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官能小説 アストロロジーの恋愛処方箋 第二章 3話
いつまでも、旦那を好きではいけないの?
夜になると、「エトワール・サインポスト」はその名の通り、「星の道標」になる。
ライトアップすると昼間の日向ぼっこのイメージからドキドキの夜のイメージ……とはいえ、庭のウサギや装飾は変わらず、ライトアップで雰囲気を作っているらしい。
「へえ……地面にライトが埋め込まれているのね」
さやかは呟くと、改めて店を見上げてみた。
外階段のある変わった間取り。
ドアを押すとあのちりりーん、という可愛いベルは鳴らなかった。
『はい、夜に来ていただければ分かります』
との七海の言葉通り、これは先入観は要らないだろう。
しかし、さやかはアンソニーを知っている。
何度も通える額ではないので、若いころに投資で手にした資金を充てて、伝手で連れてきてもらった早稲田の占いの館。
そこにいたのが、アンソニーなる占い師で、業界を騒がせたという青年は物静かだが、どこか寂しい眼をした重みのある青年だった。
(あの七海って子……どんなコネがあったのかしら)
占い師アンソニーと言えば、女子の雑誌にも特集が組まれるくらいの人気である。
TVでも紹介されていたような?
「覚えてはいないでしょうけどね」
呟きながらも、さやかは憶えていて欲しいと思っている自分にも気がついていた。
占いなどを真に受けずに旦那と幸せでいる人間もいるのだと伝えたいからだ。
「こんばんは……」
ドアを開けると、水晶のような光が目に飛び込んだ。
店内は暗く、天井にはプラネタリムのように星空のイメージが映されている。
「笹野さやかさんですね。……お久しぶり」
七海が訊いたら
「大樹? アンソニー?」
と聞き返しそうなどっちつかずの声色である。
それもそのはず、大樹とさやかもまた何度か、接触があった。
(覚えているの?!)
驚きは隠せそうにない。
さやかは椅子を引きながら会釈をしていつものペースになった。
「その言いっぷりだと、自分の言ったこと、覚えているわよね」
大樹に詰め寄ると、言い返せないであろう言葉を口にする。
ちゃんと考えて来た。
言ってやる。
私たちの愛を認めさせるんだ。
「私達は倖せだわ。月に一度は愛し合っているのよ。アナタの占い通りにはならなかった」
アンソニーはベールの向こうからじっとさやか目で見つめていたが、一瞬だけ視線を外し、また目を向けた。
――この目だ。全てを深淵から見ているような、瞳。
「いえ、そうは見えない」
愕然としたさやかの前で大樹は二人の星座を読み上げて、星詠みを開始する。
聞いていないだろう客などお構いなし。
これがアンソニーのスタイルだった。
「貴女は火の牡羊座、旦那様は水の魚座だ。これは、相性が難しいのは生まれ持って変わらないものだから」と。

「嘘でしょう! だって」
「セックスに燃え上がっているから?」
図星を言われて、さやかは口を噤んだ。確かに興味は尽きない。
でも、もっと、奥にあるものを知りたいのだ。
奏一はふらりとどこかに泳いでいく魚のようだ。
自由で、遠くに行ってしまうから――……。
「愛はもっと緩やかに長く続くものだ。燃え上がるとは違う」
さやかはたくさんのお客様と接している。
その時に「これだ」と望みのピントが上手く合うことが多々あった。
クレームでも、そこで和解の光が見える。
いま、まさにそんな心境だったが、さやかには否定したい気持ちもあった。
ジレンマの中で、さやかの火は消えた。
***
「なら、どうして……愛は続いているのに……みなに否定……」
「これは抗えないことだが」
とアンソニーは静かに身を乗り出させた。
(笹野さやかはおそらく、閉経による心のブレを感じているのだろう)
(火の星座ゆえに、それは、激しいのかも知れない)
女性には避けられない、ひとつの終わりがそこにある。
おわりは、新たな何かがはじまるという意味にも取れる。
「あなたは閉経前でより終わる焦りに拍車がかかっているんだ。そこが原因だろうね」
