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官能小説 アストロロジーの恋愛処方箋 第一章 最終話
星と愛は同じアストロロジー
「智子が夜の外出なんて珍しいね」
夜、キッチンで七海のメモを見ていると、陽介がぽつりと言った。
(……簡単なのは、こちらのバタフライピーティーです。お湯はできればヤカンで沸かすと良いです)
「何してるの?」
「紅茶……陽介青が好きだったよね」
「あ、ああ」
そんな気持ちで淹れたバタフライピーティーは、お湯を注ぐと心が晴れるような青空になった。
檸檬はないけど、魔法はまだまだ私には早い。
「おまたせ」
とテーブルに置いて、隣にクッキーを添えた。
「色々、相談してきたの。陽介、それでね……」
「やめてくれ」
と陽介は強い口調で返した。
『心が冷えていませんか?』
『罪深く愛する星座と言えばいい?』
(あの二人にはなれないけれど、わたしは……)
ただ、微笑んで寄り添えばいい。
きっと陽介は心を打ち明けてくれるだろう。
「陽介」
「分かってる。俺はEDなんだ……ごめん、智子、もう俺……頑張れないんだ」
なんて辛そうな顔をするのだろう。
どんな時でも愚痴を吐かなかった陽介が…。
智子はそっと陽介の隣に移動すると、手に手を重ねて、身を寄せた。
陽介ははっとしつつも、怯える目をして、智子を見る。
頑張れないじゃない。
頑張りたいのに、頑張れないのだ。
なら、智子も一緒に頑張ればいい。
何度でも、陽介が求めるなら付き合うのも、愛している証拠なのではないだろうか。
「やって、みようよ、二人の問題なんだから」
――わたしは自分を取り戻したわ。
だから、今度は貴方よ、陽介。
「これは、二人だけの……秘密なの。貴方と私だけの」
涙声になった。
EDがどれほどの心の痛みを伴うか…。
智子はそこを見るべきだった。
追い詰めたのは、私かも知れない――。
「なんでも、してあげる。罪深く愛する星座として」
陽介は目を見開いたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「……分かった。絶望するには早いか」
絶望。そんな言葉は二度と出させないから。
智子は愛おしさを込めて、陽介を抱きしめた。
***
寝室で、陽介に自分から触れるのはいつぶりだろう。
智子は手を繋いだまま、そっと陽介のそれに唇を這わせた。
元気がなくなったのは、何故?
わたしはちゃんと、愛しているよ?
そんな気持ちを込めて、カタチに沿って唇を滑らせる。
「あッ」と身をよじる陽介の顔が好きだった。
ごめんなんて言わせたくなかった。
――これは、夫婦の、わたしたちだけの試練だ。

「いい?」
緩やかに熱を持ったソレを転がすように、ズボンを降ろしてもらい、そっと食む。
確かな鳴動にほっとしながら、先端を舐めて転がすと、ゆっくりと反応はしてくれた。
「嬉しい。わたしに反応してる」
自然と流れ出てきた涙を、智子は止めなかった。
陽介の嗚咽も微かに聞こえて来る。
「大丈夫だよ、陽介」
「え?」
智子は涙をぬぐうと、告げた。
「頑張らなくていい。ただ、わたしを愛してるって言ってよ」
「うん。愛してるよ」
今の気持ち……。今なら!
そう思った瞬間に、智子は御姫様抱っこでベッドに移動させられていた。
陽介のものは、猛々しく上を向いている。
EDになったからと、何故忘れてしまったのだろう。
『貴方たちは、隠し事がありすぎて、忘れているのかも知れない。』
――忘れていたこと。
愛し合っているということだけじゃない。
それを絶えず伝え続けること。
伝えることが愛だということをあの占い師は言いたかったのだろう。
――大好き……その気持ちをたくさん胸に充たせたなら。
「智子、ごめ…」
言いかけたところで、陽介は首を振った。
「いや、大丈夫だ」
震える腰が近づいてくる。
智子はそっと目を閉じた。
感じる、陽介の熱さ。
大丈夫、これが消えても奈落に堕ちたりなどはしない。
「あったかいよ」
声に出す度に、そこがきゅん、と締まって行く。
ドキドキして、唇も熱くなる。
「蠍座と、山羊座の相性はいいんだって」
割り込んで来る陽介の熱さに涙が零れそうだ…。
熱が引かない?
