女性のための無料 官能小説・官能漫画サイト
エルシースタイル(LCスタイル)は、登録商標です【商標登録第4993489号】
ラブコスメが提供する情報・画像等を、権利者の許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます
官能小説【1話】恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき〜
こんなに好きなのに
「わたし、どこか変なのかな」
――言いたい言葉をぐっと堪え、挿入の余韻を捕まえようと目を瞑る。でも、今夜も、するりとそれは逃げて行ってしまいそうになって。
(何でなの……どうして)
相反する思考に、刺激的な台詞を混ぜ込んでみた。
『……こんなに濡れてるけど?なら、やめるか?』
エッチ漫画を思い浮かべ、なんとか快感を閉じ込めようとするけれど――……
「ああっ……あ?……ん、ん……」
彼氏の柊木瞬一(ひいらぎしゅんいち)に落ち度はない。それどころか、肌を重ねるこの時間は幸せにとろけてしまいそうで、回した腕が汗ばむ事を愉しんでいるくらいなのに。
吉城鹿埜(よしきかの)として生きて来て、やっと巡り合えた、大切な人なのに。
「鹿埜?絶頂でぴくんとなっているよ」
漫画に負けなさそうな台詞に、罪悪感を噛み締めた。
(違うの、違うの)と思っていても、瞬一は嬉しそうに鹿埜を抱きしめて、満足そうに息を甘く吐くだけだ。
「ん、良かった、から」
漫画のヒロインをなぞりながら、鹿埜は泣きたい気持ちを堪えた。
――どうしてイケないの?みんなみたいに、幸せに駆け上がっていけないの?わたしはこんなに、この人を好きなのに。どうして、逃げて行ってしまうのだろう……?
深く受け止めたいのに、どうして……。
外では柳の葉が初夏の風に揺らされて、静かな葉音を立てていた。ここは老舗の旅館『香降楼』。たくさんのお客様をおもてなしする、静かな山麓だ。初めて降りたバス停は少し先。でも、あの色合いも、バスの音も、たどり着いた時の高揚は今も胸にある。
呉服屋の娘であることを武器に、和風の世界に飛び込んだ。女将になるにはまだまだ遠い。でも、この手があれば。
「うん、瞬一さん、好き……」
瞬一の手を頬に充て、虚無感をマーブルにする。
風景を眺めながら、自分を慰めている鹿埜に、優しい声が降った。
「きみはこの旅館の女将になるために来たんだろう。決死の覚悟で、今も覚えているよ。フフ、本当に身一つで来るなんて」
――そう、「好きです!」と決死の覚悟で来たはずなのに。
(こうして夢のように愛されて、どうかしちゃったのかな……幸せ過ぎて、不感症になっちゃったのかな。前は触られるだけで、心臓を跳ね上げていたのに)
どこが問題なのか、判らない。身体なのか、心なのか。こんなに好きなのに。揺らいじゃうよ。わたしはちゃんと、この人を好きになっていないのではないかって。
それとも、まだまだ好きが足りない?もっともっと奥に来て欲しいのに。
――好きな人への気持ちが、引っかかって進めないなんて。わたしの恋はいつも停滞中だ。
お客様の忘れ物
「ありがとうございました。また、ご贔屓に」
お客様がラブラブで腕を組んで去っていく。今日のお客様の御見送りは終わり。鹿埜は「準備中」の看板を置いた。軽食を済ませ、夜の新しいお客様のために、点検と部屋の掃除をしなければならない。
「今日は連休明けだから、お客様が少なくて良かった。各自休憩を」
「はい。わたし、部屋の再確認して来ます」
女将候補とはいえ、鹿埜は新参者だ。誰よりも動かなければ。それに、動いていれば、瞬一との夜のことを考えずに済む。
「……白鳥の間ね。布団の片づけ、よし。畳の噴きこぼれもなし。……と」
窓際に隠れるようにして、置いてある小さな箱包みが気になった。
「大変。忘れ物。ああもう、なんでこんなところに」
気が進まないけれど、中身を確認したのち、預かり続ける。それがペットボトルでも、旅館やホテルは絶対に捨ててはいけない決まりがある。
「すみません。中身を確認しますね」
無人の部屋でも律儀に告げて、開けた。中身はまだ見えていない。
「随分丁寧に包んである……え?」
一瞬脳裏が真っ白になって、鹿埜はごしごし、と袖で目を擦った。出て来たものを呆然と持ち上げて、無意識に呟く。
「……すごい、そっくり」
綺麗なコバルトブルーに、爽やかな白い持ち手をしているが、形状は一目でラブグッズだと鹿埜に訴えて来た。ダイレクトに不安を呼び覚まされて、鹿埜は手の力を入れた。スイッチらしい部分に指先が触れる。
「きゃあ」
水を得た魚のように、それはブルブルと元気よく動き出す。それも、握りかたを変えると、大きな振動に変わって、鹿埜はいつしか頬を熱くさせていた。
「もうっ!は、恥ずかしいな……!仕舞いますから、おとなしくして」
まだ動くので、見様見真似で電池を抜いた。大人しくなったらなったで、自分の胎内で終える瞬一を思い出し、恥ずかしさと一緒にばふ!と詰め直した。ケースを見つけた。
「マリンビーンズ……ああ、マリン色……」
(ラブグッズ、初めて知ったかも……こんなにリアルなんだ)
動きもそっくり。エッチ漫画では、気持ちよくなったヒロインが自ら動くことが多い。止められない、そんな風になれたら。
――何を考えているのでしょう。もう、ラブグッズなんか見るから!