「なぜ、そこまでわかるの」
――ほら、素顔を見せ始めた。
「だって、これがなくなったら……無くなったら……っ」
「何も変わらない」
大樹は牡羊座の思い込みと、魚座のおおらかな包み込む力を諭し始めた。
「あなたは 星の動きに惑わされやすい。だから七海がシトラスとオレンジの紅茶を出したのだろう」
落ち着いて欲しい、という七海には驚いた。
占いではなくても、同じような感覚を七海は紅茶を通して発揮する。
それも、優しく、そっとカーテンを開いて光を入れるような。
『一緒に店、やってみない? 僕が出資するから』
そう言えたのは、彼女が天使のように見えたからで。
対する笹野さやかは悪魔に見えた。
ただし、恋する小悪魔のほう――。
さやかは混乱したように呟き始めた。
「だって、私達は……私達にだって未来はあるのよ……終わろうとも、未来が……」
「もちろん。誰にだって未来はある。これから光射す未来がね。ただし、その未来は二人で作りゆくもので、貴方一人が、死に怯えるものではない」
アンソニーの言葉に、さやかの中で蠢いていた何かは消えたようだった。
「私は、夫婦が一緒にいるべきと決めつけていた。考えもしなかった……二人には二人の終わりがあるから、今、こうして愛しているんだ……恐れ過ぎたと言いたいのね」
大樹は頷いた。
多分、もうアンソニーは消えている。
眠気が来る前に終わらせよう。
「あなたたちの恋は駄目になる。駄目になって、そして?」
「答は、奏一さんと見つけたい」
さやかは立ち上がった。
「……あんたも、変わらないわね」
「……」
「いえ、変わったね」
ふっと目を見開くと、いつも気丈だった母親が重なって見えた。
そうだ、笹野さやかは母性本能が全面に出ている。
だから七海も「なぜか苦手」と言ったのかも知れない。
「貴女は、母に似ているな」
「え? お母さんに?」
――限界が来た。大樹は気を失いそうになった。
「旦那となら、答が見つかるだろう……」
さやかは頷いた。
「旦那に逢いたい」
と一言を置いて帰って行ったのが見える。
「もう、限界……っ……」
アンソニーが『くる』と大樹の意識は眠ると言うよりは揺り起こされる。
そのため、帰ると途端に耐えがたい眠気が襲ってくるのだ。
世の中の霊能者も同じ感じなのだろうか。
「大樹!」
声がして、ふわりと何かが掛けられる感じがした。
いつもは椅子だから、転がり落ちるはずが、ソファに変わったお陰で、このまま倒れ込める。
「ありがとう」
自分の声とも、七海の声とも知れない響きが、微睡みに消えて行った。
さやかに見えた希望
占いを終え、さやかは外で、店を見上げた。
店内をチラリと覗くとブランケットをかける七海の姿が見えた。
「私も帰ろう。……今日はどうしましょうか」
帰宅して、奏一が今夜はどうする?と密やかに聞いて来た。
さやかはワインを出して、「こういう夜もいいと思う」と一杯を勧めた。
そうして穏やかに休むつもりだった。
しかし、奏一はその手を止めた。
「きみといる時間が減ってしまうのが寂しいと感じる。少しでも長くきみといたいし、感じたい、焦っているのかな…」
と戸惑いつつもセックスアピールをしてくる。
結局のところ、相思相愛に年齢など関係がない。
……もうすぐ閉経を迎える私は、女ではなくなると思い込んでいた。
そうじゃない。
子作りの期間から解き放たれて、旦那と道を歩めるということ。
恋は終わって愛への道を進み始めたということ。
大樹はずばりとその未来を言ったのだ。
恋は終わって愛になるよと。
――愛は緩やかに長く続くものだから。
「まさにエトワール・サインポスト……」
生きる幸せの中に、さやかは希望を見た。
⇒【NEXT】でも、新しく何かが始まることを知ったわ。(アストロロジーの恋愛処方箋 第二章 最終話 「エトワール・サインポスト」のパンケーキ)
あらすじ
夜のエトワール・サインポストにてさやかはいよいよアンソニーに占ってもらう。
旦那とは愛し合っていると思っていたさやかにアンソニーは意外な一言を…。