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官能小説 カレントループ〜蠍座と蟹座の秘密の共有〜 第三話 小野寺との秘密の共有
第三話 小野寺との秘密の共有
土曜日は一人ぼっちの休日。
なはずが、結局お昼過ぎ。
互いに身支度を整えて、なんとなく小野里のマンションに落ち着いている。
「本がたくさん」
一冊の本を開くと、小野里は休日でも仕事をしようとする。
思わずPCを閉じた。
「かまちょしないでもらえますか」
「休日くらい、休んだら? あ、珈琲淹れましょうか」
「来週の企業プレゼン、失敗したら覚えているといいですよ」
前夜の甘さはどこへやら、PCを奪われた小野里はレポート用紙とタブレットを睨み始めた。
珈琲を淹れる音にも反応しない。
――企業プレゼン。
どうやら、命を懸けて(大げさ)いる様子。
そっと珈琲を置いて、それでも気づかなれないまま、玄関へ。
声も掛けてこない。
俺の女、なんて言葉も絶対忘れてしまうんだ、きっと。
「恋人同士じゃないもんね、お似合いでもなんでもないし」
でも、相性は良かったと思う。
溶けるかと思うくらいの愛撫に感じた快感と多幸感は憶えている。
「もう、ないだろうな。現実見ようよ、わたし」
慰めに呟いて外に出ると、夜更かしならではのテンションが上がって来た。
身体はクタクタだが、生気は溢れている。
このまま帰って寝るのは勿体ないくらい。
身支度は整えたし、一人でおしゃれなカフェに入りたい……と思っている後ろで、クラクション。
小野里が車で追いかけて来ていた。
「すまない、気づかずで。ドライブがてら送るよ。家は**市だったな。了解。乗って」
正直有り難い申し出だった。
嬉しいと言えればいいのに。
私にとって最高の夜過ぎて、気の利く言葉も浮かばない。
***
「秘密の共有ってなんですか」
「プレゼンで頭がいっぱいなんだ」
と反省していなそうな答えが返って来た。
ドライブをする独身男性の魅力と、男らしさに溢れて、時折見える優しさと切なさに、胸がしまる。

そういえば、さっき見えた会社のロゴは……。
ハウス企業でも一大企業のS社のものだ。
「プレゼンって、あの大企業ですか。誰も落とせない上場企業の広報S社とか」
小野里は電子タバコを口元で揺らして見せた。
「気づいたか」
「一応、関わってますから。領収書の山で、誰かさんが接待費の山を」
「そう、いよいよ挑む。何人もの事務担当を泣かせてたどり着いた境地だ。最初からきみをつけてほしかったところだけど。昨日の夜は楽しかったか?」
「豹変に驚きましたけど」
「え? ……ああ、酒の……昔の彼女には幻滅したと言われたな……」
「なんでですか、可愛いのに」
「それは、男にとって誉め言葉じゃないぞ……山室」
ずーんとなってしまった小野里に、聖菜は慌てて言いつくろった。
「また、飲みましょう」
小野里は完全に無言。
ちょうど赤信号だ。
聖菜はぐいっと身を乗り出すと、両手で小野里の頬を向けさせる。
「また、飲みましょうね! 美味しいワイン、用意しておいてくれると嬉しいです」
「それは、あなたの頑張り次第。笑わせる……いや、きみとなら気兼ねなく飲めそうだから、そのうちに」
小野里は何か言いたそうでいて、思慮深さを覆い隠すのだった。
***
数日後、会社。
企業プレゼンに余念がない営業のお陰でどんどん書類が増えていくし、メールも増えた。
「あたしのお昼、いつ摂れるのよ! もー!」
うんざりしたところで、「会議予定のご招待」が届いた。
よりにもよってお昼に会議。
完全にお昼は無理だ。
買いに行けない。ありえない。
でも、手を上げた以上、やり遂げたいから、会議室行ってきます。
(あれ? 今、わたしメール送ったよね? うん、大丈夫)
***
「失礼します! 主事、仕事がタランチュラのように無限に沸いてくるんですが」
「だと思ったから、ホテルから取り寄せたんだよ」
と高級弁当と小野里が待っていた。
「食べてしまってくれる? 約束の取引先の人数が減った」
「いえ、あのお昼は」
「買いに行くつもりか? 午後に差し支えるだろう。多めに買い過ぎたんだ」
さきほどとは理由が違う。
嘘くらい覚えていてください。
見えた本心に 涙目になったのを隠して、頭を下げた。
途端に目があって、同時に視線を逸らせてしまう。
お互い、あの夜を会社で語るほど、愚かではない。
まして狡猾な小野里が口を滑らせるなんてこともないだろう。