「今は仕事中。瞬一さんとのことは一緒に箱に丁寧に仕舞って、仕舞って」
冷たい畳のひんやりさが丁度良かった。すっかり熱が引いて落ち着きを取り戻したところで、「鹿埜?」と呼ばれて、慌てて振り返る。弾みで手を滑らせてしまった!
「何やってるんだか。お昼を一緒にどうかと……」
「わ、わわわ。見ちゃ、だめです――っ」
遅かった。足元に転がったラブグッズの数々は瞬一の目に晒されて、鹿埜は顔を覆って声をくぐもらせた。
(これを見て、何をやってたんだとか言われないよね……ばれてはいないよね)
ラブグッズを見ていると、不安が募って仕方がない。鹿埜は精一杯の冷静さで答えた。
「お客様の忘れ物です」
「お客様の物は、僕を通すルールだろうに。さぁ、全部並べて。異物がないか確認するから」
「全部、ですか?」
「おや?いつもそうしているだろう」
多少意地悪そうな声音に聞こえたのはきっと気のせい。気のせい、気のせい……。
「これで全部?……ふうん」
涼し気な声音に、ますます鹿埜が頬を熱くしてこくりと頷いた。
しーんとした空気が通り過ぎる中、瞬一は小さく呟く。
「いい機会ではあるな……」
(いい機会?)
ちらりと横目で見た瞬一の表情に鹿埜は息を飲み下した。いつも優しい瞬一の双眸に、火花が僅かに散って見えた。
「保管しておきます!」
「鹿埜」
しっかりと呼ばれて、足袋の足を止めた。仲居よりランクの良い着物は、滅多に布擦れ音を立てない。しかし、鹿埜は、ざりっ、と着物を鳴らしてしまった。
「きみ、僕とのセックスが嫌いか?」
――こんな時に。
(いえ、こんな時、だから?)
瞬一は若旦那風味に着こなした着物のまま、柱に寄り掛かって鹿埜を看破するように見つめて来る。
「抱いている側の僕が気づかないと思ったなら大間違いだが」
もう、隠せないだろう。そもそも、瞬一ほどの男を絶頂未経験の小娘が騙せるはずもないのに。
(どうしよう、怒ってる……でも、打ち明けるしか、ない)
「知られたくなかったの。わたし、おかしいのかも知れない」
見たことのない表情
あなたを本当に好きなの?
わたしは、ちゃんと貴方に恋、出来てますか?不安がせり上がって止まらなくなった。
何か、間違ってしまったのではないだろうか。
(でも、わたしだって、みんなと同じように、笑い合いたい。好きな人とひとつになるってどういうこと?奥に仕舞いこむしかないじゃないか。嫌われたら、辛いもの……)
でも、一番に、パートナーである瞬一に言うべきだったのだ。
「幸せをずっと続けたいのに、できない……っみんなみたいに、幸せになれないの……っ」
瞬一の口元が声なく動いた。暫くして、瞬一は言葉を押し出した。
「みんな?きみが敬語を忘れるなんて珍しい」
(うっ……)
「……体験談とか、漫画とか……みんな幸せそうなのに……」
お願い、何かを言って。
恥ずかしいことではないのに、罪悪感が降り積もってたまらない。
どうして、幸せになれるはずなのに、私は罪悪感を感じているの?
涙が滲みそうになって、鹿埜は慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい。……ラブグッズ見て、少し興奮してしまったみたい」
「…………そう、か」
「あの、瞬一さん……怒らないで。ねえ、わたしのほうを見て」
瞬一は顔を押さえて小刻みに揺れている。
(もしかして、泣かせちゃった?!)
男性は得てして、性行為にプライドを掛けるらしい。エッチ漫画から得た知識。
指の合間から、瞬一は綺麗な双眸を覗かせた。
ぞっとする鷲の目は見た覚えがない。しかし、その孤高さは瞬一に似合っていて、鹿埜はごくりと咽喉を鳴らしてしまった。

「素のきみ、可愛いじゃないかと……うん、気が抜けるとそうなるのか」
(可愛いっ?!気が抜けると?!)
真を見開く前で、瞬一は眉を僅かに下げて、笑いを滲ませながら告げた。
「今度またきみを抱くから、準備が出来たら部屋に呼ぶよ」
――準備しておくってなに?!
「…………そう、か」
言葉と鷲の目を思い返した。あれは猛禽類の目に近い。優しさをしまい込んだ鷲だった。
――なに、あの表情!
「……あんな男らしい表情も見せるんだ……。見たことないし」
どっと疲れて、鹿埜は箱を抱え直した。あなたのせいで、怖い瞬一さん見ちゃった。でも、お客様のお忘れ物だ。丁寧に、丁寧に。
「仕舞って、こよ……」
箱を丁寧に拾得室に収めて、壁に寄り掛かった。
翠の壁が映り、ぼんやりとマリンビーンズを思い出し、でも少し心は軽くなった。
「瞬一さんで、ちゃんと、いきたい。それだけなのに……笑うことないよね」
(好きな人に導かれるエクスタシーはきっと幸せで死んでしまうのかも知れない。でも、それでもいいと思う私は、恋には不感症じゃない。きっと……うん)
猫が小さく鳴いて、初夏の旅館を彩っていた。
もう少し経つと、蛍が見頃なんだけど。
⇒【NEXT】「今日はお客も少ないようだ。きみも、今夜は僕とゆっくり過ごさないか?」(恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき〜 2話)
官能小説でもっとときめきたいあなたにオススメ
あらすじ
大好きな彼とのエッチなのに、どうしてイけないの…!?
漫画のようなエッチにあこがれが強い鹿埜。
お客様の忘れ物でラブグッズを見つけ、それを彼にも見られてしまって…。