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官能小説【最終話】恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき〜
きらきらの紫陽花
今日は快晴。
とてもとても良い天気で、一雨あった朝露もきらきらと輝いて、旅館を彩っている。
そのせいか、窓を拭くと、きゅっといい音がして、鹿埜は夢中で硝子を拭いていたが、どうしても届かず、つま先を立てて、腕を伸ばしたところである。
渡り廊下のガラスなら、曇っているより、透明なほうが、お客様だって気持ちいい。
六月の、梅雨の終わり。間もなく夏がやって来る。
だからこそ、全面綺麗にしたいのに、端の一部分が気になって仕方がない。
「おはよう、鹿埜、精が出るね。つま先のばして、どうしたんだ」
「おはようございます!瞬一さん。でも、一か所が拭けなくて」
「貸してくれるかい」
瞬一は窓の布巾を受け取ると、届かない隅を丁寧に拭いてくれた。
――うまく二人で達せるようになって、色々とみえて来たことは語り尽くせないでしょう。
こういう部分の信頼も、変わった気がする。
そして、それを特別に教えてくれた瞬一さんの『おもてなし』はきっと一生忘れない。
「さ、次はっと」
モップを掴んで袖を縛り上げようとした鹿埜に、瞬一が語り掛けた。
「そうだ、この間の……お忘れ物のお客様が」
「え?あの、ラブグッズのお忘れ物の?連絡ついたんですか」
「お客様には、お忘れ物の一言で頼むよ、鹿埜」
瞬一はしばし言葉を押しとどめたあと、しっかりと頷いた。
「もちろん。一応、連絡しないとまずいと思って。そうしたら、何て言ったと思う?」
「なんて言っていたんですが?もうこちらで、とか?」
瞬一は「とんでもない」といつもの笑顔になって、頬を緩めた。
「大切なものを、ありがとうございます、と。聞いたら、あの箱に、大切な記念日の入ったネックレスを入れていたそうで、ずっと探していたらしいんだ。きみがひっくり返した時に見当たらなかったが、箱の底に、ちゃんとあった。あの箱は「大切なモノばかりを入れている」と言っていたよ」
朝からほっこりする話題に、鹿埜も繰り返した。
「大切なものばかり……」
「気持ちが分かるだろう?きみもあれからは、箱を大切に抱えていそいそやってくるじゃないか」
鹿埜は少しばかりにやりと鷲のような目になった瞬一を軽くじっと見た。
「それは、瞬一さんが悦ぶからです。嬉しいの、だから、イソイソ……」
「いそいそ?」
「若旦那様。朝から、婚約者をからかうのはやめましょう」
「きみが可愛い反応するからだ。そうだ、きみに言わなければならないことが」
瞬一は言いかけて、「いや、後にしよう」と言葉を切った。
「きみの喜ぶところで、言うよ。さあ、今日も頑張ろう」
「はい」
ぱっと着物の裾を翻して、鹿埜はつま先を元に戻した。
磨き上げた窓ガラスに、二人の笑顔が眩しく映って、旅館の初夏を待ち遠しそうに揺れる紫陽花も最後の大ぶりの花を咲かせていた。
愛する貴女へ
「良かったです。ここに、お名前をお願いできますか」
いらっしゃったお客様は、すぐに箱の中を見て、まずネックレスを取り出した。
まさか、そんな大切なものが入っているとは思わず、鹿埜はひっくり返したことを、こっそり小さく反省した。
こういう事態に備えて、瞬一は若旦那として厳しい管理をしているのだろう。
「素敵なネックレスです」
お客様は小さなダイヤモンドのネックレスを揺らして、さらに箱を丁寧に閉じ、パートナーの男性と顔を見合わせ、恥ずかしそうに告げた。
「これがないと、どこか寂しいんです。これ、旦那が注文してから、二人で磨き合ってるんですよ。新しいものをとも思ったんですが、愛着、沸いちゃったので」
「あ、分かります」ついつい口にしたところで、瞬一が巧くフォローを入れてくれた。
「大切なものは、ずっとそばに置きたいですよね。また、是非宿泊にいらしてください。いつでも、ご予約お待ちしています。さあ、御見送りだ」
「はい」笑顔で頷いた鹿埜に、女性が「奥様ですか?」と瞬一に尋ねた。
(奥様!)
思いもしない言葉に、つま先が浮きそうになって、しっかりと踏みしめる。
落ち着かないわたしは、一緒にさよならして、少しでも頑張るわたしになったはず。
だから、しっかりと答えよう。まだまだ、瞬一さんの奥様になるには、頑張らなきゃと。まだまだだ、と自分に微笑むのも、悪くはないのだから。
しかし、瞬一に肩を抱かれ、言葉を押し出しそこなった。
「――はい。まもなく、挙式の予定です」
――挙式?聞いていません、若旦那さま。
(まさか、朝、言いかけてた言葉って……)
「そうですか!おめでとうございます!」
旦那のほうが嬉しそうに告げ、瞬一は御礼を述べて、鹿埜をちらっと見て、微笑みをさっと隠した。
……それ、完全に出し抜けたという笑いを堪えている顔です。
やれやれ、まだまだ隠されたおもてなしがありそう。
戸口まで出て、丁寧に頭を下げた。
黄色のミニバンはゆっくりと旅館を離れ、聞こえなくなったところで、鹿埜と瞬一は同時に顔を上げた。
「大切そうに、持って行きましたね……ふたりで磨き合うが大切って瞬一さんも言ってた言葉ですね」
「……そうだったかな」
瞬一は目を逸らし、鹿埜は笑った。もうすぐ大好きな夏の花の季節。負けずにぱっと明るくわたしも笑顔を振りまこう。
鹿埜は軽く拳にした手を振って、旅館へ歩くかたわら、振り返った。
「さ、今日もお客様へ、しっかりとおもてなし、しましょう、若旦那さま!」
おもてなしの言葉に瞬一は目元を赤らめ、鹿埜は心から愛おしさを噛み締めた。
それはそのまま、繋いだ手のひら同士に大切に、込められる。
「一緒に、式を挙げてもいいかな、鹿埜」
「――はい!」
愛する旦那さまが教えてくれたこと。
二人で愛を確かめる時間を大切にするためにも、私自身を磨くことは必要で、磨きながら一緒に未来を歩むことそれは愛を大切にすることなんだって――。
その愛することを、わたしの大切な若旦那はちょこっと古風に「おもてなし」と言う。
ちょっぴり照れながらも、しっかりと。
でも隠された本当の意味は、愛する貴女へ快感(おもてなし)を。なのだった。
END
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あらすじ
二人が愛を確かめ合った翌朝。
例の忘れ物を取りに来たお客様の話を聞きながら、改めて彼との幸せな未来に想いを馳せて――。