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官能小説 アストロロジーの恋愛処方箋 第三章 最終話
本当に欲しい距離
空が夕焼けに染まり始めた頃、街中でウインドウショッピングをしていた七海の携帯が鳴った。
鞠だ。
店に戻ってきてほしい、とのこと。
通話を終えると、携帯の画面に映し出された時刻は17時を回ったところだった。
(ちょうど夕飯時だし……)
ずっと気になっていたカフェのサンドイッチをテイクアウトして、店へと急いだ。
店の外から呼びかけると、内側からかけられた鍵を鞠が開けてくれた。
「なぜ、鍵を?」という、鞠の驚いた様子を見るに、大樹……か、アンソニーが勝手にとった行動なのだろう。
「あの……彼、寝ちゃって……」
鞠が指す方を見やると、大樹は完全に伸びていた。
七海は「変わった占い師でしょう?」と笑いながら、大樹に毛布を掛けた。
まだ少し温かいサンドイッチ二つを手に、鞠をテーブルへ案内する。
「これ、よろしければどうぞ」
鞠と向かい合う形で座り直す。
しばしの沈黙。
「あの……彼はあれでも、業界でなかなかの腕利きの占い師だったそうです。この店は彼の要望で始めたんです」
鞠は話を聞きながら、納得したように頷いた。
「彼、私たちに助言したかったそうです。今度は旦那も連れて来ます」と、具体的な内容は伏せながらも涙目で告げた。
「本当は、遠距離は……」
零れてしまったような鞠の言葉に、「寂しいものですよね」と七海。
鞠は頷いて、「だからこそ、帰国が待ち遠しいのよね」と遠い眼になった。
「旦那は、仕事ばかりだったんです。でも、私の誕生日には休暇を取ってくれて。たまの旅行も楽しかった。今はずっと海外で仕事をしているから、そんな時間も取れないけれど」
昔を懐かしむような、愛しそうな、それでいて寂し気な瞳。鞠は続けて言う。
「彼に言われました。『あなたは旦那がそばにいればいいのか』……と」
「私は、仕事をテキパキこなす旦那に惚れているんです。でも、愛を我慢することは出来ないから。旦那もそうなんでしょうね。だから、そういう……欲求があるのでは、って」
興味深い話だったが、深入りは出来ないのも、七海の性質だろう。
「だからこそ、帰国が楽しみなんですよね」と言ってみる。
鞠は「それはもう」と微笑むのだった。
***
「急に変わろうって思ったんだ」
起きたあと、大樹はココアを飲みながらぼやいた。
「頻繁にやっているからかな。最近はスイッチが入ると分かる」といつもの甘えるような目になった。
七海はアンソニーのことを良くは知らない。
ただ、『大樹』を支えたいとは思う。
「その、切り替わりっていつまで続くのかな」
「――いや、どちらも僕自身なのかも知れないな。みずがめ座はミステリアスで、こういう神秘的な設定にぴったりだから」
この日から鞠はしばらくお店には来なかった。
彼女の旦那の帰国は近づいている。
大樹がアンソニーに変わることもなく、日々は過ぎて行った――。
***
翌週――。
「七海さんが緊張することないだろ」
鞠の旦那の帰国日。
そわそわする七海の前に大樹。
なにか打ち合わせでもした方が、と不安がる七海に、大樹はそのままでいいと告げる。
「相手は獅子座だ。ストレートで構わない。太陽は全ての源だから」
ふと、七海が「今日はまだ切り替わらないの?」と聞く。
「今日はずっと僕だね」と大樹はぶっきらぼうに答える。
「朝からアンソニーの気配がないんだ」
「え?それって……占いは?どうするの?」
大樹は「僕がやるしかないらしい」と告げる。
七海は何か、トラブルが起きそうな気配を感じ取った。
再会と告白
雄基が帰国した。
空港にあるお気に入りのカフェで待ち合わせをし、念願の再会を果たした。
いくつか言葉を交わしても、雄基はちらちらと携帯を気にしている。
会話の途中も、しょっちゅう電話がかかってくる。
鞠は仕方ない、と小さくため息をつく。
すると雄基が、黙って携帯の電源を切って鞠に差し出した。
「今回は、こいつも休暇だな」
――何か、心境の変化があったのだろうか。
「とりあえず、蕎麦が食べたいね」と、夕食は蕎麦屋でとることにした。
雄基の荷物は全て、空港から自宅に直接送った。
夕食を終えて、鞠は雄基を連れ七海の待つ『星の道標』へ向かった。
***
「おかえりなさい」
七海はいつもの明るい声で、鞠と雄基に挨拶する。
「あの、七海さん……」
「このまま、リラックスしてください」
七海はチラチラと大樹を伺う。
大樹は、いつもの口調そのままで話し出す。
「――七海さんから紹介戴いた……名無しの占い師です。もちろんお代は要りません。専門は……女性心理学です」
――そんなの、聞いたことが無かった。
それに、『大樹』の占いは初めてだ。
動揺する七海をよそに、大樹は笑顔でにっこりと「素敵な夫婦だ」と告げた。
途端に夫婦の緊張が和らぐ。
アンソニーの放つ威圧感とは違う、どこか温かいオーラ。
大樹はちらっと窓を見る。
