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官能小説【3話】恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき〜
今日こそ、きっと
温泉は、身も心もさっぱりするはず。
なのに、うらはらに心はどんどん熱くなってきて、鹿埜は頬を強く押さえては、湯気に頬を晒して、また空を見上げて……を繰り返していた。
名物の夜空が見える星の露天風呂は、月に一度だけ、従業員にも開放される。
「わあ、綺麗〜。やっぱり夜空の下のお風呂、最高〜」
ひとしきりはしゃいで、棒読みになったことに気が付いて、静かに指先でお湯を弾いた。
――なに、この独り言。感情が昂ってるんだろう。なんか、変だ。
落ち着こう、と目を瞑れば瞑るほど、冷静になろうとすればなろうとするほど、瞬一のあの獣のような目が鹿埜を捕まえようとして、意地悪をした。
眠っていたケモノを起こすような、瞬一さんの横顔……。
「あ……っ」
気づけば、鹿埜は手を其処に充てていて……はっと正気に還った。
「のぼせたらどうするの。もう、この、わるい手!」
ぴしゃんとやったら、水面が仕返しのように大きく揺れて、濡れ鼠にした。
……もう出よう。ごめんなさい、瞬一さん。大好きな貴方をおかずにしそうになりました。
浴衣に袖を通して、畳んだ服を抱え、唇を撫でた。少しカサついている。
お風呂上りだから、薄化粧で……とふと自分の胸に視線を落として、乳首を見ると、突き立っているのが分かった。
裏切るように、固く、期待で勝手に膨らんでいる。
「やだ、じんじんする」
今夜こそ、きっと、巧く行く。巧く、イクことができるのかもしれない。
どんな夜になるのだろう。瞬一を男なのだと、鈍い四肢がやっと理解し始めたみたい。
「ん、逢いに行こう、いつも通り、笑顔で、幸せを感じに、いざ、行きますか」
さわっと外の柳が、鹿埜を応援するかのように啼いた。
いたずらな子猫
「瞬一さん」
からり、と襖を開けると、瞬一は窓際の椅子の前で、箱を開けているところだった。
(あ、お届け物……嬉しそうだったけど、何を頼んだのかしら)
「やあ、鹿埜。今日は露天風呂の日だったな」
「ん、空気が澄んでいて、星が綺麗でし……た」
硝子にはっきりと箱を開けている瞬一が映っている。
見つけて、鹿埜はぼすっとタオルを落とした。
瞬一はあの〈お客様のお忘れ物〉と同じグッズを手にしていた。
「それ……!」
「きみが興味ありそうだったから。ちょうどいい、ラブグッズも使ってみようかと思って、いくつか見繕ったんだ」
「まさか、聞いてたの……?!」
信じられない想いで頬をゆでだこにした鹿埜に、瞬一はにいっと笑って、招き猫の真似なんかしてみせた後、手のひらサイズの桜色の猫をつまんで片目を瞑ってみせた。
「ああ、この猫がいたみたいだ」
(あの猫……そうよ、おかしい。なんで旅館に猫がいるの。瞬一さん、猫の鳴き声なんかして!)
――瞬一さんで、イキたいなぁ……そんなことを呟いた。
忘れたい、でも忘れたくない。でも、聞かれているなんて誰が思うの!
「もうやだ、もう……っ……わたし、いやらし過ぎる」
頬をひたすら熱くする鹿埜に、瞬一が歩み寄った。
「鹿埜、恥じらってるのか」
振り返りざまに、抱きしめられて、「硫黄のいい匂いだ」と瞬一は鼻先を鹿埜に擦りつけた。
「いつもお客様を大切にしてくれてありがとう。だから今夜は僕がきみをもてなすよ」
「おもてなし……ですか」
瞬一は鹿埜の肩に唇を滑らせながら、さっきから待ち構えたようにじんじんする胸と乳首を大きな手で掬い上げた。
「まずは、こちらのお客様へ」
瞬一からの石鹸の香りがかぐわしく鼻先をくすぐってくる。
「鹿埜」名前と同じ速度で、手がゆっくりと肌を撫でさすって来た。
――手、気持ちいい……中から引っ張られるような昂ぶりを、感じる。
「ん」小さな声といっしょに首筋を吸われて、仰け反ったところで、小さな冷たい感触に気づいた。
チッ……と小さな起動音と同時に、瞬一の手の中で何かが振動を始める。
それは微妙な強さで、充血した鹿埜の胸を宥めるように、震わせてくれた。
「……ひぁっ……ん、ん……」
絶妙なバイブレーションの子猫をゆっくりとあてがいながら、瞬一はくつくつと笑って、子猫を鹿埜に向けた。
「可愛いだろ。ちゃんと動くんだよ。みて、子猫の形してる。可愛くてお役立ちなんて、きみのようだと思わない?」
「え?それも、ラブ……グッズ……っ?ああんっ」
「鹿埜、子猫が遊んで欲しいと、きみのここにじゃれているぞ」
桜色の子猫のバイブレーションは瞬一の思うがままに、鹿埜の突起を虐め始める。
つんとした感触は、引き締まるごとに冷たくなって、鹿埜は思わず身を捩った。
瞬一は鹿埜の浴衣の前に跪くと、袂をゆっくりと押し開けた。
「そ、それは……っ。こら、おいたしちゃ、だめっ……」
「それは僕にか?それとも、この子猫?」
鹿埜を味わおうとしていた瞬一は舌を出したまま見上げてきた。
逆に鹿埜は舐める瞬一を見下ろす格好になり、引いた浴衣の中で、瞬一が何をしているのか見えないなりに、ぞくぞくと四肢を震わせる。
ブルブル、と小さないたずらがまたやってきた。
「ひあっ……瞬一さん、あの……は、恥ずかしいから」
鹿埜の風呂上りのしっとりとした花芽の露で濡らした唇を、瞬一はまた付け根に押し付ける。
「……ん、いつまでだって、舐めてやるさ」
「でも、それじゃ、わたしだけが気持ちいいだけです……」
やれやれ、と瞬一は顔を上げて、真剣な目になった。
「きみは時折頑固で困る」
……瞬一さん……すごく切ない目をしている。求められているのは分かる。
それでも、やっぱり、まだ……。
だって、ここまでされて、巧く行かなかったら?