あれは、火遊びだ。
うん、酒の悪い悪戯です。
ただ、合意なので、安心してくださいとは言うまでもないだろう。
俺の女発言も成りを潜めてしまっていて、今更聞き返すほど野暮なことはない。
ほど同時に箸を手にした小野里がぼやいた。
「良い天気だから、外で食べたいところだが、そろそろ来るか」
「あ、これから商談でしたか」
「ランチがてら、と言ったから用意したのに、食べてくると言われてね。女営業は気まぐれで困る。領収書は後で出します」
……女営業……。
聖菜の部署にも、女性の営業はいる。
優しくて強いが、どこか、女性としての差を感じさせるからか、女性営業は苦手かも知れない。
ノックがして、上司の女性と、もう一人がパネルを抱えて入って来た。
どうやら知り合いの様子。
「遅れてしまってすみません」
「いえ、こちらも、ああ、紹介します。僕の事務担当の山室です。何かとご迷惑をおかけすると思いますが、前の担当よりかはやれていますよ」
お箸をくわえさせておいて、ご紹介はない。
聖菜は慌てて立ち上がった。
まさかの女性が取引先の代表とは思わなかった。
背も高いし、上場企業の社章が眩しい。
「こんにちは、初めまして」
にこ、と笑って女性は名刺を差し出した。
聖菜は隣の小野里も微笑んでいると思ったが、今までに見た覚えのない険しい顔に、血の気が引いた。
「では、三時にお願いします。小野里さん」
短い挨拶はすぐに終わり、小野里は創り笑顔でドアまで送るとそっと締めた。
「失礼」
とネクタイをゆるめる。
「あなたは鋭そうだし、隠すこともない。さっきの女性が元彼女。企業のために恋愛してみたけど、うまく行かなかった。酒で本性出してから」
「幻滅した、って言われたんですか」
小野里は頷いた。
「すごい営業です。女性で、あそこまで上り詰めた手腕は確かで」
「未練たらたらですか」
ずばっと言ってやった。
小野里は、くっと笑って、足をくみ上げて、肘をつく。
「ベッドは、あんたのほうが良かったですよ」
「主事、あの……」
「一昨日の夜が忘れられなくてつい、失言だったな」
「あはは」
いや、わたしもです、とか言っちゃだめでしょう。
うずきを覚え始めるなんてもってのほかだ。
秘密の共有はちょっぴりエロティックで、でも健全に。
それでも、あの夜の雅哉が愛らしいのは変わらない。
「この会話はまずいか。きみがあわ吹きそうだから自重します。秘密の共有よろしく」
秘密の共有ばかりを増やして。
***
午後の仕事もようやく終わった。
ちらりとミーティングルームを覗くと、小野里が一人でPCに向かい合っているのが見える。
ノートパソコンとタブレットがペットのようだ。
しかし、何もついていない。
手元に書類を並べて、小野里は手を組んで肘をつき、伸ばした人指し指で額を支えていた。
どうやら懊悩しているらしい。
(ちょっと、待とうかな、声、かけにくい)
しかし、五時を回っても、小野里が出て来る気配はなく。
聖菜はエントランスで何となく待ってみた。
それでも降りてこないので、また見に行くと、まだPCに向かい合っている。
九時近くになった。
そろそろ帰らないと、また終電騒ぎになる。
タイムリミットだと引き返したところで、ばったりと出て来た小野里と鉢合わせた。
「何時だと思ってるのか」
もっともな言葉に、聖菜はもごもご言い訳をする。
「今夜、お手伝いしましょうかと……」
「当然のように言うんですね。やっぱ、やるんじゃなかったな、味、しめたんですか」
と赤面する小野里からはゴールデンレトリバー風味の甘さが見え隠れしている。
「お酒、好きならつき合いますという話で! 味をしめたとか!」
「分かっています」
と笑顔を向けられて、聖菜はどきっと胸を弾ませる。
「おもしろくない日の酒より、いいことがあった時の酒のほうがいいですね」
「いいことがあったんですか? 何か、悩みごとですか」
小野里はにっこりと笑った。
――ん? なんか、青筋立ててる気が……。
「なんで俺が残業しているかわかるか? きみ、間違えて請求書送ってたんですが。セックスで脳裏がピンクになってたんですか」
――あっ……あの、メールの時の。
「じゃ、僕の家、行こうか。ぞんぶんに手伝ってもらわなければ間に合いませんよ」
あらすじ
小野寺との一晩を経て、休みの日はなんとなく彼のマンションに向かってしまう聖菜。
仕事のパートナーとして彼を支える一方、時折見せるミステリアスな魅力に惹かれていく…。