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官能小説 アストロロジーの恋愛処方箋 第一章 1話
エトワール・サインポストの魔法の紅茶
――ここは都内某所にある隠れ家的なお店「エトワール・サインポスト」である。
あまり宣伝費もかけずに、ひっそりと開業して早2年。
都内にしては日当たりのいい立地で、少し高い丘にある。メインの山手線を外れて、丸ノ内線界隈を少し行くと、見えて来る。
(本当に、ここ?)
『エトワール・サインポストよ。意味も素敵なの。恋の悩みも、なんでも聞いてくれるんだって。凄い占い師がいるらしいよ』
『占い師に用はないんだけど』
『毎日毎日そのことで相談続けられてもね……と思って』
場所を何度も確認したが、そう言えば、意味を調べていなかった。
しかし、アプリ地図で見ると、ビルとビルの合間の細い路地である。小さな曲がり角に入るなり、ビルに遮られて、日当たりが悪くなった。
しかし、友人から受け取った住所とアプリの地図は間違いなくこの路地を行けと示している。
智子はスマートフォンに友人のメッセージを再び表示した。
『駅のある大通りを少しゆくとね、**通りという看板があって、『〇▲商店街』のアーチがあるから、その干物屋さんを左に曲がったところ。
疑うかもしれないけどエトワール・サインポストという名前』
「エトワール……サインポスト……」
路地を真っ直ぐに行くと確かに地図と友人メッセージの通り。干物屋が見えてきた。
元気のいいおばさんがかぼちゃのようなお尻を向けて、商品を並べている。
干物独特の香りに鼻をひくつかせて、進行方向を左に。
(調べてみよう)
日当たりはまだ良くない。
智子は「エトワール・サインポスト」をWEB検索に掛けてみた。
「あ! どういう意味かと思ったら、フランス語訳で、星の道標なのね。なるほど。これなら占い師がいても不思議じゃないわね」
一気に不安の雲が晴れると同時に、日当たりも良くなってきた。
まるで、暗い道を時計ウサギがこっちこっち、と誘導するようなアリスの冒険心地である。
「あ……った……」
可愛らしいプランタが二つ。
ウサギ模様は「不思議の国のアリス」を思わせるこぢんまりとした歓迎を向けて来た。
「ふふ、可愛い、陽介も好きだろうな……」。
旦那である陽介は遊園地やファンシーなものも可愛いと思えるタイプだ。
(上手く行っていたのよ……)
――いってらっしゃい。
――行って来る前に、顔を見せてくれ。綺麗な瞳が好きなんだ。
朝からのスキンシップは同棲時代から、大切だった。
笑顔をお互い確認して、抱擁しても、すぐ離れて互いを瞳に映し、大好きな表情を確認し合うくらい。
お互いの離れている仕事の時間が長くて陽介に合わせて退社してかけて行ったこともある。
思い出すほど、過去は眩しく甦る。智子はそっと目頭を押さえた。
ソレ以外は今も上手く行っている。
夫婦の夜は大切で夫婦だけの問題ではない。
双方の親のキラキラした跡継ぎの希望だって関係してくる。
……いつから、スキンシップが無くなったのだろう。それは当たり前になって……
毎日毎日そのことで相談続けられてもね……と思って』
友人のぐちを思い出して、智子は肩を落とした。
(まあ、確かにそうなんだけど、深刻なのよ)
旦那が長く続かない。
夫婦にとっての中折れは深刻な問題だ。
夫婦仲もぎくしゃくしている。
(藁にも縋る思いだわ。きっと、大丈夫……)
智子は可愛らしいチェーンのかかったノブを掴んだ。 WELCOMEの天板は青銅で、どことなくオーガニックなハーブの香りもする。 ドアを押すとチリンチリンと呼び鈴が鳴った。
***
「だーから、もっと生クリームたっぷりだよ、七海さん」
「もう、余計な口は挟まないで貰えますか?」
エトワール・サインポストのキッチンと向かい合わせになったカウンターでのやり取り。
午前中の心地よい光が窓のオーロラのサン・キャッチャーに反射し、店中を明るくしている。
牧村 七海(まきむら ななみ)。
喫茶店「エトワール・サインポスト」の店主で26歳 156センチでO型 蟹座で最近ヘアカットして、長さは肩先。
接客業なのでガラスのバレッタで留めて、バンダナを巻いている。
エプロンは淡いオレンジで、合わせたニットは柔らかいクリーム色。
「パンケーキにはみりんとバターを入れるといいって」
目の前でパンケーキを待っている青年は東 大樹(あずま たいじゅ)。
喫茶店「エトワール・サインポスト」の常連だ。
いつもジムの帰りに喫茶店に寄っているが、大型犬かのような懐き方をしている。
集団行動が苦手で友達は少ない。
水瓶座でミステリアスな雰囲気を持つ、ある秘密を持つ青年だ。