「陽介……!」
「このまま、いく」
また早いかも知れない。
また、なんて考えない。
体内に籠った熱は逃がさない。
大丈夫。
星の導きで出逢った二人なら大丈夫だ。
***
「少し、デキた気がする……まだまだだけどな」
「うん、感じられたよ」
夜明け前の青い時間になって、ぽそりと陽介が恥ずかしそうにつぶやいた。
腕枕で甘えてから、智子は
「何か隠してない?」
と問う。
陽介は
「うん……異動の話が来ていて」
とゆっくりと話し出した。
(私たちは色々な話をした。陽介は異動のことで悩んでいたこと、そして自信がなくなって行ったこと、私の中で萎む自分が恥ずかしかったことなど……)
陽介の原因はたくさんあった。
一つは、自分が希望していた職種の異動があり、かなり遠くなるか単身赴任になるということ。
「異動は嬉しいんだ。やりたい仕事だった。でも、単身赴任になるかも知れない。この家を離れたくないという想いもあった。ずっと甘えたかったんだ。なのに、こんな状態ではと思っていた」
できなくても、キスは出来る。
愛する方法はいくらでもあるのに。
『山羊座は愛に誠実なんですよ』
占い師アンソニーの言葉通りだ。
そして、智子は
『愛が深すぎる』
これも合っている。
(でもね、陽介)
智子は先ほどの行為を思い返していた。
射精の瞬間のコントロールは難しいと聞いた。
それは心も同じこと。
でも、先ほどの陽介と智子はちゃんと、セックス出来ていたのだ。
――きっと、勘を取り戻せれば、大丈夫。
エクスタシーも帰って来る日はきっと近い。
「いつでも甘えてよ。美味しいパンケーキも焼くからでも、今日は美味しいパンケーキをごちそうしてあげる」
「奇遇だな、俺も」
陽介は映画のチケットをベッドに並べて見せた。
「やり直しもいいかと思って」
――そう言えば、最初のデートは映画だった。
お互いがカチコチで映画どころじゃなかった。
「そう言えば、最初のデートもそうやってチケットだけ出して俯いていたような」
「緊張していたんだよ、いや、今もか」
陽介は照れ臭そうに笑った。
久しぶりに見る、大好きな笑顔だ。
(もうきっと、大丈夫)
EDは心の問題も潜んでいる。
ゆっくりと、付き合って労わっていくべきなのだと。
そして、七海さんに、陽介を紹介したい。
そんな想いでいっぱいになった。
智子の朝は「それでも」ではなく「もう朝が来る」になるだろう。
光に照らし出されたらきっと朝が来るまでいられたことも、また笑顔で言える「おはよう」も。
嬉しさに変わるだろう。
2人で歩む
「だからジャムをたっぷりと乗せると旨味が」
「もう、だまっていてください!」
「自分で乗せるからいいよ。マーマレードのジャムあるし」
「あ! いつの間に! 駄目ですっ。それ、貰い物で飾っているんです!」
――エトワール・サインポストの朝はやっぱり騒々しい。
(またあの常連さんか)
智子はくすっと笑うと、「ここよ」と陽介の手を引いた。
「可愛い店だな、メニューは?」
と看板に魅入っているが、メニューはない。
メニューがない喫茶店。
七海さんは今日はどんな紅茶とパンケーキを出してくれるだろう?
