注目のワード

官能小説【1話】恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき〜【LCスタイル】

こんなに好きなのに

「わたし、どこか変なのかな」

――言いたい言葉をぐっと堪え、挿入の余韻を捕まえようと目を瞑る。でも、今夜も、するりとそれは逃げて行ってしまいそうになって。

(何でなの……どうして)

相反する思考に、刺激的な台詞を混ぜ込んでみた。

『……こんなに濡れてるけど?なら、やめるか?』

エッチ漫画を思い浮かべ、なんとか快感を閉じ込めようとするけれど――……

「ああっ……あ?……ん、ん……」

彼氏の柊木瞬一(ひいらぎしゅんいち)に落ち度はない。それどころか、肌を重ねるこの時間は幸せにとろけてしまいそうで、回した腕が汗ばむ事を愉しんでいるくらいなのに。
吉城鹿埜(よしきかの)として生きて来て、やっと巡り合えた、大切な人なのに。

「鹿埜?絶頂でぴくんとなっているよ」

漫画に負けなさそうな台詞に、罪悪感を噛み締めた。
(違うの、違うの)と思っていても、瞬一は嬉しそうに鹿埜を抱きしめて、満足そうに息を甘く吐くだけだ。

「ん、良かった、から」

漫画のヒロインをなぞりながら、鹿埜は泣きたい気持ちを堪えた。
――どうしてイケないの?みんなみたいに、幸せに駆け上がっていけないの?わたしはこんなに、この人を好きなのに。どうして、逃げて行ってしまうのだろう……?
深く受け止めたいのに、どうして……。

外では柳の葉が初夏の風に揺らされて、静かな葉音を立てていた。ここは老舗の旅館『香降楼』。たくさんのお客様をおもてなしする、静かな山麓だ。初めて降りたバス停は少し先。でも、あの色合いも、バスの音も、たどり着いた時の高揚は今も胸にある。

呉服屋の娘であることを武器に、和風の世界に飛び込んだ。女将になるにはまだまだ遠い。でも、この手があれば。

「うん、瞬一さん、好き……」

瞬一の手を頬に充て、虚無感をマーブルにする。
風景を眺めながら、自分を慰めている鹿埜に、優しい声が降った。

「きみはこの旅館の女将になるために来たんだろう。決死の覚悟で、今も覚えているよ。フフ、本当に身一つで来るなんて」

――そう、「好きです!」と決死の覚悟で来たはずなのに。

(こうして夢のように愛されて、どうかしちゃったのかな……幸せ過ぎて、不感症になっちゃったのかな。前は触られるだけで、心臓を跳ね上げていたのに)

どこが問題なのか、判らない。身体なのか、心なのか。こんなに好きなのに。揺らいじゃうよ。わたしはちゃんと、この人を好きになっていないのではないかって。
それとも、まだまだ好きが足りない?もっともっと奥に来て欲しいのに。
――好きな人への気持ちが、引っかかって進めないなんて。わたしの恋はいつも停滞中だ。

お客様の忘れ物

「ありがとうございました。また、ご贔屓に」

お客様がラブラブで腕を組んで去っていく。今日のお客様の御見送りは終わり。鹿埜は「準備中」の看板を置いた。軽食を済ませ、夜の新しいお客様のために、点検と部屋の掃除をしなければならない。

「今日は連休明けだから、お客様が少なくて良かった。各自休憩を」
「はい。わたし、部屋の再確認して来ます」

女将候補とはいえ、鹿埜は新参者だ。誰よりも動かなければ。それに、動いていれば、瞬一との夜のことを考えずに済む。

「……白鳥の間ね。布団の片づけ、よし。畳の噴きこぼれもなし。……と」

窓際に隠れるようにして、置いてある小さな箱包みが気になった。

「大変。忘れ物。ああもう、なんでこんなところに」

気が進まないけれど、中身を確認したのち、預かり続ける。それがペットボトルでも、旅館やホテルは絶対に捨ててはいけない決まりがある。

「すみません。中身を確認しますね」

無人の部屋でも律儀に告げて、開けた。中身はまだ見えていない。

「随分丁寧に包んである……え?」

一瞬脳裏が真っ白になって、鹿埜はごしごし、と袖で目を擦った。出て来たものを呆然と持ち上げて、無意識に呟く。

「……すごい、そっくり」

綺麗なコバルトブルーに、爽やかな白い持ち手をしているが、形状は一目でラブグッズだと鹿埜に訴えて来た。ダイレクトに不安を呼び覚まされて、鹿埜は手の力を入れた。スイッチらしい部分に指先が触れる。