(そんな風には見えないのだろうけどね)
「はいはい。でも敢えて足さないから素朴で美味しいの。……よっと」
(上手く焼けたね)
幼少に母に褒められてから、七海の友達はフライパンになった。
くるりん、と躍ったパンケーキをお皿にポンと載せたところで、呼び鈴の音がした。
「お客さんだ!」
手早く焼けたパンケーキを大樹に渡して、シンクで手を洗うと、七海は口端を緩めて背筋を伸ばす。
この物件のいいところは、ドアから少しだけ階段で二階に上がるところ。
元々の物件は小さなマンションで、一階は駐車場だったらしい。
今は二階に繋がる外階段で高さがある分見栄えがいいし、駅からの道は暗いが、一気に光の元下に出るのも気に入っている。
「いらっしゃいませ。窓際にどうぞ」

現れた女性はきょろきょろとしながらも、小さく頭を下げた。
レース彫りのパーテイションのある南東の席に座ると、鞄とコートをそっと置いた。
お客様の行動を見守っている背後で懲りない大樹の声が響く。
「七海さん、生クリーム」
(まだ言ってる、あの甘党くんは……)
取り合わずにお客様に笑顔を向けた。
「すいません、メニューは紅茶とパンケーキ、スコーンだけなのですが、御気分に合わせて紅茶をお出ししているオーガニックカフェなんです」
女性は少しばかり驚いたようで、「気分に合わせた紅茶?」と聞き返してきた。
七海は「はい」と笑顔で答える。
「気分に合わせるというのはとても大切なんです。気分に合わせると、憂鬱も消えます。甘さや渋み、それにフレッシュさや酸味……私はそういう紅茶をお出ししたくて」
「素敵ね……」
「ありがとうございます」
七海は頭を下げると、トレイを抱え直した。
カウンターで大樹がじっとこちらを見ている。
大樹が見ているときは、何かがあるのだが、放置していたら、大樹はふいっと興味を無くしたようにテーブルに向き直った。
左手を使いパンケーキを食べ始めた。
「美味しそう、あれがいいわ」
「かしこまりました。焼きたてをお出ししますね」
注文を受けながら、七海は近くのストッカーからコップを取り出す。
窓際に用意してあるフルーツウォーターをサーバーから注いでテーブルに置いた。
「それでは焼いてまいりますので、お待ちください」
「はい」
入って来た時よりも、お客様の顔が明るくなった気がする。
良かった、と思いつつ七海は背中を向けた。
ここまではいつも普通だ。
この後、紅茶をお出しして、パンケーキを召しあがって……
(いつ悩みを言って来るのかしら)
(いつ、悩みを打ち明けようか)
そんな駆け引きの時間が過ぎるのだ。
背中合わせになっても深刻なオーラがを背後に感じるような時間がやって来る。
(そうとう、お悩みのようだわ)
勘付かせないように、七海はトレイを置くと、エプロンを縛り直して手を消毒する。
“みりんとバター入れると美味しいらしいよ”
大樹の声が過ぎったが、店の味があるんだからといつもの無塩バターをフライパンに落とし、パンケーキのたねを取り出した。
卵は今朝届いた富士山麓の「こっくりたまご」という品種を使う。
これはしっかり育てられた鶏が産んだ、富士の清らかな水を含んだ卵で、パンケーキにとても合う。
丁寧にボウルに分量分の粉を入れて、冷やしておいた低温殺菌牛乳を注ぐ。
一方で紅茶用のお湯をゆっくりと沸かし始めた。
七海は工程で機械は使わない主義だ。
『パンケーキは、素朴だからいいんだよ』
ホームステイ先のお婆さんに教えて貰った通り。
料理は味だけではない。
カタカタ、とかとんとん、とかそういう優しい音も大切だ。
「……落ち着くわぁ……」
お客を伺うと、ほっとしてフルーツウォーターを飲んでいる様子。
卵を黄身と白身に分けて、ボウルでメレンゲを作り、さっくりとへら箆で粉を併せてから卵黄をくわえる。
ほどよく温まったフライパンに流し入れると、パンケーキは小さめのフライパン一杯に膨らみ始めた。
合間に……
「七海さん、勘付いていると思うけどさ、多分来るよ、相談」
「……うん、深刻そう」
大樹は聞こえないようにぼそっと言うと、またお皿を差し出してきた。
「あちらのお客さまが先でしょ」
「僕はジムの時間まで待つし。明日も来る」
よくもまあ、毎日毎日パンケーキばかり。
「七海さんのパンケーキは不思議な力があるからね」
……大樹とは、一時期は恋人同士になりかけたこともあった。
不思議な気持ちで背中を見送る。
パンケーキをひっくり返して丁度いい焼き加減になったところで、紅茶を添えた。
悩みが深いなら、心温まる白いミルクティーがいい。
ミルクバンで温めた牛乳にリーフを足した。茶葉がくるくると踊り始める。
(どうか、効きますように)
願いながら注いでトレイに乗せた。
勇気を出して
……不思議な骨董品がいっぱい。