わくわくする気持ちでドアノブを掴んだ。
「こんにちはー」
智子はドアを開けると、さっと手を向けた。
二人とも「おや?」と嬉しそうな顔になった。
色々吐き出して泣いたりもした。
少し恥じながらも智子は陽介を紹介する。
「お察しの通り、旦那です。陽介、店長の七海さんと……常連さん」
「あ、これは、妻が色々相談を受けたそうで! どうしてもというので、一緒に伺いましたが、あの、これ、御礼に」
「いえ、お気遣いいただきありがとうございます。でもそれは受け取れませんから」
七海はやっぱり恐縮した。
その後ろから大樹が現れて、
「青山二丁目のカヌレか、高そうだ」
とひょいっと持って行こうとして、笑顔の七海に足を踏まれて飛び跳ねた。
「ただの常連さんはあちらへどうぞ」
ショックを受けている大樹をさっと押しやると、
「窓際にお座りください」
と同じ席に案内してくれた。
今日は常連さんと、智子たちと、あと一人女性がいる。
血の気のない顔に、悩みを抱えているような気さえした。
「ここ、紅茶は合わせて出して来るの。美味しいんだから! すいません、紅茶二つとパンケーキを!」
はーい、と明るい声。
「どうぞ」と七海は先のお客にはフルーツティーソーダを出したところだった。
色とりどりのフルーツは、きっと心を慰めてくれるから。
「占い師がいると聞いて、知ったのよね」
いつもは休みたいという陽介は智子の提案でついてきてくれた。
子供を母に預けての久々のデートである。
(嬉しい。先日は同じ席で絶望のどん底だった。今もまだ、立ち直れてはいない。それでも、私は大丈夫だと思えることが嬉しいの)
涙を滲ませる前で、七海は人懐こそうでいてきっちりとした笑顔を浮かべた。
「その占い師は、また遠くに行きました。智子さま、どうでした?」
「……あの夜、少しだけ、変わったみたいです」
端っこでパンケーキにパクついている青年を見つつ、智子は目を伏せた。
「それではゆっくりしていって下さいね」
見ていると、さっとジャムを取り上げてしょげさせている。
(あの占い師は多分……いや、野暮なことは言わないでおこう。わたしはあの夜救われて、こうやって心から陽介と笑い合える。それでいい)
吹っ切れたところで、七海が現れた。
二人の時は、紅茶を運ぶのにワゴンを使うらしい。
外国風でおしゃれな七海らしい。
「お待たせしました! こちらにポット置いておきます。檸檬とミルクはお好きに足してくださいね。秋摘みのダージリンです。パンケーキはすぐにお持ちします。今日は隠し味にみりんとバターをいれてみようと思っています」
「え? 同じ紅茶ですか?」
「はい。せっかくですから、同じものを分かち合ってはいかがですか?」
***
「え? 映画に行かれるんですか」
「はい。久しぶりに出かけようかと誘ってみたら」
夫婦の接客をする七海は楽しそうだ。
会社の名刺ケースをわざと落とさせるとは、星々の女神も、なかなかやると、大樹はふっと星の声に耳を澄ませた。
あの日、最期のお客だった七海とこうして時間を共にしている。
アンソニーもやっと眠れる場所にたどり着いたのだろう。
そうして本当に人の役に立つことができると。
『すいません! 名刺ケースありませんでしたか!』
飛び込んで来たただのOLと、業界に疲れた占い師のロマンスは……
始めるにはまだまだ早い気がする。
「ほら、やっぱりふんわりとして美味しいじゃないか」
みりんとバターが加わった新しいパンケーキに、ジャムを足す。
黄色は人に向ける大切な思い遣りと活力。
人は活力を分けて、分け与えて増やしていく生き物だ。
量子がたくさん増えて、宇宙が輝くように、人の心もまた宇宙と同じだ。
「いただきます」
契約はパンケーキ三日分。
しっかりと心に届く七海の紅茶とパンケーキ。
大樹はアンティークのグラスを煽って、くっと喉を鳴らした。
――俺にはただの水じゃないか。
本当はそれで充分なんだ。
いただきます。
「星と愛は同じだからね、どう捉えるかで変わるんだ。星と星のアストロロジーのように。悩んだらここに来ればいい。エトワール・サインポスト(星の道標)はここにある」
目の前の女性をちらちらと見ながら、一瞬だけアンソニーになって、大樹は呟くのだった。
END
あらすじ
アンソニーに夫である陽介との夜の生活について打ち明けた智子。
陽介を追いつめてしまったのは自分かもしれないと感じ…。