「今日は、獅子座新月なんです。この日は本当にパワーが強いから、帰国にもうってつけだ。そして、本音を唯一出せる日かも知れない。僕から言えるのは、お互いゆとりが必要ということ。そして、離れている時間が愛を育てる……と言いたいところですが、お二人はそういうわけでもない」
はっ、と雄基が身じろぎした。
「――何か、思い当たる節があるのでは?」
大樹の雰囲気がガラッと変わる。
雄基は押し黙った。
「まさか……」
「浮気じゃないぞ、鞠」
雄基は鋭い人間だ。
読みも早い。
大樹は目を開けると、双眸を一層輝かせた。
「そうです、離れている時間が愛を育てるとは限らない。旦那様は、そこにいきついていたんです。でも、そんなはずないと信じたかったんですよね」
「雄基……」
二人とも、元々プライドが高いのだろう。
さらに鞠はまるで少女のようなところがある。
七海だってそう思ったのだから、旦那である雄基はより強く思っただろう。
「奥様が……獅子座でなければ、早く言えたかも知れないですね。お二人とも、太陽の下で素直になったらいかがですか?」
大樹は手を挙げて拳を作って見せた。
「セックスは夜でないといけないとか、週に何度するとおかしいとか、年齢がいくつだからしないとか、そういうことに正解はない。同じように、『愛し合っていれば、離れていても乗り切れる』が正解ではない。旦那様は気付いているはずですよ」
鞠は目を丸くした。
「そうなの?」と聞く鞠に雄基は「気付いてしまったよ」と微笑む。
「異国の暮らしは楽しいし、一人も好きだけれど、愛は育たない。そばに、君がいないことが、どれだけの割合を占めているか。離れた時間を使って上手く出来ているカップルもいる。――しかし、私たちは違うらしい」
その言葉を聞いた途端、鞠の表情が変わった。
七海は鞠の後ろに大輪の向日葵のようなイメージを感じ取って、「わっ」と思わず声を漏らす。
「……こうしてはいられないな」
鞠の手を掴んだまま、雄基は頭を下げて店を出て行ってしまった。
「あ、あの」
狼狽える七海と、「ありがとうございましたー」と笑顔の大樹。
訳が分からない、といった様子の七海に、悠々と告げる。
「旦那さんは、鞠さんを光の中で抱きたいんだよ。お互いにズレてしまった時間を、お日様の元で取り返すんだ。……それはそれとして、七海さん。……眠い」
唐突にがくん、と落ちる大樹を支えつつ、七海はあわあわする。
大樹が薄目を開けた。
「まだまだ、ヒトの愛も心も未知数だな」
そう告げると、今度は完全に落ちた。
独りじゃない、二人だから
ホテルのチェックインを済ませると、雄基は早々に鞠を部屋に連れ込んだ。
驚く鞠に、雄基は「ずっとこうしたかった」と頬を染める。

「君はいつも、最高の美しさで俺を迎えてくれる。あっちには、君がいない。お金があっても、地位があっても……」
雄基ははっきりと告げた。
「君がいなければ意味がない」
そのひとことにたどり着くための遠距離だった、と思わせるほど、待ち望んでいた言葉。
鞠は雄基を優しく抱きしめた。
「おかえりなさい」
最初は気恥ずかしくて手を握ったまま、雄基の話を聞いて、今度は鞠の番。
雄基は「あの占い師、面白いな」と異国の話を交えながら、窓から差し込む太陽の光に照らされた鞠の頬にそっと触れてキスをした。
「なぜ、ヒトは夜でないと行為をしないなど思い込んだんだろう」と呟きながら、鞠を脱がせていく。
薄手のカーテンから射しこむ光の中で、二人の罪悪感も消えていく。
夜と昼がずれた日々はどうしても続く。
だから、時にはこうやって同じ光に包まれたい。
「向こうでは愛は光、光は愛というんだ」
雄基は英語で何かを呟くが、鞠にはもう聞こえない。
間違えた方向に愛を向けても充たされない。
――またきっと、離れる日々は続くだろう。
それでも、こんな一瞬があるのなら――。
ああ、これだ。
鞠は一筋の涙を雄基の肩先に落とした。
快楽は自分で与えることも出来る。
でも、私には『雄基』が足りなかった。
だから、この数日は、たくさんの愛を伝えたい。
独りと、二人。違うところはきっと。
――羞恥心とか、恥じらいとか。
照れるとか、今更、とか。
たくさんあるだろう。
同じように思い出して行為をするのは確かに満たされる。
でも、私はもう、出逢って光の中に一緒にゆく良さを知っているから。
でも、明日からは。
例え離れても、今日の熱と光がわたしを支える。
「よく、見える」
首筋に舌を充てられて、ぞくぞくした。
――僕から言えるのは、お互いゆとりが必要ということ。
そして、離れている時間が愛を育てる……というわけでもないと、この人こそ気付いてしまったのね。
「これからも……一緒にいましょうね」
雄基はゆるく、微笑む。
そうして、光の似合う、異国の麗しい言葉を告げたのだった。
「And I love you.」
END
あらすじ
占いを受けてみる、と来店した鞠。
悩みを打ち明けるうちに横で聞いていた大樹が昼間だというのにアンソニーになり始め、驚く七海だったが…。