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官能小説 アストロロジーの恋愛処方箋 第三章 1話
星の道標に現れた太陽たち
旦那が単身赴任して二年が過ぎた。
誕生日ごとに届く品物は決まっている。
香りのするルージュやエッセンシャルオイルはとても嬉しいが、それらと一緒に必ずついてくるものがある。
『そろそろ新調したほうがいいだろう。ちょっと面白いものを見つけてね』
それは可愛い仔猫のカタチのバイブレーションだった。
“遠隔で楽しむラブタイム”と書いてある。
鞠は説明書を読んで赤面する。
そこには、愛する人との新しい愛し方があったのだ。
しかし、まだ、気持ちがついてきていない。
「アメリカとの時差は14時間……か」
鞠が寝付く頃に、アメリカのアトランタでは日が昇る。
これでは遠距離でも遠距離過ぎて、生活や心のすれ違いの原因にもなるだろう。
しかし、鞠と雄基は上手くやれているほう……だと思っていた――。
***
「……私、今から仕事があるんだけど」
言葉で僅かな抵抗を見せたものの、彼との通話の時間は唯一の楽しみでもある。
ふとサイドテーブルを見ると、にゃーんと鳴いてもおかしくない桜色の仔猫。
見た目だけだとインテリアにも良さそうに見える。
が、実は高性能のグッズらしく、スマホでアレコレが出来るらしい。
(今は、色々なものがあるのね……)
遠距離であったなら、こういうグッズであれこれ楽しむのもありかも知れない。
でも、それは刹那の快楽な気がして、何となくの罪悪感もある。
それに、お日様が昇って来ると部屋も明るくなってきて……それも気にかかる。
団地ではないが、外からは子供たちの
「いってきまーす」
という元気な声や、ゴミ回収車の忙しない働きぶりがどうしても伝わってしまうのだ。
「好きだよ、鞠。また連絡する」
結局、最後の最後まで仔猫の出番はなく、私の膝で暇そうに座っていた。
(こんな朝から、駄目だってわかってるけど……)

***
数時間後。鞠は行きつけの店、『星の道標』にいた。
そこでは七海が常連の鞠を相手に、どうどう、と宥めながら傾聴していた。
「誕生日ごとにラブグッズよ?どう思う?七海さんっ」
「えっと……素敵な旦那様だと思いますけど」
後ろでぶっと水を噴き出す音が聞こえる。
パーテイションを復活させて良かった、と七海はほっと胸を撫でおろした。
店内に流れるポップジャズが馴染む、陽気な天気である。
今日のお客様は、近藤鞠様。
自宅での仕事がメインらしく、悠々自適に来てくださる常連さんである。
「なんか、見透かされてるのかしらね」
七海はレモン水を差し出しながら、また微かに動いたパーテイションを睨み、静かになったのを確認して鞠に向き合った。
パーテイションの向こうにいる大樹は、よくも悪くも素直である。
さて、今回のお客様も七海より年上だが、先日も年上のお客様のお悩みを大樹と解決した。
少しずつ経験値もついてきている。
まずは、聞き取る事が大切だ。
七海は静かにお代わりのお水を注いだ。
「たまには、ワインとか……。彼の気持ちは分かってはいるのよ。……寂しさは紛れるかもしれないし。でも、誕生日のグラスなんか、二回しか使ってないのよ?」
さすがワインを扱う輸入物店個人事業主なだけあって、鞠はオシャレだ。
今日はパーマを掛けたヘアスタイルにアジアンテイストのバンダナをうまく合わせている。
ファッションも見応えがあって、選ぶ紅茶にもインスピレーションが沸くのだ。
「七海さん、いつものマジカルティーをちょうだい」
「はーい」
常連である鞠は、七海の淹れる紅茶を『マジカルティー』と呼んでいる。
「さて、何にしよう」
と悩むまえで
「ルイボスティー一択」
と大樹がやってきた。
「え?そんな普通の紅茶?あの方、あんなにオシャレなのに」
「だからだよ。力が強い相手に、飾りは要らない」
(大樹が言うなら、それでいいのかな……)
大樹は、『占い師・アンソニー』というもうひとつの顔を持つ。
一時期は一世を風靡した業界占い師で、今は七海と共に人生のやり直し中。
色々なことをやりたいらしい。
「獅子座でしょ。内面からの光が必要なんだと思うし、そうだよ」
「よく、分かるわねえ」
「そこは、プロっすから」