「きゃあ」

水を得た魚のように、それはブルブルと元気よく動き出す。それも、握りかたを変えると、大きな振動に変わって、鹿埜はいつしか頬を熱くさせていた。

「もうっ!は、恥ずかしいな……!仕舞いますから、おとなしくして」

まだ動くので、見様見真似で電池を抜いた。大人しくなったらなったで、自分の胎内で終える瞬一を思い出し、恥ずかしさと一緒にばふ!と詰め直した。ケースを見つけた。

マリンビーンズ……ああ、マリン色……」
(ラブグッズ、初めて知ったかも……こんなにリアルなんだ)

動きもそっくり。エッチ漫画では、気持ちよくなったヒロインが自ら動くことが多い。止められない、そんな風になれたら。
――何を考えているのでしょう。もう、ラブグッズなんか見るから!

「今は仕事中。瞬一さんとのことは一緒に箱に丁寧に仕舞って、仕舞って」

冷たい畳のひんやりさが丁度良かった。すっかり熱が引いて落ち着きを取り戻したところで、「鹿埜?」と呼ばれて、慌てて振り返る。弾みで手を滑らせてしまった!

「何やってるんだか。お昼を一緒にどうかと……」
「わ、わわわ。見ちゃ、だめです――っ」

遅かった。足元に転がったラブグッズの数々は瞬一の目に晒されて、鹿埜は顔を覆って声をくぐもらせた。

(これを見て、何をやってたんだとか言われないよね……ばれてはいないよね)

ラブグッズを見ていると、不安が募って仕方がない。鹿埜は精一杯の冷静さで答えた。

「お客様の忘れ物です」
「お客様の物は、僕を通すルールだろうに。さぁ、全部並べて。異物がないか確認するから」
「全部、ですか?」
「おや?いつもそうしているだろう」

多少意地悪そうな声音に聞こえたのはきっと気のせい。気のせい、気のせい……。

「これで全部?……ふうん」

涼し気な声音に、ますます鹿埜が頬を熱くしてこくりと頷いた。
しーんとした空気が通り過ぎる中、瞬一は小さく呟く。

「いい機会ではあるな……」

(いい機会?)

ちらりと横目で見た瞬一の表情に鹿埜は息を飲み下した。いつも優しい瞬一の双眸に、火花が僅かに散って見えた。

「保管しておきます!」
「鹿埜」

しっかりと呼ばれて、足袋の足を止めた。仲居よりランクの良い着物は、滅多に布擦れ音を立てない。しかし、鹿埜は、ざりっ、と着物を鳴らしてしまった。

「きみ、僕とのセックスが嫌いか?」

――こんな時に。

(いえ、こんな時、だから?)

瞬一は若旦那風味に着こなした着物のまま、柱に寄り掛かって鹿埜を看破するように見つめて来る。

「抱いている側の僕が気づかないと思ったなら大間違いだが」

もう、隠せないだろう。そもそも、瞬一ほどの男を絶頂未経験の小娘が騙せるはずもないのに。

(どうしよう、怒ってる……でも、打ち明けるしか、ない)

「知られたくなかったの。わたし、おかしいのかも知れない」

見たことのない表情

あなたを本当に好きなの?
わたしは、ちゃんと貴方に恋、出来てますか?不安がせり上がって止まらなくなった。
何か、間違ってしまったのではないだろうか。

(でも、わたしだって、みんなと同じように、笑い合いたい。好きな人とひとつになるってどういうこと?奥に仕舞いこむしかないじゃないか。嫌われたら、辛いもの……)

でも、一番に、パートナーである瞬一に言うべきだったのだ。

「幸せをずっと続けたいのに、できない……っみんなみたいに、幸せになれないの……っ」

瞬一の口元が声なく動いた。暫くして、瞬一は言葉を押し出した。

「みんな?きみが敬語を忘れるなんて珍しい」

(うっ……)

「……体験談とか、漫画とか……みんな幸せそうなのに……」

お願い、何かを言って。
恥ずかしいことではないのに、罪悪感が降り積もってたまらない。
どうして、幸せになれるはずなのに、私は罪悪感を感じているの?
涙が滲みそうになって、鹿埜は慌てて頭を下げた。

「ごめんなさい。……ラブグッズ見て、少し興奮してしまったみたい」
「…………そう、か」
「あの、瞬一さん……怒らないで。ねえ、わたしのほうを見て」

瞬一は顔を押さえて小刻みに揺れている。

(もしかして、泣かせちゃった?!)