窓際に並んでいる品々を見るくらいの余裕は出来たらしい。
このまま相談はしないで帰ろう。
美味しいパンケーキと紅茶で癒されればきっと。
智子はほっとして、水を口に含んだ。
「あら、檸檬の香りがする、落ち着くわぁ……」
店内を見回すとお客は最初にいた青年と店主さんと智子だけだ。
物静かな青年とは少し離れているし、パーテイションもある。
打ち明けるなら今。
分かっていても、勇気が出ない。
「おまたせしました」
朗らかだが、派手ではない聞きやすい声音で、七海はそっとパンケーキと紅茶を置く。
(あら、どうみても、普通のミルクティ……でも紅茶は味が違うというし、いただいてみよう)
もっと、ヌワラエリヤの紅茶とか……智子はミルクティをゆっくりと口に含んだ。
甘さと温かさがふわりと蕩ける。
牛乳の配分もばっちりだ。
素材の味がする。
「やだ、美味しい……」
「同じ牛乳をパンケーキにも使っているんです、どうぞ」
パンケーキを切ると、思った以上の弾力がある。
厚みがある一切れを口に含んだ。
「心が、冷えていませんか?」
七海は静かに告げると、
「何かあれば、お聞きいたしますが」
と会話の速度をゆっくりと落としたした。
「……え?」
「今日はお日柄も良いのですが、お客様は少ないようで。ですから、お話相手になれればと思って」
なんて可愛らしいアプローチだろう。
きっと、同性にも異性にも好かれるタイプだ。
(私だって、陽介に好かれているのに……)
其の先がどうしても出てこないのは。
智子は背中を一瞬震わせて、
(言ってみようか)
と考えた。
心を見透かす青色
――聞く限り、旦那様はEDですね。
勃起不全です。
一度ご主人様を診察しないと何ともですが。
顔は憶えていないが、相談センターの女医との抑揚のないやり取りを思い出した。
『EDとは、英語の「Erectile Dysfunction」の略で「勃起機能の低下」。まったく勃起が起こらないケースに限らず、硬さや維持が不十分であることも含めて、「満足な性交がおこなえない状態」のことをいいます。 俗に言われる中折れ、性行為の途中で萎えてしまうことはEDの症状のひとつなのです』
まるで教科書を読むような淡々ぶりに心の壁を感じて、結局旦那には言えずじまいだ。
独自に調べてみたが、こういった事実を受け止める男性は少ないらしい。
陽介もプライドが高い商社マンだから、一言でも言えばきっと大ごとになる。
性行為も、するにはするのだ。
しかし、自分の中で、こう……気持ちもしぼんでしまう。
***
「……どうされました?」
「いえ、紅茶のお代わりを戴けますか? パンケーキ前に飲みきってしまって」
「もちろんです! あの、少々お聞きしたいのですが、今体調はいかがですか? 紅茶には妊娠中を避けねばならないものもございます」
「体調? 月のものが終わったばかりよ……妊娠……はないわね」
どうしても出したい紅茶が浮かんだので、お客様に確認を取った。
青を足してあげたい。
出したい紅茶は「妊娠や生理中」は難しいためだ。
しかし、お客様のなにかの心のスイッチを入れてしまったらしい。
いつもながら聞き出す時は緊張する。
ここに来るお客は、大抵がカウンセリングだ。
そういうふうにできている。
だから、七海もそれなりの覚悟をして対応する。
――大丈夫、わたしは一人じゃない――……。
七海は再びキッチンに戻ると、今度はバタフライピーを取り出した。
この紅茶は注ぐと真っ青な透き通る青になるので、俯いたお客様の心をきっと照らしてくれる。
檸檬の輪切りも添えておこう。
ロイヤルブルーが美しいこの紅茶は檸檬を入れると色が変わるのだ。
ちょっとしたマジックにみえて楽しい。
「お待たせしました」
青が映える白いカップに入れて、そっとテーブルに滑らせた。
「バタフライピーティーです。真っ青な花を咲かせるんですが、バタフライピーには、アントシアニンの効用があります。高い抗酸化作用があるアントシアニンは、細胞の老化を防いでくれる栄養素でして。アンチエイジングに効果があると言われているんです。途中で檸檬を浮かべてみて下さい」
七海の特技は、お客様の足りない部分を補う心の色を見抜くこと。
そうして心を開いてもらう。
そのために店内はテーブル席ひとつと、カウンター4席のみ。
このお客にはリラックスと心の底から安心が広がるロイヤルブルーが良いと思ったのだ。
蒼空を見上げると人はほっとしたりするでしょう?
それを大樹のいう「七海さんの不思議な力」と言えるのかはわからないけれど、少なくともお役には立てそうだ。
あらすじ
智子は友達に教えられた占いのお店「エトワール・サインポスト」を探しにとある街までやってきた。
彼女の悩みは少し人には話しづらくて…。