盛り上がるだけ盛り上がって、いつもの空イキになってしまったら?
きっと、立ち直れないに決まっている。
「貴方に捨てられたくないんです」
「捨てる?また変な思考だな。何故そう考えるんだ?」
「好きだからです!全部結び付けたいから!心も、身体も、ちゃんと」
子猫のいたずらが、止んだ。
「きみは僕の伴侶だと決まってる。それでも?好きだから捨てられると?」
きみへのおもてなし
鹿埜は顔を逸らせた。
呆れているんだ、きっと。ここまでしているのに……君はやっぱり頑固だとかいわれるに違いない。
もう、泣きそう。
どうして幸せそうな漫画や、投稿された体験みたいに巧く行かないのだろう――……
しょんぼりとしたせいで、昂ぶりも見捨てたように、胎内に帰って行った。それでも、瞬一は鹿埜の花芽を指で撫でる動作を止めてはいない。
――痛くない?こうしたほうがいい?このくらいか?いつだって聞いてくれて。
なのに、イけなくて。
「教えておくとするか。きみが良くなると、僕もおそらく良くなるんだ。だって繋がっているんだぞ?」
瞬一は「な?おまえもそう思うよな?」と桜色の子猫を指先で撫でて、続けた。
「身体には開発が必要で、それは何度も何度も乱雑に愛を濯げばいいってものじゃないんだ。僕だけじゃだめだ。そもそも、きみは僕と幸せになろうとして先走り過ぎる。捨てないで、とよく言う。その恐怖が邪魔をするのかも知れないよ」
図星だ。抱かれていても、どこか素通りしてしまう。
いつもそうだ。先を考えて、今を逃してしまう。
鹿埜は素直に頷いた。
どうしても自信が持てない。それは、心と体を繋げたいという欲張りな自分の我儘かも知れない。
どうしていいか分からず、鹿埜は頭を軽く振った。
「……分かった。鹿埜。今日は僕に任せてくれないか?快感を探して虚ろになどさせたくない。僕とのセックスを何だと思っているのか」
(あ、あの、表情)
底光りするような目に、胎内がずくんと疼いた。
ずっと弄られている秘部も、どんどん固くなって中をうねらせているのが分かる。
瞬一はおもむろに、子猫のスイッチを入れた。
いつしか丁寧に剥かれ、晒された鹿埜の部分は、小さな刺激にも、びくびくと痙攣を始めてしまう。
「あ、あ、……違う、これで、イクんじゃなくって……!」
「……教え込んでやる必要がありそうだから」
舌に鹿埜の胸を載せながら、瞬一は「きみのその顔、好きだな」などと意地悪を告げる。
「どうしようもなくて、両手で口元をかくして、全力で目をつむる。その瞼が否応なく開いて、快感と困惑で潤んでいる目が見える瞬間がたまらないんだ」
「瞬一さん、急にいじめ口調に……」
ちう、と吸われたまま、鹿埜は喘ぎつつ、会話をなんとか弾き出そうとした。でも、無理だ。
いたずら子猫と、容赦ない胸への舌のあたたかい愛撫に、脳もとろとろになって来た。
「気持ち、イ、イ……」
瞬間、両方の刺激が繋がりはじめ、鹿埜はゆっくりと上半身を揺らしていた。いやらしく、腰を震わせ、喘ぎを口にする。バイブレーションが強くなった。
「瞬一さんっ……これ、おもてなし……っ?ああっ……」
小さくもしっかりした絶頂の余韻の中、強い抱擁に包まれて少しばかり理性を逃がす。
「ああ。言っただろう。普段頑張っている愛するきみへのおもてなしだと……ね」
瞬一は鹿埜を布団に誘うと、「お疲れ」と子猫をテーブルに戻しながらキスを降らせて来た。
今度は愛おしさいっぱいの溺れさせるようなキスでくたりとなった鹿埜の耳元に唇が上がっていき。
低い声が、鹿埜のこまくを響かせた。まるで脳裏に届けるように。
「それでも、頑張っているきみへのおもてなしとしては、まだまだ足りないな」
⇒【NEXT】「鹿埜、力を抜いて。これを僕だと思って。ほら、僕がきみの中に――……」(恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき〜 4話)
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あらすじ
彼が注文していたのは、なんと『ラブグッズ』!?
優しく、だけど意地悪でエッチな彼から『おもてなし』と称して与えられる快感に、ココロもカラダもとろとろになって…。