男性は得てして、性行為にプライドを掛けるらしい。エッチ漫画から得た知識。
指の合間から、瞬一は綺麗な双眸を覗かせた。
ぞっとする鷲の目は見た覚えがない。しかし、その孤高さは瞬一に似合っていて、鹿埜はごくりと咽喉を鳴らしてしまった。

官能小説挿絵:ドSな表情を浮かべる男性

「素のきみ、可愛いじゃないかと……うん、気が抜けるとそうなるのか」

(可愛いっ?!気が抜けると?!)

真を見開く前で、瞬一は眉を僅かに下げて、笑いを滲ませながら告げた。

「今度またきみを抱くから、準備が出来たら部屋に呼ぶよ」

――準備しておくってなに?!

「…………そう、か」

言葉と鷲の目を思い返した。あれは猛禽類の目に近い。
優しさをしまい込んだ鷲だった。

――なに、あの表情!

「……あんな男らしい表情も見せるんだ……。見たことないし」

どっと疲れて、鹿埜は箱を抱え直した。あなたのせいで、怖い瞬一さん見ちゃった。でも、お客様のお忘れ物だ。丁寧に、丁寧に。

「仕舞って、こよ……」

箱を丁寧に拾得室に収めて、壁に寄り掛かった。
翠の壁が映り、ぼんやりとマリンビーンズを思い出し、でも少し心は軽くなった。

「瞬一さんで、ちゃんと、いきたい。それだけなのに……笑うことないよね」

(好きな人に導かれるエクスタシーはきっと幸せで死んでしまうのかも知れない。
でも、それでもいいと思う私は、恋には不感症じゃない。きっと……うん)

猫が小さく鳴いて、初夏の旅館を彩っていた。
もう少し経つと、蛍が見頃なんだけど。

⇒【NEXT】「今日はお客も少ないようだ。きみも、今夜は僕とゆっくり過ごさないか?」(恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき〜 2話)

官能小説でもっとときめきたいあなたにオススメ

あらすじ

大好きな彼とのエッチなのに、どうしてイけないの…!?
漫画のようなエッチにあこがれが強い鹿埜。
お客様の忘れ物でラブグッズを見つけ、それを彼にも見られてしまって…。

この記事を読んだ方にオススメのコンテンツ



一足先にラブコスメ漫画を読みませんか?

官能小説はやっぱりLC!女性のためのすべて無料の官能小説サイト『エルシースタイル』!女性向けのえっちな小説や、女の子向けの投稿小説作品、セックス体験談を多数掲載中!短編から長編まで、エルシースタイルでしか読めない女性のための連載官能小説をお楽しみください。

