでA型。仕事は相性が一番だから。俺ははっきり言って、風の星座の女性とは気が合わない。流されるより流すほうが好きだから」
「エレメント?」
「星座の言葉だよ。火のサラマンドラ、水のアクア、風のエアリー、土の……何だったかな。例えば火は水に勝てず、水は土には勝てない。そこで、大抵の人間の付き合いは見えるでしょう」
(やっぱり変わった人だけど……外見で決めているわけではないんだ)
「なるほど、わたしも小野里さんも、同じ水なんですね」
「水で、同じ甲殻類だ。ロマンの中でも、自分を護る。君はしっかりしているから、流されずにやれるだろうと思ったんです」
外側も、内側も納得が行く。
この会話術で営業のトップなのか。
なにより適当に選んだわけじゃないと言われ、好感が持てた。
「嬉しそうだな……」
「わたし、誉められると伸びる子です」
料理が運ばれてきて遠慮なくぱくつく。
見て、笑う小野里。
「遠慮がないんだな。猫かぶりは辞めたの?」
「主事、どうせ今夜の分、領収書で接待費で落とさせるんですよね? 」
「そんな当然のことを聞きますか。笑わせるなという話です」
目の前で揺れるワイン。
お酒を飲む小野里はどこか寂しそうで、でもとても綺麗に見えた。
小野里の酒の口調は心地よい。
(星座すきなのかなそういえば、前の彼はそんなものどうでもいいって感じだった)
蟹座と蠍座相性良かったんだ。
ほっとして、聖菜は
「もう一杯どうですか」
と瓶を向ける。
少しは、お疲れ様を労いたい。
きっと疲れて癒されたいから事務にやつ当たる。
小野里の愚痴など聞いたこともなかったから。
***
ごちそうさまの後、
「接待費でおとしてください」
いつもの狡猾な主査に逆戻りした。
なんと切り替えが早い。
聖菜は頭を下げて、少し飲み過ぎた四肢を立て直す。
「接待費で落としてくれると、次回の接待費予算が上がるんです。そうだな、**社の名前がいい。接待してやるつもりもない弱小企業。きみのほうがましだ。同額あとで菓子でも送っておきますけどね」
ズバズバの台詞に、冷えた風が通り過ぎた。
「では、会社で。二日酔いなんかにならないように」
「なりません。悪いお酒じゃなかったから、楽しかったです」
さわやかに別れたはずだったが、終電が出ていたことに気が付いた!
というより、改札へのシャッターは無情にも閉められてしまい、ガードマンがじろと一瞥し去っていく。
(駅で寝ろとか嫌! 主査、その辺にいないかな)
焦って引き返すと、ちょうど別れた地点を少し離れところで、小野里は海を見詰めていた。
「あれ? 忘れ物ですか」
「と、泊めてもらえませんか。しゅ、終電無くなっちゃった!」
「タクシーで帰れば良いのでは」
「給料日前で、空っぽです」
小野里はハァ…、と頭を抱えてしまった。
「タクシー代出すから、場所、どこ」
「***市です」
「遠い! なら泊めてやる」
まさかと思ったが、歩く方向は、流行りのお台場沿いの高級マンションだ。
「え? あの、汐留カレッジ街区ですか?!」
「そうですが」
構わず歩く姿に、聖菜は
「広域営業本部のお給料が破格って伝説じゃないんですね」
と、素直に疑問をぶつけてみたのだが、小野里に睨まれて会話が終わった。
あらすじ
営業事務の聖菜と女たらしの敏腕営業マン、小野里。
彼を補佐する聖菜はある日ディナーに誘われ…。