ウインクをすると、大樹は立ち上がってちら、とお客様を眺めて座り直した。
「七海さんは直感型だけど、僕はれっきとした「柱」があるから。……旦那のほうは何座?」
「えっと、同じだったと思うけど」
「獅子座と獅子座?!これは手間取るわけだな……」
その時はなぜそんなに驚くの?と不思議がった七海だが
――後々、その言葉の意味を思い知ることになる。
獅子座同士のふたり
ルイボスティーにスパイスを加えて、有機レモンバームを足した。
色鮮やかな紅茶に似合うのは、お客様に合わせたアジアンテイストだろう、とあまり使わないティーセットを取り出そうとして三脚に足を掛ける。
その危なっかしい様子を見た大樹が、
「支えておくよ」
と手を差し出した。
「手間取るって?」
「獅子座同士はどちらも譲らない。太陽が二つ並んだらどうなる?」
「えっと……洗濯物が乾きやすい?」
七海はよくも悪くも現実的な蟹座である。
大樹は真面目な顔をして告げた。
「どう考えても眩しいだろうよ」
「え?じゃあ、お互いに光で見えてないってこと?闇の中にいるの?」
「きみは占い師には向かないな」
むっとする七海の前で、大樹はティーセットを置いて呟いた。
「熱しにくく冷めにくいってこと。どちらも同じ、負けず嫌いの最高潮が続く」
「それは……休む暇がなさそう」
「――そうじゃないんだけど。まあ、近いかな」
年下なのに、占いになると、大樹は賢者のような大人びた口ぶりになる。
そこが魅惑的だ!と評価された頃もあったのだろう。
***
七海はキレイに淹れられたルイボスティーに満足して、鞠の元へ急いだ。
「お待たせしました」
窓を見詰めている鞠の目が、僅かに潤んでいるのに気がつく。
前回のお客様のさやかとは違って、鞠は吐露をしないだろう。
あったことは言っても、心のうちは聞かせてはもらえなそうだ。
最初の壁は人それぞれ違うけれど、鞠の場合は多分、高い。
――だからこそ、こういう場所が必要なのよ。
いつか聞けるだろう。
と、再び傾聴の姿勢で接することにした。
「あの、これ、渡していませんでしたね。私の名刺みたいなものです」
「七海さんの名刺?あ、じゃあこちらも……」
電話番号を教えてみたのは、『七海の特有の直感』だった。
***
当たり障りない会話を終え、鞠は少しだけ笑顔を取り戻した様子で帰って行った。
今日は給料日前でお客も少ないが、もうすぐランチタイムだ。
今のうちに洗い物をしよう、と腕まくりをした七海の隣に、大樹が並んだ。
「良いわよ。座ってて。お昼、すぐ用意しますから」
「一緒にやったほうが早いよ。相手は太陽だからね。今回は強く出ても大丈夫だよ、七海さん」
彼には言えない
『プレゼントは届いた?』
旦那である雄基からのラブコールは、また数時間後にやって来た。
雄基は会議が終わると、いつも連絡をくれる。
それに合わせて鞠もお昼の休憩に入るのだが、今日はすでに済ませてしまったので、ゆったりと会話を楽しむことにした。
あの店で紅茶を楽しんだ後の時間は、あっという間に過ぎた。
やはり家に籠るより、外で仕事をしたほうが良いらしい。
とはいえ、個人情報は晒せないから、ショッピング感覚で見ているだけだが。
今日はルイボスティーにも助けられた気がする。
「ええ、可愛い仔猫をありがとう」
『君と使ってみるのも良いだろうと思って』
と、雄基は電話の向こうで笑って見せた。
しかし、決心がつかない。
「……そっち、昼間よね」
『……まあ、休憩中になるけど。俺は操作する側だから』
「そのあと、仕事に行くの?そういうところ、変わらないわね」
『妻との時間なんて、最高の……ああ、すまない。仕事のメールが……』
旦那が仕事三昧なのは悪いことではない。
結局次の休日に試すことになった。
それはそれで楽しそうだ。
なんだかんだで鞠は自分が性欲が強い事を自負している。
だから道具も気遣いも嬉しいのだ。
でも、何かが足りない。
それでも心は満ち足りる。
そんな生活は二年目に突入した。
そして、まもなく五十歳になる。
自分はこれでいいのだろうか。
時折、抗えない年の河の前で悩むのだが、雄基には当分言えないだろう。
あらすじ
『星の道標』常連の鞠は、2年アメリカに単身赴任している旦那に寂しさを募らせていた。 彼は寂しさを紛らわせるためにとあるものをプレゼントしてくれたのだが…。