2019クリスマスSP
  • クンニ
  • さくらの恋猫
  • ヌレヌレSP
トロけるエッチ
騎乗位動き方
亜麻寺優
亜麻寺優
こんにちは。あまでらゆうです。別名義で幅広く創作活動し…
カテゴリ一覧
感じる官能小説
幼馴染(全3話)
仕事一筋(全3話)
遠距離恋愛|遠距離恋愛カップルの官能小説
夜明け前〜解放〜(全6話)
夜明け前〜出逢い〜(全6話)
絵の中のあなた(全3話)
空をつなぐ(全8話)
恋のチカラ(全6話)
恋愛エクスプレス(全8話)
キミに出会う旅(全5話)
君が気づかせてくれたこと(全6話)
home sweet home(全4話)
恋の花の咲かせ方(全5話)
まだ見ぬ君へ(全4話)
ここにいること(全4話)
未来の花ムコ(全4話)
彼女の生きる道(全7話)
本当の幸せ ―私の誤算―(全3話)
コイの記憶(全3話)
救世主(全3話)
再びの春(全3話)
天使の羽(全3話)
キャンパス(全3話)
恋愛診断(全3話)
傷心旅行(全3話)
甘い恋愛(全3話)
始まりは雨(全3話)
遠回りした私たちの恋(全4話)
LOVERS〜恋が始まる〜(全6話)
LOVERS〜恋が揺らぐ〜(全6話)
LOVERS〜恋がざわめく〜(全6話)
揺れる明るみ〜癒し〜(全6話)
揺れる明るみ〜包容〜 (全6話)
うずきがとける(全7話)
おんなの、秘めごと|森下くるみの官能小説
バースデーバレンタイン|渡辺やよいの官能小説
安藤呂衣は恋に賭ける|内田春菊の官能小説
私の知らない私|女性向けSM官能小説
ウーマン・オブ・プラネット
官能小説の書き方(投稿)
その指が恋しくて|指フェチの官能小説
あなたを感じる〜電話エッチ〜|テレフォンセックスの小説
寂しさの粒|マリッジブルーで婚約破棄を考える女性の官能小説
ルームナンバー701
美味しいセックス|おいしいフェラの官能小説
目で感じる官能エロ小説
「もうひとつ」の誘惑|ディルドの官能小説
新着小説作品
あなたを掴まえたい(年下彼氏)|年下男子との恋愛小説
夜はまた明ける
秘密の氷が溶ける音
心の糸を結ぶ場所|婚活パーティーが舞台の官能小説
Sweet of edge
となりのS王子「ファースト・クリスマス」|クリスマスHの小説
となりのS王子小説版 恋におちたら|上司との恋愛官能小説
先生とわたし|先生と生徒の恋愛官能小説
【小説版】シンデレラになる方法 〜誓子の場合〜
【小説版】夜ごと課外レッスン|夫婦の官能小説
クロスラバーズ spotA 谷崎美陽の場合
クロスラバーズ spotB 吉井月乃の場合
妄カラ女子 spotA 小森未由の場合
純白と快感のあいだ|ひと夏の恋を描いた官能小説
妄カラ女子 spotB 榊川彩子の場合
パラレルラブ spotA 加藤直紀
パラレルラブ spotB 高木洋輔
同居美人 projectA 名取千織
同居美人 projectB 上塚想子
心も体もつながる夜は
幼なじみの甘い脅迫|幼馴染との官能小説
甘恋レッスン|幼馴染とするエッチの練習小説
恋のメイクレッスン|可愛い女の子の恋愛小説
彼女を震わせるモノ|ローターで攻める官能小説
オンナノコ未満、オンナノコ以上
本当にあった物語|ラブコスメの体験談小説
恋猫、飼い始めました。|リモコンバイブが登場する官能小説
Lovecure|ラブホテルでのセックス官能小説
二度目の恋におちたから|セカンドバージンの小説
Vな彼女と彼氏/凛野あかり
【小説版】タワーマンションの女たち
年下わんこのおねだりタイム|玩具の官能小説
今夜は私から/矢野樹
私も知らないわたし/結奈
初めてのひみつ/凛野あかり
心も体も通わせて(全4話)
マンネリ打破!恋愛スイッチ(全2話)
プリンセスになりたい(全2話)
恋の誘惑は唇から(全3話)
インサート・コンプレックス|エッチができない官能小説
上手なキスを教えて?|上手なキスの仕方がわかる官能小説
秘密、蜂蜜、果実蜜|三松真由美の官能小説
エッチな女性はお好みですか?
私だけの、キミでいて。|膣トレで自分磨きをしていく官能小説
あなたのすべてが性癖なのです。|アナルセックスの官能小説
きみの声じゃないと駄目なんです!|言葉攻めで感じる小説
欲望まみれの執事に愛されて|執事とのSM官能小説
彼の知らない私と、私の知らない彼
「気持ちいい」を聞かせて|同棲中のセックスレス小説
恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき
ひとりえっちの為の短編エッチ小説(オナニー小説)
投稿官能小説(短編)
大人の恋愛小説(短編)
夏目かをる小説|夏目かをるが描く無料官能小説
官能エッチコラム
おすすめ官能小説レビュー
クリエイターズサイト
無料動画を見る
招き恋猫
メルマガ登録して最新h漫画を一足先に読もう